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忍者……巻き込まれた女……

さて、枠がはみ出してしまったが、今度はマミさんを取り上げてみよう。セキトリと並んでトヨム小隊のかべ役タンク役。その活躍はあまり目立ってはいないが、それはセキトリのパワー殺法に隠れてしまっているからだ。セキトリは大砲を連打する、それこそ要塞を破壊するような大砲だ。そしてマミさんもタンク役として大砲を連打する。しかしその大砲は、要塞を撃ち崩すための巨砲ではない。群がる歩兵を足止めして、蹴散らすような小型の大砲である。

マミさんの得物は双棍、両手にした得物なので回転が速い。つまり敵が群がってこようとも、その攻撃をことごとく防ぐのである。敵陣の一角、その攻撃を無効にするのである。なればこそ死角の多いセキトリも存分に働ける。なかなかに自分の役割を知った娘であった。そして一度攻めに転じれば、回転の速い双棍である。次々と的確に手傷を負わせた。それが場合によっては、キルにもなる。知恵においてはカエデさんの知恵、そして戦闘において痒い所に手が届くのはマミさんと言える。


そのマミさんが、回り込んできた敵を相手にする。セキトリの脇っ腹を突こうという連中だ。その攻めをマミさんは、ことごとく弾き飛ばす。その足さばき、短い棍の扱いを眺めるに、中国武術の南拳を見るかの如し、であった。前足のつま先をキュッと捻る。それだけでマミさんは敵を正面に捕らえたそこで無駄無く棍を振るうのだが、そこに非力な女性の工夫が見えた。いや、マミさんとて柔道経験者。一般女性よりは腕力に優れている。それでも工夫するのがマミさんなのだ。

ではその工夫とは?

脇を糊付けしたようにピッタリとつけて、ヒジから先のバネ力で敵の得物を弾き飛ばすのだ。それは攻撃に転じても同じ。ヒジから先のバネ力を利用して打ち込むのである。私は一本を取れる気勢をともなった撃ち込みでこそキルを取れると発見しみなに伝授した。しかしマミさんは、ジャブのようなバネ力を利用した攻めでクリティカルを奪取している。


クリティカルを奪われた捕吏たちは一様に後退する。それだけで勢いを削がれるのだ。

敵の好きにはさせない。主導権を与えないというのは、競技や戦闘において重要なポイントだ。それは先に述べた正中線の奪い合いでもご理解いただけるかと思うので、ここでは説明を省かせていただく。とにかく、攻略困難なポイントという場所をマミさんは作ってくれる。故に捕吏でも対戦相手でも、デスゾーンのごとき主力、トヨムたちの前へ押し出されるのだ。

そしてカエデさん。片手剣の扱いもずいぶんと上達したようだ。敵の両手剣を楯で受けると一転攻勢。上を狙ったかと思えば下に斬りつけ、下かと思えばがら空きの小手と、攻めに流れがある。とくに手首を回転させて斬りつける軽い攻撃が、よく敵の小手を奪っている。かと思えば攻め過ぎず、タイミング良く後退。敵を前に出させておいてから斬るという、なかなかに熟達した戦い方も見せてくれた。

さすがは戦さ上手の名参謀、といったところか。押せば引き、引けば押す。抜く手差す手の妙を得た踊り手のようですらある。


そうした若者たちの成長を見ていると、自分の攻撃がイノシシ武者のようで、なにやら恥ずかしく思えてくる。とにかく斬り倒した。六人制しあいでほとんど戦闘できなくなってしまった鬱憤を晴らすかのごとく、NPCの捕吏をバタバタと斬って回ったのだ。まあ、新たに購入した胴田貫、この斬れ味もまた、私をイノシシ武者に駆り立てたのだろう。やはり真剣は技術を限定する。なにしろ『斬る』しかできないのだから。

……斬るしかできない?

これは発想が貧弱であった。上様大乱闘のテーマを脳内再生しておきながら、ガチガチの発想でしかない。木刀のような効果を求めるならば、峰打ちという技があるではないか。でや、改めて……。チャキッと刃を裏返す。そのうえで言う。

「……参れ!」

さあ、これで上様ちぎっては投げちぎっては投げのテーマだ! 幸い捕吏たちは私を囲むようにして刃を向けてきた。

「あぁっ! リュウ先生!!」

「旦那が囲まれた! どうするカエデ!?」

「どうするって……大丈夫でしょ? リュウ先生なんだから……」

冷たいなぁ、カエデさん……。


しかし嘆いてなどいられない。ここは私の見せ場なのだから。

そして私の注文通り、捕吏たちは抜いた白刃を振りかざし、私に襲いかかってきてくれたのである。まずは足さばきで一刀をかわし、同時に峰打ちの胴払い。キルひとつ目。突いてくる者も足でさばき、背後から袈裟に一撃。これでふたつ目。捕吏の攻撃はすべて足でかわすことができた。三人目は小手からの面打ち。背後からも来る。打ちかかってくる剣を払い、袈裟を取ること連続で三人。さらに胴、袈裟、面。捕吏の囲みが完全に崩れた。

「どうした、これでお終いか?」

周囲の気配を確かめながら、ズイッと歩を進める。死角から一人打ちかかってきたが、振り返りもせずに間合いの外へ。剣の勢いで姿勢の崩れた捕吏、その腰へしたたかな峰打ちを入れる。死角から、死角から。捕吏たちは私を斬ろうとしてくるが、そのたびにクルクルと独楽のように旋回、バタバタと敵を討ち取った。

残る捕吏は二人。これに対して私は刃を返し、「成敗!」ひと呼吸で斬って捨てた。

ファンファーレが鳴る。まだ競技場に到着していないのにだ。

夜空には「ミニイベントクリア」の文字。そして景品の指環が浮かび上がる。しかし私たちが手に入れた指環はひとつだけ。あと五回はクリアしないと、全員分の指環は揃わない。さあ、また出撃だ。


や、みんな。ここからは私、忍者の視点だ。

何故私が出てくるか? それは私が大変に迷惑を被っているからだ。我ら陸奥屋一党鬼組。その親分である士郎先生が、おかしなことを口走ったんだ。

「なあ忍者、リュウさんのところがトバしてるみたいだな?」

「今回のミニイベントかい? それでも一回は失敗してるよ? 生身のリュウ先生がアバターの走力を越えられなかったみたいだな」

「それでもトバしてるよな?」

「士郎先生はアバターの走力を越えられるかい?」

私はあえて士郎先生の質問には答えず、逆に質問してやった。しかし敵は草薙士郎、そのロクでなし度数は天下に名だたるモノだ。これに対抗できるのは、トヨム小隊のリュウ先生くらいなものだろう。つまり、ロクでなしにはロクでなししか対抗できない。純情可憐なJK忍者には、士郎先生の対応は荷が勝ちすぎる。

「……忍者が話を逸らしたか。つまりリュウさんはトバしてるってことだな?」

おっさん、私の話聞けや。……いや、ゴメン。士郎先生が私の話を聞いてくれる人間なら、私の苦労は大半消えるはずだ。

「なあ忍者?」

「断る!」

「俺はまだ何も言ってないぞ?」

「どうせ私に不可能を要求するつもりだろ?」

「俺がいつ、忍者に不可能を強要した?」

「ほぼかなめ姉ぇと同じ頻度でだ」

「だってお前忍者じゃん……」

「忍者にも可能と不可能があるんだ。そこは理解してもらいたい」

「あぁ忍者、わかったよ悪かった……」

この流れから理不尽を押し付けられたことが、これまで何度あっただろうか……。


「今回のミニイベントはそれぞれ単独で制覇しよう」

「だからそれが無理難題だっつってんだろ! このアホがクソ!」

「こら忍者、お前も女の子なんだからそんな口きいちゃダメだろ?」

「こんな口もききたくなるさ! 士郎先生、あんたミニイベントの攻略情報、目ぇ通したんか?」

「あぁ、最初はひとり、次に三人引っ捕らえるんだろ?。たしか最後のステージは三十人で、こいつらに関しては斬り捨て御免」

「そう、逆に言えば一人で三人引っ捕らえれと、士郎先生はそう言ってんだ!」

「できないかい?」

「自分基準でモノ語るなや、災害認定者」

「ずいぶんと弱気だな、忍者」

「弱気強気じゃなくて物理的に不可能だっつってんの。あのリュウ先生だって一度しくじってんだからな!」

「あいつはおっさん、君はヤング」

「リュウ先生は達人、私は未熟者。せめて三人一組、これでトライしようじゃないか」

「まったく、忍者も人生の楽しみ方がわかってないな」

「しなくていい苦労をわざわざ背負い込むほど、私も酔狂じゃないんでな」


ということで、この道楽オヤジから三人一組の権利はもぎ取った。しかし考えてもみれば、リュウ先生たちは六人全員でイベントに挑んだのだ。やはり理不尽を押しつけられたことに変わりは無い。

「ま、それはそれとして。チーム編成なんだが……」

「おう、忍者は俺と組みたいんだろ?」

「やめてくれ、歩く理不尽。士郎先生と組んだら私の身がもたん。そこで男性チームと女性チームに分かれてみようと思うんだ」

「なんだよ、バカ息子の世話、俺が見るのかよ」

「私はかつてこれほどまでに酷い父親を見たことがあっただろうか? いや、無い」

「上手いこと俺にへっぽこプーを押しつけやがって。これでイベントクリアはできませんでした、なんて無いからな」


こうして私は、士郎先生からおかしなプレッシャーを受けて、イベントへおもむくこととなった。


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