カエデちゃんの実験室♪
はいどーもー! まだまだ続くカエデちゃん回です♪
ラブリーエンジェルとかあなたのハートにとかいうフレーズは、なんだかみんながいたたまれないような顔をするので、少し自粛していこうかと思っております……。
さてさて今回のお題は、シャルローネのメイスの一撃すら止めた、トンファーによる十字受け。これで超重兵器狼牙棒の一撃を止められるかどうか?
この実験に移ってみたいと思います!
「え〜〜……マミさんがやるんですか〜〜?」
「大丈夫よ、マミ。トンファーを所持してるのは、あなただけじゃないわ」
ということで、カエデちゃんトンファーバージョン! 完全無欠のロックンローラーに装備します。
ところが……。
「なにやら騒がしいと思えば、やはりトヨム小隊のみなさんか……」
おや? チーム『まほろば』の銀髪剣士、白銀輝夜さん。……だけじゃない、まほろばのみなさんと鬼神館柔道の面々まで。
「あぁ、そこで行き合わせてね。そうしたらなんだか街が騒々しいじゃないか」
フジオカ先生が爽やかに微笑む。だけど細めた眼差しの行く先には……やっぱり狼牙棒。ていうか、早くその話題に移りたくてウズウズしてるのが分かっちゃう。
「えぇ、夏イベント用決戦兵器の実験をしていたんです」
「ほう、これがそうですか?」
なんてわざとらしく。だけどこの表情は私、見たことがあります。新車で自家用車を購入しようとしてるときの、ウチのお父さんと同じ顔。早く手にしてみたいって、期待値マックスな顔ですよね?
「なかなかどうして、これが面白い武器ですよフジオカ先生」
リュウ先生は両手で持って、刀のようにブンブンと振っている。
フジオカ先生もさっそくひと振り購入。日本刀のように振り回し、その感触を確かめたりして。……というか両先生、人間ですか?
もしかして私は今、『鬼に金棒』という場面を生で見ているのではないでしょうか?
「どれ、俺もちょっと試してみっか」
両先生にできてオレにできないはずはない、とばかり小賢しいサルのナンブ・リュウゾウがしゃしゃり出てきた。途端に「よーし、みんな離れろーー」というフジオカ先生。
はっはーん。ナンブ・リュウゾウさん、あなた師匠から『こいつまだまだ未熟なクセに、分不相応なマネ始めるから気をつけろ』って言われてるんですよ?
その言葉通り、狼牙棒を振るや身体を持っていかれ、あるいは地面に打ちつけ。散々な成績でした。
だけどさすがはお師匠さん。フジオカ先生は快活な笑い声。
「リュウゾウ、お前はまだ手の内ができていない。柔はなかなかだが、剣には至っておらん。剣というのは力まかせではないぞ」
そう言って、長身美形の剣士。白銀輝夜さんに狼牙棒を手渡す。
「輝夜さん、手の内を意識してゆっくりと振ってみな」
と、これはリュウ先生からのアドバイス。
「では、御免」
狼牙棒に一礼して謙虚に構える輝夜さん。そうですよね、剣士たる者こうでなくてはなりません。そしてリュウ先生のアドバイス通り、ゆっくりとひと振り。ブゥンと軽い唸りが生じたのは、物打から落とすという『斬るための振り方』ができているから。その証拠に、重たい重たい狼牙棒を振っていながら、輝夜さんの姿勢はまったく崩れておらず、切っ先もピタリと止まっている。
「ん!?」と何かに気付いたような輝夜さん。「こ、これは……」ともらしてしまう。
「何か気が付いたかな、輝夜さん?」
問いかけるのはリュウ先生。
白銀輝夜さんは二度、三度と狼牙棒を振り、その勢いは増してゆく。だけどそれでも、切っ先だけはピタリ、ピタリと止められているものだから、どれほどの腕前かが知れてしまう。
……そう、……この輝夜さんもまた……人を斬れる腕を持っているのだと……。
見た目では大学生? それとも背の高い高校生?
とにかく大人びたところのある輝夜さん。一般女子、もしくはその他大勢に仕分けされる側としては、少々羨ましい存在。
その輝夜さんが、達人先生二人にご意見ご感想を。
「……素振りの稽古にはモッテコイと思います」
「この狼牙棒をそれだけ振れるってことは、それだけ基礎基本が身についてるってことさ。むしろ輝夜さんなら、普通の軽い木刀の方が稽古になる」
また、達人リュウ先生は素人には分かりにくいことを言う。どう見ても軽い木刀より、重たい狼牙棒の方が稽古に向いてるじゃないですか。
だけど達人は達人候補生にばかり目が行っていて、一般モブ女子の私の疑問質問になんかは答えてくれなさそう。
と、そうそう。そうなると達人候補生輝夜さんに振れる狼牙棒。天才シャルローネが制御できないって、どゆこと?
「ややや、どーもどーも! 復活娘のシャルローネでぃっす!」
と、折よく騒がしいのが帰って来た。
「おぉうっ!? これはこれは『まほろば』のみなさんと鬼神館柔道の方々までっ!!」
あ、そーよねー。シャルローネはまだ私たちが合流したこと知らなかったものねー……。
「で? 輝夜さんがずいぶんと軽々、狼牙棒を振っておいでですねぇ?」
「そーなんですよーシャルローネちゃん♪ 同じ古流の剣士として、シャルローネちゃんはできないんですかー?」
マミ、あんた残酷なこと兵器で言うわね……。それが無理だから、あんな奇っ怪な振り方したんでしょうに。だけどシャルローネってば、ジッと輝夜さんの素振りを見詰めて……。
「あ、リュウ先生。私もいいですか?」
上目遣いで乙女のおねだり。……なんだかシャルローネがやると無性に面白くないおねだりよね。
だけどそんなことで鼻の下を伸ばすリュウ先生ではなく。
「お? やってみるかい?」
なんて気安く狼牙棒を渡している。
あ、シャルローネの手で狼牙棒が持ち上がった。そして、中段に構えている。
「ここから……こう……」
切っ先がスルスルと持ち上がって、上段の構え。からの……斬撃! もちろん切っ先はぴたと止まっている。
え!? なんでなんでどーして!? さっきまで大車輪剣法しかできなかったシャルローネが、急に狼牙棒を振れるようになるの!?
私の疑問には、「ふむ」と納得顔の白銀輝夜さんが解説してくれる。
「元々の下地はあるのだな、基本基礎ができている。……しかしそれでいながら、あの奇っ怪な振り方をできるとは……恐るべき発想の柔軟さだ」
いえいえ輝夜さん、あのポンコツ天才はそんな良いものじゃありませんから。と言いたかったんだけど、極楽とんぼは頭を掻きながら照れくさそうに言う。
「いやぁ、振れるふれないよりも狼牙棒を見た瞬間に『どう使うか?』がひらめいちゃったんで……」
うっそだ〜うっそだ〜! 嘘くさいにもほどがあるよ。ん?
待てよ……だけど『ひらめいちゃったんで』というからには、確かにシャルローネ。ひらめきだけで狼牙棒を振りそうなところはあるよね?
あながち嘘じゃないのかな?
「ときにカエデどの、この狼牙棒とトンファーで何かしようとしていたようだが?」
輝夜さんに訊かれて我に返る。
「そうですそうです、実はこの狼牙棒の一撃をトンファーの十字受けで止められないものかと……」
「そんなに硬いのか? このトンファーの防御は」
普通のゲームなら『防御力
〇〇』とか数値化されていて、それ以上の性能は発揮できない。だけどここは『王国の刃』です。数字だけでカッキリと割り切られたものではなく、武器や防具は使い方次第で性能を極限まで伸ばすことができる、はず。その良い例がリュウ先生の木刀。
一般プレイヤー、というか素人が木刀を使っても、クリティカルどころかカスダメすら入らないかもしれない、いわゆる『クソ武器』でしかありません。だけど剣豪リュウ先生や士郎先生が使うと、一発キルも取れる超兵器に早変り!
使い方次第というなら、このトンファー。空手でもっとも強固と言われる十字受けを使えば、素人でも狼牙棒を止めることができるかも。
その実験の真っ最中でした。
ちなみに私の丸楯では、南無阿弥陀仏の暇もなくあっさりと死亡。死人部屋の住人とされてしまいました。
「ということで、誰かこの狼牙棒で私に必殺の一撃を入れてくれませんか?」
そういうと、フジオカ先生がリュウ先生に耳打ち。
「リュウ先生、あの娘は頭のネジが飛んでやしませんか?」
「いえ、ごく普通。平常運行ですけれど」
「いやしかし、どこの世界に命がけの実験を平気な顔でする者がありましょうや?」
「ゲーム世界ですからね、カエデさんもそこはわきまえていますよ。リアルではそんなこと絶対にやりません、命の大切さは知っていますよ」
そーそー。むしろ柔道ニッポンの名誉のためなら、「金も命がけも名誉もいらぬ」という鬼神館柔道の方がよっぽど頭のネジが飛んでますから。それなのにゲーム世界で他人のライフを気にするだなんて、なんか可笑しいよね♪
「カエデどの、それならばシャルローネどのが披露していた大車輪打ち……あれが実験には適しているかと……」
あ、輝夜さんも太鼓判だね。やっぱりここはもう一度シャルローネに、おねがい♡
「仕方ないにゃー、カエデちゃんのおねだりなら……」
シャルローネは大車輪打ちに構えを取ってくれる。