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カエデさんVSナンブ・リュウゾウ

どうだとばかり言ってやった。私からすれば「参ったか小娘、この台詞には感動のあまり二の句もなかろうが!」というところだ。ところがカエデさん、ちょっとションボリ。

「仲間か……そうですよね、仲間ですよね……。リュウ先生からすれば、私なんて……」

な、なんだカエデさん。その意味深な発言は? もしかして君……この私に、恋…しちゃったの?

……ある訳無いか。こんな擬似空間で仮の姿、しかもモテモテの土方歳三ならいざ知らず、今の私はマグロ顔の坂本龍馬。断っておくが、この顔は歴史の偉人というものでなければ絶対にモテない顔だ。

だがしかし、もしかして……。カエデさんの呟きは続く。

「リュウ先生からすれば、私なんて……弟子のうちにははいりませんよね……」

ハイ、私の思い上がりでした! しかし私の弟子というなら、ゲーム内じゃ立派な師弟関係だと思うのだが? その件に関しては私も自信を持って言えるのだが。

「だって私、小隊長やシャルローネみたいな才能の塊じゃないし、マミやセキトリみたいに本格的な武道経験者でもないし……ドロドロ……」

「いやカエデさん、君の西洋剣術が無ければ、私はいまだに一撃必殺屋。斬り落とさないと気が済まない、悪い意味での日本剣術家だったかもしれない。戦闘における指斬りや刃物の恐怖を再考することなく、お山の大将を気取っていたかもしれない。そうならなかったのは、カエデさん。君のおかげなんだよ?」


ピョコン! 生えた、ネコかイヌか? とにかく耳と尻尾が生えた! よし、ここはもうひと押し。

「冬イベント近辺で士郎さんと話し合っていたんだが、我々にとって絶対に手放してはならないメンバーとは誰か?

っていうのがカエデさん、他ならぬ君だったんだよ? 私の弟子だなんて、そんな小さな価値じゃない。君にはもっと大きな看板があるんだ」

耳がピクピク、尻尾はブンブン。どうやらこの尻尾はイヌ尻尾のようだった。

「そうだぞカエデ、新人をわんさか育てて囮役まで買って出てくれて、大先生三人から一本を取ったのなんて、カエデしかいないじゃないか」

カエデさんを持ち上げるのに、トヨムまで加勢してくれる。

「そのカエデさんがこっちに来たんじゃ、ワシぁ残った陸奥屋一党が気の毒でならんぞ」

セキトリまで。

「そ、そうですねぇ。まあ、いろいろとお役立ちなカエデさんとしては、ちょっとリュウ先生に構ってもらえないくらいで、スネてられませんねぇ……」

なおった! 傾斜一〇度の坂道くらいに傾いていた、カエデさんの機嫌がなおった!

「とはいえ、このまんまリュウ先生独り占めっていうのも面白くないから、私自らあのおサルさんにお返ししてみましょうか」


丸楯と片手剣、青と白のウルト〇マン模様の革防具。カエデさんが前に出た。

「せっかくのストリートイベント、どうせなら味方同士でもひと勝負してみませんか?

ナンブ・リュウゾウさん、リュウ先生に鍛えられてどれくらいになったか、手合わせをお願いします!」

「え!? 女の子からの申し込み!!?? 弱ったなぁ、いいのかい、お姉ちゃん?」

柔道着に手槍のナンブ・リュウゾウ。青年と呼んでいいくらいの年頃だろうが、なかなかに純情青年のようだ。もしかしたら、女の子と御縁の無い生活をしていたのかもしれない。まあ、根が柔道一直線な男だし……。

「よし、一丁試してみろリュウゾウ。ただし、カエデさんの剣は甘くは無いぞ!」

そうだ、この男には野郎同士の闘いなどよりも、カエデさんやシャルローネさんといった「使い手の女性」との取り組みの方が、よほど勉強になるやもしれん。カエデさんにとっても、たまにはこうしたガス抜きが必要だろう。

ということで、カエデさん対ナンブ・リュウゾウ。ストリートファイトステージでの一戦である。


まずはナンブ・リュウゾウ、手槍を構え右手右足を前にした。カエデさんはいつものように左楯、剣は右手に。そして女の子らしい華奢な身体を丸楯に隠している。

「お、こりゃ攻撃部位が極端に少ないな……」

まずナンブ・リュウゾウはそこに気が付いた。そして軽い突きをふたつ三つと出してみて、カエデさんの防御の堅さを確認する。カエデさん、難なく前進。ナンブ・リュウゾウ、軽く後退。

カエデさんの動きがいい。両脇をピタリと絞めて全身を一丸にしている。守るも攻めるも全身の力を使うので、腰の入っていない攻撃はすべて弾かれ、受け流される。足さばきもよろしい。ナンブ・リュウゾウの攻撃を受け流すや、ササッとステップイン。自ら前進することで、ナンブ・リュウゾウに後退を強いている。

「うん……こいつぁ良くねぇなぁ……」

感じるところがあったのだろう、ナンブ・リュウゾウは構えを左に変えた。カエデさんからすれば、剣を持つ右側に立たれたことになる。すると……。

「こりゃいいや、相手が丸見えだ!」


そう、楯の陰に隠れていたカエデさんだったが、今度は剣しか身を隠してくれるものがなくなってしまう。ナンブ・リュウゾウのポジションからは、その姿がよく見えるようになるのである。

しかしカエデさんも手練れ、ナンブ・リュウゾウの突きを剣ひと振りで柔らかく受け流すや、また楯の陰に隠れるのである。だけではない、女性特有の柔軟さを用いて、剣で楯でナンブ・リュウゾウの攻撃をことごとく流してしまったのだ。先ほどまでのカエデさんの動きが丸い巨石だとしたら、今度は渦を巻くような動き。しかも防御が楯だけではない。剣も用いているので両手の防御である。手槍のナンブ・リュウゾウは、カエデさんの侵入を許してしまう。間を詰められてしまいがちになった。

「いつの間にやらカエデさんも、ずいぶんと使うようになったのう」

セキトリがその流水のような動きに感心していた。

「ある意味彼女はコンプレックスの固まりだ。だからこっそりと練習を積み重ねて来たんだろう。本当なら一年未満でこんな動きができるようにはならないんだが、これまで様々な刺激があったし、彼女自身自分に何ができて何ができないか?

それを深く考えた結果なんだろうな」

私は答えた。


特に「自分に何ができて何ができないかを考える」という部分を強調したい。そこを深く考えるのがカエデさんの能力のひとつである。例えば私は今まで小隊メンバーに様々な稽古をつけてきた。それは柳心無双流の稽古である。しかし他のメンバーは柳心無双流になるのだがカエデさんだけは違う。無双流をベースに自分なりの戦い方を開発したのであろう。まったく別物になってしまっている。これはもう、柳心カエデ流。無双流を活かした彼女なりの兵法と呼んで差し支えないだろう。その流水、あるいは柔らかな柳の枝のごときしなやかさは、私の方が学びたくなってしまうほどなのだ。

そしてゲーム『王国の刃』内柳心カエデ流の真骨頂はここからである。

カエデさんが反撃開始。貫通やクリティカル、キルを目的としていない軽い突きである。ツンツクツンというようなチクチク攻撃でナンブ・リュウゾウを痛ぶり始めた。手、腕、脇腹、太もも、とにかく切っ先の間合になるやツンツン攻撃。パッと離れてはまた間合を詰めてツンツクツン。力みがまったく無いので、ナンブ・リュウゾウはまともに浴びている。自分のノーモーションショットを防御に活かせていないのは、やはり術の染み込ませ方が足りていないせいだ。


ナンブ・リュウゾウが苛立ち始めた。突きに力が入っている。

「リュウゾウ、小さくかるくまとめて! リュウ先生に授かってるだろうが!」

フジオカ先生の檄が飛ぶ。しかしそれはカエデさんの耳にも届いている。するとスルスル、カエデさんは間合を外してナンブ・リュウゾウを動かしているのだ。ナンブ・リュウゾウが出てくると、チクンチクン。ナンブ・リュウゾウが止まるとチクンチクン。後退してもチクンチクン。

なんともイヤラシイ攻撃である。

「カエデ、空間を支配してるな……」

トヨムが呟く。ボクシングではこういう状態をそのように言う。片方が一方的に攻撃できて、片方が防御を強いられる。これは相手の間合を崩して自分の間合を任意で構築できているからだ。

ボクシングというのは武道武術、格闘技としては不完全すぎる。しかし反面、競技としては完成の域に達していながらなお進化を続けている。だからこそ私たち、『競技ならぬもの』にとっては大変に参考になるのだ。

かつて中国武術が立ち合った、柔術も立ち合った。そして柔道も立ち合った。ときに勝利し、ときに苦杯をなめさせられた。もちろんボクシング側は常にヘヴィウェイトのチャンピオンが立ちはだかる。体重差があるとはいえ、だがしかし、かの競技格闘技はルール云々が叫ばれる以前より、『強い男』の象徴であり続けたのだ。

だからボクシングは参考になる。単純にふたつの拳で打ち合うという、簡単な競技である。だからこそ奥深い。だからこそ血道を上げて世界中の拳闘家たちが研鑽を積んでいるのだ。




そして今、カエデさんは圧倒的強者であるはずのナンブ・リュウゾウを、ヒットアンドランの簡単な戦法でキリキリ舞いさせている。


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