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それぞれの持ち味

さあ、あれこれの御託はもうお終いだ。斬って斬って斬りまくるぞ!

周囲からはすでに、長得物の捕吏はいなくなっていた。すべて葬ってしまったのである。残るは剣を携えた捕吏のみである。これは負けられない。敵がいかに西洋剣士の群れとはいえ、これは不覚をとることはならない。ここは基本中の基本、二人ひと組で対応しよう。

「カエデさん、二人ひと組のツーマンセルはどうだ!」

「わかりました! みんな、手近な人と組んで!」

そうなると、自然と前衛は私、トヨム、セキトリとなる。元祖『トヨム組』の三人だ。後衛はシャルローネさん、カエデさん、マミさんという白百合剣士団の三人になる。手近な人と言いながら、近間のトヨムにはメイスのシャルローネさんが、遠間のセキトリには双棍のマミさん。そして中途半端な間合いの私には、これまた中途半端な間合いのカエデさんがくっつくことになる。

「よーし、みんな! 派手に行こうぜ!」

ロックンロールのライブ会場のようなトヨムのかけ声で、『嗚呼!!花のトヨム小隊』が出る。勇敢な捕吏も押し返そうとしてくるが、ひと呼吸で三人斬った。活路が開ける。


「どうしようかねぇ、カエデさん。このまま競技場まで逃亡するもヨシ、捕吏を全員斬り捨てるもヨシ。どっちにしようか?」

「そうですねぇ、まずは逃亡編初戦ですから、試しに全員斬り倒してみるのも悪くないですね」

それだけの余裕が、私たちにはあるということだ。

「そういうことだ、トヨム、セキトリ! お望み通り、派手にやらかすぞ!」

「ンなこと言って、一番派手にエフェクト光らせてるの旦那だよ!!」

そう、一番大人げなくキルを取っているのはチーム最年長の私であった。だって私とセキトリ、一対一の戦闘で見せ場が無かったんだもん。このくらいは遊ばせてもらわなくては、私だって面白くない。その思いはセキトリも同じようで、「効率?

知られねぇなぁ」とばかり、捕吏を水平に打ち飛ばすのではなく、ことごとく場外ホームランでぶっ飛ばしていた。

「……リュウ先生……私、人間が飛行機に乗らずに空飛べるだなんて、初めて知りました……」

カエデさんも呆れている。

「そうだね、私も初めて知ったよ。だけどあれが相撲取りという人種なんだ、人間に空飛ばしても不思議は無い」


力士。

その巨体、その怪力を人々は畏れ讃えてきた。近年では成人男子の平均身長も伸び、トレーニングジムの普及や健康志向により、巨体も腕力も讃えられなくなってきた。しかしいま一度見直そう。同じようにガタイが良くとも、力士の腕力は『怪力』なのである。そもそもが怪力という単語自体、あまり使われなくなって久しいではないか。

怪力と言うならば、トヨムもまた怪力と言えよう。もちろん数字スペックとしての筋力はセキトリの足元にも及ばない。しかし性別比、体重比という計算をしたならば、トヨムの筋力は怪力と呼んでも差し支えなさそうだ。果たしてその結果パワーはどこから生まれるのか?

「雷光ストレート! 昇龍アッパー!」

まずは足腰。私も大型サンドバックを叩いたことがある。力一杯叩いたつもりだったのだが、逆に跳ね返されてしまった覚えがある。それでも頑張ってパンチを繰り出していると、今度は脳震盪のように頭が気持ち悪くなった。

「和田さん、足を踏ん張ってください」

サンドバックのオーナーにそう言われてしまった。オーナー曰く、サンドバックを叩いた反作用に身体が負けて、脳を揺らしているのだという。自滅しない強いパンチを打つには、やはり足腰なのだ。足の構えをしっかりと決めて、腰を回転させて肩を突き込む。それで初めて強力な打撃力は生まれるのだ。足の構えとあれば、居合である。ビシッと足を決めてから拳を叩き込むと、クセになりそうな気持ちのいいパンチが叩き込めた。


トヨムの対戦相手は、大抵トヨムよりも大柄だ。反作用はより発生しやすいはずである。それを身体負けせず、ことごとくワンショットワンキルで仕留めているのだ。こうなるともう、全身の筋肉に筋金が入っているとしか考えようが無い。そんなゴールデンマッスルの持ち主がゼロ戦の速度で迫ってきて、戦艦大和の打撃力を発揮するのだ。『王国の刃』というゲームの中で、よく反則扱いされないものである。

そしてパパパッと三回、派手な演出のフラッシュ。シャルローネさんの目の前で三人の捕吏が消滅した。ひと息で三キル。これを数が少ないと、読者諸兄は思うだろうか?

しかし自分を葬るために得物を持った者が同時に襲いかかって来られるのは、一度に三人が限界だ。それは実戦剣術集団、新選組が言外に証明している。新選組は勤皇浪士に襲いかかる際、一人に対して二〜三人で斬りかかる稽古をしていたそうだ。

その三人を、シャルローネさんはひと息で撲殺したのだ。瞬時に捕吏たちの隙を読んで、メイスをひと息で振り抜き、的確に死人部屋へ送り込む。僚友カエデさんの奮戦に隠れてイマイチ天才性を紹介できていないシャルローネさんだが、やはり翁に鍛えられているだけはある。

派手な三連続キルを取っておきながら、スッと後ろに退いた。ここは相棒バディトヨムの見せ場ということか。


シャルローネさんはトヨムに好き放題遊ばせて、その周辺に危機の影が忍び寄るや、瞬く間に捕吏を仕留めてみせた。。影の大立役者、そんなフレーズがシャルローネさんには似合う。

以前カエデさんと話したことがある。

「リュウ先生はシャルローネのこと、天才って言ってましたよね?」

「あぁ、言ったことがあったかな?」

「そして小隊長のことも天才って言ってましたよね?」

「あぁ、それはおぼえている」

「でしたらシャルローネと小隊長、どちらが強いんですか?」

「タイプが違うよ、カエデさん」

そのときはそう言ってごまかした。しかしシャルローネさんとトヨム、どちらが強いかとなると、「戦ってみないとわからない」というのが本音だ。ただ、トヨムはシャルローネさん相手でも牙を剥けるだろう。その牙に対して、シャルローネさんがどう対応するか?

そこは大きな鍵である。


普段の仲良しぶりからすれば、シャルローネさんはトヨムに対して牙を剥けないのでは? と感じる部分がある。どことなくお人好し、やはりどこか「イイトコのお嬢さん」といった育ちの良さがにじみ出ているのだ。

あれだけの才能や資質を持っていながら。しかしそれを嘆くことなかれ、古武道はもう、戦争合戦のためには存在していないのだ。先に述べた通り、これまでネットゲームやエッチな動画を拝見して時間を潰していた日々に別れを告げて、新しい自分や新しい出会いを求めて学び始める。それこそが現代における古武道の意義なのである。

まずは師の教えを聞く耳を持つこと。聞いた教えを理解する知恵を持つこと。理解した上で行ってみる行動力、そして「自分はまだまだできてないな」と反省する心。さらなる研鑽を積もうという固い意志。そうしたものを磨くことにこそ、古武道の存在意義があるのだ。そのうえでなお、実際に闘ってみたいと思うのであれば、『王国の刃』へ来るといい。私がいる、士郎さんがいる。そして緑柳師範もいる。初心者狩りで痛い目に遭わせてくれる不正者だって、まだまだ滅んだわけではない。さまざまな連中がてんこ盛りなのだ。

そうした経験や出会いこそ、対人ゲームの魅力ではないかと私は思う。古武道にはそんな楽しみ方もあるじゃないか。なにも「やれ実戦がー」とかホザかなくとも、擬似空間での戦闘がみんなを待っているのだ。


もう一度、シャルローネさんに話を戻そう。トヨムとの戦力比較だ。そして脳内シュミレーションで二人を戦わせてみたい。トヨムには思い切りの良さと抜群の回転力がある。が、しかし、シャルローネさんには見切りの能力がある。トヨムの攻撃はことごとくかわされるだろう。……トヨムのプレッシャーに負けなければ、の話だが。

トヨムのプレッシャーとはどのようなものか? 想像はできないだろうが、頭でだけ理解していただきたい。猛獣を前にしたプレッシャーと想定してもらいたい。これではちょっと理解するための参考にはならないか。ならば君がトヨムを攻撃したいと考えたとき、すでに顔面を狙われている。顔面だけではない、腹も狙われているのだ。そしてトヨムから距離を取ろうとしても、どのようにして逃げようとしても、トヨムの攻撃が届いてしまうと感じるのだ。猛獣は俊敏だ、どこへ逃げようとも、その牙が届いてしまう。

痛みを感じないバーチャルリアリティの世界だというのに、トヨムという猛獣に恐怖を感じて足がすくんでしまうだろう。

トヨムのプレッシャーとは、そういうものなのだ。

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