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開戦当日

陸奥屋一党拠点、大道場。

新参も古参もみなが列を正し、姿勢を正して座している。総裁である鬼将軍の美人秘書、御剣かなめが頭目の参上を宣言したからだ。

スッと軍足のつま先が上座上段に見えたとき、稽古師範緑柳翁が年齢に似合わぬ鋭い声で「総裁に、礼!」と号令をかけた。これもまた、新参古参を問わず同じ機に頭をさげる。それに応じるように鷹揚な姿勢で、鬼将軍は上段の座布団に座る。頭を揺らさず、姿勢を崩さずにである。

「良き」

インテリ眼鏡の鬼将軍が告げると、一同面をあげた。

「新たに参加した者、かねてより参加しある者、如何を問わず」

鬼将軍は朗々と口上を述べる。よい喉だった。

「あるいは学びあるいは励んで迎えた今日今日きょうこんにち。いよいよ合戦、いや決戦のときが来た」


だれもが神妙な面持ちで総裁の言葉を聞いている。

「新参にとっては未知なる敵。古参にとってはともに盃を交わした仲。されど混じり合うこと無き郎党『まほろば』を討つときが来たのである!」

「おうさ!」

一人が堪らず立ち上がった。しかし鬼将軍の言葉はまだ途中である。それでも一党の主は、若者の先走りに「良い良い」、と言って諌めはしない。

「その意気軒昂であるところ、私としても大変に頼もしい」

総裁鬼将軍は、それを機に演説を展開する。

「さて陸奥屋一党諸君、改めて問おう。……我々は、何者か?」

「「「挑戦者です!」」」

一同声を揃える。

「挑戦者とは、何者か?」

「「「前に進み続ける者です!」」」

「ならばゆけ! そして勝利と栄光を手にするのだ!」

「「「ラッセーラー!」」」



軍師の視点

私は軍師、名はヤハラ。軍師であるからして常にクール、そしてあまり熱苦しいことは好まない。

正直に打ち明けるならば、我らが総裁鬼将軍。そのトンチキな服装はさて置いて、インテリジェンスあふれる眼鏡、冷たい眼差しに我々は自分と同じ匂いを感じていた。

しかしその期待は、すでに裏切られている。出会いからわずか数日、その男の行動。その男の思慮というのは、私とはまったくの正反対だったのだ。

例えば今回の夏イベント。『まほろば』も陸奥屋も、どちらも豪傑格。すなわちインした時点で中堅に配置されることになる。

ならば『まほろば』が傷つきながら攻めてくるのを、万全の態勢で待ち受けていれば良い。当たり前のことだ。しかし、その美人秘書である、御剣かなめさんに釘をさされていた。

「総裁は勇猛果敢、怯懦なるを好みません」

つまり、開幕ダッシュで進軍しろ、と暗にほのめかされたのだ。


それはこの演説を拝聴して、ようやく腑に落ちた。合点がいったのだ。

熱量。

マグマのごとく熱いものが、この男の中にはうず巻いている。そしてその熱は、群衆を熱病のように冒してしまうのだ。

これは大変な男に仕えたな。

クールに見えて熱狂的、計算というものが一切通用しない男、鬼将軍。定石や常識は怠惰なる衰退と言ってはばからないこの男は、常に前進を良しとしている。それも大群を率いてだ。

そのねつに人は浮かされるのだ。

私とはまったく正反対の男、鬼将軍。そう、過去に交友した者を例えに上げるならば、知性のあるナンブ・リュウゾウというところか。だから警戒しなければいけない。私の立場からすれば、何を言い出すかわからない男なのだ。そしてこの男の一言で、人は命を投げ出してしまう。スタンピートは止まらなくなってしまうだろう。そうすれば軍は崩壊だ。

凡人をつわものに変える鬼将軍。しかしその兵というのは、爆弾を抱えて敵に体当たりを刊行する武勇に近い。それを良い方向へと導いてやるのが、軍師の務めである。


ある新兵の視点

いよいよイベントだ。夏の大乱戦である。そもそもが、このイベントに参加してみたくて、この『王国の刃』に登録したのだ。WEB上でもcmがどんどん流れてくる、評判のゲーム。とにかく過激で勇壮な印象を持った。甲冑をつけてのド突き合い、身体の余っている十代としては是非ともプレイしたくなる。

登録当初は野良でしかなかった。そのせいか、個人の成績はそこそこでもチームの勝率は低かった。だから初心者チームに登録をする。だが、連携もなにもなく、なかなか勝ち星が上がらない。

そんなときだった。メンバーの一人が、「講習会に参加してみようぜ」と言い出したのは。主催は、陸奥屋とまほろばというふたつのチーム。そこでは基本的な戦術から、クリティカルヒットの出し方。さらにはワンショットワンキルの練習を教えてもらえた。

二人一組という基本的な考え方。そして物体に対して垂直に叩くという簡単なコツだけで、六人制試合の初白星を上げることができた。連戦連勝の猛者、とまではいかないまでも、王国の刃が楽しく感じられる。

「おい、どうせなら陸奥屋一党に加えてもらおうぜ」

誰かが言い出した。

「そうすれば陣営に加えてもらえる。陸奥屋を敵にせずに済むんだ」

なるほど、陣営に加えてもらえれば、さらに勝機は増す。何をすれば良いのかわからず、戦場で右往左往することもなくなる。


新兵でしかない自分たちを、総裁鬼将軍は快く迎え入れてくれた。

「イベントでは個人の腕力など螳螂の斧に等しい。一人は相棒のため、タッグはチームのため、チームは同盟のためと心得ていただきたい」

シビレる。

総裁鬼将軍は声からしてシビレる。そして過去のイベント動画を漁れば、総裁自らが突撃したり、陸奥屋一党が最前線で奮闘したりと、陣地の後方でふんぞり返った無双格の連中とは一線を画している、その姿勢がまたシビレた。

「確かに私、鬼将軍はこのゲームにおいては非力だ。しかし私の仕事は諸君とともに最前線にあり、その力を最大限に引き出すものと心得ている」

そうだ、この男は闘う必要などない。常にともにある。ただそれだけで力と勇気が湧き出てくるのだ。

俺たちは、何者か? 俺たちは、陸奥屋の郎党だ。ならば征け、この世界を制覇するために! この翻る、陸奥屋の旗のもとに。


『まほろば』軍新兵、アニマル3メンバー、たぬき視点

女の子だってスカッとしたい! 剣道大好き、ボクシングも大好き。闘うことが大好き!

ちょっと変わり者って言われるけど、好きなものは好きなんだから仕方ない。だけどやっぱり、現実世界で大立ち回りは気が引ける……。そしたらどう?

VRMMOゲームに、王国の刃なんていう殴り合いゲームがあるじゃない! 早速プレイしなくっちゃね♪

実際に登録してバトルに参加してみたら、面白い面白い。自分で一日のプレイ回数を制限しないといけないくらい、もう夢中になって殴りまくる!

で、そこで出会ったのが今のメンバー、女の子だけで結成したチームは『アニマル3』。

せっかくだからみんなケモノ耳や尻尾をつけて(なんと不思議なことに、そういう防御にも攻撃にも役に立たない装備があった)、このチーム名をつけてみた。

犬耳尻尾の『ワンコ』は薙刀部の娘、猫耳の『ニャンコ』は私と同じ剣道部。もちろんたぬき耳の私は剣道部員。主に三人制試合でバトルしてたんだけど、やっぱり効果はクリティカル止まり。配信動画で見た「ワンショットワンキル」には、全然至らない。


なかなか上手くならないね、と半分諦めが入っていたとき、講習会のお知らせが届いてきた。主催はなんと、あの配信動画で活躍していた陸奥屋一党とまほろばのみなさん!

「たぬちゃん、ワンちゃん。行ってみない?」

おっとり者のニャンコが、珍しく行動に出る。ちなみに読者のみなさんは気になってるかもしれないけど、ワンコとかたぬきとかニャンコとか、これみんな私たちだけのニックネーム。プレイヤーネームは別にあるんだけど、見た目のアニマルでお互いを呼び合っている。

講習会初参加、そのときに忍者装束の女の子に言われる。

「そのクソ重たい甲冑を脱いでバトルしてみな」

陸奥屋一党の中でも実力者の忍者さん。その言葉に従ってみると、まず視界が広がった。なにもかもがよく見える!

たったこれだけのことで、「自分たち初心者でも、何か出来そうな気持ち」になってしまう。

「初心者が一番最初に心がけることは、闘うことよりも生き延びることなんだ」

そうアドバイスしてくれたのは……あーーっ! この娘見たことあるーーっ! 配信動画で見たちっちゃな女の子!

褐色肌にベリーショートで、まるで男の子みたいだけど、その正体は女の子ながら、チーム『嗚呼!!花のトヨム小隊』を率いているスーパーガール!

トヨムさんだーーっ!

何がどうスーパーガールかって、甲冑で武装して得物を使って殴り合いするこのゲームの中で、『最強のステゴロ番長』なんて呼ばれてる女の子ってとこ!


誰よりも動きまくって、そのスピードが速い速い!

あっという間に敵の懐へ飛び込むと、目にも止まらないクリティカルパンチ、ワンショットワンキル。私のな考え方のスーパーヒロイン、トヨムさんに声掛けかけられて、もう私、このまま死んでもいい!

「いやいやたぬ子、死ぬのはよそう」

おぉう、そうだね。ワンコの言う通り。こんなところで絶命している場合じゃない。私は頑張って、この人に認められるようなファイターになるんだ。いつの間にやら、目標が微妙なズレを見せてるけど、細かいことは気にしない!

なにごとにも全力投球、それがアニマル3のスローガン。

そして迎える、陸奥屋とまほろばの訣別。つぎのイベントでは、お互いに相見えることに運命づけられる。これまで同盟の申請はしていなかった。うかつにも、陸奥屋とまほろばが訣別するとは思っていなかったのだ。どちらにつくか、希望は申請できるらしい。もちろんトヨム小隊が所属する、陸奥屋への所属を希望した。ただし、人数調整の都合で、希望が通らないこともあるという。


……案の定、運命の女神さまは私からそっぽを向いてくれる。


私たちは、まほろばの所属に割り振られたのだ。

肩を落とす私を、ワンコとニャンコが慰めてくれる。いいものだよね、友達ってさ。

だけど、何をどうしたのかわからない。なんとあのトヨム小隊がまほろばに移籍してきたのだ!

ラッパが鳴り響く。降り注ぐひかりの柱の中で、天使が吹き鳴らすあのラッパだ!

「あぁ、神さま! 私、頑張るから! 死にものぐるいで取り組みますから!」

「たぬき、トヨム小隊長のこと大好きだからなー……」

「ワンコちゃんだって、トヨム小隊長のこと大好きだよね?」

「それを言うな」

色々言ってるみたいだけど、私、今日の感動は忘れない! 絶対、絶対に活躍するぞ!

……そうしてマグロ顔のサムライ、リュウ先生に絞られ絞られ。「剣道を学ぶものは剣道を忘れよ! 薙刀を学ぶものは薙刀を忘れよ!」なんて、物凄いシゴキの嵐。

それに耐えて耐えて耐え抜いて、いよいよ迎えた今日この日。私たちはヤル! 憧れの小隊長を、勝利に導くんだ!


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