表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

217/724

おバカさんの群れ

貴方のハートに愛と夢を。みなさんのスウィートエンジェル、カエデです。まだまだ私の視点は続きます。

前回のお題はイベント用秘密兵器、狼牙棒。破壊力満点でありながら取り回しの困難な不遇武器を、力持ちプレイヤーにお薦めしたところ、カンペキ超人シャルローネが「私もそれ使えそう」とか言い出したのが前回までのあらすじ。私も知恵と工夫でなんとか一回だけは振れたこの重量級兵器、シャルローネはどのように扱うのでしょうか?

「まず出だしは、カエデちゃんと同じフォームからね♪」

そう言ってシャルローネは狼牙棒の先端を地面につけて、長柄を担ぐような構え。だけどここからは私と違う。左足を高々と上げて、踏み込んだ!

「そーれ行けーーっ!」

かけ声一発、ファイト一発!

肩を支点にテコの原理で重たい松ぼっくり……スパイクの生えた打撃部位ね……を大きく跳ね上げる。唸りをあげて旋回する松ぼっくり、それが大地を揺るがすかのように地面を粉砕!

ま、まあ……ここまではいいでしょう。一発だけなら私でも振れるんだし。でもシャルローネさん? 二発目の打撃はいかがなさいますのかしら?

シャルローネさん? ……シャルローネ? あれ? どこに行ったのよ?


地面に食い込んだ松ぼっくり。垂直に立った長い柄。なんだかみんなの視線が上を向いてるけど……。って、柄を握ったシャルローネが、石突部分で逆立ちしてる!

そこから制服スカートがめくれ上がって、赤いスパッツが丸出しになるのもかまわず、のけぞり急降下!

着地の反動を利用して、狼牙棒の松ぼっくり部分を跳ね上げた!

「それ行け、もう一丁!!」

今度はしっかり見ておこう。地面を粉砕する狼牙棒。その反動で身体をジャックナイフのように折り畳んで跳び上がるシャルローネ。狼牙棒が地面と垂直に立ち上がると、勢いよく逆立ち状態。そこから反動をつけて、のけぞり急降下。またも跳ね上がる松ぼっくり!

見事に三発目の打撃を地面にお見舞いしている。そして四発、五発。打撃は繰り返されるんだけど……シャルローネ? キミはいつその打撃をやめるのかな?

「ひぃいぃぃ! 止まらない止まらない止まらない! たちけてカエデちゃん! お願いプリーズ!」

あ、やっぱり自力じゃ止められないんだ? 調子に乗った天才肌が、やらかしがちなミスよね。

だけど垂直になった狼牙棒、その上で逆立ちするの止めたら、普通に着地できるんじゃないのかな? そんなアドバイスをしようと思った矢先。

「あーーーーーーっ!」

ついに両手が離れたシャルローネ。楽しそうな悲鳴をあげながら、クルクル回って飛んでいってしまった。ま、死ぬことはないでしょ? だってシャルローネだし……。


「あ〜〜死ぬかと思った……」

げっそりとしたシャルローネは、すぐに戻ってきた。どうにか着地は成功したと言っている。だけどああいう場合、着地に失敗したらキルになったり革鎧にダメージが入るんでしょうか?

「ねねね、小隊長?」

「アタイに今のやってみろってか? カエデ」

「シャルローネは着地に成功したけど、あの場合着地に失敗したらどうなるのかなーって……」

「カエデが実験してみればいいだろ? って、できるモンならやってるか……」

「すみません、小隊長」

「だけどシャルローネみたいに上手くできるかな?」

そう言いながら狼牙棒を担いでくれる小隊長が、私は大好きです♡

しかも私の青と白なウルト〇マン柄の革鎧まで着込んでくれて。

「それじゃあ行ってみよーか! ろっけんろーる!」

トヨム小隊長、まずは怖いもの知らずの一撃目! ドカンと一発、見事に決まりました!

そこから身体を折り曲げてジャックナイフの姿勢で跳び上がる。頂点での倒立なんて、シャルローネよりも美しい姿勢。ってゆーか小隊長って、手脚が長いんですね……。なんだかバレリーナみたいな体型だということに、今になって気づきました。


スレンダー体型の小隊長が空から美しい姿勢で降ってくる。その勢いを利用しての二発目。さらに三発、四発! 回数を重ねるごとに勢いと破壊力が増している。

そして可憐な乙女の悲鳴。

「うぎゃ〜〜っ! カ、カエデ〜〜っ!! これ、目が……目が回るーーっ!!」

失礼しました。世間一般的にはこれを可憐なとか乙女の悲鳴とかは言いませんね……。だけどあえて断言しましょう。

「みぎゃーーっ! 手が離れたーーっ!」

小隊長のみぎゃーーっ! という悲鳴は、絶対に可愛らしいと!

「さてここからが本番だ」

リュウ先生はウィンドウを開いて、小隊長の現在位置を確認中。マップ上に示された、小隊長を表す赤いマーク。それが人間には出せない速度で移動して……消滅した。

「死んだな」

「誰のポイントにもなっちょりませんが」

「死んじゃいましたねー小隊長ー……」

小隊長の記録に、被キル回数がひとつプラスされました。そして死人部屋からの復活。小隊長は拠点に姿を現し、移動機能を使って私たちの元へ帰還。

「自爆も死亡認定されるんだなー」

「しかしのう、小隊長。夏イベントじゃ最後の最後でドラゴンロケットかましたはずじゃが。あれは死亡判定にゃなっとらんかったろ? 今回が死亡判定になるのは、ワシぁ納得いかんぞい?」

セキトリさんが意外なくらい記憶力の良いところを見せてくれる。

「あの時はアタイ、日の丸ハチマキしてたからな。それが装備、武器認定されたんだよ。それよりタッグリーグ戦のとき、旦那がムーンサルトプレスを失敗したじゃん?」

リュウ先生、珍しく苦い顔。そうですよね、袴姿の坂本龍馬がムーンサルトプレスだし……おまけに自爆してるし。


「あの時は旦那、旦那のライフって削れたの?」

「試合中だったしな、覚えてない」

こちらの記憶力は案外ポンコツのようです。というか、その時のことを覚えてるくらいなら、こんな実験しなくてもいいんですけどね。

「いや、これはこれで使える実験だったよ」

と述べるのはリュウ先生。

「例えばだ、合気道のように完全に関節をキメて投げる技。折られないように頑張らないように自ら自爆するように投げられたとしても、攻撃が有効ということになる。逆に言うなら、腕の一本くらいくれてやって、キルは献上しないという闘い方もある」

「負傷部位は回復ポーションで治せますしね」

なるほど、カエデちゃん戦法はまだまだ使えそうですね。

そして気になることがもう一点。

「ねえ、マミ?」

「イヤですよー、カエデさん」

「まだ何も言ってないじゃない?」

「言われなくてもわかりますー。カエデさんはマミさんに、夜も眠れなくなるような恐怖体験をさせるつもりなんでしょー?」


チッ……普段はポケポケしてるのに、察しのいい!

まあ、マミじゃなくてもこの実験はできるんだけどね。

「そんな訳でシャルローネ」

「えっ!? 私っ!? カエデちゃんは私にトラウマを植えつけたいの!?」

いやいやそーじゃなくって。今度は私が技を受ける番だから。

「私がこの丸楯で受けるからさ、シャルローネはさっきの狼牙棒の一撃、お見舞いしてくれればいいの♪」

「うーん……お友だちに攻撃するのは、気が引けちゃうなー……」

とかなんとか良いことを言いながら、狼牙棒を構えてくれる辺りが『殺しのシャルローネ』よね……。

「それじゃ、行くよカエデちゃん!」

「よっしゃ! ドンと来いシャルローネ!」

なんだか昭和のスポ根アニメみたいなノリだけど、シャルローネも手加減無用で狼牙棒を叩きつけてくる。見る見る大きくなってゆく狼牙棒。それを私は丸楯で……。グシャリ。

ヨーシ! うむうむ、ヨーシ!

期待通りに死人部屋送りになる私。きっちり丸楯で受けたつもりだったんだけど、ガードごと潰されたみたいね。しかも主を失った丸楯は現場に残っているのか、身につけてはいない。死人部屋から拠点へ。あら?

ここで装備品が復活するのね。まあいいわ、移動先を入力して、みんなのところへカムバック!


「おまたせー、復活女カエデでーす♪」

みんなの元へ帰ってみると、ありゃ? シャルローネがいない……。

「あー……シャルローネさんはですねー……」

マミが地面に穿たれた穴を示す。それはシャルローネは狼牙棒を叩きつけた跡だとわかるんだけど、それが点々と続き……主を失った狼牙棒が倒れていた……。

「飛んでいっちゃった?」

「ひとり旅立ってしまいましたー……。よっぽどカエデさんからキルを取るのが嬉しかったんでしょうかー?」

物騒なこと言わないの、マミ。

「ひょっとしたらリュウ先生?」

「うむ、セキトリの懸念が当たりそうだ」

リュウ先生が見ていたウィンドウ、マップのページ。その中に点滅していた赤い点が……消えた。

「今度は着地に失敗したようだ」

「あー……シャルローネも自爆を体験かー……ナンマンダブナンマンダブ」

どうやらあの爆弾娘も死人部屋へ旅立ったようだ。……合掌。

だけど私もちょっとやってみたいことがある。

トンファーで実践した十字受け。あれでも狼牙棒は止められないものなのか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ