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作戦名『お兄ちゃん! 亜美、飛んじゃう!』

 さて、久しぶりの私、リュウ視点です。


本日も悪の不正者集団、トニー皇帝軍を討ち果たすべく合同稽古の真っ最中。なにしろ最近では、狙い澄ましたかのように、私たち陸奥屋まほろば連合の同盟チームと彼らが対戦することが多くなっているらしいのだ。


 稽古にも当然熱が入る。

 しかしそこへ参謀会議から帰ってきた、各チーム参謀たち。やおらキョウちゃん♡ を呼び出すや「あーでもない」「こーでもない」とロクでもない内緒話をしている。


 何故ロクでもないとわかるか? それは参謀たち、とくに参謀長出雲鏡花の顔が悪だくみをしているようにしか見えないからである。

 つまり、今回の犠牲者はキョウちゃん♡

 ということだ。タッグシリーズでは私と士郎さんが芋を引かされたのだ。今回は若者に頑張ってもらいたいと願うのは人情だろう。




 さて、どうやらキョウちゃん♡ は六人制試合に出撃するようだが、そのメンバーが女性ばかり。

 その顔ぶれを出雲鏡花に御紹介いただこう。



「さて、みなさま御注目くださいませ! これより我らが同盟切ってのイケメンプレイヤー『キョウちゃん』さまが、六人制試合へ出陣いたしますわ!」

「いや、鏡花さん……ただの六人制試合へ出るだけだから……」



 見ろ、キョウちゃん♡ が戸惑っているだろう。なにを企むか、出雲鏡花?



「最近みなさまは六人制試合でトニー軍団と『何故か』よく対戦されて、痛い目に遭わされてらっしゃるようですが、彼奴めらに今こそ我らが『キョウちゃん♡』さまが正義の鉄槌をくだしてくれますことよ!」



 ほう、キョウちゃん♡を使っての不正者退治か。で? メンバー紹介を早う。



「そしてそのメンバーはお姉さま役に御剣かなめさま! キレイな先輩役に『まほろば』から剣士白銀輝夜さま! 同級生役に忍者さま! 後輩役にトヨム小隊マミさま! そして妹ポジションには三条歩さま!」



 おう、ちょっと待てやそこの悪役参謀長。その〇〇役って何よ? 何?



「お、リュウさん。その面は出雲鏡花の意図がわかりませんって面だな? わかんねぇか、同じギャルゲー世代なのによ?」



 士郎さんにそう言われて、ハタと気付く。

 そう、これはギャルゲーのハーレムシフトなのだ。しかし……何故? これほどまでのチーム編成を……。



「うん、そこは俺にもわからんのだ」



 したり顔で出てきた割には、草薙士郎、使えないことを言う。しかし鬼将軍の名前で「手空き総員観戦の位置へ」と命じられた。暇な奴ぁみんな応援してやれ、という指示である。


 何やら出雲鏡花にボソボソと作戦概要を告げられたであろう代表チーム一同。イタズラ小僧のように表情に明かりが射す。対してキョウちゃん♡ こちらは苦虫を噛み潰したような顔であった。



「いいのかい、士郎さん。跡継ぎが不穏な感じだぜ?」

「跡継ぎ? 草薙の跡継ぎはユキだぜ?」


「だからさ、士郎さん。なんでキョウちゃん♡ がこんな目に遭ってるか? さ」



 すると栗塚旭顔の男は仏頂面で答えた。



「わからんさ、そんなもの。だからこれからそれを拝見に行くんだろう?」



 まったくその通り。私たちは隣り合って座席につく。



 まずは両軍の選手紹介。我らがキョウちゃん♡ チームは特別編成なので、チーム名も『くりいむレモンパート1 媚・妹・Baby』とされていた。


その忌み名がなにを表すのか、同盟の中でもごく一部、年齢層の高い私や士郎さん、あるいは鬼将軍くらいにしか分からないだろう。


 あ、緑柳翁も笑っている。あなどれん老人だ。


 そして対戦相手。これがまた示し合わせたかのように黄金の甲冑を身に着けた武者ドンスケ揃い。トニー皇帝軍傘下『THE・CHERRYS』というのだからお笑いだ。



「かかりましたわね……♪」



 出雲鏡花の声が弾んでいる。ということでこれはなにかの罠だと、うかがい知ることができた。



「リュウさんや、これはトニー軍団、我々を狙って組み合わせを操作してるんじゃないのか?」

「まあ、そういう話はチラリと聞いたことがあるよ。だがしかし、それならそれで願ったりじゃないか。私たちの目的は不正者の横暴を許さないことだ。我々を対戦相手に選ぶというなら、一般的な正統派プレイヤーたちが、連中の毒牙にかかる確率が減る」


「だとしたらチーム名はキョウちゃん♡ とハーレムヒロインズの方が良くはないか?」

「あんた息子には本当に容赦無いねぇ……」



 ブリーフィングタイム終了、両軍が試合場に現れ顔を合わせる。が、チェリーボーイズの視線はすべてキョウちゃん♡ に集まっているように私は感じた。

 そして士郎さんも言う。



「おう、リュウさん。童貞軍団がえらく入れ込んどるぞ」



 そう、対戦相手のメンバーたちは一様に殺気立っていたのだ。ふむ、チェリーくんたちよ。君たち本当はキョウちゃん♡ のことが羨ましいんだろ? 私は羨ましくない。あんなに女の子たちに囲まれていては、ゲップが出てしまう。


 そして我らがキョウちゃん♡ も、大変に不本意という複雑な表情をしていた。


 だがそれでも無情のゴングは鳴る。


そしてイケメンキョウちゃん♡ に六人のチェリーボーイズが一斉に襲いかかったではないか。まさしくモテない男のヒガミ、ヤッカミその他もろもろである。しかしそこは草薙の剣士。敵の初手『いきなり必殺技ブッパ』をバックステップでかわす。



 しかし敵は六人。そして我が陣営の女性五人は、どうしたことか戦闘に加わらない。ただし、ジリジリと出番をうかがうようにキョウちゃん♡ との間を詰めている。

 いかに草薙の剣士と素人六人とはいえ、キョウちゃん♡にも危うい場面は生じた。



「ん! 横に回り込まれた!」

「あの阿呆め」



 とか言っているいとまもなく、美人秘書の御剣かなめさんが動いた。キョウちゃん♡ のベルトを掴んで引っ張り、窮地から救い出したのだ。


ほかの四人の女性プレイヤーたちは、キョウちゃん♡ が態勢を立て直すまで、時間稼ぎ程度のバトルを繰り広げていた。

そ の隙を使って、かなめさんがキョウちゃん♡ を軽く咎める。



「コラ、おっちょこちょいは相変わらずなんだから、キョウちゃん♡」



 全体放送で観客にまで聞こえるようにかなめさんは言った。そしてキョウちゃん♡ のおでこを人差し指でツン♡



「のう、士郎さんや?」

「なんじゃい、リュウさん?」


「なんですかいな、この茶番は?」

「知らんがな」



 まるでギャルゲーのようなこの展開。それを身内が演じて見せつけられるという罰ゲーム。誰が責任取るんだよ? この甘ったるい空気。


 昔から『人の不幸は蜜の味』というものだが、読者諸兄はその対となる言葉をご存知だろうか?

 『人の幸せ砂の味』というのである。だがこの場合、私は口から甘い砂糖を吐き出したくなる心境であった。


 そんな私の恨みが通じたか、チェリーボーイズのキョウちゃん♡ に対する攻撃は苛烈さを増した。そのときである。



「ひゃあ! センパイ、危ないっ!」



 おっと、今度はマミさんだ。まるで南国の太陽を浴びて育ったかのようなたわわなる胸の実り……有り体に言えばオッパイを使って、キョウちゃん♡ を窮地から弾き飛ばしたではないか。



「いてて、大丈夫かい? マミさん……」

「エヘヘ……マミさん、センパイのために頑張っちゃいました♪」



 これも高い、ヘイトが高い演出だ。もしもヘイトゲージというものがあるなら、ギュンギュンと上昇していることだろう。


 キョウちゃん♡ 現場に復帰。しかし敵はもうブッパしかして来ない。実に単純、こうなるともうキョウちゃん♡ならば相手が六人いようが十人いようが、屁の河童という状況だ。

 しかし! 満を持して茶房の看板娘、歩ちゃんが飛び出した!



「お兄ちゃん、危ないっ! あぁっ!」



 歩ちゃん被弾。敵の必殺技をまともに浴びている。それをカットしようとするキョウちゃん♡ を、四人の女の子たちが羽交い締めにして、救出を阻止していた。


 ライフゼロ、地面へと崩れ落ちる歩ちゃん。ようやく開放されたキョウちゃん♡ が歩ちゃんの元へ駆けつける。



「大丈夫か、歩ちゃん!」

「えへへ……ドジっちゃったなのですよ……お兄ちゃんは大丈夫だった?」


「あぁ、歩ちゃんのおかげさ!」

「よかった……なのですよ……」

「しっかりしろ、歩ちゃん! 歩ちゃーーんっ!」



 満場の涙を誘い、三条……歩無念の撤退。

 しかし私は士郎さんに訊く。



「のう、士郎さんや? 今おたくの息子さんに、危険な場面はありましたかいのう?」

「いんや、そうは見えんかったなぁ」

「それにしても士郎さん、コレどうすんべぇ?」



 コレとは、私が吐き出した大量の砂糖である。



「俺に押し付けようとはすんなよ? 俺もひと山幾らで売れるほど吐いたんだ」



 士郎さんの足元にも白く輝く砂糖の山ができていた。


 その後も同級生役の忍者、美人のセンパイ約として白銀輝夜が茶番を演じ、チェリーボーイズは発狂寸前というまでに怒り狂う。



 しかし試合時間残り十秒。



 散々茶番を演じてきた、チーム『くりいむレモン』の主役ヒロシくん……ではなくキョウちゃん♡ が木刀を一閃。またたく間に敵を葬ってしまった。スコアは6−1ということで、大変に恥ずかしいチーム名の『くりいむレモンパート1 媚・妹・Baby』が勝利と相成った。


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