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三番隊組頭斎藤カエデ、爆誕!

 例えカエデさんが本調子でなくとも、ここはゲーム世界『王国の刃』である。日が改まりみんなが集う時間ともなれば、やはり試合場に出撃しなければならない。いまやトヨム組と同体となりつつある白百合剣士団とともに、いざ六人制に出撃だ!

 と、ここで新たな選択を迫られた。



戦死者復活ルールに出ますか?

yes or no



「なんじゃいこりゃ? まるで実験的な三人制みたいじゃのう」

「戦死者復活は〜、案外好評だったようで〜、最近すべてのステージで採用されたらしいですよぉ?」

「願ってもないことですね。クリティカルスキルを身に着けた私たちにとっては、試合時間が短すぎですから」

「で、どっちにする、旦那?」

「私たちはセキトリとマミさん、カエデさんが熟練格に昇進していない。少しでもキルポイント、ダメージポイントを稼がせてあげたい」


 とうことで、yesを選択。四分間まったく息のつけない攻防へと身を投じることにする。

 で、開幕の銅鑼。

 もうチンパンジーの群れはわかった。私とトヨムが前衛にいたら、ここぞとばかりに群がってくるのだろう。事実その通りではあったが、今回は不正ツールを読み込んだ、ブッパ猿の群れだったのだ。


「正面には立つな! 必殺技なんぞ横に回れば屁のようなものだ!」


 ということで左右に展開。それに気付いた敵は慌てて応戦しているようだが、クリティカル術に磨きをかけた我が軍の敵ではない。ポロポロと簡単にキルを奪う。特に壁役の二人、セキトリとマミさんの奮戦が際立った。


 私が下ごしらえした敵兵を、確実ににキルへと追い込んだのだ。唸ってしまうようなスパイクメイスさばき。いらぬ力みも消えて、ポンポンという感じで敵陣を葬ってゆく。シャルローネさんもトヨムも調子がいい。とくにトヨムなどはリラックスした自然体から、弾丸タックルの要領で内懐まで飛び込み、これまた脱力した腕からヒョイヒョイと拳を繰り出している。


「楽ちん楽ちん♪」


 鼻歌でも歌うようにクリティカルを取り、防具を破壊してゆく。しかしトヨム、お前が楽ちんなのは群がる敵を私が追い払っているからだ。感謝するんだぞ、この私にな。


 そして問題はカエデさんである。敵の後方に回り込んで、単独奮戦しているのだが、クリティカルを奪えなくなってしまったのだ。以前ならばそんなことはなかった。シャルローネさんやトヨムのように、リズムにのってヒョイヒョイという具合ではなかったが、それでも堅実にクリティカルを奪っていたはずなのに……。


 いや、もしかしたら女子の事情というやつか? 生理がくると女性は体調が優れないと聞く。今日は『そんな日』なのかもしれない。あまり口を挟まないことだ。ノッてる日もあればノレない日もあるのだ。特に『女の子』という生き物は。


 さあ、ブッパ猿退治に集中だ。まずは正面を避ける。王国の刃における必殺技は、敵の正面に立っているとまともに食らう。とにかく彼らレベルではとても出せない強烈な攻撃を、連打連打で打って来るのだ。防具は破壊され、そのままバイタルにもらえば、一気に退場死人部屋送りである。


 敵としてはその正面にトヨムを置きたいところなのだが、トヨムの動きが早い早い。私のとなりにいたと思えば、もうシャルローネさんの向こう。そうかと思えばカエデさんと一緒に敵を背後から叩いていて、気がつけば私のとなりに戻って来ている、という塩梅だ。


 必殺技を繰り出そうにも、これでは狙いもつけられない。結局敵はトヨムを狙うがために右往左往。私たち他のメンバーの存在を忘れたかのように脇腹をさらしてくれる。


 革防具で軽量になったセキトリが、重いメイスを振り回し、右へ左へ当たるを幸い薙ぎ倒す。トヨム組の赤鬼とばかり、快進撃を続けていた。そしてマミさんも足技を駆使して敵の動きを止めて、それから的確に双棍を叩き込んでいる。アバターの中では巨体とも言える二人だが、重量級ヘヴィ・ウェイトとは思えないほどの軽い足取り。上半身のリラックスが、素早い足さばきを生んでいるものと見えた。

 さあ、一時退場していた敵が復活してきたぞ。


「カエデちゃん、後ろから来るから気をつけて!」


 シャルローネさんがカエデさんの援護に回る。トヨムを挟んで三人体制。タイミングを合わせたのか、ウチの三人娘どもは、トヨムの後退と同時に左右に展開。敵の必殺技ブッパを避けて横からクリティカルを狙う方針のようだ。

 しかし、カエデさんの剣にキレが無い。


「マミさん、カエデさんの応援に回ってくれ!」

「は〜い♪」


 白地にピンクのウルト〇マンは、マントをなびかせながら新手のサイドに回り込む。残敵掃討に成功した私とセキトリは、後退してくるトヨムと合流。細く長く伸びてくる敵を打ち倒す。


「なんだ、アタイ急に暇になったぞ?」

「そうだな、敵も撤退と復活のタイミングがお互いにズレてるから、まとまりが無くなった。シャルローネさんの援護に回るか?」


「でも敵もドンドン復活してくるから、新手に嫌がらせってのもいいかもよ?」

「それだ! 無理するなよ?」

「わかったよ、旦那」


 ということで、新手に対する嫌がらせはトヨム。その援護にシャルローネさん。残る四人で二周目先頭の敵を掃討する。敵の横へ、敵の横へと回り込み、カエデさんとタッグを組んだ。


「調子が悪そうだね、カエデさん」


 声をかけると、青の少女は口をへの字に曲げた。


「楽に行こう! 楽にね! 楯を突き出して、カンと受けたらポンと打つ。クリティカルなんて狙わない狙わない」


 カンポンカンポンカンカンポン。

 こうしたリズムが重要なのである。


「って、リュウ先生! 敵の正面に立たないのが原則なのに、なんでそんなに素早く動けるんですか!?」

「攻撃にこだわってないからさ。カエデさん、一度攻撃を捨てて足にリズムを作ってごらん」


 楯で受ける、楯で受ける。正面を嫌って横へ横へ。次の敵の攻撃を、また楯で受ける。そうしているうちに、カエデさんの片手剣が飛んだ。敵の小手にクリティカル。そのまま横へ凪いだら、兜に命中クリティカル。


「そうそう、いい動きいい動き。前よりもずっとイイカンジだよ。受けるときは受ける、避けるときは避ける。そして攻め時にポン、チーンだよ?」

「……リュウ先生、最後のはちょっとエッチ……」

「じゃあこういうのはどう? タタターン♪ タッタッタッターン♪」


 時代劇の超人気番組、『上さま』の大殺陣のテーマを口ずさむ。


「タカタンッ♪ ターンタターン♪ タータカターッタター♪」


 そして囲まれぬよう、正面に立たぬよう、歩いて歩いて右に左にバッサバサ。まさに暴れん坊、強いぞ将軍、っつーかそれでいいのか上さま。という具合に快刀乱麻を断つ活躍。


「リュウ先生! いま私の中で、春日八郎さんの『新選組の旗は行く』のイントロが流れて来ました!」

「シブイねぇ、きみ……まあいい。今のカエデさんは三番隊組頭斎藤一だ、左右田一平だ! 悪の海仙寺党を討たねばならん!」


「三番隊組頭斎藤カエデ、出撃します! はなの〜♪」

「あ、ちょっと待てカエデさん。歌詞はマズイ、歌詞は……」


 頑固者なのか単純なのか、乗せやすいんだか気まぐれなんだか。とにかく年頃の女の子という奴は、扱いが難しい。しかし、調子を取り戻したカエデさんは強かった。左右への動き、防具を破壊してゆく手順。そしてキルへの繋がり、流れるような殺陣を見ているようだ。そして速い。


 シャルローネさんの勘の良さは天性のものだろう。マミさんのツボを捕らえる能力は天然だろう。しかし、こと背骨バックボーンの堅固なるは、カエデさんが一番である。とにかく言われた通りに基本基礎、基本基礎。徹底した練り上げの上に完成した土台がある。これが他の二人とは違うのだ。


 さもさも水の流れをスイスイ泳ぐようなシャルローネさん。それと比べればドン臭いように見えるかもしれない。コツを掴むに天賦の才あるマミさんと比べれば、硬いように見えるだろう。しかし彼女の足元は盤石なのだ。だから何でもできる。遊撃手というか、道化師の役をこなせるのである。ドン臭い泥亀のように、必死で苦悩の泥をのた打つ彼女だが、一度開花のときを迎えれば、ご覧の通り大輪の花を開かせるのだ。



 カエデさんがあまりにもバタバタと倒すものだから、あっという間に第二波は撤退。


 片手剣という牙は、トヨムとシャルローネさんが迎撃している第三波に向けられた。


一日二回更新の中日。なんと朝八時に二本、間違えて上げてしまいました。

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