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ファーストステージ

誤字脱字報告を適用させていただきました。ありがとうございました。ブックマーク登録、評価ポイントの投票ありがとうございます。作者ますますの励みとさせていただきます。

 ということで、いよいよ探索開始。



「なんだけどさぁ、シャルローネ。配置はどんなカンジにする?」

「そうですねぇ、まずは慎重に前衛をセキトリさんとマミちゃんに。中堅は先生とカエデちゃん。後詰めに私たちが入ろっか?」



 よし、そうするか、とトヨム。話を聞いていた私たちは、すぐさま陣形を組んだ。



「いいかい、カエデさん。俺たちの配置は前でも後ろでも、何かあったらすぐに対応するポジションだ」

「わ、わかってますよ!」



 さきほどの風俗話の余韻か、カエデさんは私にはよそよそしい。



「ちなみにみなさん、探索のステージでキルをとられると探索は中断。経験値と通貨をゴッソリ持っていかれて教会で目覚めることになります! もちろん教会で目覚めたからといって、なにかご利益がある訳じゃありません!」



 シャルローネさんの説明に異論を唱えたのは同じリーダー職のトヨムであった。



「なんだよそれ! ヤラレ損じゃないか!」

「そうならないためにも回復ポーションは適切に使いましょうね♪」



 そう、今回は回復ポーションをたんまりと持たされている。

 欠損部位を再起動させるポーション。そしてキルにつながる体力低下を回復させるポーションだ。どれほどモンスターが強いのかは知らないが、こんなモノは使わないに越したことはない。

 二人のタンク、セキトリとマミが草むらをかき分けて前進していると、前方でなにか蠢いていた。



「来るぞ」



 カエデさんに注意をうながし、腰の木刀を引きつける。カエデさんも緊張の横顔で、「はい!」と低く言った。

 ガサリ、出てきたのは三頭のゴブリン。私たちは素早く左右に展開する。


私とカエデさんで両翼を守るので、セキトリたちが囲まれたり孤立することは少なくなった。そして次の変化には、トヨムとシャルローネさんが対応してくれるはずだ。タンク先頭、中堅が剣士。後衛をヒットマンが固めると、攻防自在の陣形となるのだ。



「行くぞい、マミさん!」

「ほい来たヨコヅナ!」

「儂ぁセキトリじゃい!」



 軽いボケとツッコミで、タンク二人が前に出る。私たちも両翼を守りながら前進。ゴブリン三頭とたちまちタンク二人に押し潰された。が、マミさんサイドの草むらがゆれる。



「カエデさん、来るぞ!」

「は、はい!」



 カエデさんは丸楯を突き出して、剣を添える。これぞ正に攻防一体の構えだ。相手の姿が見えない場面では頼もしい構えである。四頭目五頭目のゴブリンがカエデさんの前に現れた。そして私の目の前にも。……三頭。


 カエデさんは楯ごと突撃、ゴブリン一頭の胸に剣を突き刺す。しかしもう一頭が攻撃態勢だ。しかしその余分はマミさんのスパイク双棍が撃殺。で、私の前のゴブリンさんたちは?



「リュウ先生、手伝いますかい?」

「ん? なにをだ、セキトリ?」



 カエデさんが頑張っている最中に、居合の手で撲殺しておいた。



「なぁ、シャルローネ。アタイたちの出番ってあるのかなぁ?」

「もちろんですよ、トヨムさん! ほら、草むらが今まで以上にガサガサしてるでしょ?」



 そう、私たちの目の前で、草むらが激しく動いているのだ。突進速度、と判断する。もしかしたら私たち全員をキルに追い込むまで止まらない、『突撃』というものであろうか?



「トヨム、シャルローネさん。カエデさんのバックアップ!」

「おう!」

「ま〜かしてぇ!」



 カエデさんには悪いがこれで私も気がねなく闘える。

 すでに抜いた木刀。中段に構えて状況を見る。ゴブリンたちは間も短く草むらから飛び出してきた。その数五頭。三頭まで突きで葬る。四頭目を打ち据えたところで、新手のゴブリン。


 五頭目を倒してまた三頭出てくる。一頭一頭は話にならないくらいに弱いのだが、とにかく数が多い。そして草むらの向こうから襲いかかってくるのが面倒だ。



「シャルローネさん、後退するか!」

「そうですね、リュウ先生! マミちゃん、セキトリさん、壁を作ってください!」



 シャルローネさん、トヨム。セキトリにマミさんにカエデさん。五人掛りで一度ゴブリンの襲撃を押し込む。即座にヒットマン二人を後退させて、カエデさんが退く。私は最後までセキトリたちを守りながら後退。草むらから離れた。

 背後を見ると最奥にタンク二人、私とカエデさんが最前線。中堅がヒットマン二人のV字隊形。いわゆる縦深型陣地になっている。



「カエデさん、無理はいらないぞ! ゴブリンの手足を狙え、数を取るんだ!」



 欠損したゴブリンの数を増やす、それが前衛である私たちの仕事。なに、打ちもらしているようでもすぐにヒットマンたちが仕留めてくれる。そして私たちが陣地の中へ中へとゴブリンを誘導すれば、ゴブリンたちは前進すればするほど最強火力のタンクの前に行きつく。


 ではどのようにして陣地の中へ導くか? 私の配置はレフト。逆袈裟でゴブリンたちをシバいてシバいてシバきまくるのである。ライトのカエデさんは通常の八相……片手剣だけど。そこからビッシビシとシバいてやればいい。この辺りはシャルローネさんがカエデさんに指示を出している。そしてなんの問題もなくゴブリンの群れはナチュラルに二人のタンクの前に導かれた。



「こりゃ偉い数じゃのう」



 セキトリも呟くほどのゴブリンが斃される。もちろんキル状態となればゴブリンは消えていた。しかしそれでも、という数のゴブリンは逝っているはずだ。



「どうでしょうね、トヨムさん?」

「まだまだ、ここが踏ん張り所だぞ。シャルローネ」



 防御から転じて攻勢に出るには、まだ敵を叩き足りない。トヨムはそのように言っているのだ。襲いかかってくるゴブリンの数が、まだ減っていないのだ。私はトヨムの意見に一票である。

 そしてついに、ゴブリンの数が減ってきた。



「今だシャルローネ! 陣形変更!」

「了解しました、隊長!」



 いよいよヒットマンたちが前に出てくる。縦深型陣形とは正反対。ヒットマン二人が先頭、間隔は狭い。やじり型隊形で両翼はタンクの二人。最後尾両翼は私とカエデさん。つまり一点突破の陣形である。



「全軍突撃ーーっ!」



 トヨムの号令で全員駆け足。当たるを幸いゴブリンを蹴散らした。その果てにあったのは、草むらを刈り取ったように開けた場所に建つ、掘っ立て小屋の数々。ゴブリンの拠点であった。



「まだこんなにおったんかい」



 ボヤくセキトリだが、トヨムを守るように長得物をふるいゴブリンたちを近づけない。もちろんマミさんも双棍を振り回してガンバりを見せていた。そして私の相棒は……。



 上手い。



 ポジションをキビキビと変えて突いては走り、走っては斬るを繰り返していた。

 そしてカエデさんはひとつの動作が終わると、一度周囲を確認しているのがわかる。まずは見る。そして判断して動く。さらには必要な動きは何か? を選択して行動しているのだ。


 だからシャルローネさんもマミさんも、伸び伸びと闘うことができるのである。

 ゴブリンの拠点は壊滅した。もう、動く者はいない。本来ならば死屍累々、無残な光景が広がっているはずだが、キルを取られたゴブリンたちはすべて姿を消していた。



「おやぁ? これは何でしょうかぁ?」



 マミさんが掘っ立て小屋のむしろをめくっている。「そんなバッチぃもの、女の子が触るんじゃありません!」と叱りたいところだったが、時すでに遅く、そしてここはゲーム世界である。


 マミさんは壺を引っ張り出してきた。



「なんだい、そりゃ?」

「えらく汚れてるわね」



 カエデさんの眼差しは汚物でも見るようなものだった。



「お宝かもしれませんよぉ? エイッ!」



 中から出てきたのは、様々な冒険者たちが落としていったものだろう。折れた剣の切っ先や、槍の先。あるいは鎧の破片などであった。



「ま、まあまあ。ゴブリン先生たちにとってはお宝でしょうね。もしかしたら上等な金属も混ざってるかもしれないから、持って帰りましょ♪」



 チームのがっかりムードを、シャルローネさんが捲り返す。

 私たちは正式に『ゴブリンのお宝』をゲットした。しかしゲットしたアイテムというのはなかなかに邪魔くさい。



「そんな時はぁ……」



 マミさんが何もない空間を窓拭きするようなパントマイムを演じる。すると収納のような空間がパカッと開いた。



「収納に入れておきましょう♪」



 便利だな、ゲーム空間。まあ、今回の私たちはゲームプレイヤーなのだ。異世界ファンタジー小説の主人公ではない。これくらいの利便性は許容範囲である。



「旦那、何か来るぞ!」



 トヨムが何者かの気配を察知したようだ。小さな耳がピクピク動いている。プルプルが数体、そして野良の相撲取りだった。



「先制打!」



 トヨムが飛び込んで、左のボディーブロー! 野良の相撲取りの体力を大きく削った。しかしトヨムのクリティカルで一撃死しないとは、なかなかのタフネスである。

 それどころか反撃の張り手を飛ばしてきた。



「なんだい、そのテレフォンパンチは……」



 余裕でさけるトヨムだったが、半透明のプルプルに足を取られた。尻もちをつく。

 私が出た。張り手で出てきた小手を打つ。クリティカルだ。しかし体力はさほど削れていない。やはり中核というか急所バイタルを狙わないとダメなようだ。胃袋めがけて木刀を突き込んだ。

 野良の相撲取りはようやく姿を消した。



「危なかったな、トヨム」

「あぁ、助かったよ、旦那。アリガトね」



 足元で邪魔をするプルプルたちは、カエデさんが剣でブスブス刺し殺している。なるほどプルプルという奴は、単体では恐ろしくもなんともないのだが、別のモンスターとタッグを組めば厄介な存在になる。



「高々ファーストステージなのに、なかなか楽しませてくれますねぇ」

「こりゃ探索慣れが必要ぞい」

「そうですね、必要なのは慣れだと思います」



 そう言ったカエデさんだが、周囲を確認するところや的確な判断。そうした部分を加味すれば、探索にもっとも適正があるのではないかと期待してしまう。


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