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キョウちゃん♡対忍者

さて、まだまだ私、忍者の視点だ。そして捕物帖イベントのダイジェストでもある。トーマス、レイ、ロベルトの三人を召し捕るステージもどうにかクリア。三回挑んで三人分のマントをせしめることに成功。いよいよ斬り捨て御免の三〇人斬りステージだ。

と、ここで鬼組男衆に目をやれば、士郎先生の御子息キョウちゃん♡が帰ってきていた。士郎先生と何やら話し込んでいる。あちらの小隊長トヨムとトレードで出稽古におもむいていたはずだが、修行の成果はあったのだろうか?

いや、あったから帰って来たのだろう。まさかモノにならないから追い出された、ということもあるまい。

「お、忍者。これから三〇人斬りかい?」

「いや、士郎先生。まだフィーもユキっぺもインしていない」

「なら丁度いい、ちょっとキョウの相手をしてやってくれ」

返事を待たず、私は槍を手にした。本身の槍、いわゆる真剣である。

その私を見て、キョウちゃん♡はフッと笑みを浮かべた。なにやら自信ありげだ。修行の成果アリ、というところか。


にしても、キョウちゃん♡は腰に木刀しか落としていない。まあ、以前ならば斬ってなんぼの古流剣術とガチガチの考え方しかできなかったのだから、それはそれでなにか成長してきたのだろう。

「じゃあ私も木槍にしておくか……いや、待てよ……」

小手にもスネにも鉄を飲んだ防具、拳は打撃用五本指グローブ。つまり私の装備は、忍法柔術用具で固めてあった。

「木槍もいらんな。いつもの忍者スタイルで行くか……」

覆面有りの忍者装束でキョウちゃんの前に出る。もちろん懐には棒手裏剣を忍ばせていた。

そしてキョウちゃん♡はというと……。

「俺は、これで……」

やはり木刀の大小。真剣よりも軽くて速い。しかしそれ故に、扱いは難しい。ある程度の修行を積むと、重たい真剣よりも軽い木刀の方で行う稽古が難しくなる。だから稽古には木刀が使われるのだ、と断言しておこう。ただし私は忍者なので発言の責任は一切負う気が無い。


さてさて我らがキョウちゃん♡、殺気に濁ることもなくスルリと木刀を抜いた。うん、気配が薄いな。だから何を狙っているのか分かりづらい。私も、一応構えておくか……。右手の拳を突き出し、左は襟を掴んでいるような構え。

ジリ……と近づいて不穏を感じる。即座にバック宙。私の喉のあった場所に、木刀の突き技が通過する。

「おっと、危ない危ない」

正直、気配の無い突き技はかなり危なかった。キョウちゃん♡と睨み合って、またジットリとした時間が流れる。相変わらずキョウちゃん♡の気配は無い。ならば少し揺さぶりをかけてみるか……。

「なぁキョウちゃん♡、トヨム小隊に出張ってたんだよな?」

「あぁ、リュウ先生から一手授かってきたよ」

ジャニ顔が初めて口を利いた。

一手授かる。本来なら技をひとつ教わった、という意味だ。しかしこの男、技を授かった訳ではない。どちらかといえばそう、キョウちゃん♡自身を変えるような、キョウちゃん♡自体が変わっている。

だから私は話を振る。


「その一手とは、ジャガイモのようにゴロンとしていたか?」

「やおい穴を掘られた訳じゃない」

対応が柔らかい。以前のような四角四面、クソ真面目というか堅っ苦しさ、あるいは彼自身の手枷足枷となっていたものが無くなったような、そんな柔らかさ、軽快感がある。

……マズイな。ジャニ顔のイケメンがそうじゃいかんだろ。キョウちゃん♡はオヤジさんやリュウ先生、こなれた大物たちにこてんこてんにやっつけられて、未熟さをさらしてヘコんでいるのがお似合いなのだ。それが柔らかさ、軽快さを身につけてどうする。ますます女の子にモテて、私に割り当てられる女の子がへるじゃないか!

いいかいイケメン? 私はノンケだって食っちまう女なんだぜ?

いやいや、私情は引っ込めて、おちょくりで動揺させよう。

「そーかー、キョウちゃん♡の方が掘ったのかー」

「やめろ忍者、親しくさせてもらっているとはいえ、大先生だぞ」

うむ、少しは力みが入ったな。しかし隙あり、と放った棒手裏剣はあっさり木刀で弾かれる。お? 何気に私、ピンチじゃね?

「ふ、もうネタ切れか? 忍者……」

コイツ、余裕かましてくれるじゃないか。


じゃあ正攻法で攻めてみよう。ヒクヒクと動く木刀の切っ先。なるほど、いつでもどこへでも打ち込める軽快さ、だな。しかし私の身体能力も甘く見てもらっては困る。

剣。

それに打ち込む者はすべて、その弱点を覚えておかなくてはならない。剣は浮舟、その下は水底のごとし。

前後左右に細かく動いてキョウちゃん♡を誘う。ふたつの拳をキョウちゃん♡の間合いの中に差し出して、ペチペチとしたカスダメを入れさせる。

うん、キョウちゃん♡もただ単に釣れない男になった訳じゃないようだ。私の遊びには付き合ってくれている。だが今回ばかりは、その遊び心が歯を招くぜ。ふたつの拳で顔へ腹へ、餌を撒いて餌を撒いて意識を誘う。その上でジリジリと間合いを詰めた。


そしてキョウちゃん♡は狭い間合いに嫌気が差したか、胴を払って私を退ける。

なるほど、私を退けるには胴で来るか……。もう一度最初から、ペチペチとカスダメをくれてやりながら、丁寧に丁寧に間合いを詰める。そして先ほどの距離、木刀の切っ先が下がった。

来る!

……型稽古においては、相手の技はギリギリまで受ける。これを「斬らせなさい」という言い方で教わる。

存分に斬らせて……実際には木刀はまだ触れていないが……ココ!

というタイミングで前足でキョウちゃん♡のヒザを蹴る。これにはキョウちゃん♡も「フッ」と集中力が切れた。私の胴に入った一発も不十分判定。ここで私は軽打をワン・ツー・スリー!

すべて顔。それからもう一度関節蹴り。これぞ浮舟の底を狙う一撃。つまり剣士は剣より低い場所には注意が行きにくいもので、死角になりやすいのだ。

後退して間合いを取りたいキョウちゃん♡だろうが、すでに小手は取ってある。これですでに木刀は無効、キョウちゃん♡の足を払おうとするが、さすがに強靭だ。ならば筋力以外で勝負。

キョウちゃん♡の右脚のつけ根を左足で踏んづける。人体の泣き所。急所のような痛みは走らないが、踏ん張りが効かなくなる。よってキョウちゃん♡は垂直に尻から落ちた。


こうなると忍法柔術の場面。キッチリと関節技を極めて「参った」を獲得。士郎先生から止めの声がかかった。

まずは痛みから解放、しかしすぐに極められる体勢。そこから技を解くには、突き蹴りを入れられるように。そして安全地帯へと逃れても、戦闘態勢は解かない。

キョウちゃん♡も痛みから逃れたといって、顔のガードは外さない。関節技を解かれても油断はしない。私が離れても、まだ戦闘態勢は解いていない。私から目を離さず、それでいて木刀に殺気は乗せず、ゆっくりと立ち上がった。

「ん〜〜お前の軽打も、まだまだ練り上げが必要だな」

「そりゃそうだ、士郎先生。今日授かっていま使ってるんだからな」

とはいえ、それも遠い未来ではなさそうだ。このイケメン、かならずこの柔を取り入れた剣をモノにしてくる。ならば私は、剛を鍛えないとならないのか……面倒くさいなぁ、もう……。


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