No kill Battle
ん、さすが『まほろば』ね。なにをされたか分からないうちに死人部屋へ送られたわ。
アタシはコリン。『迷走戦隊マヨウンジャー』の槍師よ。一応豪傑格の位にはあるんだけど、そんなアタシでもあっさりとキルを取られちゃったわ。
自陣の復活ポイントで、練習試合に復帰する。するとマヨウンジャー側の参謀についてくれたカエデから無線が入る。
「コリンちゃん、あまり突っ込みすぎないで。いつもマミヤさんのそばにいて、リーダーを守ってあげて!」
分かってるわ、分かってるわよ。だけど、敵を見たらまず先制攻撃じゃない?
「敢闘精神と攻撃精神は認めるけど、それだけじゃマミヤさん置いてけぼりだよ?」
「仕方ないわね……マミヤ、生きてる!?」
「あぁ、コリンだな? 大丈夫、私は現在絶賛逃亡中だ!」
さすがマミヤね。相棒を失った自分が、今なにをすべきか? ちゃんと心得ているじゃない。
だけど私たちは参謀のホロホロが抜けて、実質五人体制。カエデは場外から指示を飛ばしてくれている。
そう、ただでさえアタシたち、数的不利があるのに相手は『まほろば』なんだから、簡単に死んでなんかいられないわ。
ということで、頭の中味を切り替えしなきゃ!
マップ確認、マミヤは……あそこね! 今コリンちゃんが助けに行くから、待ってなさいマミヤ!
目視で確認すると、マミヤのライフゲージは残り半分。ん、まだ闘えるわね。そしてマミヤを追撃しているのは、無手の茶房店主葵さんね。で、アタシたちのお仕事は『生き残る』こと。火力の高い『まほろば』相手に、どれだけ被キル数を抑えるか?
そのためには個人個人が無闇な突撃や攻撃を避けて、味方が死なないように配慮した動きを心がけること。
よし、頭の中味も切り替え完了! ということで、わずかにマミヤより足の早い葵さん。これを横からチョンと攻撃。足が止まったわね、そしてアタシに標的を変更。
長い槍でちょっとだけ足元を攻撃、アタシも逃走の態勢に入った。
ウチではトップ火力のアキラが抜かれている。狼牙棒戦車隊の護衛役だから?
いやいや、それだったらアタシも護衛役なんだから、引き抜かれてないとおかしいわよね?
つまりこの練習試合は、護衛役が死なない動きを身につけるためのもの。中でもとびっきりに突撃クセのあるアタシは、『いつものメンバーを護衛する』って形で特訓を受けてるってとこかしら?
さてと、マミヤは逃げおおせたかしら? 逃げながらマップを確認。あら?
今度は薙刀の二人組、芙蓉と瑠璃が接近してるじゃない。ウチの参謀ホロホロか、壁役のベルキラに救助をお願いしたいけど……近衛咲夜と三条歩に襲われてるわね。
ん〜〜どっちを助けるべきか? 迷うまでもないわ、アタシはマミヤの護衛。まずはマミヤの楯になりましょ♪
ってなことで、御門芙蓉と比良坂瑠璃、二対一じゃ勝負にならないから、軽く小突くだけにしておきましょ。ヨシ、これでマミヤは生き延びた。
「マミヤ、ホロホロたちが強豪相手に苦戦してるわ! 救援に向かって!」
「よしきた、コリンも生き延びるんだぞ」
「すぐに行くから待っててね」
そう、色々な人から言われてたわ。二対一では死ぬしかない。だけど四対三なら生き延びることができるかもしれない。六対五なら、戦い方もある。
ひとりの火力なんて高が知れてる。でも、弱いプレイヤーでも五人六人と集まれば?
そしてその連携がしっかり取れていたなら。決して侮ることのできないチームになってるわ。だから、弱いプレイヤーは死なないことを頭に入れておくべき。そして仲間とともに戦うこと。その基本は二人一組だって、カエデも出雲鏡花も、口を酸っぱくしていままで教えてくれていた。アタシが御門芙蓉たちにちょっかいかけている間にも、アタシを追いかけて来ていた葵さんが追いついてくる。だけどこれもまともには相手にしない。ちょこんと攻撃をくれて、勢いを止めてから、逃亡の態勢。マミヤが救援に入ったホロホロたちと合流する。
さあ、これで六対五よ。戦い方の幅が広がったわ。六対五、確かに数的不利には違いないけど、敵の一人を遊ばせておけば五対五のタイに持ち込める。二人を遊ばせてしまえば、なんと四対五で数的有利にだって持ち込める。ま、火力の差でアタシたちが勝つなんてことはあり得ないけど。それでも『まほろば』ほどの強豪チームを、アタシたちが足止めしてることに変わりは無い。
やるじゃない、アタシ。すごいじゃない、マヨウンジャー。そんなアタシたちが考えた得意技。二人三人で一人の敵に襲いかかり、ヒョイと転ばす放り投げる。そう、できれば間合いのソトに放り出したいわね。そうすれば立ち上がって間合いに復帰するまでの時間、わずかな時間だけどその敵は遊んでいることになるわ。ということで、ファーストブラッド……最初の犠牲者。
「あぁっ! テゴメにされちゃうなのですよ!」
ナイス、ベルキラ!
大型アバターエンターテインメントベルキラが、小さな歩ちゃんを片手でヒョイと転がす。それに気を取られたのが、姉の三条葵さん。こちらには……。
「いただき!」
太ももにマミヤの短杖が命中、その動きを一瞬止めて、アタシが槍で足元をすくう。転倒、二人目。その後は全員で一度逃走。まともにがっちんこのぶつかり合いなんてしないしない。
そうよね、アタシたちの戦い方は、『生き残るが勝ち』。キルもクリティカルも必要ない。逃げてチクチクやって、また逃げる。もしもキルが欲しかったら、神さまにでも祈るといいわ。だってイベントなんだもん。もしかしたら誰かが討ちもらした瀕死の敵が、目の前にヨロヨロと現れるかもしれないわ。
とにかく生き残ること。その状況は、確実に味方有利の状況なんだから。『まほろば』のエースたちが戦いやすい環境作り、それがアタシたちのお仕事よ。
で、練習試合の結果……。
キルを取られたのは、アタシとホロホロ。どちらも紙装甲、貧弱体力の小型アバター。
で、取ったキルは……ゼロ。当然アタシたちの負け。だけどみんながスゴイと褒めてくれる。特にフジオカ先生、鬼神館柔道の濃いオジサマなんて「敵を転がすなんて、考えたなぁ……」って、目を細めてくれる。
「フフフッ、やりにくかっただろ? まほろばのみなさん」
こちらは元々目が細い、サカモトリョウマのリュウ先生。
「個人の火力が低くても、負けない戦い方はあるんだよ」
『闘い』と『戦い』。正しい分け方じゃないかもしれないけど、とマミヤが以前教えてくれた。
戦いは集団での戦争。闘いは一対一で腕力を競う試合。そんな風に教えてくれた。だから戦士というのは、戦さに臨むサムライのことを言うって。闘士は鍛え抜いた肉体と磨き上げた技術をもって、誇りを胸がにリングへ上がる者。
アタシたちは戦士。みんなで戦う者たち。ひとりはチームのために、チームは『まほろば』同盟のために。そして、勝利はひとりひとりのために。アタシたちがキルを取らないのは、もちろん取れないっていうのもあるけれど、それでもキルを狙ってなんかいないって、胸を張って言える。無理をして死人部屋に行ったりしたら、それだけで味方の不利になっちゃうから。
だからアタシは無駄なバトルは捨てる。まほろば勢力の一員として、生き延びるんだ。




