さあ、初日のクライマックスだ!
鬼組忍者視点
やっべ、似非忍者のオッサンと遊んでたら、巨匠二人が出て来ちまった。なにしろこの二人ときたら、互いに敵軍の全員を亡き者にするだけの力量がある。
もう陸奥屋鬼組とまほろばの小競り合いも、雑魚の戯れに成り下がっちまった。
「なあ、どうするさ、ハゲの軍団のオッサン?」
「ハゲてはおらん。拙者、影の軍団!」
「だからどうするってのよ?」
「いずみ姫、あれを……」
「だから姫やめれって……ん?」
目を向けると、陸奥屋もまほろばも、次々と座して観戦の姿勢を取り始めている。
会場内に、受付嬢というか運営の手先リンダさんの声が響き渡る。
「ここでA陣地付近、陸奥屋一党とまほろばの激突、ついにメインの二人が姿を現したーーっ!」
すでに士郎先生もリュウ先生も、『王国の刃』運営から「災害」の認定を受けている。猛者とか達人ではない。もはや手のつけられない領域、「災害」である。つまり、『王国の刃』プレイヤーにおいて、この二人を知らないのはモグリかペーペーの小童ということになる。
その両雄が相まみえたのだ。常識人ならばここは座して一戦を拝見するか、足を止めてウィンドウを開き観戦を決め込むものである。
だがどこの世界にも常識をわきまえぬ者……いや、もっとはっきり言っちまおう。どこの世界にも阿呆はいる。
「ネームド発見! 行くぜ、幸♡さん!」
「後ろから斬りかかるんですね、万里くん! やっちゃえーー♪」
西軍プレイヤーが二人、士郎先生に襲いかかろうとしたが、チームジャスティスのメンバーがあっという間に葬り去った。
実況 影の軍団 解説はおなじみの忍者さん
「さて忍者さん、両者の戦力比較ですが」
二人とも堂々たる中年の領域。本来なら戦闘競技、格闘競技においてはすでに現役引退。後進の育成に励む年齢のはずなのですが、そこは剣!!
一心不乱に技を磨き、流派に抱かれ抜くことでいくらでも力量は上がります
「ということは、忍者さん……」
そう、両者ともに今が全盛期。最高に強い旬のときを迎えています! 若さ青さが削ぎ落とされ、技が磨きに磨き抜かれている!
もはや物理的な速度やパワーなど無意味! 私でさえどこまで解説できるかわからない領域です!
「では忍者さん、忍者さんが解説しうる領域とは、どの辺りまででしょう?」
序も序、ほんの初心者レベルしか解説できんさ。
「思いの外使えない忍者ですねぇ」
だったらお前が解説してみれや、似非忍者。
「さあ、いよいよ両者接近。間もなく二足一刀の間合!」
ハイレベルファイト
キンキン! シュシュッ!
まだ間合いでないというのに、切り結ぶ音が聞こえた。
「なんの音だ、何が起こった!? というかまほろば軍リュウ、いつの間にか胴田貫を抜いている!」
仕掛けたのは士郎先生、受けたのはリュウ先生だ。それは見えたが、何をどうしたのかまでは見えなかった。しかしよくみれば、リュウ先生の衣が少しだけ裂かれている。
「いかがでしたか、姫。最初の攻防は!?」
姫言うな、っつーかその節穴の目ン玉ヒン剥いてよくリュウ先生の足元見れや。土埃立ってンべ? 激しくステップして士郎先生の攻めを避けたのよ。
「しかし両者の得物、寸尺に差は無し。なぜに士郎先生が先を取りましたか?」
それが草薙の太刀だ。その秘技奥伝なんてわからんさ。
「おっと、今の姫の発言でリアルタイムコメントに批判の声がおしよせてます!」
そのコメント入れた人間が解説やってみろ。私の解説以上に批判コメントが押し寄せるべ。
つまりこの一戦は誰にも解説なんかできないさ。……お、緑柳のじいさんならできるだろうが、達人にさえ噛みつくのが愚かなネット民だからな。どうにもならんか……。みんな真実から離れて生きろ、それが凡人としての幸せな生き方さ。
とか言っている間に、今度はリュウ先生から仕掛けた。影のように間を詰める。なんとこれに士郎先生は無反応。見えていないかのように接近を許してしまった。が、リュウ先生必殺の間に入る直前、この展開を嫌うように士郎先生がさがった。
またもやキンキンと響く金属音。そしてヒュンヒュンと空を切る刃の音。
お返しとばかり、今度は士郎先生の浅葱ダンダラが少しだけ切り裂かれていた。
達人決戦 想像だけで解説
まったく、なにが起こったのかわからないが、想像だけで語らせてもらう。
まずは最初の攻防。得物の間合いが同じく、体格に差が無いというのに士郎先生の攻撃が先に届いた。例えばボクシング。体格差がまったくなく、リーチも同じだというのに、一方的にジャブが命中するケースがある。いや、長身と長リーチを活かした名ジャバー、アーニー・テレルなどはリーチと身長で勝っているのにジャブ合戦でモハメド・アリに敗れ去っている。
という具合に、得物の長短体格の差、リーチの差というものはもちろん絶対なのだが。それでもそれを覆すのが戦闘術というものである。
どうにかして士郎先生は、リュウ先生の先を取ったようである。状況から察するに、何らかの術を使いリーチを伸ばしたものと察せられる。
遠間の攻撃。これはさぞ読者諸兄には、魅力的な術に見えるだろう。だが遠間というのは敵の姿勢のすべてが見える。リュウ先生ほどの技量があれば、その先(攻撃)を読むことは容易かったかもしれない。まあ、相手が士郎先生ゆえ、衣服くらいは斬られることになったが。
達人決戦の解説 後編
続いては後手。リュウ先生の攻め。
なんと士郎先生はリュウ先生の接近をやすやすと許してしまった。これはリュウ先生の持つ極意の術か? それとも日々積み重ね磨き上げた基本基礎の術か?
それは私には判断がつかない。ただその術にはまり、士郎先生はついつい間合いを許してしまった。しかしそこは剣豪草薙士郎。すぐさま危機を脱する。さらには剣豪和田龍平、士郎先生のダンダラ羽織に傷をつけることには成功していた……。
ここまでの展開では、ロングレンジの士郎先生。ショートレンジのリュウ先生となるが、果たしてそれだけだろうか? リュウ先生に遠間を制する腕は無いのか?
士郎先生にショートレンジで勝る術は無いのか? ンな訳無ぇだろ?
こいつは人智を越えた狐狸の戦いだ。天狗と河童の戦いだ。赤鬼と青鬼の戦いだ。私たちの視点であれこれ語るのは阿呆くさすぎる。
だがここはネット社会。他人を罵る達人さまどもが闊歩する世界。なんとかそれを阻止するために、真実に近いことを語り残しておきたい。
ただ、やはり昨今、真実というものは通るものであり、web上で散々批判され罵倒された武術家の名誉を回復する動画が上げられている。それは武術家の弟子が語っているものであり、いまだになんとか武術家の名誉を損なおうとする輩が否定的なコメントを一生懸命残そうとしているが、その動きもそのうち消えるだろう。なにしろ武術家否定派に、根拠や証拠などなく、ただ単にその武術家のことが嫌いなだけだからだ。
だからこの達人対決。
それが究極のものだということを証明するのは、弟子で娘のユキっぺ、それからトヨムとカエデ。お前たちの責任だからな。
そして実況
「さあ、達人ふたり。今は間を取って睨み合っていますが、この先はどのような展開になるでしょうか、いずみ姫」
だから姫やめれって。だが、ボクシング中継ネタで答えさせてもらうぞ。
まあ、激しい斬り合いになるでしょうね。
「でゃその口火を切るのは、どちらでしょう?」
もうどうでもよくなってきたな、この解説。だって聞いてる連中も私も、まったく理解できない技量の二人がぶつかり合っているんだから。何をどう解説したって、誰も理解できんさ。
だから「準備の整った側が先に仕掛けるでしょうね」とだけ答える。
「では先に仕掛けた方が俄然有利、そういうことですね!?」
そうとは言い切れないって言外に言わなかったか?
とそんなことしてる間に、緑柳師範が審判の位置に立った。