捕物イベント第2ステージ
ということで、捕物イベントの第二ステージだ。
今回もまた、キルをとってはいけないという条件付き。で、難易度は上がる。
「運営からの通達によりますと、下手人は三人に増えるそうです」
カエデさんが説明してくれる。
「しかも今度は凶悪犯、殺しの容疑がかかっているそうですよ」
「ん〜〜それじゃあ武器を持って抵抗してくるかもな〜」
トヨムが腕を組んで考え込む。
「だが、キルを取らないということに気をつけておけば、まだまだ人数で押し切れるんじゃないのか?」
私が提案しても、まだトヨムは難しい顔。
「いや、そうじゃないんだ旦那。アタイも柔道着にレギンスだけじゃなくって、防具をつけてみよっかなって」
トヨムが防御を考えてるとは珍しい。
「アタイもあのビキニアーマーを着てみよっかなって……」
「あほたれ! いらん影響受けるな!」
「そうですよ、小隊長!」
シャルローネさんも猛然と異を唱える。
「小隊長がビキニアーマーを着ていいのは、拠点の中だけです! よその人間に肌を晒さないでください!」
いやシャルローネさん、言ってることがビミョーにおかしいぞ?
とりあえずトヨムはビキニアーマーを柔道着の下にブラを、レギンスの上からショーツを着用という動きやすいのか動きにくいのか、よくわからない仕様で出撃することとなった。
「うん、アタイも女の子って自覚が芽生えてきたぞ」
まあ、本人が喜んでいるからヨシとするか……。
今回踏み込む場所も宿屋ベム、木造二階建て。一階部分はフロントにバーにサロンにカジノ。前回の宿屋バローに比べると、少し大きめの建物である。つまり部屋数も多い。
「今回はフロントを通さず、直接踏み込んでみませんか? 不意の襲撃なんかの対処も練習できそうですし」
一応こちらが襲撃側なのだが、ジェリーを例に出すまでもなく、いきなり飛び出してくる下手人もいるだろう。ということで、殺しの下手人三人組の紹介。トーマス、レイ、ロベルトの三人だ。
トーマスは手槍の使い手、リーチは剣より長い。レイは長短の間合いどちらでもいける剣士。ロベルトは接近戦を得意とする短剣使いだ。
「まさかとは思うけど、三人別々に部屋を取っているということは無いだろうね?」
「わかりませんよ、リュウ先生。こうした宿にはコールガール……つまり娼婦がつきものです。ついでに言うならば、殺人にまで手を染めるような輩が、酒女バクチを避ける訳がありません」
「となるとだ、案外アタイたちが一階のカジノで遊んでたら、向こうからノコノコと現れてくれるかもな!」
そう言って、トヨムは笑った。
「いやいやそれどころか、わしらが出向いたときにカジノでフィーバーしとるかも知れんぞい」
「案外ー、簡単に決着が着きそーですねー♪」
「で、カエデさん。配置については私に考えがあるんだが」
「はい、どんな策ですか?」
「あくまでもこれは下手人が全員一階に揃っている、という前提のシフトなんだけど、『道場破り』方式を取るのはいかがかな? と」
「道場破り方式ですか?」
「全員で建物内に入り込み、先に出入り口を固める。それこそネズミ一匹這い出せないようにね」
ここでカエデさんも腑に落ちたようだ。
「ああ、私たちが道場破りじゃなくって、道場を守る側ですね? なるほどそれなら、下手人を取り逃がすことも無さそうですね♪ なるほどそういう考え方もありましたか……」
さすがカエデさん、道場破り方式と言っただけでこの理解の早さ。もしかしたらその手の剣豪小説なども読んでいるかもしれない。それとも時代劇を観たのだろうか?
「そうしたら一階に下手人がいないことも考えないといけませんね。必要最小限の人数を隣家屋上に配置しておきたかったんですが……」
下手人が窓から屋根伝いに逃亡することを考慮しているようだ。
「だけどさーカエデ、やっぱ初手は失敗しておくことも重要なんじゃないのか? 必ずしもノーミスでクリアしなきゃなんないイベントじゃないんだからさ?」
「あははっ、さすが小隊長。欲しいときに欲しい言葉をかけてくださいますねぇ」
「小隊長だけじゃありませんよー、カエデちゃん♪ みんな作戦はカエデちゃんに任せっきりなんですから、失敗のひとつやふたつ、誰も気にする人はいませんよー♪」
「うん、ありがとねマミ」
とはいえ、やはり失敗は避けたいのが人情というもの。カエデさんはあれこれと複雑に策を講じた。その策とは……。実際の私たちの行動を御覧いただきたい。
大通り、私はセキトリ、マミさんの二人を連れて宿屋ベムを目指す。通りの反対側からは、トヨムが率いるシャルローネさんとカエデさん。お互いの姿を見止め、うなずき合う。
トヨムとシャルローネさんが、細い路地に入った。宿屋ベムを挟んだ左右の路地だ。その狭い路地を這い上がり、隣家の屋根にのぼった。そして暗がりから、宿屋ベムの二階部屋を目を凝らして見透かしていた。
トヨムから合図、顔の前に構えた手刀と顔を反対に振る。シャルローネさんも同じ。
つまり、下手人は二階の自室にはいない、ということだ。それはそのまま、三人の下手人が一階にいる、という具合に考えられる。
二人は屋根から降りてきて、私たちと合流。全員揃ったところで、宿屋ベムに踏み込む。
まずはカエデさんとシャルローネさん、この二人がカジノのテーブルに着く。もちろん窓際だ。そしてセキトリとトヨム、こちらはバーの窓際。そしてマミさんが入店してカジノのテーブルを眺める振りをしながら階段を抑えた。最後に私が入る。
そして出入り口に立ったまま宣言。
「御用改めである! 殺しの下手人トーマス、レイ、ロベルト! 神妙にお縄につけ、手向かいいたすは容赦せぬぞ!」
カジノのテーブルから手槍を持った男が立ち上がる。これがトーマスだろう、ヒョロリと背が高い。腰の剣に手をかけた男、これがレイだろう。なかなかの男前だ。そしてバーをテーブルから窓へと駆け出した男、これがロベルトだ。無手に見えるが懐に短剣を呑んでいるはずだ。
逃げ惑う客が邪魔になるが、その隙間をすり抜けてシャルローネさんが手槍のトーマスに近づく。しかしトーマスは相手にしてくれない、私目掛けて駆けてきた。そして手槍のひと突き、これを私は脇構えのようにして受け流し、大車輪のごとく縦に杖を振り下ろした。
面は狙わない、小手だ。それも手首の小手ではなく、親指一本を狙い打ち。悲鳴をあげてトーマスは潰れた親指をかばった。その隙にカエデさんが丸楯で壁に押さえつけ、シャルローネさんが縄をかける。悪党一匹御用なり! である。
続くはレイ、剣士である。しかし私は杖。得物の間合いでは有利だ。そうなると奇妙なもので、剣の弱点が丸見えになるのだ。それを具体的に言うならば、刃の向きで狙っている場所が丸わかりというところ。
中段には構えているが、それでも小手を狙っている。賢明な狙いだ。レイの目的は私からキルを奪うことではない。逃亡を成功させること、だからだ。
しかしそんなことは許さない。剣を巻き取って床へ叩き落とす。丸腰になったレイは、これを好機とばかりわしに背中を向ける。
なんの、私も失敗ばかりではない。まずは懐に飲んでいた手裏剣。これをレイの背中に打ち込んで動きを止めた。三秒間の強制停止が働く。それだけあれば充分だ。動けないレイの腕を取り、柔道の脇固め。ゆうゆうとその手首に縄をかけることができた。
「残るはロベルトだ! 短剣を使うぞ!」
私が叫ぶと、そのロベルトにセキトリとトヨムの手裏剣が突き刺さるところだった。そこへセキトリのぶちかまし、トヨムの腕ひしぎ十字固めマミさんが追いついて縄である。
「案外なんとかなったな」
ロベルトの縄を手に、トヨムが能天気に笑う。
「ですが小隊長、これは私たちが先手を取れた結果です。もしも三悪人が自室にいたら、こう上手くはいかなかったかもしれません」
そうだ。今回の成功は、悪玉トリオが全員一階にいてくれたからであり、これが三人バラバラ。自室などに籠もっていたりしたらどうなっとぃたことか。
「というか、こいつらの部屋はどこなんだろうな? 後々のために知っておいた方がいいかも知れない」
フロントで訊いてみる。当然のように、支配人と思しき男は教えてはくれなかった。しかしみんなでゲーム内通貨を支払うと、簡単に口を割った。二階の奥から三部屋。通路右側である。
下手人を役人に引き渡したところで、改めて確認のため宿屋ベムに戻った。
「あ、ダメだこりゃ」
宿屋に入った途端、トヨムが言った。何がどうダメなのか? 私もフロアを覗き込んだ。するとドタバタという騒々しい物音が。
「アタイたちの顔を見て、悪玉トリオが逃げ出しちゃったよ」
「どうやら下手人を役人に引き渡した時点で、ステージがリセットされるみたいですねー」
カエデさんの言葉は棒読みであった。つまり……?
「下手人を役人に引き渡す前に、連中の部屋を調べれば良かったんかいのう?」
どうやらセキトリの説が正しいようだ。
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