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シャルローネの技とトヨムの出向

まさしく戦利品トロフィーとしてしか役に立たない中型マントのために、ミニイベント捕物帖にまたもや出撃。宿屋ベムに潜む三悪人、手槍のトーマスと剣士レイ、それに接近戦の短剣使いロベルトを捕獲するのだ。そう、キルを取ってはいけないというのがこのミニイベントのルール。そこが面白くてこのミニイベントに参加しているのだ。

もしかすると通常の六人制試合で今回の景品であるマントを着用して出撃したら、「あいつらあんな変態イベントクリアしたみたいだぜ」などと笑われる日がくるかもしれない。だが、それはそれで面白いではないか。キルを取るのが目的の『王国の刃』というゲーム。そのなかでキルを取ってはいけないというルールは、何かの技術の向上になるではないか。

さて、今回の突入班には私とトヨム、それにカエデさんとセキトリだ。つまり窓の外で待ち伏せをするのはシャルローネさんとマミさん。

さて、どのような捕物を見せてもらえるものか……?


まずは堂々の乗り込みである。

「京都守護職会津中将様御預浪士新選組局長、藤平トヨムである! 御用の筋あって詮議したす! 神妙にいたせ!」

小隊長トヨム、もうノリノリである。

しかし効果テキメン、一階フロアでギャンブルと酒を楽しんでいた三悪人は、窓から逃げ出した。

「シャルローネさん、ロベルトとレイ! マミさんにはトーマスだ!」

窓の外で待機している二人に声をかけた。

「えっ! やっ!」

とシャルローネさんの声。

「とぉぉおおぉっ!」

マミさんの声も聞こえてくる。

私はまず、二人を相手にするシャルローネさんの側に走った。


最初のうちこそレイと打ち合っていたシャルローネさんだが、次第に受けの手を減らし、足さばきだけで剣をかわすようになり始めた。狭い路地裏でだ。もちろん狭い路地裏、レイの攻撃もパターンは限られる。それにしてもだ、この足さばき、ただの芸ではない。緑柳翁の弟子という肩書、やはりタダではない。

どころか、レイの背後に隠れているロベルトにまで攻撃を加えている。もちろんちょんちょんといった、カスダメ程度だが。いや、カスダメでいい。キルを取ってはいけないのだから。

もう少しその足さばきを眺めていたかったが、小隊長トヨムが窓から飛び出した。ロベルトの襟首を掴まえての背負い投げ、裏表逆なので一本にはならない。つまりキルにはならず、四つん這いのロベルトに三角絞めのサブミッションだ。

そしてシャルローネさん。こちらはまったく危ういところなく、小手、小手とレイの両手を奪い決着。もう実力差があり過ぎるくらいであった。最近でこそカエデさんの作戦能力に隠れて目立ってはいなかったが、元が白百合剣士団の隊長だったのである。実力が無い訳ではない。


「いや〜〜遊んだ遊んだ♪」

おそらくよそのプレイヤーが苦戦しているであろう、レイを相手にこれである。余裕綽々屁の河童で遊んでいたのだ。まだ高校生程度の年齢、女の子だというのにである。

「ずいぶんと余裕だったね、シャルローネさん」

「いやぁ、緑柳師範やリュウ先生たちの稽古にくらべれば、このくらいの敵は、ですよ♪」

「やややシャルローネ、そじゃない。そーじゃないんだ」

ロベルトをしょっ引いたトヨムが参加してくる。

「シャルローネ、お前『見切り』ができるんだろ? あの目はいつも感心してんだぞ、アタイも」

ほう、トヨムも気づいていたのか。シャルローネさんの見切りの能力を。

「そりゃそうさ、打ち合いの稽古のときは必ず『ココ!』というときにスカ踏ませてくれてんだからさ。あれには毎回肝を冷やされてんだぞ、アタイは」

そう、超近距離戦ともいえるトヨムとの打ち合い。つまり死角が多く手数も止まらない闘いの中でも、シャルローネさんは見切りを使うのである。あれに比べればレイごときの太刀など、蝿が止まって見えるだろう。


表通りに出た。マミさんサイドに回っていたセキトリ、カエデさんたちと合流。

「さっきの『見切り』の話だけどさ、シャルローネ?」

トヨムが訊く。

「シャルローネは旦那や士郎先生が相手のときは、見切りを使ってないみたいだけど、アレってやっぱ……」

「はい、リュウ先生クラスを相手に、見切りは使えないんですよ」

「旦那たちの剣って見えないからな。見切ろうったって見切れないんだよなー」

そうだ、あれが剣というものであって、本物の基本技。というかトヨムやシャルローネさんクラスになると本物の技を見せてやりたくもなるのだ。そして見切ることのできない太刀とはいえ、特別な技を使っているわけではなく、本当に基本的なひと太刀でしかない。特別な技などというのは士郎さんのために使うものであって、必死必殺の太刀は緑柳師範のために使うものなのだ。

ではその基本的な『見切りのできない太刀』とはどのようにやるものか?

ナイショだ。

だが案外ナイショでもない話である。もしもきみが剣の稽古に励む者ならば、今一度先生が最初に授けてくれた技を思い出してみるといい。極意や秘伝はその中に隠されている。


同じく捕物帖ステージ2、陸奥屋一党鬼組の面々である。突入班は組頭士郎、忍者、巨漢ダイスケに剣士ユキ。窓の外の待ち伏せには剣士キョウちゃん♡と小柄で童顔、だけど立派に成人しているフィー先生。

「来てやったぞ三悪人! ブッ飛ばされたくなけりゃ、とっとと尻尾巻いて逃げやがれ!」

栗塚旭顔の士郎が吠えると、レイ、トーマス、ロベルトの三人は得物を掴んで立ち上がり、窓へと駆け出した。

「行ったぞ! キョウちゃん♡にはレイ、フィー先生にはロベルトとトーマス!」

ピスッ、ピスッという小気味の良い音が、ロベルトとトーマスの逃げた窓の外から聞こえてくる。だけではない「ああぁぁああ〜〜♡」「はにゅぅぅうん♡」という情けない悲鳴まで聞こえてきた。それに対して、レイの逃げた窓の外からは、断末魔としか思えない悲鳴である。

レイの悲鳴を聞いて、ユキと忍者は「あちゃ〜〜」とか「やっちまったなー」という具合に顔を押さえる。


そして組頭士郎は、隊士に切腹を命じる土方歳三のように厳しい顔をしていた。

一同揃って、窓の外に顔を出す。キョウちゃん♡が佇んでいた。黄昏れている。そして悪党のレイは絶命したのか、撤退消滅していくところだった。キルは御法度のミニイベント、捕物帖において剣士レイを殺害してしまったのだ。

「……キョウ」

「済まない、組頭……」

空気が重々しい。そしてそれ以上に重々しく、組頭士郎は訊いた。

「お前、これで何回目だ?」

「………………三回目」

「いつになったらキルは御法度と覚えてくれるんだ?」

厳しい質問である。

「…………もう、このミニイベントで剣は取らない。無手でいく」

「いや、その必要は無い。このイベント期間中、お前リュウさんのとこで絞られて来い」

「士郎先生」

忍者がとりなすように言った。

「それじゃあウチが五人になる。それではこちらが手薄になる。ミニイベントの完遂が危うくなるぞ?」

「だからトレードさ。アチラからはトヨムを借りよう」

「士郎先生?」

今度はフィー先生だ。

「あちらのチーム名は『嗚呼!!花のトヨム小隊』ですよ? そこにトヨム小隊長がいないのは可笑しな話になってしまいます」

「じゃあこのボンクラと誰が等価なんだ?」

「その判定はあちらにまかせましょう♪」


ごいうことで、再び私リュウの視点。

「暫定的なトレードだぞ、トヨム?」

まずは鬼組からメールで打診があった。キョウちゃん♡を絞ってくれ。だけどそれじゃウチが五人になっちゃうから、誰か貸して♡というふざけた内容だった。悪意をもって解釈すれば、これはおミソをこちらに押し付けて、優良な人材をかっさらう、とも取れる。しかし草薙士郎という男はそんな男では無いと断言しよう。

私の知る草薙士郎という男は、そんな損得勘定などできない、生粋の剣術バカだ。だから私はこのメールを、まったく悪気のない無邪気なメールとして判断した。

「で、旦那。キョウちゃんと等価交換で、誰を向こうに出すんだい?」

「正直、どの人材も惜しいと考えている。だがキョウちゃん♡の戦力も欲しいところだ」

誰をトレードに出すべきか……。

「カエデさん……」

「私ではフィー先生とかぶります」

「セキトリ……」

「ダイスケどんとかぶりますのう」

残りはトヨム、シャルローネさん、マミさんである。

「旦那が困ってるならアタイの出番だな。いいよ、アタイが行ってくる」


「ちょっと待て、ウチはトヨム小隊だぞ。そこにトヨム小隊長がいなくてどうする!?」

「そういう時もあるさ。なんだったら暫定的に『リュウ小隊』にチーム名を変更する?」

そんな機能があるのかどうか、いや、トヨム組からトヨム小隊に変更となった過去もある。そして白百合剣士団を迎え入れたこともあった。あまりこのてんをうるさく構うと、本当に私の名前に変更して出向するかもしれない。

「是非とも止めてください」

「じゃあアタイが鬼組に出るってことで決定だね? でも旦那、キョウちゃんにどう指導ずるんだい?」

キョウちゃん♡の至らぬところは、今回のミニイベント限定。士郎さんが言うには、殺害御法度のルールで、どうしてもキルを取ってしまう病ということだ。

「ん〜〜キョウちゃん♡の場合、技術云々じゃなく気持ちの問題だからなぁ……」

現実世界ならば、どこかの店で一献というのが正しいだろう。


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