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番外編……の余波……。

ども、カエデです。今日は茶房『葵』でお茶を楽しんでいます。


なにしろ『まほろば』の白銀輝夜さん、私が士郎先生、リュウ先生、緑柳師範とゲーム技で勝ったことが納得いかないらしくて、「御説明いただけないか?」とのこと。


そりゃそうですよね、自分が坂の上の雲と仰いでいた三先生を、ぽっと出の私なんかがキル取っちゃったんだから。稽古に稽古を重ねて、精進の道をひた走る輝夜さんからすれば、面白くないといえば面白くないこと。


だから私も精一杯、「現実世界で三先生方に勝つことは、ほぼ不可能。いや、挑むことすらできないでしょう、怖すぎて。ですがゲーム世界では『小手先のセコい技で出し抜いて、キリキリ舞いさせてやろう』という意地の悪い人間もいるものです」と目一杯私の技をおとしめて説明。


もちろん三先生のことは持ち上げて持ち上げて、そうやって説明をしてようやく輝夜さんの理解を得たところで、新たな話題がドタバタと、騒がしく飛び込んで来ちゃいました。



「大変よ! 大変! なにが大変って、大変が大変なんよ!」



本物なのかどうか、ちょっと怪しい広島弁、金髪も鮮やかお目々パッチリの近衛咲夜さんが飛び込んで来ました。看板娘の歩ちゃんもびっくり。


店主の葵さんは「また咲夜さんの大変大変が始まりましたか」とばかり落ち着いたもの。さすが葵さん、豊満なバストと同じく堂々としたものです。



「おやおや咲夜ってば、一体何がどう大変なのか? お姉さんに話してごらん?」



べつのテーブルでお茶を楽しんでいたはずの『まほろば』メンバーの御門芙蓉さん。それに比良坂瑠璃さんまで、お茶を片手に椅子を引っ張ってきて、私たちに合流してきました。


ポニーテールにちょっとだけお姉さんな芙蓉さんは、猫の子みたいに目を細めて興味津々という様子。対していつもご一緒なボブカットの瑠璃さんは、「野次馬根性……」と呟いて呆れている。



「それが芙蓉さま、大変なんよ! なんとなんとあの鬼将軍が、緋影さまと焼き肉を食べに行ったらしいんよ!」



焼き肉……はぁ、そうですか。焼き肉オフ会ですか……。んで? なにがどう大変なんでしょう? 私にはイマイチもイマ2もピンと来ませんでした。

それは咲夜さんの相棒バディである輝夜さんも同じようで。



「何事かと思えば咲夜、一軍の大将同士でオフ会、焼き肉のひとつも食べようて」

「輝夜、あんたはこういう話にゃ疎いんじゃけ、よう聞きんさい! 焼き肉というのはねぇ、通称『同衾食』と呼ばれとるんよ!」

「ま♡ 咲夜ってばそこに反応しちゃったんだ♪」



芙蓉さんも楽しそうに反応してますね。ところで、ドーキンショク、とはなんでしょうか?



「咲夜……それは猛禽類の一種か?」

「輝夜、あんたはちょっと黙っとき」



え〜、ここでひとつ解説をば。天宮緋影さん、現実世界ではそれはそれはもう身分のあるお方らしく、なんでも国の中枢にある神さまを祀る方とか、国政の方針に影響を与える方とか、早い話が宮様に限りなく近い存在とかで。


その緋影さまに仕えているのが『まほろば』のメンバーとかなんとか。

そんなやんごとなき御身分の方だというのに、こんなゲームをやって遊んでいる辺りが、緋影さまのガードの緩いところというかポヘポヘしたところというか。



「お姉さま、咲夜さまのおっしゃる『ドーキンショク』とは、一体なんなのですか?」

「歩、あなたにはまだ早い話だわ」



ほら、歩ちゃんと葵さんっていう、本筋には関係の無いところに流れ弾が飛んだ。



「歩は『ちんかも』な二人が食べる御食事としかわかってないのですよ」

「さ、歩。このお茶を三番テーブルにお出しして」

「はいなのですよ〜♪」


ななななに!? なんなの? 歩ちゃん、なにを知ってるの? ナニを言ったの!?

もしかして核を突いた!? 突いちゃったのね!? っていうか『ちんかも』ってナニ!? そもそもドーキンショクってどういうことなの!?



「あーー……カエデちゃんはわかんないかー……あったなー、私にもそんな乙女な時期が……」

「……私、知ってる……大人の振りして、芙蓉も……まだ……」


「やーやー瑠璃、それは言いっこ無しじゃないかなー? 瑠璃だって中学生、いや小学生の頃から男子人気を根こそぎだったのに、まだじゃなーいー?」

「芙蓉の方こそ……遊び歩いてる振りして……まだ……プッ、クスクス……」



ウン、なんとなく察しはついたわ。これはちょっと大人の話題。だけど一応念のため、ウィンドウを開いて検索してみましょう。『同衾食 焼き肉』っと……。


フムフム、つまり焼き肉を食べた後でもキスを許し合える深い仲の男女ってことね。ついでに言うなら、焼き肉を食べてスタミナをつける必要のある男女とも取れるわね。ワオ♪


で、咲夜さんは鬼将軍と緋影さんが『ちんかも』な仲……つまり仲睦まじい男女の関係になったんじゃないかと。こう騒いでいるわけね。



「そーなんよ! 緋影さまの貞操と操が危機的状況にあって、風前の灯なんじゃよ! おのれ鬼将軍、もしも緋影さまに手を出したりしたらただじゃおかないんだから!」



それは怖いお話で、と思っていたら、輝夜さんが私のウィンドウに興味を持ってるみたい。



「カエデどの、同衾食について調べていたのかな? できれば私にも見せてもらえぬだろうか?」

「あ、どぞどぞ。御遠慮なく」


「かたじけない…………フムフム、ほほう。……カエデどの、この男女の深い仲、というのはその、子づくりをする間柄のことか?」

「子づくりって、別の考え方をすれば、子づくらない間柄とも考えられますねぇ……」


「子づくらないとは、そうか……そうした男女の関係というのもあるのか……ま、まあニンニクの香り漂う中でキスを交わすというのも、な」



輝夜さん? フッとニヒルな笑みを横顔に貼り付けてるけど、動揺してるでしょ? ニヒルな笑みが剥がれかけてますよ?



「まあ男と女、大人ならばそういうキスもあるだろうな」



動揺してる動揺してる。まあ、輝夜さんって剣一筋みたいなところがあるから、一皮剥いたらただの純情少女なのかもね。



「そういうカエデは、キスの経験あるんね?」



おっと咲夜さん、こっちに銃口を向けてきますか!? だけど私の答えはただひとつ!



「ウチは女子校ですから」

「あらあらカエデちゃん、そんなにカワイイのにキスひとつ経験が無いのかな〜〜?」



いえ、芙蓉さん。この姿はアバターですから。ま、まあ自分に似てないことはないけど『カワイイ』って言われるのは悪い気しないなぁ。

と、そこで瑠璃さん。



「こんなこと言ってるけど……芙蓉のキスの相手……私だけ……幼稚園の頃……」

「ちょ、瑠璃! その後の私の活躍をしらないの!? そりゃもう言い寄ってくる男の子たちをちぎっては投げちぎっては投げ……」


「そんな経験あったら……絶対私に自慢してくる……っていうか……男の子にはすごく奥手……」

「ちょっと待った瑠璃! 参った……参りました! 私が悪かったです!」



悪を成敗したとばかり、フンスと鼻息も荒い瑠璃さん。



「ところで咲夜さんは、キスの経験は?」

「えええっ!? わ、私っ!? わ、私はどうでもえぇじゃろ!!」



あら、お顔が真っ赤に。可愛らしいじゃありませんか、咲夜さん。



「咲夜も私とのキス以来、経験は無いだろ?」

「ちょ、輝夜! バラさんでもえぇじゃろ!!」



ん〜〜結構みなさん、そういった方面には疎いようですねぇ。だからこのゲームに集まってるのかな? っていうか、みんな彼氏とかいないんでしょ?



「案外こんなものだよねー。週刊誌なんかにあるアンケートでさ、女子高校生の経験率とか、かなりフカしてるでしょ?」



芙蓉さんの言葉に、コクコクとうなずく瑠璃さん。



「得に高嶺の花子さんなんて、男子が気おくれしちゃってさー。乙女を卒業できずに高校卒業しちゃうこともあるんだよねー」



なるほど、そういうことも考えられるか。だとしたら、シャルローネも案外卒業証書無しの卒業かも……。ダメだ、あの娘なら「それでなにか問題ある?」とか言い出しそう。



「と、とりあえずキスことは置いといて、話を元に戻すわよ!」

あ、咲夜さんが仕切り直した。まだ顔が赤いけど。



「鬼将軍よ、鬼将軍! あの男、緋影さまとにそんなことしたら、とっちめるだけで済まさないんだから!」

「ほう、では咲夜。鬼将軍を許さないとなれば、具体的にどう許さないのだ?」

「斬るっ!!」



即答ですか、そうですか。



「とはいえ咲夜、お前は現実世界では真剣実刀は所持してないではないか。私の差料は貸さぬぞ?」

「だったら木刀でブッ飛ばす!」



過激ですねぇ、咲夜さん。



「では訊くが咲夜。昨日と今日で緋影さまに変化はあったか?」

「……特に、無いわね」


「では鬼将軍殿と緋影さまの間に、昨夜は何もなかったということだ。心配するな」

「でもだけど、緋影さまがもしも万が一、あの変態に心惹かれたりしたら……」



ここで芙蓉さん。



「それじゃあみんな、ひ〜ちゃんが鬼将軍に心惹かれる可能性、みんなはどう思うかな!?」



咲夜さん以外声を揃えて、アクションも同じ。



「「「「な〜い無いナイ無い!」」」」



顔の前に構えた手刀と、顔を横に振る。もちろん顔と手刀は左右反対の動き。



「あによっ! みんなもっと真剣に心配しなさいよーーっ!」



なんだか分かるなぁ。灯台下暗しってことわざ、親しい者ほど相手の何も見えてないって意味もあるんだって……。


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