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大撃剣シーンも押したいが、それだけではヘヴィになってしまうので気をつけたい今日このごろ

観戦の位置 ユキっぺ

あ、緑柳師範が審判……この場合は立合人って言った方が良いかな?……に就いちゃった。

まあ父さ……士郎先生とリュウ先生の立合、裁けるのは緑柳師範くらいなものだよねー。

「ま、そうなりますな」

私のとなりでカラス声。正座している私よりもずっと低い位置に、ベリーショートのヒヨコ髪。

褐色の核弾頭、まほろばのトヨム小隊長が胡座座りで隣にいた。

「や、トヨム小隊長。私たち別陣営……」

「優秀な解説者が欲しいからさ、いーじゃん、別に」

「ですが解説なら私なんかより、輝夜さんの方が……」

「呼びましたかな、ユキどの?」

右にトヨム小隊長、左には白銀輝夜さん。敵陣営の猛者二人にはさまれて、どうなってんのコレ!?

「いや、忍者の解説が徐々にやる気を無くしているというか、雑になってきているのでな」

「先に仕掛けた方が有利とかってな、テキトーにも程がある」

「で、ユキどのはどのように見られるかな、これまでの展開?」

「まあ、お互いに名刺交換を済ませたようなものだからね。相変わらずお前、強いなぁってとこかな?」

「あの居合で名刺交換程度か……」

「確かに、変なトコ握ってたよな、士郎先生」

「あれは草薙流の変手で、流星って抜き方。普通は鍔元を取って刀を抜くんだけど、流星は柄頭に近い場所を摂るの。そうするだけで間合が拳ふたつ分くらい伸びるんだ」

抜きづらくはないか? 輝夜さんは確認するように訊いてくる。そして真似て刀を摂る手の位置は、教えてもいない流星の位置そのままだった。

そんな輝夜さんに、ちょっとだけアドバイス。

「だから『刀を抜く』んじゃなくって、『鞘を抜く』んだよ。まあ、草薙の居合では初伝で習い始めるんだけどね」

「だとしたら、士郎先生の流星は奥伝の流星ってことか。最初は鍔元を取っておいて油断させて、抜く直前に柄頭へスライド、鞘を抜いてたぞ?」

トヨム小隊長、そんなとこまで見ないでください。本当に、私もまだ習ってない奥伝技なんだから。そして輝夜さんも、聞いただけで本当に技をモノにしない!



ユキっぺの受難は続く

そんな小隊長に、意地悪くさく逆に質問。

「ではリュウ先生の反撃、こちらはどう見ましたか?」

「士郎先生の間合に、無造作に入っていくアレかい? アレはアタイ、されたことが無いんだ。どっちかってぇとアタイ、旦那の懐に飛び込む側だからさ」

それもそうですね、意地悪失敗。無双流の秘密を聞き出すことはできませんでした。

「天神一流の経験でよろしければ。私は一度だけ師匠に、あんな詰め方をされた経験がありましたぞ」

おっと、ここで天神一流剣術の輝夜さん。なんとあの秘技を経験済みだそうで。

「ただし、なにをされたかすら分からぬうちに伸されてしまったがな」

アッハッハッとか笑わない! これじゃあ私が草薙の技を解説した分だけ損じゃない。

「だけど旦那の歩き方、あれは結局初伝なのかな? 奥伝なのかな?」

「ふむ、士郎先生が奥伝の流星を見せてくれて、リュウ先生が初伝で返すというのも考えにくいな」

「歩き方そのものは、アタイたちに教えてくれた歩き方、まんまなんだけどな」

だとすれば、立ち位置や侵入角度に工夫があったのかな? 家に帰ったら感想を聞いてみよう。今は目の前の試合に集中集中。

今度はふたりとも、中段に構えたままジリジリと間合を詰め合っている。そして切っ先が触れ合い、深く間を詰めて握り拳ひとつ分、お互いに食い込んだ。切っ先相撲とでも言いたくなる、正中線の奪い合い。押して引いてスカすように刃の下をくぐらせて、これはどちらも譲らない。シュッ……シュッ……と金属のこすれ合う音だけが聞こえてくる。

「行けっ、旦那っ……」

「えっ……??」

トヨム小隊長の声と同時、リュウ先生の突き。だけど士郎先生、細かい足さばきひとつでこれを死に体に。そこから振り上げることのない、刀の浅い反りを活かしただけの小手斬り。これはリュウ先生、片手上段に取ることで回避。

そして外した左手を体側から持ち上げ、堂々の上段。火の位とされる、上段の構え。父さんも八相に構える。どちらも一撃必殺技構えだ。



タフな展開が続いてるけど、もう少しつき合って欲しい

「トヨム小隊長、正中線争いでリュウ先生に、行けっと声をかけたが。何か勝機が見えたのかな?」

私も疑問に思ってたことを、輝夜さんが訊いてくれる。

「あ? あぁアレ? あれは旦那が有利に見えたからさ」

「その根拠は?」

「ん? いや、ただ旦那が押してみえたからさ。で、士郎先生も旦那に操られたみたいに見えたから」

「ユキどの、そのように見えたかな?」

「いいえ、不覚にもまったく……」

なんだかこの二人と話してると、自分の未熟を思い知らされるなぁ……。

「もちろん私も全然そのようには見えなかったな。小隊長には勝負の機微を見抜く、動物的な勝負勘があるのだろうな」

「じゃあさ、小隊長? この上段対八相。どちらが有利に見える?」

またまた意地悪の虫が働く。

「士郎先生に分があると思う。なんだかんだで旦那、攻め上げられたんじゃないかな? 旦那がボロクソに言うバンザイ剣道みたいな浮ついた構えに見えるよ」

そこまで言うと、トヨム小隊長「旦那しっかりーーっ! アタイがついてるぞーーっ!」と声援。観客たちは笑ったけど、リュウ先生の気迫の乗りが変わった。

上段から切っ先を垂らし、流れる水のように脇構えに変わる。そしてズンッとのしかかるような重たい戦気。これに対して父さんは……え? え? えええっ?

八相の切っ先を下げて下段の構えっ!? 下段は受けの構え、防御の構えって教わったけど、父さんが防御!? 攻めて攻めて攻め抜いて!

が心情の父さんが、げげげ下段っ!?



結局ヘヴィな展開は納まらない

いやいや待て待て。攻めダルマの父さんが下段。防御の構え、これには何か考え、策があるかも。なんだろなんだろ、えっとえっと……深雪ちゃんの稽古日記を記憶の中でペラペラとめくる。

そうだっ! カウンターだ! 父さんの下段は誘い、迂闊に乗るなの項目が現れた!

攻めは攻めにして守りも兼ねよ。守りはすなわち攻めとせねばならぬ。

攻めは隙を作るな。だけど守りは斬られることがないんだから、そのまま攻めになっていなければならない。草薙流の古文書にあったっけ。この場で瞬間的にそれが出てくるんだから、やっぱり父さんって達人なんだなぁ……。

「旦那の気が後退した……」

小隊長がボソリと言う。父さんの下段に気後れしてるってこと?

「だとしたら、逆転また逆転だな。どうなってるんだ、達人戦というのは……」

ほんと、リュウ先生と父さんの戦いって、本当にわからない。わからないのは、ここで下段に取り直すリュウ先生。

「ななななんだとーーっっ!!!」

輝夜さん、叫びすぎ。だけどびっくりしたのは私も同じ。不利を感じたリュウ先生、こちらも下段に構えを取るだなんて!

「カウンター対カウンターだ! ユキ、こっから先はまばたき禁止だぞ!」

「えぇえぇえっ!?!? しかもしかも、二人して間合を詰め合ってないっ!?!?!?」

ジリジリジリジリ、二人の剣豪はここが勝負のつけどころとばかり、お互いに距離を詰めている。

死ぬか生きるか、殺すか殺されるか。本当に安っぽいこと言っちゃうけど、これが剣術なんだ。できればこの死ぬか生きるかの場面から、生きる術を学び取って欲しい。私個人はそう思うんだけど、こんな「アイツの首をおとさないと気が済まねぇ」という、極めて非文明的な感情。原始人みたいな男性の本能。それもまた、剣術のぶっちゃけた本物の一面。

お前になんか負けないぞ! いいや勝つのは俺だ!

そんな二人の意地のぶつかり合い。そして間合は鼻が触れるどころじゃない。もう眉毛が触れ合うような距離!

睨み合う、睨み合う、睨み合……「キエッ!」気合が響いた。

両者ともに股関節を脇腹まで斬り上げて、同時キルの引き分け。今回もまた決着がつかなかった。


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