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チュートリアルのチユちゃん

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「なにも嘆くことはあるまい」

 私が言うとメイド服のチユちゃんは怒りを露わにした。


「これを嘆かずして何を嘆くってゆーのよ! お客さんナメてる!? 王国の刃ってゲームをナメてる!? 世界に何百万といるプレイヤーたちが血眼になって、キルを取ってやろうこの一戦を勝ってやろうって努力してるのに、なによ! 甲冑無しの木刀装備って!!」


「いや、動画サイトで実況動画を拝見したところ、この装備が最も適していると考えたのだが……」

「動画サイトにアップしてるような連中なんて、自分が活躍した場面だけ編集してインチキ解説付けてるだけの雑魚よ、雑魚! 本当のツワモノは自分の手の内を明かすことなく、ひっそりこっそりゲームをコントロールして弱者の振りしてるんだから!」

「……多いのか? そんなツワモノは……」


 思わず目を光らせてしまった。……ツワモノ。そんな呼ばれ方をする者こそ、私の求める相手なのだから。


「……えっと、ごく少数……」

「なんだ、そんなにいないのか。だがそういったツワモノは確実に存在するのだな?」

「い、いるいる。間違いなくいる!」


「そうしたツワモノに出くわして、どうにもならなくなったら、チユちゃん。そのときは装備を改める。よろしくな」

「あ、アタシが装備を売る訳じゃないわよ! アタシが担当するのは、あくまで初期装備! 試合に出て少しでも通貨を稼いで、それで武器屋にでも行くといいわ!」


 なるほど、ゲーム内通貨は試合で稼ぐのだな。




「じゃあ、気を取り直して! まずは基本的なことを教えるわね♪ 『王国の刃』はバトルゲーム、とにかく相手を斬って突いてキルを取るゲームなの♪ 試合形式は一対一、六人制、十二人制なんかがあるけど、半年に一度大規模なイベントが開催されてプレイヤー全員が紅白に分けられて大戦争をする、なんてのもあるわ!」


なるほど、とにかく敵をシバキ上げればいいのだな?


「じゃあ、キルを取る方法ね♪」


 チユちゃんがウインクひとつ。ピンと人差し指を立てると、風景が暗転した。

 だけではない。眼の前に西洋甲冑の武者が一人現れた。左手に楯、右手に剣である。その西洋武者が切っ先をこちらに向ける。


「さ、お客さん。どこでもいいからシバいてみて♪」


 なにやらイヤラしい笑みを浮かべている。木刀ごときで何ができるものか、という笑みのようだ。

 ならば、私は切っ先を後ろに引いて構えた。脇構えだ。そのままスルスルと西洋武者に近づく。西洋武者に起こりが見えた。突いてくる気か。その剣先が走ると同時、私は左右の体を入れ替える。その勢いで木刀を大車輪のように旋回させた。


 剣先は私に届くことなく空を突き、私の物打ちはしたたか西洋武者の小手を打った。

パァァン! 乾いたような、軽い音。そして火花が散るような演出とともに、Criticalの文字が浮き上がり小手が砕け散った。


「うそぉ〜〜ん!?」


チユちゃんが目を丸くしていた。


「なんで!? なんで木刀で鎧の小手が砕け散るの!? 木刀なんて弱武器じゃない!!」


驚くチユちゃんに分からせてやらねばなるまい。


「それが古流というやつだ」


 一言で説明してやる。




 ゲーム上のスペックがどうなっているかはわからない。しかし刃を小手に対して垂直に当て、そのうえで気勢が十分であるならば、木刀でもできないことでは無い。と、私は思う。


「ま、まあいいわ。たまにはそんなヤツもいるわよね……じゃあ視界の隅のお財布マークをタップして」


 ある。確かにある、お財布マークが。最初からまったく気にはしていなかったのだが。そこを指先でタッチする。


「あなたの所持金は新規加入で三〇〇〇〇円プレゼントされてたんだけど、小手を壊してお金が増えてるでしょ?」

「あぁ、増えてる」

「さらにチュートリアル受講料を入れておくわね」


 さらに金額が増えた。


「こうして防具を破壊したり敵にダメージを与えると、ポイント……つまりお金が増える仕組みなの。それじゃあ小手が壊された手を打ってみて?」


 言われた通り、防具が破壊されて剥き出しになった手首を打つ。Criticalの文字と派手な演出とともに西洋武者の前腕は黒くなった。


「これはあなたの攻撃で敵が腕を使えなくなったってこと。負傷した、っていうことね。そういう部位は黒くなるわ。ちなみに黒い部位に攻撃を加えても、もうポイントは入らないわ」

「負傷した相手はどうなるのかな?」

「敵の左腕が黒いわね。こんなとき敵は負傷した部位にヴァイブレーションが走って、負傷したことを知らされるの。こうなるともう、どれだけ頑張っても負傷部位を使うことはできないわ」



 ちなみに、小手を機能不全にしたければ小手の防具を……防具を一度吹き飛ばして、剥き出し状態にしてからクリティカルを与えなければ、使用不能にはできないそうだ。


「ただ、例外的な攻撃もあるわ」


 それは投げ技だそうだ。相手を頭から叩き落とせば、一気に撤退……つまりキルまで持っていけるらしい。もっともそう簡単には決まらないそうだが。

 とにかくもう、叩いて叩いて叩きまくる。その上でキルを取ることが先決とチユちゃんは言う。それが目的のゲームなのだから。


「そして叩いて叩いてキルを取って稼いだお金で、防具や武器を買うのよ? だけど武器の入手方法は他にもあるわ」



 それは初耳である。


「冒険に出かけて出くわしたモンスターを倒すとアイテムが手に入るの。それを武器屋で加工してもらえば武器や防具の出来上がり♪」


 とにかく習うより慣れろ。そのためにはどんどん試合に出て戦果を稼ぐ! チユちゃんはそのように力説した。

 ちなみに一対一の試合は一戦三分間ぽっきり、六人制は四分間。十二人制は六分間と、案外短い。しかし基本的にゲームを楽しむプレイヤーたちは一般人だ。一般人が三分間目一杯に闘うというのはなかなか難しいだろう。


 試合場も六メートル四方の壇上、バスケットボールコートサイズ、そしてサッカー場クラスと、人数が増えるとそれだけ広い戦場になるようだ。しかし肉弾戦のゲームでモンスターを相手にするというのだから、魔法のひとつも存在しないのだから肉体主義スパルタンな世界観である。肉体ひとつでドラゴンを倒せとか言われたら、どうすれば良いのだろうか?


「それじゃあチユのチュートリアルはおしまい! あとは試合場の案内人にあれこれ訊いてみてね♪ チャオ♪」


 騒がしい案内人はそう言い残して消えていった。チユちゃんの消滅とともに、眼の前の城門が開かれた。まずは入って来いということだろう。




 私の古流が通じるかどうか? いよいよ決戦である。


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