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マミさんの武器と鬼神館柔道の若者ども

さて、三日間に渡るストリートイベントの初日を切り上げて。私たちは拠点に戻ってきた。話はマミさんの新装備のことになる。

「早速だけどマミ、稽古場に入って。私は新しい武器の準備をするから」

カエデさんの指示でマミさんが稽古場に入る。普段はあまりしない装備、目だけを出した革面まで着けさせられていた。

「白百合メンバーの革面なんぞ、初めて見ますのう」

セキトリが言った。

「普段は革兜までだもんね」

トヨムも感想を述べる。

「顔面も狙うのかな?」

普段の稽古では、技の流れを確認したりという場合、あまり首から上や袈裟は狙わない。相手に恐怖心を植えつけてしまい、技が小さくなってしまうからだ。それを革面とは。道具の確認に留まらず、スパーを始めるというのか?


カエデさんが稽古場に入った。マミさんのための新しい武器を手にしている。棒状のトンファーだった。丸棒の両端には丸い玉が付いている。握りの端にも丸い玉。素肌武術ならば、棒の角で相手が皮膚をカットしないように、との配慮となるのだが、ここは甲冑戦闘華やかなりし『王国の刃』である。角が鋭利なトンファーより、鈍い玉をつけた武器の方が有効に思える。

まずはカエデさん、トンファーを防御の形……小手からヒジを守るような形で身構えた。

「さ、マミ。まずは軽くスパーといきましょう」

「おーー、カエデさん。それがマミさんの新しい武器ですねー?」

今気づいたんかい! ……いや、そんなはずは無い。いくら鈍チンのマミさんでも、カエデさんがいつもと違う装備で出てくれば、すでに気づいているはずだ。

マミさんも双棍を構えて、いざゴング。

まずはカエデさんがジリジリと出る。しかし、手は出さない。リーチの問題だ。トンファーで腕を守っている現状、カエデさんの方がリーチが短い。加えて、マミさんの方が体格が良い。当然アバターのリーチがもともと長い。さらにマミさんは双棍を突き出している。カエデさんは得物を折り畳んでいるような状態。リーチを比較するなら、勝負にならないレベルである。だが、カエデさんは出た。マミさんも応じるように手を出す。しかし……。


乾いた音が三つ鳴った。マミさんの攻撃を、防御形態のカエデさんがすべて弾いたのだ。それだけでカエデさんは、マミさんの内懐に入り込むことを成功させた。同時にポスッと、マミさんの水月へトンファーの玉を突き込む。

「どうかしら? 悪くないでしょ?」

カエデさんが片眼をつぶってみせる。可愛らしいウインクだ。

「おおっ、これは面白いですねぇ〜〜♪」

「もちろん今のは簡単な操作。今度はもう少し面白いことするわね」

両者、開始線へ。そこからふたたびゴング。カエデさんから距離を詰める同じ展開。

ではない。今度はマミさんも積極的に間を詰めてきた。そしてマミさんの一足一刀の間合い。カエデさんは出れば打たれるしかない。それでもカエデさんは出た。マミさんの双棍、まずは右手が襲ってくる。カエデさんは左のトンファーでブロック。同時に右のトンファーで、ボディに一発ポスッとカウンターで。しかしマミさんの攻撃は止まらない、今度は左。しかし間合が近すぎる。カエデさんはこれを右腕をからめることでクリンチの態勢に持ち込む。


しかしここからがカエデ芸。至近距離の間合、わずかな隙間しかないのに左のトンファーを縦に旋回。マミさんの死角から一撃を見舞う。そこでカエデさんはクリンチを解いて離脱。間合を取ったところで解説を入れる。

「鬼神館柔道に紹介したヌンチャクでも、似たような技はできるんだけど」

そう言ってカエデさんは、身体の正面に円盤を描くようにトンファーを旋回させて見せた。

「間合が極端に近い至近距離クロスレンジでも、この武器は活用できるんだ。しかもバットのフルスイングみたいな攻撃だって……」

シャルローネさんに目配せ。シャルローネさんも愛用のメイス『極楽浄土』を振るって、カエデさんに脳天から打ち下ろす一撃。しかしウデをクロスさせたカエデさんは、空手で言う十字受けでキッチリブロック。ボクシングではクロスアームブロックなどと呼ばれ、日本フェザー級チャンピオンがマンガの中で使っていた。非常に堅牢な防御である。

「こんなカンジで受け止められるんだよ♪」

マミさんは「ほっほ〜〜」と感嘆の声をあげる。そのうえで普段から想像もつかない速度でウィンドウを開き、有り余るゲーム内硬貨でトンファーのワンペアをお買い上げした。


まずは手にして、ディフェンスの動き。そこからクルリとトンファーを旋回。自分の目の高さで、もう一度旋回。両腕をダラリと垂らして、その場跳躍を軽くトントントン。今度は柔道の構えからすり足で横移動。シャドーボクシングのように、ディフェンスディフェンスディフェンス。そこからポクポクチーンの中のポクポク攻撃を軽く上下へ。そこから身体正面での縦旋回。トンファーの丸玉は太ももの高さで軽く唸りを上げた。そして顔の高さで正面へ突き技、さらに横からの攻撃でトンファーを旋回。

「どうかな、マミ?」

「大変に気に入りました♪ ありがとうございます、カエデさん♡」

マミさんも新しい武器で御満悦の様子。よかったよかったと言いたくなる場面だった。

「しかしリュウ先生? 鬼神館柔道の連中はカエデさんにヌンチャクを勧められて、他の武器に変更するかもしれんと含みを持たせとったが、どうなるんじゃろうな?」

「うむ、今頃はヌンチャクと他の武器を比較して、検討しているところだろう」


ということで、その頃の鬼神館柔道。ナンブ・リュウゾウを中心に、若者たちは車座になっていた。

「さて、先輩方……」

若輩でありながらも、ナンブ・リュウゾウは重々しく口を開いた。

「これから申し上げることは、重要にしてフジオカ先生にもうかうかと告げられぬことにございます故、その由重々お含みください」

鬼神館柔道の若者たちは、重々しくうなずく。

「まず俺は、あのピンクのウルト〇マン。マミさんを推します!」

ナンブ・リュウゾウが宣言すると、「俺も」「俺も」と先輩ふたりが手を挙げた。

しかし腕を組み、渋い表情の先輩もふたり。

「なるほどリュウゾウ、マミさんは確かにかわいい。しかし俺はどちらかといえば、美形のシャルローネさん推しだな」

「あ、俺もッス。先輩」

残るひとりが手を挙げた。

「そもそもリュウゾウ、お前はマミさんを推すと言ったが、単にあのDカップのおっぱいに目が眩んだだけじゃないのか?」

「そ、そんなことネェっす! ……あのマミさんのおっとりした雰囲気。戦闘戦闘に明け暮れる俺を癒やしてくれるような、あの優しさ……あぁっ、俺はもうっ!

絶対ぇに俺は、あのDカップおっぱいにヤラれた訳ではないじゃネェっす!」

ここで作者より注釈。マミさんはDカップなどではない。作者設定においてはFカップである。しかし『柔道一直線

純情派』の若者たちでは、女性のカップ数などわかるはずがない。

「とはいってもリュウゾウ、お前マミさんじゃなくあの青い娘に話しかけられてただろ?」


「青い娘? ……あぁ、フジオカ先生にヌンチャク薦めてた奴っすね? いや、あれぁ……」

「あれで呼ぶな。名前くらい呼んでやれよ」

「トヨム小隊の参謀らしいですね、彼女。……あ、カエデって言うんだ?」

さっそくウィンドウを開いて女の子チェックを入れている者がいた。

「ん〜〜、イベントの成績なんかはパッとしないけど、タッグ選手権のチャンピオンらしいぞ。しかもあちらの大御所、士郎ってプレイヤーと……リュウ先生にも勝ってるってよ!」

「大物食いかよ、さすが参謀だな!」

「ですが、あちらチームの士郎とかいうプレイヤー。どれほどのモノなんスか?」

リュウゾウが問うと、ウィンドウの若者は青い顔をした。

「……リュウ先生と並んで、災害認定されてるぞ。この何千万といる登録者の中に、三人しかいないトッププレイヤーだ……」

その言葉に、一同生唾を飲む。

「……か、考えてもみればよ」

マミさん推しの先輩がもらす。

「仮にもだぞ、仮にもマミさんとおつきあいさせて下さいって段階になったら、だ。フジオカ先生にも勝るとも劣らないリュウ先生に、挨拶ロウズ入れなきゃならねぇってこったよな?」

「や、やべぇ……ヤバ過ぎるってよ、それ……」

「おや? 先輩方はもう白旗ッスか? 俺は退りませんよ!」


ナンブ・リュウゾウは強気で言う。

「そうは言うがリュウゾウ、お前勝算はあるのか!?」

「一に根性二に努力、忘れちゃいけねぇ精神力!」

「お前に訊いた俺がバカだった、すまん、謝るよ……」

「お前は参謀の青い娘とつきあって、もう少しお勉強を教えてもらった方がいいぞ?」

「アイツ俺のこと嫌ってますよ、絶対。高校時代にもいましたからね、いつもツルんでるくせに、いつも俺のことバカだのなんだのって罵る奴が」

「事実だから仕方ないよな」

「賢い奴にバカだのなんだのって言えば、それは失礼だ。しかしお前に言うのは問題ないだろ?」

「先輩、そりゃねぇッスよ……」

「とにかく、リュウゾウが本格的にマミさんのおっぱいに目が眩んでるってのはわかった! そうなるとまずはお近づき作戦からだな!」

「ほう、リュウゾウは女の子のおっぱいに目が眩んだか」

リュウゾウの背後で、野太い声がした。

「へっ! もう認めてやらぁ! そうッスよ、俺はマミさんのおっぱいにメロメロさ!」

「それは稽古が足りとらん証拠ではないのか?」

野太い声のヌシは、フジオカ先生その人であった。

鬼神館柔道の若者たち。決して武器の吟味などしておらず、年相応の青年たちであった。


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