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試みと運営の対応

「うん、いいね。軽く握るだけだからハンドスピードが落ちないよ」

トヨムは左手の寸鉄を見下ろして言う。もちろんそんなことをしている場合ではない。片方の小手を失った敵は、さらに構えと攻撃をコンパクトにして警戒心を顕にしていた。しかしトヨムは小柄。身体の小さな者からすれば、中型大型、自分よりも大きな人間の動きは、すぐに見て取れるらしい。いつ頃であったか、トヨム自身がそう言っていた。だからメイスの敵がどれほど気配りしたところで、トヨムからはその攻めその構えは隙が丸見えなのだろう。すり足すり足をつなぎ合わせて、スルスルと逃げてゆく。

「旦那、今のでアタイもちょっとした達人殺しを考えたよ♪ まあ、カエデの二番煎じだけどね」

「ほほう、どんな手だい?」

トヨムの発案に乗ってみる。カエデさんが理論を積み重ねてゆく存在ならば、トヨムやシャルローネさんはひらめき重視のタイプである。ならばそのひらめき、拝見させていただくのも面白い。

メイスのプレイヤーは左右を入れ替えてトヨムに迫った。トヨムも右手右足を前に出すサウスポーな忍者構え。そこへメイスから繰り出される、チョンチョンという細かな突き技。トヨムは手の平の寸鉄でその突きを弾いて、弾いて……パッと繰り出す右フック。またもや敵の小手は砕け散った。


「ね、旦那。いい技でしょ?」

なにをどうしたのか、さっぱりわからん。

「え〜〜? わかんないかーー……じゃあもう少しわかりやすいように……と」

前に出した右足を、さらに前へ差し出す。あまり忍者の構えには似ていないが、それでもトヨムの足さばきは活きている。そして前に置いてある右足で、小さく蹴り、蹴り。相手プレイヤーの胴を狙う。しかし二度に渡って防具を破壊された敵は、これを嫌がってメイスで払おうとする。しかし動きが鈍重だ。トヨムもその鈍さに焦れている様子。

しかし、右足の二段蹴り。これを繰り出したところで、ようやくトヨムのスネ当てにメイスが命中。レガースが吹き飛んだ。

だがトヨムの蹴りはまだ終わっていない。三発目の前蹴りがボディにヒット。胴の防具にダメージを与えた。


これに至って、私にもようやくトヨムのやりたい「達人殺し」が理解できた。なんともトヨムらしい発想というか、要するに「肉を切らせて骨を断つ戦法」だ。私やトヨムは普段から防具を着けないので、あまりそのような発想は湧かないのだが、防具をエサにして与え、クリティカルくらいはくれてやるが骨や命まではくれてやらない。むしろ欠損には至っていない手足で、敵のほねを断ち命を奪うという戦法なのだ。

ふむ、ゲームならでは、という発想でありゲーム内でしか使えない技である。まさに『王国の刃』ならではの技とも言える。だがしかし、ここはキビシく。

「トヨム、その技はお前ひとりの発明じゃないだろう?」

「あちゃー、バレたか」

戦闘中だというのに、トヨムは頭をポリポリと掻く。

「当たり前だ、というかそれは私が以前カエデさんに食らった技の亜流だろ」

「亜流ではありますが内容が若干違っていて、効果はさらに違いますよ?」

カエデさんだ。

「ほほう? どう違うのかな?」

「私がリュウ先生に仕掛けたときは、『片腕を楯にしただけ』ですが、小隊長の技は『防具をくれてやっただけ』です」

そこにどれほどの違いがあるのか?


「防具をくれてやるだけというのは、四肢に欠損が発生しない。つまりほぼ完全体で反撃ができるということです。さらに言えば、条件さえ整えば……つまり受け技や受け流しに成功すれば防具のダメージも少ないということになります」

「防具まで守れるのか……」

それが本当ならば、かなり面白い技になりそうだ。というか、メンバーたちのような革鎧ならば、私も着用してみたくなる。

「いえいえ、さらに反則的なことを言うとですねぇ。王国の刃では武器はメンテさえしておけば壊れることが無いじゃないですか。ということは……マミのような短い棍棒を巻きつけた部分は、攻撃が通らないんじゃないかと……」

「それじゃ防具の意味がなくなる」

「ですから、あくまでも仮説です。仮説……。だけど私の考えつくことは、いずれ誰かが考えつきます」

武器を防具に仕立てるか……。あり得ないことではない。何もカエデさんほど大袈裟に考えなくとも良い。例えば私などは、抜いていない木刀でローキックを受けるだけ。それだけで防具として並行使用できるのだ。


とはいえ、これから現れるかもしれない、対戦するかもしれない技術だ。試しておきたい衝動は湧いてくる。もっとも、対戦相手たちに私たちのひらめきをそのままお見舞いするのは、手の内を自ら晒す愚策である。

「サカモト先生、なんの話をしていたのですか?」

丁度良く、フジオカ先生が私たちの会話に興味を持ってくれた。

「いえね、フジオカ先生。武器というのはこのゲームに於いては、メンテナンスさえしておけば折れる損じるが生じないようになっているんです。その特性を活かして、防具代わりに使えないものかと」

「具体的には、どのように?」

興味ついでに質問までされる。そこで適任のマミさんを呼び出した。マミさんの仕込みを見られないよう、鬼神館柔道の若い衆に壁になってもらって、敵から見えないようにした。その上で袴の裾を絞るための細帯を購入。マミさんの双棍をマミさんの前腕、ヒジから小手にかけて縛りつける。

「マミさん、拳を軽く握ってオデコに親指側をつけてみて」

「こうですかぁ?」

マミさんの構えは変型のピーカーブースタイルのよう。そして縛りつけた双棍が防具のように外側を向いている。その反則防具に木刀を打ち込んだ。


ブッブーーッ!

鳴り響くブザー音。マミさんの双棍もライフゲージも、ビクともしていない。もちろんフレンドリーファイヤーという要素もあろうが、今回は同士討ちもありのストリートイベント。まったくダメージが入らないというのもおかしいが、何よりブザー音だ。

いぶかしんでいると、運営からであろう。アナウンスが入った。

『武器の目的外使用は無効とされています。ただいまの攻撃と防御は、一切無効。無かったこととさせていただきます!』

割と強い口調だ。まるで、次おなじことをやったらアカウントを削除するぞ、と言わんばかりである。

「ふむ……どうやらサカモト先生たちが思いつくより早く、同じことを考えて実行して、問題となって運営に苦情が入り、運営が対処したようですな」

フジオカ先生が語ると同時、私たちに運営からメールが届いた。

『武器を破壊できないという特性を利用して、身体にくくりつけることにより防具代わりにする不正行為が目立つようになりました。運営はこの不正行為を重視し、武器は手にしているという条件でのみ防御できる、とルールを変更しました。今後目に余る不正行為は厳しく対応いたしますので、世界観を崩すようなプレイをなさらぬようお願いいたします

運営本部』


うん、これは私たちの考えが悪かったようだ。そしてこうした行為が不正同然に行われており、問題になっていたようだ。そう、私たちの預かり知らない場所で。世界は広く、さまざまな知恵を巡らせる者がいるということだ。

そしてこのメールは、実際に実験に携わった私たちだけでなく、無関係なセキトリやシャルローネさんにも届いていた。どうやら本当にたった今、まさにこの瞬間、運営が対応したようだ。

しかし、武器を手にしてさえいれば防御に使っても良いというのは変わらない。事実トヨムは、万年筆の親分ほどの大きさしかない寸鉄で、敵プレイヤーのスパイク付きメイスを弾き飛ばしていた。さらにその隙を突いての蹴り。装備と認められるトヨムの地下足袋は、相手プレイヤーの胴を破壊。下に着ている衣服を晒すことに成功した。そこからのトヨムは素早い。蹴り技で牽制してから相手の衣服を掴み、得意の山嵐で一気に勝負をきめた。ご存知、トヨム特有の脳天から突き刺す山嵐である。


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