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個人戦

 私が個人戦に出場したとなると、ウチのメンバーそして白百合剣士団も個人戦に出場ということになる。まずはセキトリとマミさん。直径六メートルの試合場に挑む。



「よっしゃー! 腕が鳴るわいのぉ!」

「セキトリ、誰と当たるかわからんのだ。あくまで慎重にな」

「わかっとりますわい! 攻めて攻めて攻め抜いて! ですな!」



 まるでわかっとらんやん。控室ドレッシングルームでのアドバイスは空振りに終わりそうだ。

 トヨムが対戦相手の情報を入手する。



「旦那、セキトリの相手はスピードスターだよ!」

「得物はなんだ?」


「近接戦闘用のナイフだね……」

「ということだ、セキトリ。どうする?」

「ぶっ飛ばしますわい!」


「おう、勇ましいな」

「粉微塵にぶっ飛ばしてやりますわい!」





 王国の刃というゲームは脳筋ゲームである。セキトリの実力と勢いそのままならば、スピードスターも、あるいは……。

 しかし……。


 甲冑武者となったセキトリは、いいようにポイントを奪われていた。

 甲冑にナイフで傷を入れられまくっているのである。状態ゲージを見れば、甲冑の各部位はもう崩壊パージ寸前である。ただ相手選手の下手で、クリティカルが入っていないだけであった。



「コナクソ、チョロチョロ動き回りおって……」



 セキトリの攻撃はすべて空振り。つまり敵はフルヘルス。というか革の鎧のどこにも傷はついていない。これは分が悪い。観客席でそう思っていた刹那。

 セキトリの昇り龍が逆手に持たれ、いわゆる石突で敵の胃袋を突き込んでいた。





 小柄なアバターは動きを止める。セキトリはその瞬間を許さない。まずは頭から当たる。さらに空白の時間を与えてから、スパイクのついた長得物で正確な一撃。小柄なアバターは防御力が薄い。連続のクリティカルで戦線を離脱した。

 ヨコヅナのノックアウト勝利だ。



「あまりポイントが奪えなかったのう」



 セキトリは愚直をこぼす。



「何を言うか、私はあのままズルズル負けるかと思ってヒヤヒヤしてたんだぞ」

「リュウ先生、あれは全部誘いじゃい」




 結果オーライでは何を言っても許される。しかし私は、「軽量級対策、もっと詰めような」と釘を刺した。

 そして続くはマミ選手。真っ白な甲冑ではなく、本日は学校指定の制服の上に真っ白な革の防具。そしてウルト〇マンのように、ピンクのトサカが乗った革のヘルメット。


 マミ選手というか、白百合剣士団が語るところによると、革防具は鉄の甲冑よりも軽く、視界も良好なのだぞうだ。得物はいつものようにスパイクのついた短いメイスが二本。トゲ双棍というものだ。


 敵は見るからにヘヴィウェイト。一〇〇キロはありそうな大男だ。しかも甲冑を着込んでいるので、目方ウェイトはさらに、である。


 しかもマミさんにとっては訃報……というかよろしくない知らせ。立ち合い前の構えを見るに、現実世界ではこの男、アメフト選手ではないかと疑える。頭を下げて片手を着いているのだ。得物はナックルに長い爪という、いささかマニアックな武器であるが、果たして。


 銅鑼が鳴る。両者リング中央へ小走りに。先に腰を落としたのはマミさん。蹲踞で敵を待ち構えている。敵も間合いをとってアメフトの構え、マミさんは片方の得物を地面に着いて立ち合いに備える。どちらが申し出た、というのではない。しかし二人には、余人に知れぬ立ち合いの呼吸というものがあるようだ。



 ……まだだ、……まだ立たない。私は観客席から固唾を呑んで見守っていた。

 じっくりを気をためて、ためて、ため込んで……ハッキヨイ! 左の短いメイスで突き上げたのはマミ、敵は強く当たるつもりだったようだ。


 マミの棍棒が下から敵のアゴをクイッと突き上げた。反対の腕の棍棒は、スパイクを輝かせて背中から振り上げられている。西洋兜の面に、マミさんのキツイ一発! 面は無残に砕け散った。


 むき出しになった顔面にトサカで頭突き!

そして敵は消え去っていった。瞬殺のキル劇であった。……これはまた。正直に言うなら、先程のセキトリの試合なんぞよりも、よっぽど上手の勝ち方といえた。



「いかがでしたか? 巨漢対策……」



 マミさんはシャルローネさんとカエデさんに訊いていた。



「タイミングよく決まってたよ、得物での喉輪♪」

「ほんと、よく一瞬であそこを狙えたわね」



 いや、カエデさん。それは違う。君たちは合同稽古まえからツワモノ。以前からあそこを狙えただけの実力はあったよ?

 そしてマミさんはエヘヘと笑う。



「カエデちゃんの喉のクロスチョップ。尊い犠牲が無駄にならなくて、良かったですねぇ♪」

「あ、そうだった。マミ、あんた後で体育館裏ね?」


「あらあら、愛の告白でしょうかぁ?」

「ナニ言ってんの!? マミ、あんたナニ言ってんの!?」


「でもこうなると、私も一戦出場したくなっちゃうねぇ」

「お、シャルローネ! 個人戦出場かい!?」



 話を聞いていたトヨムが、早速乗り気だ。



「うにゅ♪ セキトリさんの最後の一撃! あそこにヒントを得ましたんで♪」

「よ〜〜し、それじゃあアタイも個人戦に出てみっかな!」



 ということでシャルローネさんとトヨムの、個人戦出場が急遽決定。

 まあ、何かの大会やトーナメントではない。通常の試合なので、いつでも出場できるのだが。

ということで私たちは観客席へ移動。高見の見物とさせていただく。



「シャルローネたち、先生から見たらどう見えますか?」



 観客席に陣取ると、カエデさんが訊いてきた。



「まず私が知るのは、六人制での二人。個人戦では闘い方が変わってくるから、私の解説ドッ外れになるかもしれないから、そこを前提にね」

「はい」


「まず二人は六人制の中では仕留め屋……ヒットマンの役割。一撃クリティカルの実力はある。ただ、トヨムがそのクリティカル狙いの攻撃を連打で出せるのに対して、シャルローネさんは回転力が低い」

「どうしてですか?」


「得物の違いさ。トヨムの武器はふたつの拳。右から左から、トヨムはドンドン攻撃できる。対してシャルローネさんは長得物。連打は出しにくいんだけど……」

「だけど?」



「さっきの口振りでは、何か掴んだようだったからなぁ」

「自信ありげでしたよね」


「さて、何を見せてくれるやら」

「シャルローネの場合、『何をやらかしてくれるやら』の方が近いんですよねぇ……」

「あり得る……」



 ということで、まずはシャルローネさん。敵は大型アバターの巨漢。得物は大人気のスパイク付きメイスという、ごくごくありがちな装備。

 対するシャルローネさんも愛用のスパイク付きメイス『極楽浄土』を携えて、ウルト〇マン柄、赤と白の革防具、赤いトサカ付きの革兜。銅鑼と同時に両者リング中央へ。



「ん?」



 シャルローネさん、スパイク部分を後ろに引いた『脇構え』で出てゆく。しかも石突付近とギリギリスパイク部分に手をかけて、いわゆるメイスを『一杯に取った』形である。


 敵はスタンダードな八相もどき、そこから袈裟に振り降ろしてくる。体格で劣るシャルローネさん、メイスを頭上に掲げることでこれを許さない。きっちりとガード。しかも石突を突き出して、敵の腹部装甲にポン槍のカスダメをプレゼント。




 さらにさらに、互いの長得物が接触したポイントを支点に、スパイク部分を振り回す。やった、敵の兜に命中!


 クリティカルこそ取れなかったが、兜の耐久値は大きく削った。

 敵は力押しで前に出てくるが、シャルローネさん反時計回りに動いてこれをいなす。


 その間にもチョコチョコと石突を使って、腹部装甲にカスダメを積み重ねた。今のシャルローネさんの構えは八相に近い。というか、重たいスパイク部分を右肩に担いだ形。



 そこからメイスを下ろすようにして、脇構えから横スイング。ダメージを重ねていた腹部にヒット!

パワー不十分だったかもしれないが、これまでのカスダメ貯金が重なって防具破壊に成功。今度はメイスを頭上に掲げて、石突で敵の頭部を小突く。


 これまたカスダメ。しかし敵の体力はチョコチョコと削られる。これではジリ貧と見たか、敵も大きく得物を振りかぶった。シャルローネさん、スパイク部分を小さく振りながら、前進! 体当たりのような勢いでスパイクを顔面に叩きつけた。



 これがクリティカル判定。見事なカウンター攻撃である。

 小さな連撃と大きな一撃。この組み合わせでシャルローネさんは、個人戦の初陣を白星で飾った。



「へへっ、アタイの思ってたのとは違ったけど、モノにしたみたいだな、シャルローネ♪」

「トヨム先生の教えが良かったんですね♪」

「じゃあ今度はアタイの番だな」



 トヨム、入場である。


またまた調子に乗って今日から三日間一日二話更新。次回更新はお馴染みの午後四時です。お楽しみに!

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