夏イベント用決戦兵器
総合評価692pt、ブックマーク登録231件、評価pt230ptまことにありがとうございました。
さてさてなにやらウロチョロしている忍者に代わり、みんなのヒロイン『ラブリーエンジェル♡カエデちゃん』の視点です♪
……すみません、ちょっとはしゃぎ過ぎました……。裏方参謀縁の下カエデです。活躍地味子と呼んでくださってもかまいません。……クスン。
先日は鬼神館柔道のみなさんにヌンチャクなどをお薦めし、なおかつチームメイトのマミにもトンファーを薦めたおかげで、我ら『トヨム小隊』の中ではにわかに新武器ブームが巻き起こってしまいました。
「なーカエデ、アタイになんか新しい武器って無いかなー?」
トヨム小隊長が訊いてくる。
「のう、カエデさんや。ワシもそろそろ得物の更新をしてはどうじゃろうかのう?」
セキトリさんまで訊いてくる。
「私はまだまだ木刀で行きたいと思ってるけど、カエデさんの目から見て隙はあるかな?」
リュウ先生まで遠回しな言い方をしてくる始末。
「ねーねーカエデちゃん♪ 私の『極楽浄土』を更新したりしないよね?」
とか言いながら、シャルローネは犬耳を生やして言いながら尻尾をブンブン振っている。
「ん〜〜……セキトリさん? セキトリさんの目から見て、新メンバーの鬼神館柔道は力持ちでしょうか?」
「ん? ワシから見ればこの世界じゃみんな小兵の非力。しかしリュウ先生に士郎先生、そしてあのフジオカ先生は判断除外じゃの?」
あ、こりゃ私の訊き方が間違いです。
「鬼神館柔道のみなさん、身体能力はどうでしょう? 力自慢の筋力自慢でしょうか?」
「そういう評価なら『ただ者じゃない』というのがワシの評価じゃのう」
「ではこの度お味方についた力士隊のみなさんは?」
「言うに及ばずじゃい!」
「鬼神館柔道や力士隊のついでみたいで申し訳ないんですけど、ちょっと面白い武器は見つけてあるんですよ」
「そう、それそれ! そう来なくっちゃ面白くない!」
大きなお腹を揺すって、セキトリさんは快男児の大笑い。トヨム小隊長にリュウ先生、シャルローネもマミも、きっと同じ立場ならそんな風に笑うだろうね。そんな笑顔って私のゲーム人生では、いままで出会ったことは無い。だけどこんな風に笑ってくれるから、私は仲間を信用できる。大好きでいられる。
おっと、いけませんいけません。私は参謀、仲間に入れ込んでは良い作戦など練れません。コホンと咳払いひとつ、クールでタフでハードボイルドな軍師に早変わり。
「まほろばのタンク役になれそうなみなさんのため、面白い武器を見繕ってみました!」
ちゃらん♪
そんなBGMを口にして、取り出しましたるは狼牙棒。正しくは『ろうげぼう』と読むらしいんですけど、ここでは気分を出すためにも『ろうがぼう』と読みましょう!
そしてその形態を説明するならば、巨大なメイスとでもいいましょうか? あるいはより強力なメイスと呼びましょうか?
まずは長棍、それだけでも振り回すのが大変そうな大型兵器。それだというのに、トゲトゲスパイクの生えた松ぼっくりまで装備されております。その狙いはというと、一打必倒一撃必殺。細けぇことはいいんだよ!
どいつもこいつもぶっ潰せ! というのが基本コンセプト。
さてさてこの必殺武器、なにゆえこれまで登場して来なかったのか?
答えは簡単。重たいからです。あ、重たいっていうのはこのゲーム世界での基準ね。実際には重量は感じないんだけど、回転が遅いっていうところ。そうですね……私たち白百合剣士団が最初から『革鎧』を着用しているのは、金属鎧だと動きにくい、小回りが効かない、視界が悪いなどなどのデメリットがあったから。この『動きにくい』が狼牙棒の『重たい』という感覚に近いと考えてください。本当に鎧や武器が重かったら、イベントや試合で走り回ることなんかできなくなっちゃいますからね。
ということでこの狼牙棒、非力なプレイヤーが持つと全身を使ったテレフォンモーションで、隙だらけ。攻撃を一度行ったあとも次の攻撃まで間がありすぎて隙だらけ。そういった理由で敬遠されていた不遇な武器だったのです。
だけどリアルでも力持ちなセキトリさんならば……?
「ほう……こりゃ威力が高そうじゃのう……」
頭上でブンブンと振り回し、ズドンズドンと地面に叩きつけてくれたりします。
「お? こりゃまた面白そうな得物だな。……セキトリ、私にも振らせてくれ」
興味をそそられたんでしょうか、剣をとればニクイ奴。リュウ先生がセキトリさんから狼牙棒を受け取ります。
基本的にはこの狼牙棒、大型アバターの中でもセキトリさんのようなリアル力持ちでなければ扱えない代物。なのになのに、嗚呼それなのに、リュウ先生ってば両手で構えるやピタリと切っ先を止めて。
ビュウ! ビュウ! ビュウ! 当たり前のように振ってくれちゃいます。
「おおっ!! さすがリュウ先生じゃい! 斬ったところで切っ先がピタリと止まっちょる!」
そう、普段の木刀よりは回転が遅いですけど、真剣の胴田貫を振ってるかのようにピタッピタッと切っ先を止めてくれちゃってます。どれだけ超人なんですか、この先生は?
「驚くことはない、これが剣士の手の内という奴だ。それにここまで重たくはないが、無双流にも鍛錬用の木刀がある。要するにコツと慣れと稽古量さ」
なんて、当たり前みたいに言ってくれちゃって、どこまでニクイんでしょう?
ちなみに私も、どうにかこの狼牙棒。振ることは振れるんですよ? ということで……。
「お? 次のチャレンジャーはカエデか! 頑張れよ!」
小隊長の声援を受けて、私もひと振りさせてもらいます。
まずは狼牙棒の切っ先を地面につけて、長柄をしっかり握ります。このときはほとんどバンザイの姿勢、というか完全に得物の重さに負けてのけぞっているような姿勢。さてお立ち合い!
この姿勢からどのようにして狼牙棒を振るのか!? リュウ先生が言うところのコツを説明するならば、エイヤッと持ち上げようとしないことです。
地面についた狼牙棒の切っ先、これを点Aとしましょう。そして石突……つまり柄尻を点Bとします。この点ABを結んだ線の延長に点Cがあると思ってください。
この重たい狼牙棒を点Cに向かって引っこ抜く!
そう、振るんじゃなくって引っこ抜くんです。引っこ抜かれた狼牙棒、空中に浮いているときに重さはありません。……いえ、実際にはあるんでしょうけど、引っこ抜かれた勢いが活きているうちはその重さ、扱いにくさはほとんど感じません。そうしたら重量挙げ競技のように長柄の下にもぐり込んで、空中に浮いた狼牙棒をくるりとひっくり返します。そう、切っ先が敵に向くように。そのままあとは地面に叩きつける……じゃあなくって落っことすだけ。
どうですか?
みんなが感嘆の声をあげて、パチパチと拍手。
「すごいじゃないか、カエデ!」
「非力な女の子でもやれるモンじゃのう!」
いえいえ、そんなにホメないで。なにしろ私が使うとこの狼牙棒、致命的な弱点があるんだから。
「それではカエデさん、もう一発お見舞いしちゃってください!」
おぉう、マミ。そこなのよ、狼牙棒の弱点って……。私の力じゃ二発目を打つのが困難なのよ……。
「うにゅ〜〜、それは問題ですねぇ〜〜……」
「だけどカエデがこんなスゴイ武器を使ったってだけで、すっごいことだぞ! もっと自慢しろ、カエデ!!」
小隊長のお言葉のありがたいことありがたいこと。カエデちゃん、涙がこぼれそう。
「いやいやカエデちゃん、諦めるのはまだ早いよ? そりゃあリュウ先生やセキトリさんほどじゃないけど、女の子にだって狼牙棒は連発できるんじゃないかな?」
出ました、天才シャルローネ。今回はどんな発想を見せてくれるやら……。
続きは次回の講釈で……。




