あれれ?
さんざんにカエデさんを酷評してくれた万里くんと幸♡兼定さん。それでは、とその技量のほどを見させていただく。
「おう、リュウさん。あの小僧かい? 草薙士郎から公式戦で一本取ったカエデさんを酷評したのは?」
「左様、どれほどの技を見せてくれますやら」
六人制練習試合、ただし録画マッチという形で『万幸の剣』の実力を測らせていただく。この録画マッチ、記録した動画をアップし、なおかつ師範格指導員格の評価を公式として上げるものである。それだけ真剣になれ。という総裁鬼将軍の達しであった。
これに万里くん、幸♡兼定さんたちのチームは「イケてるメンバーが揃ってんだから、俺たちチョー有利じゃん」「高評価ヨロシク、だよね♪」と、すでに勝った気でいる。
しかし対戦相手は新兵格、なのだがリーダーはカエデさんである。自分で指導した新兵を、カエデさんが指揮して、かつての仲間とバトルする。
ある意味ドラマチックではある。しかしすべての事情を美人秘書のかなめさんから聞き及んで、鬼将軍が采配したのだ。
この一戦は『公開おしおきマッチ』とせよ。という意向なのだ。カエデさんはそのプレッシャーと闘うことになる。そう、事情を知る観戦者全員がカエデさんの圧勝を期待している。そんな重圧の中でのバトルなのである。
「それではかなめ君、ゴングを……」
鬼将軍の要請で銅鑼が鳴らされた。
「ヒャッハー! カエデが指揮する新兵格だってよ! やりたい放題のジェノサイドじゃん!」
万里くんが先陣を切って突っ込んできた。もちろん単体、それをツーマンセル……二人一組のカエデさんチームが迎撃。万里くんの攻撃は思い切りがいい。目一杯長得物を振ってきた。その攻撃を一人が得物で受けて、もうひとりがスネを引っ叩く。クリティカルとはいかないが、すね当てにダメージ。そして二の太刀を振りかぶる万里くん、それにカウンターを合わせるように、別の二人が同時攻撃。ちなみに初撃を打ち込んだ二人は、万里くんの応援に駆けつけた万幸の剣メンバーを、カスダメで足止め。そして爽やかに去ってゆく。
そして同時攻撃をした二人も、万幸の剣メンバーに向かって駆け出していた。
ということは? 万里くんの目の前にいるのは、カエデさんと新兵くんだった。
「大丈夫ですからね、私が必殺技を放ったあと、敵に袋叩きにされないようにしてくれれば」
味方を励ますカエデさん。そして二人そろって万里くんの正面へと突撃。ここで、カエデさんの必殺技『雲龍剣』が炸裂。万里くん、大口を叩いておきながら無念の撤退。そして必殺技直後、隙だらけのカエデさんを新兵くんが守ってくれている。色気を出さず、守るときは守るの法則に徹した場合、新兵であっても防御はかなり硬くなる。さらにカエデさんも防御となれば、その硬さは鉄壁同然。万幸チームがムキになって攻めたてるが、他の新兵メンバーが横からポン槍を入れて邪魔をするという連携。
そして幸♡兼定さんはというと、敵と見れば連携もへったくれも無く、ただやみくもに突っかかっていくだけ。よってカエデさんチームからすれば、誰かが幸♡さんの攻撃を受け止めたならヒット&ラン、ヒット&ランを繰り返すだけ。カスダメ程度の攻撃でしかないが、それでも塵も積もれば山となるである。防御のダメージは破損となり、やがて崩壊した。これが彼女の勢いにブレーキをかける、そうなるとあとはジェノサイドのお時間だ。
少しずつ、少しずつ体力を削られて幸♡兼定さんも涙の撤退であった。
ただ、彼女が撤退する前に万里くんが復活している。ことはそれほどかんたにはいかなかった。
……いかなかったであろうか?
左にあらず。何故なら万里くんは、一直線にカエデさん目がけて駆けてきたからである。これこそが『顔真っ赤』というやつなのだろう。事実、カレの表情はそれまでとは一変していた。
しかしここはカエデさん。
「万里は私が引きつけておくから、みんなポイントを稼いでおいて」
カエデさんのカメ作戦、とでも言おうか。徹底して防御にまわる。攻撃の通らない万里くんは、さらに圧を強めて、もう『必殺技』を使うことすら忘れているようだ。そんな中での幸♡兼定さんの撤退である。これでキルがふたつ勘定。ポイント差がまた開いたことになる。たとえ試合後、万里くんが「やっぱりカエデは対人戦闘が弱いな。必殺技を使った訳でもないのに防戦一方だったじゃん」と吹かしても、チームが溝を開けられたことには変わらない。
で、万幸の剣メンバー幸♡兼定さんの撤退により、六対五の数的有利が発生。つまり敵の圧が弱まった。カエデさんたち新兵チームによゆうが生まれたのだ。ここで新兵の一人が『必殺技』を発動。万里くんの防具にダメージを与え、一瞬よろめかせた。そこにカエデさんの雲龍剣。防具は完全に崩壊した。ギリギリのラインで撤退を免れたのは、まあヨシと評価してあげよう。しかし万里くん、新兵たちに群がられてカスダメ、またカスダメ。カエデさんが手を下すまでもなく、『新兵たちの手により』撤退。
そしてそのころには幸♡兼定さんも復活。なんの反省もひねりも無く、『対人戦闘に弱い』と評価されているカエデさんに。食ってかかった。またもやカエデさんによる『鉄壁のカメ』が炸裂。……命名、私。苦情は受け付けない。鉄壁のカメ作戦により、幸♡兼定さんはカエデさんに首ったけ。そこを横合いからペチペチと、そして撤退を繰り返すデジャヴな展開。
『王国の刃』を知り尽くした者のみが取り得る戦法、そして弱者が強者を打ちのめしてゆく夢のような名場面。のはずなのだが、やはりどのような高級料理であっても、同じものばかり食べさせられればゲップが出てくる。
もう許してくれカエデさん、私はもうお腹いっぱいなんだ。スーパーバトルマニアの私ですらギブアップしそうなところで、ようやくこの殺戮劇は終了した。
鬼将軍は拍手で讃えた、カエデさんを。士郎さんも拍手を送る、新兵たちに。そして私は敗者の弁を聞いた。
「やっぱりカエデは対人戦闘がなってないよな。俺が攻撃したら防御一辺倒だったじゃん」
「ホント、私のときもそうだったよ。あれから全然進歩してないよね」
読者諸兄に誓って言おう。私には敗者を愚弄するような趣味は無い。弱いからといって嘲笑する輩でもない。
ただ、彼らの言い分を聞いて吹き出しそうになった私は、悪くないはずである。
そんな万幸の剣であったが、一応クリティカルの技術やワンショットワンキルの技術は教えてあげた。二人一組という基本的な戦法もだ。なのに講習会には、それ以降顔を出さなくなったのだ。……さすがにカエデさんに負けたことが恥ずかしかったのかな?
いえいえ、読者のみなさま。それでは私たちが弱い者いじめの悪者になってしまう。そして事実というものは残酷で、小説よりも奇っ怪なるものであったのだ。
万幸の剣メンバーは、その後別な講習会に入りびたり、そこでワンショットワンキルの技術やクリティカルの講義をしているそうだ。……自分たちでは実践できないのに。そう、二人一組の講義もしているらしい。……自分たちの連携はボロボロなのに……。
ライフ イズ ワンダフル
生きてるって素晴らしい!




