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忍者、逃亡!

なんともお恥ずかしい、とフジオカ先生は爽やかに微笑む。

「私どもなど、まだ道の半ば。至らぬことだらけでしかありません」

「とはいえ、鎖分銅で相手を巻きつけて、それを柔道着代わりに掴むんだから、すごい発想だよ〜♪」

「いやいや、これもトヨム小隊の参謀であるカエデさんの発案でしてね。元はひもの長いヌンチャクを勧められていながら、この選択となってしまいました」

「なるほどカエデちゃんかぁ」

御門芙蓉は感心していた。そして忍者は、物陰で舌打ちする。

「カエデのヤツ……ほんとうにいらんことしかせんなぁ……これで鬼神館柔道が、さらに驚異になるじゃないか……」

などと思っていると、話が変わったようでフジオカ先生が口を開く。

「ときに御門さん?」

「あぁ、私たちは名前で呼んでくれていいですよ?」

「では芙蓉さん、あれなる人物は、まほろばのお知り合いですかな?」

「え? どれどれ?」

マズイ、見つかったか!? フジオカ先生がこちらを睨んでいる! 忍者は肝を冷やした。

「何やら先ほどからこちらをうかがっているようでしてな。……そこの者、取って食ったりしないから出てきなさい」


諦めるようにして、忍者は姿を現した。なにしろ今は変装中なのだ。上手くすれば、ごまかすことができるかもしれない。

「ずいぶんと地味な女が出てきたなぁ……」

ナンブ・リュウゾウには、忍者の変装が通じているようだ。頭上の簡易プロフィールには気づいていない。

「リュウゾウ、お前の守備範囲からは外れるか?」

「なにしろお前はマミさん推しだからな」

ほう、ナンブ・リュウゾウ。マミのようなおっとり巨乳が好みか。ならばスレンダー美人の私は、ハズレだな。

自分で美人とか評価する辺り、忍者もなかなか図々しい。

「して、お嬢さん。貴女は私たちに興味があるのかね? それとも『まほろば』のみなさんに御用かな?」

フジオカ先生、こちらも忍者の変装に騙されているのか? まだ気づいていない様子だ。

「え、えぇ……柔道のみなさんの強さに惹かれまして……」

あくまでもオドオドと答える。


「なるほど、それでは我らが術を見ていないのだから、『まほろば』には興味は湧かぬか……」

銀髪、美麗の天神一流剣士白銀輝夜が言う。

「だけどそれなら、いま敵が近づいて来てますから、『まほろば』に興味を持ってもらうチャンスかもしれませんよ?」

ウィンドウを確認していた三条葵、茶房店主がにっこりと営業スマイル。まほろばに興味を持てば、自分の店の常連になってくれるかも、という腹積もりらしい。

「葵どの、敵の数はどれほどか?」

「これは……十二人。おそらく連合を組んだふたチームでしょうね。一説によるとまほろばと陸奥屋が連合を組んで暴れて以降、連合を組むのが流行ったとかいう話ですから」

「わざわざ連合を組んで、どれほどの連携を見せてもらえるのかな?」

白銀輝夜は不敵な微笑みを浮かべた。どうやら一人で相手にするようだ。しかし、忍者はその実力を知っている。どれだけ格上であろうと、カエデのような『達人殺し』の技が無ければ、死人部屋送りが十二人分出るだけだ。

白銀輝夜、前へ。十二人の敵もそのことに警戒したようだ。一瞬動きを止める。


「そこの豪傑格のプレイヤーさん。俺たちも豪傑格なんだが、一人で相手をするのかい?」

敵から訊いてきた。白銀輝夜は「左様」と答える。

「そちら様十二人を、私ひとりでお相手してみたいと思うが……いかがかな?」

「……舐めている……訳ではないようだね? じゃあ悪いけど、こっちは一度に十二人。全員でかからせてもらうよ」

「望むところ!」

敵プレイヤーたちもなかなかのもの。まずは四人で白銀輝夜を囲み、その外側を八人で囲む。フレンドリーファイアの無いゲームではあるが、効率よく一人を囲むなら、この形が良いだろう。

そのことは白銀輝夜も理解している。

「なかなかやりますな。では、どうぞ……」

どうぞ、とは言ったが白銀輝夜は抜いていない。彼女を囲む四人のプレイヤーは、いずれも長物。槍だ薙刀だと、距離をとっている。しかも白銀輝夜から見て左右前方に二人。左右後方に二人と、手慣れた雰囲気をかもしていた。

ゲーム巧者ではある。ただし、そこまで。カエデのような曲者感は、忍者の目では見て取れない。忍者の評価は、悪くないが惜しい。というところである。

そして前方の二人が、代わる代わる誘いをかけた。フェイントだ。そして本命の攻撃は、背後の二人……。忍者はそう読んだ。


事実、前方の二人は軽い突き技、薙ぎ技を見せるだけ。白銀輝夜は誘いに乗らず、まったく動じていない。

……輝夜の実力を知ってはいたが、それ以上に人間が太くなったか?

忍者は刮目する思いで白銀輝夜を見た。これがリュウ先生に稽古をつけられた成果だろうか?

連合を組んでいたときよりも、もっと濃厚に稽古をつけてもらえる。士郎先生と二人がかりの稽古も良いが、一本化された稽古の方が白銀輝夜には合っているのだろう。

と、その白銀輝夜が振り向いた。そしてすでに抜いている。抜いた姿で後ろの敵の突きを受け流していた。受けたまま槍の筋に沿って踏み込む剣士。縦に旋回する刀。

クリティカル……いや、ワンショット判定で一発小手斬りが決まった。そして槍は片手で扱えるものではない。回復ポーションを使用することさえ許されず、槍の敵プレイヤーは撤退。

次のプレイヤーは薙刀でスネを払ってきた。しかし白銀輝夜は冷静、手の内で刀を峰打ちに持ち替え、刃を相手に向けた状態でブロック。防いだ刀を頭上に振り上げ、両手で真っ向唐竹割りに斬って捨てる。あっという間に二人キルだ。ここで外周の八人のうち、一人が交代で内輪に入ってきた。それほどまでに素早い斬殺劇だったのだ。


内輪に入ってきた新手は剣しか持っていない。長物のプレイヤーでさえ瞬殺されているのだ。剣対剣で白銀輝夜にかなうはずがない。十二人のプレイヤーたちは、ことごとく死人部屋へと送り込まれる。

「訓練の度合い、連携の取り方、いずれも悪くない。ただ惜しむらくは相手が私だったということだ……」

美形の剣士白銀輝夜は、音も立てずに鞘へ刀を納めた。そして忍者に片頬だけで微笑みかけてくる。

「いかがでしたかな、お嬢さん? これで『まほろば』、または剣に興味が湧いたのではないかと思うが……」

「え、えぇ……大変に素晴らしいと思いますが、私なんかがそんなに強くなれるかって……わかりませんから……」

あくまでもオドオドと、忍者は答えた。すると白銀輝夜は「人間誰しも、初めから上手な訳ではありません……」と、女殺しは眼差しを向けてきた。

「あのね、輝夜……言いにくいんじゃけど……」

金髪碧眼のお人形さん顔、華やかな雰囲気の近衛咲夜が呆れたように口を開く。

「アンタが面倒見ようとしとるその女の子、実は陸奥屋の忍者なんよ?」

「…………………………………………」

長い間を取って、ようやく白銀輝夜は反応した。

「何を言っているんだ、咲夜。陸奥屋の忍者はいつも忍び装束だろ?」

「じゃけぇ変装じゃ、言うとるんよ」

「…………………………………………」

ふたたび、長い空白。そしてフリーズしていた白銀輝夜の思考が再起動。

「お前……陸奥屋の忍者なのか……?」

「いえいえ、私は通りすがりの地味子さんです」

「ほら咲夜、このように申しておるぞ」

「ほいたら頭の上の簡易プロフィール呼んでみぃ。陸奥屋鬼組 忍者ち書いとるけぇ」


白銀輝夜がまじまじと簡易プロフィールを読んでいた。しかし忍者の頭脳は、さてこのピンチをどう切り抜けようか? という方向に回転している。

「なるほど、そなたのプロフィールには陸奥屋鬼組の忍者とあるが、あの忍者とは同名他者なのか?」

この白銀輝夜のニブさには、まほろばメンバーも鬼神館柔道もズッコケた。というか、忍者自身もズッコケてしまう。しかし頭の中をすぐに切り替え、これぞ天佑とばかり逃げの姿勢に入る。

「よくぞ見破ったまほろばの諸君! 私こそは陸奥屋一党鬼組所属の忍者だ! 機会があればまた会おうっ、さらばだ!」

そして何故か舞い飛ぶ枯れ葉。なんとかのひとつ覚えの例えもあるように、またもや木の葉隠れの術である。そしてこの術、忍者は今回逃亡用に使っているのではない。身を潜めるために使っていた。

だからすぐそばにいるまほろばメンバーたちの言葉も耳に入る。

「むう……忍者も変装の腕を上げたな……」

「いや、騙されとったのアンタだけじゃけぇ……」

「仕方ないなのですよ……輝夜さまはアレなお方なのですから……」

茶房の看板娘、三条歩がシレッと酷評する。そして姉分である三条葵茶房店主は、核心を突いた。

「で、結局忍者って……ナニをしたかったんでしょう……?」

こちらの企みはバレていない、と忍者は物陰で胸を撫で下ろす。しかし事態がひとつも進展していないことには、見て見ぬ振りをすることにした。


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