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小隊長、あれやこれや

アタイだ、『嗚呼!!花のトヨム小隊』隊長のトヨムだ。来たるイベントを前にして、アタイもちょっと悩んでいる。それはアタイの得物だ。

メインウェポンはふたつの拳を包む、ペアの指出しグローブ。これをどうにか良い武器に変えられないかと、あれこれ考え中。

大型グローブ。……クッションが多くなると衝撃が和らぐと思いきや、威力がちょいと上がってくれるウェポン。その分、相手のガードの隙間から拳を差し込みにくくなる。残念だけど失格。

鉄拳。……これは手の甲や手首を守るように鉄を呑んだグローブとでも言おうか。破壊力がグッと上がる。だけど連打が利きにくくなる。その上掴めないというのが難点。涙をのんで却下。

カイザーナックル。……言わずと知れたメリケンサック。別な言い方をすればロマンもへったくれもない、ただの兇器。…悪いけど趣味じゃない。問題外。

実を言うと最近のアタイ、忍者の戦闘を鬼神館柔道の前で披露してから、だんだんアウトボクサーに近づいてきている。上半身を立てて、すり足すり足。敵の得物はできるだけ足さばきでかわして。音もなくステップイン、一発を叩き込む。

だから鉄拳っていうグローブあたりがベストアンサーなのはわかってる。だけどやっぱり、格闘ゲームに出てきたようなデザインの、この指なしグローブが使いやすいんだ。


「使いやすいって大事なことなんですよ、小隊長」

相談したら、カエデはこんな風に答えてくれた。

「小隊長の場合、拳だけでなく手の平も武器なんですから。相手を掴む、小太刀を取る。状況の変化に富んだイベントでは、選択肢は多い方が便利だと思います」

うん、なるほど説得力がある。選択肢の多い現状維持は、つまりアタイが変わらないと強くはなれない、ということ。武器や装備では、強くはならないということになる。

じゃあ、一度原点回帰だ。これまであれこれとかえてみたコスチューム。これを元通りに戻してみる。足元はヒール部分の無い黒い地下足袋、スネを少しだけ守ってくれる装備のルーズソックス(指割れ)。軽快なショートパンツにタンクトップ。ハチマキは旦那とお揃いで柿色のものを。そして真っ赤に燃える指出しグローブだ。

念の為、小太刀は腰に差しておく。

これで久しぶりのコンテンツ、『武将にチャレンジ♡』に突撃だ。初めてこのコンテンツに挑んだ時は、タイムアタックで第三位を記録。ただ、NPCたちに傷だらけにされてしまった。

経験を重ねた今ではもう慣れたもので、鼻歌まじりにパーフェクトレコードを出すこともできる。だからこそ、改めて自分の技を見直すことができる。

ベタ足、重心は後ろ六に前足四。直立した姿勢を維持、左の拳はアゴ下へ。右の拳は前に突き出す。忍者の構えを真似たものだ。これが今のアタイに、どんな技をもたらすのか……。


ゲーム参加当初はアタイもアウトボクサーだった。だけど相手が得物を使うから、ピーカーブーのインファイターに変更。そして現在の『拳法』スタイルにいたる。

元々がアウトボクサーだったせいか、直拳主体の拳法スタイルはアタイに合っていた。蹴り技もヘソより上には蹴り上げない。主に前蹴り足刀蹴りで膝関節を狙うもの。ここで読者のみんなは『?』と思うだろうけど、戦場武術にはフックやアッパー、回し蹴りという発想は無い。

ん、無いと言い切ってしまおう。

旦那が言うには、フックを始めとした振り系の『打ち』技は、格闘競技の中で生まれたものらしい。古流柔術では『少林寺拳法』のように、捕まえてから打つ、蹴るのが基本らしい。当然捕まえてからの打撃は威力が倍増。競技としては認められないくらいに危険なもの。だけど競技、興業としてはノックアウトが欲しい。そんな訳で脳を大きく揺らすフックやアッパー、回し蹴りなんかが誕生したそうだ。ホントかどうかは知らないよ。


じゃあなんでそんな強烈なフック系統の打撃を古流が採用しなかったのか?

第一に、捕獲即座に決勝を目指したから。フックよりもストレートの方が速いのは当然のこと。第二に旋回系打撃はモーションが大きい。現代のように洗練された技術ならばノーモーションで叩き込むことができるかもしれないけど、戦国乱世の時代には旋回系打撃を洗練するには時間が足りなかった。

そして第三に、捕まえて突く蹴るなら、それ以上の威力は必要なかった。まあ、色々と理由は出せるけど、ここから左記は読者のみんなが「あーでもない、こーでもない」と頭を捻って楽しんでおくれ。アタイが旦那から授かった教えは、もう出さないよ。みんなの楽しみを盗っちゃうのは悪いからね。

とにかくここで大切なことは、やっぱりストレート系統の攻撃がアタイには向いていたってこと。武将チャレンジのコンテンツで、それは証明される。アタイの好きなボクシングのような、トントンと跳ねてツツツーッと滑るように動く、ミズスマシのような足取りなんかじゃない。

ベッタリとつけた足の裏を引きずるような、古流独特の足さばき。これだけで槍でも薙刀でも大剣でも、みんな捌いてやる。


その上で手首やヒジを掴んで、腹や顔に拳を叩き込む。

ワンショットキル。やっぱり打ち技もよりも突き技の方が、ゲーム内浸透勁を出しやすい。これはきっと、人間の体がそういう風にできているせいだろう。

一発一殺を次々ときめる。ファーストチャレンジの時から比べれば、圧倒的なアタイの強さ。まとめて五人葬った。もちろん掴んでからの投げ技、掴んでからの関節技もためしてみる。そこがオープングローブの強みだからな。

掴んで極めて投げて殺しても、目は周囲に配っている。そこが競技と戦場の違いだ。

「見るときは目で見るな! 鼻先を向けろ!」

旦那に注意されたことを思い出す。目だけで周囲を確認すると、敵を威圧できない。鼻先、つまり顔を向けて初めて、敵を威圧できるんだ。旦那はそうやって教えてくれたっけ。これはアタイなりに考えた。目だけで周囲を見るということは、必ず鼻がじゃまになる。だけど鼻先を向けると、敵を両目で見ることができる。

つまり正確に間合い、敵との距離を測ることができるようになる。それを経験、理解することができたら、みんなが神技と思っているだろう『見切り』ができるようになる。


な? どうだい。達人への道なんて、存外簡単だろ? だけどみんなその道を示されても、歩き出さないんだよなー。不思議不思議。

そだね、以前旦那が言ってなかったっけ?

神技である見切りを得るには、蛍光灯の紐についたツマミをよけろって。だけど、蛍光灯ボクシングなんてかっこうわるいよな、なんて言ってみんな稽古してないだろ?

だけどアタイの見切りは、蛍光灯ボクシングで身につけたんだぜ?

そんなかっこうわるい稽古で身につけた見切り。これで次の集団の攻撃もケロリとかわす。そしてボクシングのフットワークもいいけど、地面に立つんだったらやっぱベタ足。両足を使ってしっかり地面を捕らえておく。これがより良い解だってことに、ベタ足を使ってから気づいた。

ついでに言うと、構え。

ピーカーブーからアップライトな構えに変わっている。随分といろいろ見やすくなった気がする。ピーカーブーのインファイタースタイルは、どうしても上目使いになるから、視界も制限されていた。そして、得物を手にしたプレイヤーたちの死角も理解できる。

旦那が言ってたね。剣士にとって構えた剣よりも低い場所は死角になりやすいって。もう一丁、旦那の言葉から。素手の武術武道格闘技は、武器術から生まれたものだ。だから初期の素手武術、素手格闘技は、やっぱり武器の構えだったんだろうね。そうなると死角になった低い場所への蹴り技。これが発達するのもよくわかる。


アタイは接近して拳を突き込み、ヒザ関節を蹴り折って、掴んでは投げた。

そうそう、直拳が使いやすいからって、振り打ちや回し打ちをしないって訳じゃない。特に超接近戦、クロスレンジの間合いでは、フックやアッパーは死角からの攻撃になってくれる。だからアタイも、野球のピッチャーのように腕を振り回しては拳を当てた。動く的、小さな急所、そこへ正確に打撃力を伝えたいなら、可能な限りの脱力が肝になる。フックのフォームや軌道。そういったものは一度頭からきれいに無くして、それからいろいろと試してみるんだ。すると自分にまとわりついていた常識が剥がれ落ちて、物事の真髄が見えてくる。

そうだ。必ずしも拳を叩き込む必要なんてありゃしない。手の平を叩きつけることで、アタイはワンショットキルを獲得できるようにもなっていた。

専門的には掌底とかいうんだよね? だけどそんなことも忘れるくらいに、一途に熱心に、『倒す技術』を追い求めるのさ。

ダメかい? 一生懸命にやるって? うわ、必死wwwとかって、笑ったりするかい? 全力で打ち込んで努力するって、かっこうわるいかな?

みっともないっていうヤツもいるんだよね。

だけどアタイはやる。他人がなんと言おうと、どんな評価をくれようともヤル。アタイの生き方に、他人は関係ない。そしてなによりも、努力って楽しいジャン♪


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