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熱い熱い男たち

 よ、みんな。久しぶりだな! ってか俺の一人称って初めてじゃねーの? ヒナ雄リーダー率いる、チーム『情熱の嵐』のメンバー爆炎さまだ!


 いや、忘れてたからって、読者に文句なんか言わねーぜ。なにせまともに登場するの自体が久しぶりなんだからよ。

 そんな俺だけど、合同練習には毎回欠かさず真面目に出てるんだ。なにしろ、アイツがいるからな……。



「ぬぉおぉお! ジョージ・ダイナミック!」



 そう、あの光る剣を片手で振り回しちゃ、クリティカルやキルをバシバシ取る男。陸奥屋一党チーム『ジャスティス』リーダー。燃える男、炎の男、正義の男。


いくら言っても言い足りない、ジョージ・ワン・レッツだ。きっと俺より年上なんだろうけど、大学生社会人にしては、一途に燃える魂を発動し続けてる。もしも俺が高校を卒業して、大学行ったり社会人になったりしても、あれだけ燃え続けることができるかどうか?



 だけどアイツはやっている。あの男は大人になっても燃えている! あんな男になれるだろうか? 燃え続けていられるだろうか? それには今を燃えるしかない!



「ジャスティス・ジョージ! 一丁揉んでくれないか!!」

「おう、爆炎くんだな! こちらこそ、よろしくたのむぞ!」



 俺みたいな小僧相手に、こちらこそ、だってよ。ますますシビレるナイスガイじゃないか。


まずは脇構え、得物はご存知、『情熱の嵐』特製の長ナタだ。「ム!」と両手で剣を構えるジャスティスは、八相の構え。どちらも攻撃重視、防御無視。一発勝負の構えだ。


どっちの攻撃が早いかってぇと、最短距離を疾走ってくる八相の太刀が断然速い。だけどな、こっちは体が入れ替わるっていう変化があるんだ。とはいえ、変化のタイミングが問題。早すぎれば太刀が追いかけてくるし、遅すぎればひと太刀でザックリ。



 つまり八相対脇構えは、ヒリつくような緊張感がたまらないって勝負なのさ。お互いに手の内さらして真っ向勝負! これが男と男の戦いってやつよ。


 ズシ……ミスター・ジャスティスの殺気が、重くのしかかってくる。

 ググッ……俺も殺気を押し返す。


 ハッキヨイ!


 充分の体勢で俺は突進。ミスター・ジャスティスは待ちの姿勢……じゃない。一拍遅れて突っ込んできた。完全にタイミングを外されている。


つまり、バシッという一撃で俺は撤退。……今日もまた、ミスターに勝てなかった。



「素晴らしい気迫だったぜ、爆炎くん!」



チェッ、今日もまた慰めの言葉だよ。そしていつもの一言。



「だが、正義を守り抜くには、もうひと踏ん張りだ!」



 そう、俺と彼とでは、背負っているものが違う。ミスターはまるで、「俺が負けたら、地球の平和はどうなる!?」って勢いで戦ってるんだ。

 だけどそのミスターだって……。



「白銀さん! 一手御指南のほどを!」

「はい、お願いします」



俺と同じくらいの女の子、白銀輝夜が相手になると。



「ぐあぁぁあっ!」「また負けたーーっ!」「おのれ、正義は滅びんぞーーっ!」



 撤退の連発。



「ジョージどの、正義は滅びんとか申されると、まるで私が悪の手先のようなのだが……」



 白銀輝夜が困ったような顔をするのも、またいつものこと。



「ジョージどの、爆炎どの。最後の突撃というのは、最後の技にござる。死ぬか生きるかの戦い方はもう充分練れているので、そろそろ生きるための稽古をされてはいかがでしょう?」



 師範代格、白銀輝夜の言葉も、またいつものこと。

 だけどよ……。



「命を燃やしている実感、あれが麻薬なんだよな」



 ミスターの言葉の通り。



「そうそう、一度味わったらやめられねーよな」

「困った二人ですなぁ……」



 そう言いながらも、ダメとは言わない白銀輝夜師範代も、またいつものことさ。

 しかしそうも言っていられない事態が発生した。


 いつもの六人制試合。俺はいつものようにチーム『情熱の嵐』で出撃。その一戦で勝つには勝ったんだけど、俺とひとりが撤退。それも、三回も……。他のメンバーは誰も撤退してないのにだ。無駄に俺ひとりがキルを三つも献上しちまった。



 ただ単にキルを献上ってんなら「そんな時もあるさ」と笑ってすませるんだけど、俺とからキルを取ったプレイヤーは三回とも同じ。しかもいけ好かない戦い方をしやがるんだ。


 長得物でチョンと突いては後退。チョンチョンと突いては横に逃げる。


おいおい、お兄ちゃん。王国の刃はキルを取られたって復活があるんだぜ? それがなんだい、女の子よっかおっかなびっくり。へっぴり腰でチョン突きばっか。コイツぁ男の勝負ってモンができねぇな、って踏んだ途端だ。ビシッと強く突いてくる。おかげで俺の革防具は一発崩壊。



 なんだ、ヤルじゃねーかと思ってたら、ニタニタしながらまたチョン突き。なんでぇ、また女の子に逆戻りかよ? っつーかそのニヤニヤやめれや。小馬鹿にされてるみたいじゃねーかよ!


 だけど奴はニヤニヤをやめず、俺の周りを左へ左へ。チョンと突いては動いて、チョンと突いては左へ。いや、俺が前に出ようとしたらチョンと足止めにくる。


 いい加減腹立ってきた! おい、打ち合いやろうぜ! ってときに強い突き。それも二発三発。クリティカルや一撃必殺じゃないけど、やっぱり正確な突きの連打なんだな、撤退まで追い込まれたぜ。


死人部屋で防具を修理して、さあ復活! するとアイツは俺の目の前にいた。よくこんなとこまで踏み込んできたな。っつーか復活即撤退が無いように、復活者護衛も考えなきゃな、とか考えてたのに。


アイツは強い突きを見せて来ない。やっぱり人を馬鹿にするみたいにチョンチョン。そしてニヤニヤ。コイツ腹立つ、と思ったときには強い突き。そんな調子で、俺は三撤退。こんなヤラレ方じゃ、俺は納得できねーよ!


 ところが、このイヤな野郎が及ぼした影響は俺だけじゃなかったんだ。なんとミスター、ジョージ・ワン・レッツも同じような目に遭って撤退させられたそうだ。



「……負けちまったな、爆炎くん」

「いや、チームは勝ったぜ……」


「そうじゃない、爆炎。……男の戦い、正義が負けたんだ……」

「いや、正義は負けちゃいねぇさ!」


「胸を張って言えるか? それを……」

「………………………………………」



 チキショウ! あんなニヤニヤ野郎に負けるなんて! そりゃチームは勝ったけど、俺たちは負けたんだ! チキショウ!



「なんだよ? いつも威勢のいい二人が沈んじゃって。まるでお通夜じゃないか!」



 カラスが鳴くような声。俺たちに声をかけたのはトヨム小隊の隊長、焦げ茶色のトヨムだ。どこからどう見ても、色気の欠片さえ無い言動容姿だけど、一説には俺より年上だという噂もある。

 だけど色気と引き換えに、王国の刃ではツワモノと称される人物の一人だ。



「そうは言うけど姐さん、俺たちは負けちゃいけない相手に負けたんだ……笑ってくれ……」

「頑張って負けたヤツを、アタイは笑わないよ」



 ミスターが姐さんと呼んだ女は、当たり前みたいに言う。



「ジョージたちがやられた相手、なんてんだ?」

「プレイヤーネームは、スマイリー・キラー……」

「とにかくイヤな奴なんだ」



 どれどれ、と言って姐さんはウィンドウを開く。どうやらあれこれ検索しているようだ。そして「あった、これだな」と言って動画を再生してるようだ。



「あーー……こりゃ相性が悪すぎだろ……」

 ゲンナリしたように、姐さんは呟く。



「相性?」



 そう訊いたのはミスター。その質問がなにかの突破口になるんだろうか?



「そ、相性。ジョージたちはケンカ上等なファイタータイプ。だけどコイツはボクサータイプさ」

「ファイター? ボクサー? 拳ふたつで闘う姐さんらしい表現だな」

「で、ボクサータイプのコイツに、目にもの見せてやるにはどうすりゃいいんだ?」


…………………………………………。

……………………。

………。


 ということで六人制試合。『情熱の嵐』メンバーで試合を重ねて、ようやくあの、スマイリー・キラーの野郎と一戦交えることになった。


 野郎、またニヤニヤとしながら俺を見てやがる。きっと俺のこと、いいカモと思ってやがんだろな。だがな、俺も黙って座ってたわけじゃねぇんだ。蒼帝相手にのらくらペチペチの戦法を取ってもらったんだ。そしてトヨム隊長の指導も授かってよ。



 スマイリー・キラー対策、まずは『その1』だ。

 ゴング、六人がそれぞれ対戦相手に向き合う。俺の相手はもちろん、ニヤつき野郎。まずは奴の周りをサークリング。


『いいか、爆炎。お前はすぐに突っかかるけど、それはアウトボクサーの思うツボ』


 そう、小隊長の作戦はまず敵を動かすこと。自分からは動かないことだ。別な言い方をすれば、スマイリーの奴がやってくれたことをそのままやり返すだけ。


 つま先立ちでヒョイヒョイと、同じ距離を保って同じ距離を保って。するとどうだ、焦れたスマイリー、前に出てきたじゃねぇか。小隊長の言った通りだ! しかもチョンチョン、軽い攻撃。これまた小隊長の読みの通り。


『いいか、爆炎。奴はお前を挑発するようにチョンチョン攻撃してくる。きっとニヤニヤしながらな。だけど絶対に挑発に乗るな。むしろアイツを小馬鹿にするようにニヤニヤしてやれ……お前には無理かな? 相手を馬鹿にするなんてこと』


 ああ、そいつぁ出来ねぇぜ小隊長。だがよ、小隊長の指導の通りペチペチ攻撃はペチペチ防御で軽くいなしてやるぜ。これがスマイリー・キラー対策、『その2』だ。


『もしもだぞ、爆炎。お前から出て行きたくなったら、そんな好機があったなら、クリティカルも一撃必殺も狙っちゃダメだ。こっちもペチペチ攻撃でいくのさ』


 その好機が俺にも見えた。必殺の一撃じゃなく、軽くピョイピョイと。それはいわゆるノーモーションってやつになるから、スマイリーの奴カウンターも取れず、俺の攻撃をまともに食らっていた。

 いいぞ、チョンと打っては逃げる。チョンチョンと打っては逃げる。


『なあ爆炎、お前がそれをやられたとき、どうなった? 頭に血がのぼっただろ? そしたらスマイリーでも、大振りの技に出てくる。そのときこそ……男の戦いだ!』


 熱くなったスマイリー。もうあのニヤニヤ笑いは消え失せて。「この一発!」って気になっている。そうだ、あのときの俺のように熱くなれ。お前も男になるんだ!


 死ぬか生きるか。命がけだからこそ面白ぇ。その勝負は俺の土俵。見事スマイリーの奴を討ち取ることができたんだ。後の試合で、ミスター・ジャスティスもリベンジを果たすことができた。


 新たな戦法を身につけて、万事めでたし。となればいいんだけど……。

 人間はそう簡単には変われない。すぐにまたイノシシ武者に逆戻り。ペチペチ野郎に泣かされちゃあ、また小隊長に泣きつく日々。



「小隊長ーーっ! また稽古つけてくれーーっ!」

「またかよお前ら、いい加減ボクサー対策覚えろよなーー……」




 そうさ、男って奴はそう簡単に変わっちゃいけないんだ!


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