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訓練! 狼牙棒戦車隊!!

さあ、イベントまで残り一ヶ月だ。ここで戦車隊のメンバーが選出される。力士組、剣士組、さらには我らがセキトリである。出雲鏡花曰く「あの鎖鎌は捨てるには惜しいですわ」とのこと。そして何よりあの接近戦能力、これを買っての方針らしい。

そして戦車隊の護衛はマヨウンジャーと情熱の嵐で行うのが基本。まほろば勢は最後の決戦要員として配置。では私たちトヨム小隊は?

対陸奥屋一党戦闘要員である。別な言い方をすれば、『まほろば』チームの護衛役。あるいは用心棒といったところか。

とにかく、これまでの戦力では決戦要員はトヨム小隊かまほろばチームといった、切り札的存在しか手持ちが無かった。そこへ降って湧いた狼牙棒軍団。言葉を悪くして言えば、使い捨てにできる軍団が登場したのである。

出雲鏡花はノリノリだ。

「買っていながら忘れていた株券が高値をつけた気分ですわ」

などとプロレタリアには理解しにくい表現で、その喜びを表している。

「ですが鏡花さん、戦車隊と護衛の連係を密にしておかないと、せっかくの超重兵器も宝の持ち腐れになります」

カエデさんによる意見。卓の上に紙を広げて説明開始。

「せっかくのヘヴィな一発を持つ狼牙棒ですが、フレンドリーファイアの無いこのゲーム。味方に命中して、それでお終いということも考えられます」

「味方に命中した場合、どのような現象が発生するのでしょう? お味方が潰れてその場で復活、ポイントは無効? それともお味方に当たってもまったく効かない?」


ふむ、私たちトヨム小隊ではフレンドリーファイアなどという間抜けは演じたことが無い。故にそこは未知数である。

「ややや旦那、タッグリーグ戦でイケメン大将をさんざんに痛めつけてたじゃん。あのときと同じ現象が起きるんじゃないか?」

「おう、そうだな。だとするとあの時は……」

狂乱とも呼べるあの一戦を思い出す。まずは私の攻撃。これは鬼将軍に命中していた。しかしライフゲージはひとつも削れなかった。その手応えは……確かにあったのに。

そして鬼将軍のペチペチパンチを受けたとき、もちろん私のゲージは減らなかった。そして打たれたという感触はほとんど無し。

ということは?

「狼牙棒で打たれた味方は、打たれた感触すら無いという可能性。そして打った感触はあるということは、狼牙棒がそこで止まってしまうという可能性がありますわね」

「ん〜〜そうなると、寺田屋事件薩摩武士戦法が使いにくくなりますねぇ……」

カエデさん、あんたなんつーネーミングセンスなの。


カエデさんの言う寺田屋事件薩摩武士戦法というのは、敵を捕まえて動けなくしておき、「オイごと突け! オイごと突け!」というアレのことである。

捕まえた敵を上手に叩かなくては味方に誤爆して狼牙棒は停止。場合によっては敵のゲージすら削れないということになりかねない。そうカエデさんは言いたいのだ。

「それどころかカエデさん、ウロチョロしている護衛に誤爆したら、それこそ目も当てられませんわよ」

その理由は割愛。狼牙棒の不発は部隊の生き死にに関わる、とだけ言わせていただく。

「という訳で鏡花さん、戦車隊の攻撃が味方に誤爆しないよう連係を取る必要があります」

「なるほどおっしゃることご尤もですわね。ですがそうなると葵さんのお店では少しばかり手狭ですわ。本宮道場辺りで稽古いたしませんこと?」

「是非も無く」

ということで、全員で本宮へ移動。もちろん鬼神館柔道にも声をかけて呼び出しておく。


狼牙棒戦車隊、抜刀組力士組にセキトリの十三名。これを護衛するのは小柄アバターの軽快な面々。まずは我らがトヨム小隊長。さらには茶房の看板娘、まほろばメンバーから歩ちゃん。マヨウンジャーからも拳闘使いのアキラくん(女)と槍使いのみんな大好きコリンちゃん(金髪オデコにお姫さま服)。

「……あと二人は欲しいですわね」

護衛が六人体制ならば、三・三のチームに分けることができる。

「でしたら私が行きましょうか?」

カエデさんだ。もしかしたらこの護衛部隊に最適な人材かもしれない。

「できましたらカエデさんには、温存という形を取っていただきたいのですが……」

出雲鏡花も渋る。なにしろ『まほろば』の用心棒であるトヨム小隊からは、すでに小隊長のトヨムとセキトリが抜かれている。カエデさんまで抜かれたら、トヨム小隊は三人しか残らない。

「私の抜けた穴埋めは……申し訳ありません、フジオカ先生。ナンブ・リュウゾウさんをお貸しいただけませんか?」

「だそうだ、リュウゾウ。どうする?」

「まかしとけ! サカモト先生の脇で、バリバリ働いてやるぜ!」

「して、そのココロは?」

「マミさんの前でイイ所見せてやるぜ!」

このサルめ……そんな不埒なことを考えていたか……。


「ではみなさん、紅白戦に移りましょう!」

ということで、本陣は『まほろば』メンバー。これに近づけさせまいと、狼牙棒戦車隊。その護衛にトヨム、歩ちゃん、カエデさんにアキラくん、コリンちゃん。そして長ナタを担いだ情熱の嵐メンバーのキラさんだ。奇しくも全員女性という布陣になってしまった。というか軽快軽量という条件を満たすなら、自然とこうなってしまうのは仕方のないことである。

で、残るメンバーは襲撃側。というか潰され役である。

まずは潰されることから。つまり号令一下、戦車隊が揃って狼牙棒を振り下ろす練習。まず分けるたちは歩いて間合いに入ってゆく。

「せーの! ですわ♪」

よいしょーーっ!

という掛け声を揃えて十三本の狼牙棒が振り下ろされる。爆発音にも似た打撃音。道場の床板が粉微塵に吹き飛んだ。私をふくめた勇敢な十三人の志士、絶命!

そして死人部屋から復活。

「どうだろう鏡花さん、なかなか呼吸が合っていたんじゃないかと思うけど」

「そうですわね、今度はみなさま走って来てくださいませんこと?」

イベントのフィールドは広大だ。接触コンタクトには普通駆け足が用いられる。ということで、駆け足での突撃。そしてもしも狼牙棒を外してしまったら、という想定も出雲鏡花は戦車隊に指示しておく。

では、駆け足突撃ーーっ! 今度の突撃部隊に、私は入っていない。観戦の位置にある。というか、号令するだけで良いので楽チンだった。


そして出雲鏡花の号令一下、ドンピシャのタイミングで狼牙棒は振り下ろされた。またもや志士たちは全滅である。

「はい、二回連続で潰された人は観戦に回ってくださーい。もしも三連続で潰されたい奇特な方は、そのままどうぞ!」

襲撃部隊のメンバー入れ替えは、シャルローネさんが上手いことやり繰りしてくれた。

「それでは今度は、迎撃に失敗しますわよ! 護衛のみなさん、準備はよろしくって!?」

「おうっ!! いつでも出れるぞ、キョウカ!」

トヨムの威勢が良い。そして私たち襲撃側は、それぞれに狼牙棒をかわす動き。簡単に言うなら、ゴーバックである。ストップ&ゴーでは狙われるし追いかけられてしまう。きっちりと後退して初めて、狼牙棒から逃げることができる。

狼牙棒の一撃が床板を砕いた。私たちは間合いを取っている。隙だらけの戦車隊に突っ込むなら、今である。

「走れ走れ! 攻撃なんかしなくても、邪魔するだけで十分だぞ!」

つまり、防御オンリーで私たちの目の前をトヨムたちが駆けてゆく。まともに私たちからキルやダメージポイントを奪うのではなく、ただひたすらに邪魔くさい。かといって排除しようにも防御一辺倒。こちらもまともに攻めをみせられない。

この動きはカエデさんの指導だろう。そしてその目的を端的に、わかりやすく伝達するのがトヨム小隊長なのだ。


「狼牙棒が構えたぞ! 後退、後退!」

マミヤ氏の指揮で襲撃隊が後退。的確な指揮だ、全体を見ることができなければ、この指揮は摂れない。さすが社会人、おそらく部下持ち。だが、私はひとり戦車隊の懐に飛び込んだ。

超重兵器、巨大兵器。その弱点は小回りが効かないことだ。あっという間に二人斬った。

「旦那が飛び込んで来たぞ! 迎撃、迎撃!」

意地悪でキルを取った訳ではない。今の私は草薙士郎役なのだ。こうした状況は想定しておかなくてはならないぞ、という苦言である。

「旦那が来ても剣はひと振りだ! セキトリ、続け!」

何をするつもりか、トヨムが突っ込んで来る。その背後にはセキトリか……。

まずはトヨムに切っ先を伸ばして圧をかける。トヨムの動きが鈍った。そこで惑わすために一度切っ先をひく……。しかし斬る態勢は十分。縦回しの大車輪でトヨムの脳天を打ち砕く準備はできていた。しかし、セキトリが狼牙棒で突いてきた。

上手いタッグ攻撃だ。しかしこれは足でかわす。が……。ゾクリ!

殺気だ。

罠に落ちていた。カエデさんが私の死角にいた。この構え、必殺雲龍剣だ!


柄頭を上げて、切っ先を下げた防御の態勢。木刀の棟で必殺の刃を受け止める。そのまま私は後退。それ以上の損害を敵に与えることはできなかった。そしてカエデさんも、それ以上深追いはして来ない。

悪くない。

剣豪草薙士郎を相手に一対一にならない考え。そしてポイントやキルを奪おうとしない発想。いやむしろ彼をムキにさせて、できればこの場に釘付けにしておけば最上級の結果とも言える。

狼牙棒部隊とて、決して無敵ではない。必ず損害は出る。しかしその被害を最小限に抑える戦い方。そのように考えれば上々の策と言えよう。

まともにやりあえば損害が増えるばかり。ならばそんな奴は、「まともに相手をしない」というのが最適解だ。さすがカエデさん、賢い戦い方である。直接キルを奪う訳ではないが、しかしこれもまた、達人殺しのひとつに数えてよかろう。

「惜しかったな、カエデ!」

「いえ、小隊長。あそこでさらに追えば、私の方が斬られてました」

「なんにせよ、アドリブでここまで出来りゃ上出来じゃい」

セキトリが言った。

なぬ? アドリブだと?

思わず笑いがこみ上げてくる。まったく、若者という奴らは……。いつの間にか成長して、大人の背丈を追い越しているようなものだ。その成長の早さには、笑いしか生まれない。


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