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胴田貫、出陣!!

夜、私たちはトヨムを先頭に大通りを練り歩く。トヨムは白地に黒くダンダラを染めた羽織。それにかねを呑んだ鉢巻き。剣道の胴に垂れを着けて。小手に鎖を仕込んだ指出しグローブも忘れない。

その他の面々もおおむね同じ、揃いの装束。しかし羽織は浅葱色に黒くダンダラ染めたものだ。

そしていつもと違う装備と言えば、セキトリがメイスに四つ、シャルローネさんがふたつぶら下げたランプである。

目指すは宿屋ベロ。悪党どもが二階の大広間で酒宴を開いている『池田屋』だ。

これまでにない大型の宿泊施設、宿屋ベロ。その正面にトヨムが立つ。

「みんな、いいかい?」

「「「応!!」」」

まずはトヨムとシャルローネさんが、宿屋ベロに向かって右隣の路地に入る。狭い。だから両手足を踏ん張れば壁を登ることができた。脚の長いシャルローネさんなどは、ランプを吊るしたメイスを手に、脚力だけで登っていった。隣家屋上から、トヨムが見下ろしてくる。親指と人差し指でオッケーサイン。そして宿屋ベロの二階を指差す。

悪党どもが二階でたむろしている。そういうサインだ。裏路地から大通りに抜ける出口には、セキトリが踏ん張っている。

そして私とカエデさん、そしてマミさん。


カエデさんが宿屋の扉をホトホトと叩いた。

「もし、もし? 夜分遅くに失礼します。もし?」

しばらくするとガチャリと鍵が解かれ、扉が開いた。宿の者が顔を出したが、そこに私の体当たり。無理矢理押し込んだ。カエデさんとマミさんが続いて押し入る。私はさらに宿の者を殴りつけた。

その間に女子二人は左右の階段を駆け上がった。

「旅客改めである!」

私は階下から宣言した。すると二階の扉を開いて、人相の悪い男が現れた。その喉を、カエデさんが斬った。声も無く崩れ落ちる。崩れ落ちる先は、階段だった。グンニャリとした肉人形のように男は転げ落ちてくる。それを避けながら階段を駆け上がった。

カエデさんの側で開かれたままの扉に飛び込む。

「陸奥屋一党嗚呼!!花のトヨム小隊、斬り込み隊長和田龍兵! ごようの筋あって詮議する! 手向かうは容赦なく斬り捨てる故、そう心得よ!」

酔漢たちは一度私を見て、それから一斉に立ち上がった。まずは屋内のランプを消そうとする者、それに向かって手裏剣を打つ。しかし刺さらない。ランプが次々と消された。大広間は闇に包まれた。すると反対側の入り口からマミさんが突入、すでにランプが灯されていた。


一度は失った敵の姿が照らし出される。さらにカエデさんのランプが押し込まれた。賊は次々と抜いた。遅い、最初に抜いた者の小手を落とした。剣ごと手が落ちる。

泣き叫ぶ賊を捨て置き、剣を振りかぶった者に体当たり。とも言える胴払い。さらに八相に構えた者を大根のように斬った。

ここで首魁と思われる男が「窓から逃げよ! 窓から!」と指示を飛ばす。

しかしその努力は無駄となった。窓ガラスが外から打ち破られたのだ。というか、窓そのものが粉微塵に砕かれて、我らが小隊の野獣と天才が乗り込んできた。足元にランプを置いて。

「陸奥屋一党嗚呼!!花のトヨム小隊隊長、藤平トヨム! 悪い奴ぁ許さないぞ! さあ、かかってこい!」

突然の乱入者、賊は浮足立った。

「マミさんカエデさん! 突撃!」

二人に勢い付けるために、闇雲な一撃を放った。また一人斬る。目の端で、二人の女の子が動いたのをとらえる。

「シャルローネさん、マミさんと合流!」

そう言ってまた一人斬る。袈裟から胴まで一気に。……斬れる、胴田貫!

抜けば玉散る氷の刃とは、良く言ったものだ。しかしこの場合は、閃くたびにたま散る、である。


トヨムの周りで人が倒れた。シャルローネさんの周りでも! 賊を背後から襲っているのだ。もちろん正面からは私。

果たして何人召し取れるものか? その懸念あればこそ、「斬らずに捕えよ!」と檄を発する。

檄を発してから、私の狙いは小手やスネに移った。できるだけ負傷捕縛を心掛けたのである。しかしキル人数は二〇人にのぼり、わずか十人を捕縛するにとどまった。

それでも王国の治安を守ったということで、マントが支給される。ホントにこれでいいんかいな? ちょっと殺し過ぎてやしませんか?

そんな思いにかられながらの褒賞授与であった。

そして第二回攻略。

あまり活躍の無かったセキトリと私が交代カエデさんとマミさんが隣家の屋上に登る。するとセキトリ側の窓から、ボタボタと人が降ってきた。ドテポキぐしゃ〜〜っ!

と地面に叩きつけられる。そう、私の目の前でだ。一応胴田貫でキルを取っておくが、ほぼ即死状態である。しかし賊にとって不幸なことは、人間ブルドーザーは一人ではなかったことだ。

「おらおらおらーーっ!」

トヨムの声だ。そして上空、隣家の屋上へと、人間が水平に飛んでいくのが見えた。こちらは裏路地には落下して来ない。たまに脚が窓枠に引っかかって、墜落する者がいる程度。もちろんこちらも即死状態。


コイツらに任せた結果、見事な三〇キル。生存者無し。もしもこの世界に奉行職があるならば、そいつは今回の出来を苦々しく思っているだろう。

そして白百合剣士団の三人に突入をまかせる三回目。今度は捕縛二〇という成績。ちなみにキルを十も取ったのはどうしてだい?

と訊くと、シャルローネさんが目を逸らした。

お前かい。

それから持ち回りで、白百合剣士団がメインを務める。すると面白いことに、常に誰かがキラー役を務めてしまって、捕縛数二〇を越えることが無かった。

そして大トリ。

全員分のマントを確保するために、六度目の出陣。メインは我らが小隊長トヨムである。

「んーー……こうなると脇を固めるのはリュウ先生とセキトリさんでしょうか?」

「その席を譲られたら、儂ぁ小隊長の隣をリュウ先生に譲るぞい」

「なんだかんだでー、小隊長の隣はー、リュウ先生がお似合いですよねー」

「しっかり働いてくださいね、リュウ先生。みんなが小隊長の隣を譲ってるんですから」

「責任重大ですよ〜〜リュウ先生?」

「心配すんなよ、みんな。アタイが一発で全員分のマント揃えてやるからさ!」


そして乗り込む敵のアジト。トヨムは堂々と名乗りをあげた。

「やいやい悪党ども! このクイーンオブ陸奥屋のトヨム姐さんが来てやったんだ! おとなしくお縄を頂戴しな! さもないと……」

睨みをきかせる。

「ぶっ飛ばすぜ!」

明かりの灯された部屋。敵の姿がはっきりみえる。悪党衆は既存のランプを消すのに必死だが、こちらはカエデさんが十分に照明を用意してくれている。

賊は抵抗の意思を見せた。が、剣に手をかけた時点で私が斬る。胴、袈裟、正面。ひと息で三人だ。手練れといえそうな相手はいないのか?

これまでの経験では、それほどの猛者は見受けられない。しかし、いわゆるラスダン。運営もプレイヤーを飽きさせないように仕込んでいた。

痩身長身、ソップ型……というか、不気味なまでに痩せこけている。真っ黒な瞳は瞬きもせず、はみ出た前歯がガイコツのようであった。

その賊が、手槍の鞘を無造作に払う。

フン……私は股を割って低く構えた。いかなる重圧にも後退しない気構えである。私も瞬きひとつせず痩身のガイコツ男を見た。そしてヌラリと胴田貫を鞘から抜き出す。妖刀とも言える斬れ味の威圧感が、ガイコツ男にも届いたか。わずかにたじろぐのがうかがえた。


日本刀は生きている。

生きているからこそそれ自身が殺気を放つ。その殺気に飲まれた者は冥府魔道を歩くことになる。しかし破邪顕正を心がける者には、正しき道を照らしてくれる。

では、ガイコツ男はどうか? 語るまでもない、その人相風体がすべてを物語っている。

「トヨム、悪いがこの男は私がもらうぞ?」

「アタイじゃ荷が勝ちすぎるかい?」

「いや、うら若き乙女に無修整18禁ビデオを見せるようなものだ。こうした手合いは汚れっちまったオッサンが受け持つべきだ」

「あいよ、存分にやっとくれ」

とは言ったものの、トヨムには荷が重いのは確かだ。この男、ただの槍者ではない。なにかオモチャを隠し持っている。

さて、それを見せてもらおうか。

切っ先同士を合わせてから、正中線の奪い合い。敵に正中線を与えて誘う。賊はその誘いに乗った。突いてくる。その穂先に刀身をからめて粘る。漆食いの技術だ。そのまま刃を逆立てて穂先を斬り飛ばした。


さらに二之太刀三之太刀。手槍を扱いやすいように、短くしてやった。つまりそれだけガイコツ男に近づいたことになる。

来た! 最上級の殺気を放ってきた。

すでに私は一歩後退私のいた場所を、ナイフが通過する。ふむ、殺せばいいという手を使ってくるか。この手は軍隊ナイフ術、あるいは戦場格闘技か?

日本の古武道、あるいは中国武術の美味しいところだけを吸い取って、精神性もヘッタクレも無い。それをまなんで腕っ節を強くしてどうするよ? という類いである。

ヒョイヒョイヒョイ、ガイコツ男はナイフを踊らせた。しかし、見せた暗器など怖いところはひとつも無い。

お断りさせていただくが、暗器というものはなにも特別なものではない。隠し持てばそれ即ち暗器なのだ。だからライフル銃を隠し持てばライフル銃が暗器。ナイフを隠し持てばナイフが暗器となるのだ。

その暗器を賊は見せびらかした。追い詰められた上で、手の内をさらしたのである。もはやコイツは私の敵ではない。短い間合いの武器を持つガイコツ男を、苦もなく斬り捨てた。


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