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開花しつつある鬼神館柔道

フジオカ先生は話を元に戻す。

「かなり話が逸れましたな。そちらの小隊長、トヨムさんの使う当身の技術と威力。それがスマートに投げ技や関節技につながる。おまけにトドメの脇差しまでの一連。アレはぜひとも欲しい」

ついにトヨムは、左のストレートで槍……というか短剣ダガーのプレイヤーを撤退させた。

そして次なる敵を求めている。

それを眺めながら、私はウィンドウを開いてみた。確か武器ショップに、フジオカ先生のお眼鏡にかなう品が……あった……。有り余るゲーム内通貨でふたつ、つまりワンペア購入してみる。

「フジオカ先生のお口に合うかどうか……ですがこれならば鬼神館柔道の技の邪魔にはならないかと……」

私の差し出した品物、まずはその形状から説明しよう。ずんぐりと太い万年筆にリングがくっついているような姿。万年筆部分は万年筆などではなく当然鉄物。手の内に隠したり握り方によっては拳から突出させることもできる。

「サカモト先生、これは?」

私はその武器を手の内に隠したり拳から突き出してみせる。


「名前だけは聞いたことがあるはず、『寸鉄』と申します」

「ほう……これが寸鉄……! 昔から寸鉄帯びずとは申しますが、これが……」

「これでしたら」

私は握り拳の中から寸鉄を突き出して、当身の素振り。

「これで敵の鎧を砕き、すみやかに取る! ……いかがでしょう?」

「素晴らしい! 実に面白い武器ですな!」

という具合に中年二人でときめきトークに花を咲かせていういると、麗しの乙女カエデさんが無粋にも口をはさんできた。

「歓談中失礼しますが、両先生方。それでしたら柔道技をそのまま活かせる武器もありますけど……」

「なんと!? そのような武器もありましたか!!」

フジオカ先生が食いついた。カエデさんの言葉なので折り紙付きの武器であろうが、形の上で確認だけは取っておく。

「それは真か、カエデさん!?」

「はい、こちらの武器に御座います」

カエデさんが取り出したのは、ヌンチャクであった。それも、映画『死亡遊戯』で使われた、黄色地に黒のラインが入った、紐が長く棍の短いものである。

「すみませんフジオカ先生、右手を出していただけますか?」

ふむ? と言って差し出しすフジオカ先生。その小手に、カエデさんはシュルンとヌンチャクを巻きつける。そして戻ってきた棍も一緒に片手で握り込んだ。


それをほどいてもう一度。

「今度は首にからめてみます」

ヌンチャクを横振り。フジオカ先生の首に巻きつけて、またもや戻ってきた棍を片手に納める。

「これで掴みどころの無いフルプレートアーマーでも、柔道技が可能になるかと……」

素晴らしい! とフジオカ先生は感嘆の声をあげた。実際、私も素晴らしいアイデアだと思う。思うのだがしかし、それ以上に驚くことがあった。

「カエデさん、いつの間にそんな技を?」

「え? 毎日ちょっとずつですよ?」

それがどうかしましたか? とでも言うような具合に、なんということもな気にカエデさんは答える。

「ほら、私、小隊長やシャルローネみたいに天才じゃないし。セキトリさんやマミみたいに、専門的に武道や格闘技をやった訳でもない、ちょっとだけ西洋剣術をかじった程度だから。それなら『王国の刃』の武器を、全部触ってみちゃえ♪

っていうノリで。そうです、こんなのはただのノリでやっただけですから。特別に強いとか使えるとかではないんですよ?」

ウソだな。私は思った。特別に強いとか使えるとかではない、というところからして怪しい。

確かにカエデさんは度外れて強いという訳ではない。しかしそれは陸奥屋、あるいは『まほろば』の怪物レベル、本職レベルの中にあって、である。


ざっとこれまで見てきたところでは、必殺技雲龍剣に匹敵するだけの技を駆使する者は会ったことが無い。つまり一般プレイヤーレベルに比べれば、カエデさんは引かれるレベルの猛者なのだ。そして観察力と研究心。これにおいてはかつての連合の中でも群を抜いた存在であった。

そのカエデさんがノリだけで武器をイジるはずが無いだろう。もしかしたら私たちの知らないところで、こっそりと単身出撃。さまざまな武器を試しているかもしれない。そんな疑いの出るようなカエデさんが、武器を手にしてノリだけで済ませる訳がない。

とはいえ、そんな影の努力をみんなにさらすのも無粋というもの。

ということで話をフジオカ先生に振ってみる。

「どうでしょう、フジオカ先生?」

「これもまた素晴らしい! 確かにサカモト先生はアキラくんにこれを薦めていたが、私たちにとっては西洋甲冑相手の悩みが霧散する思いです!

道具は多少変化するかもしれませんが、発想がどちらも『いただき!』というところですな!」

ちょうどトヨムが、薙刀のプレイヤーを仕留めたところであった。私はタイムを要求する。

「トヨム、こういう武器があるんだが、どうだ?」

薦めたのは死亡遊戯ヌンチャク、そして寸鉄である。私は寸鉄の使い方を、ヌンチャクの使い方はカエデさんが教授。その上でどちらを選ぶ?

と訊くとトヨムは両方を選んだ。


トヨム、今度は片手剣に丸楯のプレイヤーを相手にする。疑似カエデさんとでも言うべき相手だ。なのだが、しかし。カエデさんに例えるのは少々失礼なプレイヤーだ。少なくともカエデさんは、ワンショットワンキルの技術くらいはある。それなのにこちらのプレイヤー氏は、まったくの棒振り剣。素人丸出しなのである。

クリティカル講座、ワンショットワンキル講座は、いまだに陸奥屋一党と合同で講習会が開かれている。それだというのに……やはり世界は広く、プレイヤーは数多いのである。むう……。

とはいえ、トヨムが手抜きをするということは無い。両手ダラリ、ヌンチャクはようやく脇の下に挟んだという構えで、敵プレイヤーに近づいてゆく。

丸楯の相手プレイヤーは、楯の陰に隠れていた。亀のようにときおり首を出す程度である。まあ、自軍のリーダーたちがあっさりとやられているのだ。亀になりたい気持ちはわからないでもない。しかし丸楯とヌンチャク、亀とヌンチャク。この取り合わせが予想外の効果を発揮してしまった。


トヨムの振ったヌンチャクが、楯の陰に隠れているはずの、敵プレイヤーの兜を破壊してしまったのだ。何気ない一発でしかなかった。おそらく研究心や薙刀では、丸楯の上辺に攻撃を阻まれたであろう。しかしヌンチャクは振りモノ。棍を結合する紐も長め。敵はトヨムのヌンチャクを楯で防いだ、と思っただろう。しかし楯で押さえたのは、ヌンチャクの紐部分。そこを支点としてヌンチャクはさらに回転、棍が鉄兜にクリーンヒットしてしまったのだ。

素早く距離を取るトヨム。

「カエデ! 教わったのと全然違う効果がでたぞ!」

「小隊長、これこそがカエデちゃん作戦です!」

ウソつけ、この。カエデさん、いま君変な汗を流してるじゃないか。とはいえインチキ臭いカエデちゃん作戦。結果としてはこれが良かった。ヌンチャクに対して丸楯が役に立たないということを悟ったのだろう。亀になっていたプレイヤーが、玉砕覚悟で攻勢に転じたのである。

破れかぶれの便所の火事……つまりヤケクソ、としか見えない攻撃ではあったが、こうでなくては敵プレイヤーも楽しくはなかろう。それくらい猛然と突っかかってきたのである。


勝機! そして好機!

突きを繰り出して伸び切った敵プレイヤーの小手、そこにトヨムのヌンチャクがからまる。グイと引くと敵は崩れた。そのクビに、もう片方のヌンチャクを巻きつける。トヨム、十分の態勢だ。

上に下に敵を振って、見本のような背負い投げを放った。まるで鬼神館柔道のように、脳天から地面へと突き刺す背負い投げ。敵は死ぬしかない。

残る敵はふたり。

「どうだい、まだやるかい?」

トヨムは確認を取る。なにしろ先程のプレイヤーがまったくの亀だったのだ。残るふたりもビビリでしかなかろう。しかし勇を鼓して、敵プレイヤーたちは答える。

「やります!」

「だけどそうだね、今度は得物を変えてみるよ」

トヨムはヌンチャクを置いた。そしてオープンフィンガーグローブを脱いで、指に寸鉄をはめ込む。


「アタイの得物はこれだ。間合は拳も同然、だけど舐めプじゃないよ? アタイの拳の攻撃力は、知ってるよね?」

残存プレイヤーたちは首を縦に振った。

「なら、始めようか……」

ふたたびトヨムは忍者の構え。左の小手を突き出して、エサに使う。敵はメイス、長得物だ。しかも先端にはスパイク付きの鉄球は仕込まれている。しかも敵プレイヤー、武闘のセンスは無いが学習のセンスはあるのだろう。コンパクトに、折りたたまれたような構えから突いてきた。

ドが付くほどの素人なのは、見ただけでわかる。しかし小さな攻撃というのは、このゲームにおいて、そうそう見られる攻撃ではない。ほとんどすべてのプレイヤーが、ダイナミックなフォームで、得物を振り回してくるのが常であった。

これは効果的な学習であり、攻撃と言える。……トヨムが相手でなければ。

小さく早くまとめて、という攻撃はトヨムにとって得意の攻防である。敵の素早い攻撃もフェイントも相手にせず、正面を避けて、避けて。ここぞというタイミングで敵の小手に左フックを合わせる。クリティカルだ、防具が弾け飛んだ。寸鉄が使える武器だという成果に、私も満足する


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