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その頃の陸奥屋一党

陸奥屋一党といえば広い道場である。そこが大広間のように使われて、かつては『嗚呼!!花のトヨム小隊』や『まほろば』の面々も顔を並べていた。しかし今ではその数も半分に減り、最強の軍団も寂しくなっていた。

しかしそれは仕方ないこと。剣を取っては今現在、天下無敵と称される緑柳師範、現役バリバリの草薙士郎、さらに和田龍兵ことリュウが揃っていては、『王国の刃』というゲームが詰まらなくなってしまうからだ。

陸奥屋とまほろば、両者の分派は必然と言わざるを得ない。そしてその大広間のような道場だが、現在総裁鬼将軍とその秘書御剣かなめ。緑柳師範に参謀の青年、そして士郎師範代といった大幹部が揃っていた。お歴々の前に座するのは、忍者装束の娘。プレイヤーネームは、まんま『忍者』であるが、本名でいずみとも呼ばれている。

その忍者が、『まほろば』に新たな勢力が加盟したことを告げていた。

フジオカという男が率いる、鬼神館柔道についての調査報告だ。

「強い、というなら間違いなくバカのように強い。……だが柔道だ」

忍者はそのように報告を上げた。


「柔道の範囲から出ることは無い。それほど恐ろしい珠には見えなかったな」

つまり人間ロケットの荒技や、戦闘への貪欲さなどは確認していなかったということになる。

その報告を受けて、美人秘書の御剣かなめは眉をひそめる。

「……いずみ、そこの柔道家にフジオカという男性はいなかったかしら?」

「あぁ、確か顔の濃いリーダーが、そんな名前で呼ばれてたかな?」

「なにか知っているのかね、かなめ君?」

相変わらず真っ白な詰め襟の軍服。邪魔そうな勲章の数々。もうふゆは終わったぞ、と言いたくなる漆黒のマント。インテリ眼鏡の鬼将軍が訊いた。

「はい、少し気になることがありまして。この王国の刃というゲームに、わざわざ柔道家として乗り込んでくる人物に、心当たりが……鬼神館柔道……」

「知っとるか、小僧?」

緑柳師範は、士郎師範代に訊いた。

「不心得ながら、柔道は専門外ですので」

士郎師範代は頭を下げながら答えた。



「鬼神館柔道、それはどのような集団かね、かなめ君?」

「通称裏柔道、あるいは裏講道館。日本柔道が国際競技で敗れた折には、優勝国までおもむき、柔道日本の名誉を回復させる集団と聞き及んでいます」

「そんなスポーツエリートが、ゲームやっとる暇があるのかね?」

鬼将軍の疑問はもっともだ。しかし御剣かなめはスラスラと答える。

「柔あれば、どこへでも。それが鬼神館柔道です」

「まったく、バカな集団だな」

鬼将軍がそう言うと、師範も師範代も顔をそむけた。「お前が言うな」とでも言いたそうな顔であった。

「それがバカだからこそ恐ろしいのです、総裁」

ゆったりとしたガウン。烏帽子を思わせる孔明帽子。さらには孔雀の羽根で拵えた扇をホッスホッスと揺らめかせた、悪趣味の固まり。ただし、どじょう髭はつけていない。

「おお、ヤハラ軍師。そなたは鬼神館柔道を御存知なのか?」

「秘書のかなめ様くらいには。そしてあそこには、私の知人もおりますので……」

知人。その単語を口にするとき、軍師ヤハラは少しだけ眉をしかめた。


「我らが総裁、発言をお許しください」

「かまわぬ、ヤハラどの」

「されば、とりあえず鬼神館柔道というもの。その名、その在り方が示す通り男子の少年心をくすぐる存在。故に己の疲労、あるいは限界というものですら楽々と乗り越えてしまう集団なのです。……バカにしかできませんが」

悪趣味丸出しのインテリ眼鏡、ヤハラは苦渋を飲むような顔で語る。というか、このヤハラ。鬼将軍から威圧感を抜いたような見てくれで、やはり只者ではないことがうかがい知れる。

「そんなバカが朝から晩まで柔道漬け、それもひとりふたりでなく集団を形成しているのです。バカがバカな鍛錬をして、それを見たバカがさらにバカな鍛錬に励むという悪循環。それはどこまでも、果てしなく、一直線に!

逆に言うならばそれだけに強い。強いことは強い! オツムは弱いですが……」

むぅ、と唸って、鬼将軍は腕を組んだ。羨望の色が瞳に浮かんでいる。

「欲しいのですか、総裁? 鬼神館柔道が……」

美人秘書が訊いた。


「いや、すでに我が手中にはかなめ勲章があり、緑柳師範に士郎先生もあり、本店鬼の組さらには精鋭たちが揃っている。これ以上を欲するではないが……」

「ないが?」

御剣かなめがさらに訊く。

「それだけの上のモノ、ひ〜ちゃん……あいや、天宮緋影ごときに扱えようか? よもや宝の持ち腐れになったりはしないだろうな?」

「その懸念は無用でしょう、総裁」

士郎師範代、草薙士郎が反論。

「仮にもいまの『まほろば』には、アイツが与してます。和田龍兵……」

トヨム小隊、リュウの名を出した。

「あ奴めがおればおよその強者、腐ることはありますまい」

「士郎先生はお好きですなぁ、リュウ先生のことが」

「それはもう、寝ても覚めても。これはもう、恋と呼んでも差し支えありません」

「そして濃い《love》というものは征服しなくては気が済まない」

草薙士郎は、「左様」とだけ言って薄く微笑った。


「士郎師範代といえば今や『王国の刃』において、音に聞こえた剣豪ですが、その士郎師範代が一目も二目も置く手練れが、『まほろば』にいるのですか?」

目を丸くする、軍師ヤハラ。その様子を見て忍者は、誰にも聞こえないように「お前ぇが知らねぇでどうするよ?

白々しいトボケ方するやつだ……」と小さく舌打ちした。

「本名は和田龍兵、ゲームん中じゃぁリュウって名乗ってやがる。柳心当たり無双流の……今は宗家ンなってるんだっけか?

まあ、なかなか見所のある若造よ。オイラほどじゃねぇがな」

緑柳師範はカッカッカッと笑った。

「武将チャレンジというコンテンツでは、士郎先生と並んでただふたりだけの、パーフェクト達成者です」

御剣かなめがつけ加えた。

「他に、注目すべきプレイヤーなどはおりますか?」

「まあ、ウチのユキやキョウくらいの相手ならゴロゴロしている。特に『まほろば』のメンバーはすべて使い手。そしてリュウ先生の所属するトヨム小隊のメンバーもね」

「その中でワシが特に目をつけとるのが……」

スクリーンにマミさんが映し出された。

「見てみぃ、このたわわなおっぱい♪ まさに南国の太陽が育んだプリンじゃろ♡」

貧乳大好き鬼将軍、というかロリータ界隈の鬼将軍。幼い娘とあらば即参上、攻めて! 責めて! 攻め抜いて! という鬼将軍が渋い顔をしている。

「翁、をこではございません。お戯れを……」


「おう、そうじゃったそうじゃった」

改めてスクリーンに映し出されたのは、カエデである。その顔を見た鬼将軍は、「ほう」と目を細め感嘆の声をもらした。

「緑柳師範、彼女はトヨム小隊の青い娘でしたな?」

「おうよ、カエデとかいうお嬢ちゃんだったのう」

「分裂前から、翁のお気に入りでしたな」

「左様、そしていまだに開催しておる合同講習会、ワンショットワンキル講座にも毎回出席して来ておる」

「あの講習会は、今でも人気でしたね?」

「つまりはよ、カエデお嬢ちゃんの魔の手は、いまだに広がり続けているということよ」

「忍者、翁のおっしゃるカエデさんの魔の手とはどういうものか、わかるかい?」

士郎師範代が忍者に訊く。

「三先生方からキルを奪った、研究心かい?」

「それは毒牙であって魔の手じゃない」

「……………………」

忍者は黙り込んだ。

「社交性だよ、知り合いや仲間を増やしていく能力とでも言おうか」

「それの何が魔の手なンさ?」

忍者は地の言葉を使う。


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