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シャルローネの武器

シャルローネが喜色満面なのは、私に協力できるからなのか? はたまた私をふたたび死人部屋送りにできるからなのか?

とにかく長重兵器『狼牙棒』を大車輪打ちに構えてくれています。

あ、ご挨拶遅れました。カエデです。私はこれから狼牙棒の最強打撃を、トンファーによる十字受けで止められるかどうかの実験を行おうとしています。

丸楯による防御はまったく歯が立たずに撤退。さて狼牙棒、トンファーの十字受けを越える破壊力を生み出せるかどうか?

もしも狼牙棒の攻撃力が十字受けの防御力を凌駕するものならば、誰もが残念重兵器と肩を落とす狼牙棒。イベントで大活躍ということになる。

私もふたつの拳をコツコツと当てて鳴らし、気合十分。

「じゃあ行くよ、カエデちゃん!」

「オッケー、シャルローネ。きっつい一発をお願いね!」

シャルローネの大車輪打ち、まず一発目は地面を粉砕。だけど勢いの乗った二発目は、物打部分がピシャリと私を狙っている。さあ、降り注いできましたよ!

今だっ、十字受け!

グシャッという音が聴こえてきた。ほぼ同時に、私は死人部屋送り。

キル条件を満たす打撃を受けても、死人部屋へのタイムラグで手裏剣を打つ方法もあるにはあったけど、どうやら狼牙棒の最大出力はそのタイムラグさえ許してもらえないもののようだ。死人部屋から拠点へ復活。トンファーを装備を確認して、それからみんなの元へ帰還。


「おー、帰ってきた。帰ってきた」

「今回もまた、情け容赦なく潰されたねぇ、カエデさん」

小隊長とリュウ先生が迎えてくれる。

「はい、おかげで貴重なデータが取れました」

「貴重なデータ? どんなデータじゃい」

夏イベントでは狼牙棒を使うことになりそうな、セキトリさんが興味を持ってくれる。

「実はですね、セキトリさん。この狼牙棒で目一杯潰されると、一発もらってから死人部屋送りになるタイムラグが発生しないんですよ」

「ということは?」

「はい、私が緑柳先生に使った達人殺し。これが使えなくなります」

「なるほど、考えてもみれば防御ごと身体を潰されるんだ。タイムラグも反撃もあったもんじゃないよな……」

リュウ先生がゲーム的に理解してくれた。

「ど、どういうことだい、サカモト先生?」

おサルさんが理解できていないようだけど、その辺りはリュウ先生に説明をお・ま・か・せ。私自身はできるだけおサルさんとは接触しないよう心がける。


「さてお立ち合い!」

狼牙棒の威力に興味を持った力自慢のみなさんを集めて、ひとつ講釈をぶちましょう。

「我らがチームメイトセキトリさん。その他にも陸奥屋一党から移籍してきた力士隊のみなさん。さらには筋骨たくましい鬼神館柔道のみなさん!

これらが一斉にこの狼牙棒で敵陣を薙ぎ払うと、戦場はどうなるでしょうか!?」

「敵の陣形がまたたく間に崩壊する」

即座に正解を出してくれたのは、フジオカ先生。さすがです!

「さらにそこへ実力派のまほろば勢、あるいは剣士隊のみなさんがなだれ込めば?」

「集団的戦闘能力が消滅するな」

こちらの答えは白銀輝夜さん。そうです、敵が壁役として頼みにしていた大型アバターが一気に瓦解。というか、その背後に控えていた戦力もいきなり『一〇〇からゼロ』になってしまうんです!

「どうですか? この狼牙棒。実はものすごく役に立つ武器でしょ?」


決まった数値で決まった威力しか発揮できない、通常の対人ゲーム。あるいはvrmmoゲーム。それらとは一線を画した『王国の刃』。うん、この機能に気が付いて一緒にプレイしてくれる敵は、果たしてどのくらいいるものやら。

使い方によっては、残念重兵器だって光の当たる場所に出られる。平凡なプレイヤーだって、十分に活躍ができる。こんな希望に満ちたゲームを、ただのどつきあいゲームとしてしか楽しめないのだとしたら、それはもったいないよね。是非ともこの運営が用意してくれた面白さ、楽しさに気付いてもらいたいところです。

「う〜〜ん、さすがカエデちゃん。すでに大きなステージを見据えているとは……」

感心しきりといった風情で、シャルローネが近づいてくる。みんなは狼牙棒の新たな可能性に、あーでもない、こーでもないと意見を交換してるってのに。

ん、これは用心した方が良いでしょ。この娘、絶対におかしなことを口走るに違いないから。

「ところでさ、カエデちゃん。ビジュアルに負けて私、こんな武器を買っちゃったんだけど……どうにかならない?」

そら来たシャルローネ、天才タイプのろくでなし行為。そしてニコニコと私に差し出した武器というのが……メイスに分類してもいいのかな?

いわゆる死神の大鎌でした。


「……あのね、シャルローネ……」

「ほい、カエデちゃん?」

「あなた……なんでそんなにセンスが変なの?」

「えええ〜〜っ!? 私のセンス、そんなにおかしいのっ!?」

「おかしい、絶対におかしい。いや、少なくとも花の女子高生の女子高生による女子高生のためのセンスからは十四万八千光年はかけ離れてるわ」

「おぉう……放射能除去装置を取りに行く距離だぁねぇ……」

「それがどれだけの距離なのか、シャルローネは自覚してるの?」

「うんにゃ、きっぱり、これっぽっちも自覚しておりません」

「そうねぇ……シャルローネは学年でもかなり美人の部類だって知ってる?」

「ぅえ!? わ、私が!? そそそそんなこと無いナイ無い!」

「おだまり、シャルローネ。あなたが自覚していようといまいと、あなたは美人なの」

「そんなに怒らなくてもいいんじゃない?」

いや、一般女子の私からすれば、怒るどころか七代まで祟ってもいいくらいに、現実世界のシャルローネは美少女なのだ。

「シャルローネ? あなた入学当初から、かなり告白を受けてきたよね?」

「そうだっけ?」

覚えとらんのか、コヤツ……。


「学年女子の情報網によれば、入学から三ヶ月で二桁告白を受けてるはずよ。しかもそれをことごとく『ゴメンナサイ』してる」

「そんなことあったかな〜〜?」

そうか、元々『女の子の感覚センス』から脱線して生きている女だ。おつき合いの申込みとかなんとかをされても、まったくピンと来ていないともかんがえられる。

まあ、それにこだわっていたら、いつまで経っても話が進まない。ここは力技で押し切ることにしよう。

「でもね、シャルローネ。夏休み前からセンパイたちによる『教室からの呼び出し』は無くなったよね?」

「あ〜〜……そういえばそうだったかな〜?」

「いいこと? よく聞いてシャルローネ。それはねぇ、女の子なら誰でも羨ましがる愛の告白をしても、シャルローネがぜんぜん反応しないからなんだよ?」

「だからそれが身に覚えのないことなんですけど……」

……この女……ブッ飛ばしてやろうかな……。


いや、冷静に。冷静を保つのよ、私! ここはやっぱり力押しに押して。

「ほら、シャルローネ。あなたは普通の女の子からはちょっと感性がズレてるの」

「あ、カエデちゃん? マミちゃんも告白ならかなりされてるハズだよ?」

このリア充どもめ! 青春真っ盛り族ども! うらやましくなんかないんだからねっ! というか私の中の獣を目覚めさせるなっ!

そうよ、お前たちの種族を根絶やしにされたくなければなっ!!

……いけませんいけません、軍師たる者いかに「はわわーーっ!?」とか「あわわーーっ!?」という状況になろうとも、冷静さを忘れてはいけないのです。

「とりあえずシャルローネ、その『死神の鎌』を握った自分の姿、見たことある?」

荒廃した街の仕立て屋と思しき店から、小隊長が姿見を引っ張り出してきた。セキトリさんは漆黒のマント。そして『まほろば』のポニーテール、御門芙蓉さんなんかもどこからかシャレコウベの被り物を。あれあれ?

ボブカットの比良坂瑠璃さん……。ビキニアーマーを持ってくるだなんて、センスが光ってますね?

それら一式をシャランラ〜♪ と空中元素固定装置により一瞬で身に付けたシャルローネ。姿見を覗き込むやいなや、ひと言。

「か、格好いい……」

「だからそのセンスが駄目だって言ってんのよ!!」


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