表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/724

迫りくるチンパンジー軍団

ブックマーク登録ならびにポイント評価誠にありがとうございます。作者、ますますの励みとさせていただきます。

 稽古、稽古、また稽古。そして時折出場する実験的三人制。さらには白百合剣士団とともに出る六人制。闘いの日々を重ねていくうちに私ひとりでレベル『熟練』にステップアップしてしまった。


 なんでも防具破壊のポイントがチームでぶっちぎり。おまけにチームメイトに譲っているとはいえ、キル数もそこそこあったため、トヨム組と白百合剣士団の六名のなかでは、レベルアップトップ通過となってしまったらしい。


 聞いた話では規定の試合数をこなすと自然に『熟練』格に昇進するものらしいが、それ以外にも私のように、経験値やポイントを稼いで昇進するケースもあるようだ。

 ステップアップした翌日、インすると何故かチュートリアルのちゆちゃんが現れ、私に新たな装備の選択を迫ってきた。



「装備の更新は強制かい?」

「ややや、ここでは新たな装備の紹介。ついでに更新してはいかがですか? というお誘いでして……」

「無用」

「へ!?」


「私はいま現在、この木刀と和装に袴、そしてタスキで賄えている。何も問題は無い」

「あのあの! 説明させていただきますと、リュウさんが『熟練』にステップアップすると、リュウさんの参加するチームは自動的に熟練格にイン。周りは強い熟練格ばっかりになるんですよ!?」

「熟練格のプレイヤーなら、知り合いがいる。彼らに鍛えてもらうさ」


「いいんですか? ちょっと軽い鎧やちょっと動きやすい鎖帷子なんて装備もあるんですよ?」

「欲しくなったら買わせてもらう」

「いまなら半額ですよ?」



 わずかに心が動く。

 しかし鎖帷子を着込んだところで、どれほど身を守ってくれるのか? それくらいならば、足のさばきに工夫を凝らした方が成績が出そうである。



「どうしても着ないんですか?」

「死ぬか生きるかの場面ならば着る。しかしここはゲーム世界だ。実体に害が出る訳ではないので、遠慮しておく」



 ということで白百合剣士団とともに六人制へ出撃。控え室で、敵陣営をチェック。……パッと見て変化があるとすれば、敵の六人ほとんどが『熟練』格。それと得物に手槍が増えたことか。そしてちゆちゃんが言っていたとおり、ちょっと動きやすい鎖帷子やちょっと軽い鎧を全員装備している。



「と、いうことはあぁ……敵さんの動きがちょっと良くなったりぃ、攻撃力が上がっている、ということですかぁ?」



 のんびり口調のマミさんだ。



「まあ、そうなるな。あとはクリティカルが取り難くなっているかもしれない」

「でもまあ、一発もらうってことが今まで無かったからなぁ、アタイたち……」

「トヨムさん、油断は禁物ですよ? なにしろ私たちは『熟練』ステージの初心者。どんな敵が待ってるか、わからないんですから」


「な〜に、旦那に鍛えられた脚があるんだ。簡単にはヤラレないよ♪」

「トヨム、それをフラグと言うんだぞ?」

「わ、それちょっとヤバイかも!?」



 ということで、試合場。六人制ど突き合い開始の銅鑼が鳴る。

 さあ、両陣営試合場中央へ駆け足、まずは接近である。と、なんだか私たち、トヨム組サイドに敵の六人が集まっている。「ヨッシャ行くぞい!」と張り切るセキトリを避けているのだ。

 今回壁役同士の正面衝突は発生しなかった。みんなセキトリを避けて、避けて。



「トヨム、狙われてるぞ!」

「えっ!? 後衛のアタイ!?」



 装備が軽く足の早い者から、セキトリとマミさんの防衛線を抜いてくる。私、まずは迎撃。スネを打ってスネを打って、クリティカルを連発。一人から脚を奪う。



「わ、ちょっと! なんでアタイ一人を狙うんだよ!?」



 簡単な話だ。味方で一番武装が貧弱で、なおかつ長得物を所持していない。

 つまり、一番キルを取りやすい存在がトヨムだからだ。


 とはいえすぐにシャルローネさんが援軍に入る。トヨムの足にもエンジンがかかった。二対六、いや私が一人コカしているから、ニ対五である。私一人が迎撃と思ったら、カエデさんも走ってきて迎撃に参加。敵の防具を破壊して回る。自然と私も突入。奥深く、トヨムの護衛に回った。



「人気者だな、トヨム!」

「冗談じゃないよ、旦那! 熟練に入った途端いきなり囲まれるだなんてさ! 酷い歓迎だよ!」



 なにが酷いかというと、キルを取れそうな相手、トヨムに対して全員で群がってきたという点だ。私たちのように誰かが壁役を務め誰かが道化師役を演じ、そしてヒットマンに引き渡す、という役割分担がまったくできていないのだ。


 確かに、取れそうなプレイヤーからキルを取るのはド突き合いゲームの基本である。しかし一人に対して全員で襲いかかってどうする!?


キルは取れるかもしれないが、他の敵プレイヤーが野放し状態になるではないか。そんなことも考えられないのだろうか、『熟練』プレイヤーという奴は。


 まるでエサに群がり奪い合う、サルかチンパンジーではないか。よし、私の中で彼らはチンプ決定! 邪魔だ、サル! さがれ、チンプ!

ウチの若い衆に群がるなんざ、お父さんが許しません!



 ということで、本陣とも言うべきトヨムの護衛に私とシャルローネさん……あ、シャルローネさんはサイドに回った。そして敵の脇っ腹を攻めるのがカエデさんとシャルローネさんの黄金タッグ。背後から攻めるのがセキトリとマミさん。


 この布陣で敵をシバいているのだ。というか敵の目にはトヨムしか映っていないかもしれないという状況。

 ほんのわずかな時間。熟練格に入場しておきながら、私たちは三十秒ほどで試合を終わらせてしまった。



「なんじゃい、ちょっと良い鎧を着てたみたいじゃが、クリティカル連発じゃったのう」

「みなさんトヨムさんにばかり目が行っててぇ、背中がまったくのお留守でしたからねぇ」



 戦闘に関しても、攻撃一辺倒のワンパターン。合格点を出せるのは手数くらいなものか。その手数も、前後前後しながらリズムを作るものではない。ただただ前に出てくるだけなので、私たちからすれば「美味しい御馳走」でしかなかった。



 いいのか、熟練格? こういうものなのか、熟練格? おじさんとしては君たちの将来が心配だぞ?

 しかし惨劇はまだ続いた。

 熟練格二戦目は、私とトヨムが前衛に出てみる。すぐ後ろにはカエデさんとシャルローネさん。決定打を打ち込むセキトリとマミさんは後衛という配置。そして銅鑼。



「見てみなよ旦那、敵は一直線にアタイたち目掛けて走ってくるよ♪」

「いいか、トヨム。エサを見せられたチンパンジーというのは、こういう反応をするものだ」



 トヨムを守るようにして木刀を振るう。私が防具を剥いだ相手は、カエデさんがきっちりフォローしてくれた。そしてシャルローネさんも撲殺メイス『極楽浄土』で暴れまくる。後衛のタンク二人が押し込んで、またもや一分かからずに敵を全滅させてしまった。


 ここでシャルローネさんとトヨムが『熟練』に昇進。一般的にはほぼあり得ない速度での昇進のようだ。

 しかし、それにしても……。これでいいのだろうか、王国の刃。大丈夫なのか、王国の刃。

 私はプレイヤーたちの将来が本当に心配である。





「それなら俺たちと組んで、十二人制に出てみませんか?」



 熟練格のしんなりするような状況に、様々な迷いを抱えていたところ、陸奥屋一党鬼組組頭士郎先生からお誘いを受けた。



「十二人制なら少しは戦さらしい展開にもなりますし、経験としては損ではありませんよ?」

「そういうことでしたら」



 早速メンバー全員で士郎先生の元へ集まり、配置と編成を考える。



「まずは敵にとって美味しいエサ。これは俺とリュウ先生でつとめよう。これがセンター最前線」

「じゃあ両脇を固めるのは俺とセキトリくん」



 鬼組の壁役、巨漢のダイスケくんが買って出てくれた。そのタッグパートナーとして。



「セキトリくんにはフィー先生を、俺にはトヨムさんで」



 軽量級、快速な二人を相棒に据えた。



「じゃあ両翼は俺とユキが務めましょう」



 御存知『キョウちゃん』とユキさんの剣士二人がサイドを守ってくれる。タッグパートナーは、シャルローネさんとマミさんだ。



「じゃあ一番状況をみる後衛、というか遊撃手には私とカエデだな」



 忍者装束、覆面の女忍者が決定を下す。

 そして士郎先生が立ち上がった。



「これまでのことを考えれば、チンパンジーの群れは俺とリュウ先生に群がるだろう。しかし俺たちはこれを押し包むように、『目の前にいるイイ女ばかりが女じゃないんだぜ』ってところを見せつけてやろう。ひとつの攻撃は仲間のために、仲間の攻めは一人のために。タッグパートナーとはぐれないように、つねに二人一組ツーマンセルを心がけて」



 陸奥屋傘下十二人衆、いざ出撃である。




 チーン♪ パーン♪

 そんな擬音が聞こえてきそうだった。競技場の広さはサッカー場ほど。かなりの広さだ。それだというのに、嗚呼それなのに。その広さを考慮するでなく活かすことも無し。敵は一丸となって突撃してきたのだ。



「実に勇壮な眺めですなぁ、士郎先生」

「いやまったく、これだけチンパンの純度が高いと、いっそもう清々しいくらいです」



 抜けるような青空の下。私たちは青春時代に戻ったかのように、爽やかに笑うしかなかった。



「ダイスケさん、ちょっとは壁役のマネでもしてみるかいのう!」

「そうだね、セキトリくん。トヨムさん、前に出るぞ!」

「おう!」



 ということで、ファーストコンタクトは壁役から。そこでコケた敵にトヨムとフィー先生で追撃を加える。

 両翼の二組も前に出た。縦長の敵陣形の脇腹に攻撃を加える。そうしている間にも、壁役をすり抜けてきた敵兵が、私と士郎先生の前に現れる。瞬殺。

 士郎先生が兜を砕き、私がトドメを刺す。それを二度繰り返した。



 忍者の指示でカエデさんは敵陣の後ろに回り込む。そして重量級と軽量級のタッグは、息のあったファイトでキルの数を重ねてゆく。二人一組という考え方は、大変に有効だった。手薄になる箇所もなく、そしてキルを取るにも手早い。


 それは私たちが人数を有効に活用し、敵が人数を有効に活用できていない、という証明でもあるのだが。そして私たちはほぼ確実にクリティカルヒットを取ることができる。これが人数の有効活用に大きくつながっていた。ファーストショットからクリティカルを狙えるということは、おしくらまんじゅうの団子状態を生み出さずに済む。



 極めて軽快に防具破損を生み出し、負傷欠損を生み出し、キルにつなげることが狙える。一度数的有利が生じてしまえば、あとは雪崩式に敵陣が崩れてゆく。このクリティカルを生み出す能力は、私たちにとって絶対的な下支えとなっているのだ。




「う〜〜ん……」



 ある日のこと、拠点の練習場でカカシを前にして、トヨムが唸っていた。



「どうしたトヨム、なにか納得いかないことでもあったか?」



 私が訊くと、トヨムは渡りに船、とばかり飛びついてきた。



「実はさ、旦那。アタイ熟練格を相手にするようになって、クリティカル率が落ちてるみたいなんだ」




 ということで、次回はクリティカルに関する話である。


一日二回更新の二日目。次の更新は午後四時です。お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ