表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/724

陸奥屋一党

ブックマーク登録ならびにポイント投票、誠にありがとうございます。作者ますますの励みとさせていただきます。

 シャルローネさんにメールを返信。話を通す都合上ゲーム内のトヨムのメールアドレスも添付しておく、とシャルローネさんからの返事。

 するとそれほど間を置くことなく、陸奥屋本店鬼組頭目を名乗る、鬼将軍という者からメールが届いた。

 内容はというと、これから面会をしたいというものだ。


 トヨムはすぐに了承の返事を送る。

 待つことしばし。拠点のドアがノックされた。トヨムがドアを開けると、まずは黒いスーツにタイトスカート、黒髪も見事な艶の美女が現れた。



「はじめまして、トヨム組リーダーのトヨムさん。私は陸奥屋本店鬼組党首鬼将軍の秘書、御剣かなめともうします。本日は面会の快い御承諾、まことにありがとう御座います」

「あ、あぁ……」



 こうしたかしこまった口上に、トヨムは弱いようだ。しかし御剣かなめは続ける。



「そしてこちらがわたくしどもの党首、鬼将軍にございます」



 ドアがさらに開かれて、銀髪の男が入ってきた。

 怪しい奴。私の第一印象は最悪なものだった。

 なぜなら奴は黒いマントを羽織っていた。そして真っ白な詰め襟の軍服を着ている。勲章のようなものを盛大にぶら下げ、金モールまで肩から胸に伸びている。そして下半身はゆとりのある真っ白な乗馬ズボン。ピカピカに磨かれた黒い革長靴。ズバリ言おう、真っ白を詰め襟軍服は海軍のものである。


しかしコイツは陸軍の革長靴を履いていた。そして『鬼将軍』を名乗っているのに海軍の制服。『将軍』の呼称は陸軍だろうが! お前海軍か陸軍かはっきりしろ! っつーか金モールは参謀の着けるものであり、将軍っつーか提督のつけるモンじゃねーっ!

 ……疲れる、ツッコミだけで疲れ果ててしまいそうな男だ。

 そしてコイツ、メガネに冷たい眼差しだけはなかなかの二枚目と言えるのだから始末に悪い。



「初めてお目にかかる、私は陸奥屋軍総裁鬼将軍」



 ここで男はマントをひるがえした。



「すなわちこの王国の征服を狙う、悪の帝王だーーっ! ハーッハッハッハ! ぐひ」



 美人秘書、そんな阿呆に飛び膝蹴り。

 しかし白軍服の阿呆はすぐにダウンから回復する。



「失礼、あまりにもこの出合いが嬉しすぎて、つい我を見失ってしまった」



 いや、『つい』という割には堂に入った名乗りだったぞ? というか貴様、その見得は使いなれてるんだろ。

 まあ立ち話もなんだから、というセキトリのはからいで、二人を応接用のソファに案内した。

 鬼将軍と御剣かなめ、対するソファには私とトヨム。セキトリが座ると狭すぎるソファなのだ。



「早速だが本題に入らせてもらおう」



 インテリ眼鏡が妖しく光った。



「トヨム組諸君、君たちのこころにときめきはあるかね?」

「は?」



 思わず聞き返してしまう。



「ワシャあるぞい、リュウ先生との稽古や戦闘はたのしくて仕方ないわい」



 セキトリが答える。

 それにトヨムが続いた。



「アタイも同じだね。試合では圧勝楽勝に見えるかもしれないけど、そうなるための稽古がシビレるんだ」

「ではリュウ先生、貴方はいかがかな?」



 私にとってはかなり直球な質問であった。この年でまさか瞳を輝かせて「ハイ、ときめいています♪」などとは言えない。かといって心がシナビてしまっている訳でもない。毎日の戦闘が、それを証明している。



「先日不正者退治を行ったのですが」

「あぁ、あの必殺技ブッパ連中との一戦かね? 動画を拝見した」


「あの折リーダーのトヨムが私にときめきをくれたのです。ゲーム上の必殺技を生身でやってみないか? とね……」

「拝見した、傘下の士郎先生……士郎めも感心しておりました。これほどの使い手がいようとは、と。して、それはときめきに繋がりましたかな?」


「私は現代社会における古流武術の存在価値について悩んでおりました。が、こうした形の生き延び方でもいいんじゃないかと」

「つまりは?」

「とても楽しかったです」

「ときめいていますね、リュウ先生」

「年甲斐もなく」


「おや? では男子たる者、いくつからときめいてはいけないのですかな?」



 まるで、男子たる者、男子である限りはいくつになってもときめいているべきだ! と言わんばかりである。



「陸奥屋……私たちはつねに胸にときめきを抱えている……。小利口などにはならず、愚直なまでに男子を貫いている……」



 さらわれる、今まさに私の心がさらわれそうになっている。奴の言葉は悪魔のように、まるで悪魔のように人の心をさらってゆく!

 そうだ、この男は悪魔のように、ではなく悪魔そのものなのだ!



「ともに歩んで行こう、リュウ先生。セキトリ君、そしてトヨムリーダー。そしてこのゲーム世界を、ひとつの理想郷に仕立て上げるのだ! 立ち上がるのは今だぞ、私たちと同盟を結び、その傘下に入りたまえ!」



 考えるいとまなど無し。すでにトヨムは同盟承諾、傘下加入の手続きをしてしまっていた。



「ありがとう、トヨム組諸君。君たちが承諾してくれたおかげで、私たちは千人力だ。それではこれで失礼する! 私の名は鬼将軍! 悪の組織陸奥屋の総裁だーーっ! ハーッハッハッハッ!」



 マントを翻しながら、天災のような男は去っていった。

それからしばし、トヨムは同盟申請の対応に追われた。陸奥屋一党軍の同盟クラン傘下クランであろう。陸奥屋鬼組、さきほど動画をチェックした六人衆だ。さらには陸奥屋力士組、陸奥屋槍組、抜刀組。陸奥屋吶喊組などである。陸奥屋一党、なるほど一党をなすほどに大所帯ということか。


 それらの処理を終えると、不幸なメールが届いた。シャルローネさんからだ。

 トヨムが読み上げる。



「え〜〜なになに? トヨムさんたちが陸奥屋一党に加盟するから、鬼将軍が私たちのとこにも来ちゃいました! しかもウチのマミをたぶらかして、まんまと白百合剣士団も加盟させられて! あ〜んもう、お嫁にいけなーい!! ……だってさ、旦那」

「……なにか気の利いた返信をしてやれ。傷心の彼女たちを助け出すんだ」


「え〜〜っと、じゃあ……お嫁に行けなくなったらみんなまとめてアタイのお嫁さんにしてやるよ……返信、ポチッとな」

「いい返信だ、トヨム。男前すぎて私がお嫁に行きたくなるぞ」



 しばらくして、白百合剣士団からの返信。

 それを読んだトヨムは複雑な表情というか、脂汗をダラダラ流し始めた。



「どうしよう、旦那……」



 救いを求める顔と声。

 何があったかとトヨムのウィンドウをのぞいてみる。

 写メであった。ハートマークが飛び交っている。そして満面の笑みな白百合剣士団の三人娘は、ウェディングドレスを着てブーケを抱えている。


 その写真には加工文字が。「幸せにしてね、トヨムさ〜ん♡」と添えられていた。

 セキトリがトヨムの肩をポンと叩く。



「ガンバれよ、トヨム……」



 そして去ってゆく。

 私もトヨムの肩を叩いた。



「幸せにな、トヨム」



 そして私も去ってゆく。



「ちょ! 待って! これシャレ、シャレだから! あたいノーマル、ノット百合! ゆーしー!?」



 私のログアウトの直前、トヨムの悲痛な叫びが聞こえてきた。

 心配するなトヨム、どうせ彼女たちもオフザケだ。まともに取り合うな。

 翌日夕方にログイン。拠点でトヨムはソファに座り少しスネていた。



「どうしたんだ、トヨム?」

「昨夜は大変だったんだぞ、旦那。白百合剣士団にどうやってお断りメール出そうかって悩んだんだからな!」

「あぁ、一人にして悪かったな。だけど私なんかが口を挟む問題じゃあない。トヨムが自分の気持ちに正直になればいいだけさ」


「そーじゃないよ、悩んで悩んで悩んでたら、またシャルローネたちからメールが入ってさ。『あの……冗談ですからね?』だってさ! アタイどこまでからかわれてんだよ!」

「人気者税みたいなものだ、気前よく支払ってやれ。みんなトヨムが可愛くて仕方ないんだよ」



 私が言うとトヨムの頭にピョコンと犬耳が生えた、ように見えた。



「え!? あんな可愛らしい娘たちから見て、アタイ可愛いの!?」

「そうだろ? あの娘たちよりトヨムはずっと小柄なんだ。いわゆるちっちゃくて可愛いという奴さ」



 生えた! 今度は尻尾まで生えた! そして千切れるくらいにブンブンと振っている!



「いやぁ確かにさぁ、アタイはちっちゃいけど……そんなぁ、あんな可愛らしい女の子たちからそんな風に見られてたら、アタイ照れちゃう♪」



 チビでガリガリ、色も黒くて蓮っ葉で。きっとトヨムをかわいいと言ってくれた者は、その生涯で存在しなかったのだろう。不憫な娘だ。

 しかしトヨム、照れちゃうのはわかったからグニョグニョと軟化するほどトロけるな。さすがに気味が悪い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ