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生還

 そして野良の相撲取りが五体現れた。トヨムの必殺ボディーでさえ一撃死しなかったタフネスだ。私が前に出る。カエデさんも出た。



「カエデさん、まずは数をこなす! 深追いは禁物だ!」

「わかりました、リュウ先生!」



 そう、私たちは六人組なのだ。何も無理してキルを取らなくてもいい。まあ、正直私からすればこのようなデカイだけのモンスター、丁寧に当たればまったく問題は無いのだが、ここはお手本を見せなければならないのでいなすように相手をする。


 小手、小手、あるいはスネ。太もも。下ごしらえを済ませてから次の料理番に回す。

 カエデさんもその辺りは心得たようで、出ては引き、引いては出るを繰り返していた。



「よっしゃ! ここで一発お見舞いするぞい!」

「行きましょう、コムスビ!」

「だから儂ぁセキトリじゃっちゅうの!」



 ほんとボケが好きなのね、マミさん。

 ということで、私とカエデさんが下ごしらえした野良の相撲取りを、セキトリとマミさんで料理する。

 しかしまだまだ野良の相撲取りたちは現れる。ゴブリンほどではないが、数は揃えてくれているようだ。


 こちらも丁寧な下ごしらえの上で、トヨムとシャルローネさんたちに回す。

 そこで野良の相撲取りたちは数が減ってきた。



「カエデさん、ご苦労さま。そろそろ私たちもキル稼ぎに入ろうか!」

「そうですね、それじゃいただきま〜す!」



 とは言ったものの、私はカエデさんの護衛役。彼女に限ってそのようなことは無かろうが、一応囲まれたりしないように周囲に気を配る。その上で彼女がキルを取りやすいように下ごしらえしてやるのだ。

 というか、プルプルまで出てきたぞ?



「みんな、足元に注意しろ! プルプルだ!」

「わかったよ、旦那! みんな一時後退、間合いを取るよ!」



 トヨムの指示で一時後退。まずは邪魔なプルプルを引きずり出す。そこをブチブチと潰して、足元を確保してから野良の相撲取りに挑む。もちろん仕事は手早くだ。


 そうしないと相撲取りが押し込んで来てしまう。いかに頑丈な壁役二人とはいえ、相撲取りの一撃をもらったりしたらたまらない。今回の白百合剣士団は甲冑を脱ぎ捨てて、革防具……すまんセキトリ。君もそうだったな。女の子たちが心配のあまり、すっかり失念していた。



「ほいさマミさん、まかせたよ!」

「よしきたシャルさん、ガッテンダー!」

「トヨム、腹にダメージ入れといたぞい!」

「それってクリティカル取れなかったって言うんじゃないの?」



 白百合剣士団、トヨム組。どちらもコンビネーションプレイは出来がよろしいようだった。

 ならば私も……。まずは足元のプルプルを突き技で潰す。その隙を狙って、相撲取りが出てくる。これはカエデさんの手でダメージを与えてもらう。



 やはり上手い。



 自分は攻撃をもらわないように、相撲取りたちの小手を傷つけてゆく。その早業に相撲取りたちは前に出られない。というか、前に出た者は前腕欠損のダメージを負っていた。動く敵、NPCのモンスターとはいえ、動く敵にクリティカルを打ち込むのは難しい。ビックポイントやホームランは少ないかもしれないが、きっちりと仕事をするカエデさん。

 しかもポジションを細かく変えて、次に出てきそうな相撲取りの前にきっちりとポジショニングしている。そのカエデさんが……。



「きゃっ!」



 丸楯を飛ばされた。思いがけない相撲取りの、張り手の一撃をもらったのである。

 しかし体力ゲージに損耗は無い。楯で受けてそれを跳ね飛ばされたのだろう。



「大丈夫か、カエデさん!」



 大丈夫なのは知っている。しかしレディにはこうした声をかけておくものだ。そして件の相撲取りは、私の胴払いを受けて一撃撤退。キルポイントへと変貌した。



「ここは私にまかせて、楯を拾いに行くんだ!」

「わかりました!」



 カエデさんの存在を背中で感じながら、出てくる奴には小手面のワンツーパンチ。もちろんバイタルにクリティカルなので、相撲取りたちは即死である。

 私の目の前から、相撲取りの群れは消えた。プルプルも、もういない。



「トヨム、そっちはどうだ?」

「こっちも片付いたみたいだよ?」

「シャルローネさん!」

「どうやら野良の相撲取りは全滅みたいですねぇ……」



 カエデさんも楯を拾ってきたようだ。私のそばに戻ってくる。

 シャルローネさんは私を見た、そしてカエデさんも。そしてニュルンと口角を上げる。しかし、それ以上のことは何もない。



「トヨム、シャルローネさん。前進してもいいかな?」

「そうだね、モンスターはもういないみたいだ」

「陣形はどうします、隊長?」



 シャルローネさんが上機嫌な顔で訊く。



「タンク二人を前衛、farce《道化師》の二人が中堅、ヒットマンのアタイたちが後詰。基本隊形で行こう。油断するなよ?」



 道化師というのは、場を引っ掻き回す役割だ。あるいは遊撃手。状況を見て判断できる者にしかまかせられないポジションである。



「カエデさん、私たちはチャップリンだってさ」



 ちょっとおどけて言ってあげる。



「私は日本のチャップリン、萩本欽一さんがいいかな?」



 なかなかシブいところを突いてくる。


 セキトリとマミさんで草むらをかき分けて、前進前進。またもや開けた場所に出た。

 土俵があり、屋根と壁があった。そこで私たちは南部鉄の鍋をゲットした。西洋風な世界で南部鉄の鍋……。というか、そもそも野良の相撲取りというモンスターはなんなんだ?


 いや、あまり深く考えないようにしよう。そうでなければ、私の心がメゲてしまいそうだ。

 開けた場所を探索してみると、湿地があった。そこにはプルプルの卵というアイテムがあった。赤青黄色、カラフルな卵である。それを根こそぎいただいて収納にしまい込む。



「まあ、今日の探索はこんなとこでしょうか? どうです、トヨム隊長?」

「そうだね、ここいらで一度帰還。精算するかい?」



 もちろん私に異存は無い。探索クエストのファーストステージ、森の手前をクリアしたと証明を受けて、『街に戻る』のコマンドを選択した。


 街の冒険者ギルドで戦利品トロフィーをすべて経験値に変換する。ゲーム内通貨に換金すると、カエデさんの視線が痛そうな気がしたからだ。しかしあれだけ闘ったというのに、経験値はほんのちょっぴり。そのことにシャルローネさんが苦情を言うと、ギルドの親父はいぶかしげな眼差しを向けてきた。



「あ!? そりゃそうだろうよ。お前ら白百合剣士団とトヨム組は競技場で荒稼ぎし過ぎなんだからよ。探索での経験値なんざ、雀の涙程度にしか見えねぇのさ。だがな、一般的なクランからすれば、そんな経験値でもべらぼうな数字なんだぜ」



 ほう……すると……。



「ったくよ、初めての探索で第一ステージを楽々クリアされて、報酬にケチつけられちゃやってらんねーぜ」



 初めての探索における私たちの成績は、『抜群』という評価なのだろうか?



「いい加減にしろよ、コンチキショーめ! 普通はゴブリンの群れに圧倒されて、生きて帰るのがやっとこってのが『初めての探索』名物なんだよ! それがなんでぇ、死人が出るどころか全員無傷で帰って来やがって! 冒険者ナメんじゃねーぞ、コノぉ!」



 ホメてるのか怒ってるのかわからない。そんなギルドの親父であった。



「さて♪ 初めての探索もクリアして、そろそろみんな落ちよっか?」



 シャルローネさんの提案。



「そうだな、明日も仕事に学校。ごく普通に平日だからな」



 私が応じる。



「ですがトヨムさん、今日の戦闘配置。探索だけでなく競技場でも有効なものだと思うんですよ? つきましては明日また、合同稽古で配置の役割分担を練り上げたいんですけど……よろしいですか?」

「アタイはかまわないよ、みんなは?」

「ワシャオッケーじゃ」

「私も構わない」



 つまり明日もカエデさんの面倒を見る、ということになる。将来ある若者の指導というのは、なんとも楽しいものと言えた。



「カエデさんと稽古か……」



 今さら私が何か言わなくてはならない、ということは無い。もし彼女が必要というならば、ここ一番の火力。というか必殺の一撃。これを強化して上げたい。

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