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カエデ地獄最終章 リュウ編

 さて、久しぶりに私の視点だ。とはいえ私自身今回のタッグシリーズはすでにダレてしまっている。


 全男子垂涎のアイテム、チャンピオンベルトをこの手にできると勇んで参加したこのミニイベントだったが、パートナーが『あの!』鬼将軍であり、その鬼将軍がまた「私を撤退させたなら、パートナー・リュウは自動的に棄権することを約束しよう!」などとホザいてしまったがために、私たちは連戦連敗。


とにかく鬼将軍が集中攻撃を浴びてしまいまともな勝負になりゃしないという有り様。


 もはやこのシリーズは私にとって、鬼将軍ワンマンショーとか、パフォーマンス・オブ・鬼将軍という状況にまで陥っていたのだ。そして悪いことに、シリーズ大詰めというこの場面で、迎えた相手がカエデさんとフィー先生なのだ。


 まさに破竹の勢い。飛ぶ鳥を落とす勢いの女の子チーム。士郎さんが負けた、シャルローネさんとセキトリもヤラレた。白銀輝夜とユキさんのコンビも倒された。要するに陸奥屋まほろば同盟がことごとくこの二人に土をつけられているのだ。



「総裁、このまま彼女たちに総ナメにされては、大人としての沽券にかかわりますよ」

「わかっているとも、リュウ先生。まかせておきたまえ、この鬼将軍に秘策あり、だ」



 どうせロクな秘策ではなかろう。それが火を見るより明らかというのが、なんとも腹立たしいではないか。しかしそれでもリングイン。



「待ってました鬼将軍!」

「今日はどんな負けっぷりを見せてくれるんだ!?」

「総裁! 総裁! 俺たちの総裁!!」



 観客席の男衆たちから、大変な歓声が飛ぶ。ちなみにこの歓声は、陸奥屋一党の若衆たちのものではない。このわずかな期間、タッグシリーズの最中にこの男が集めたファンなのである。


 そして特筆すべきことは、この男が集めたファンに、女の子はひとりもいないことだった。

 男衆には人気だな、鬼将軍。

 羨ましく無いぜ、鬼将軍。



「総裁! 総裁! 俺がついてる!」

「もう辛抱たまらんぞーーっ!」

「好っきじゃーー! 総裁! だだだ抱いてくれーーっ!」



 ……本当に、心の底から羨ましく無いぞ、鬼将軍。


 両チーム、リング中央でボディチェック。そしてそれぞれのコーナーに戻って、ゴングを待っている最中に、この男はおかしなことをホザき始めた。



「何をしているのかね、リュウ先生! さっさとあの小娘どもと合流しないかっ!?」



 なに? 何を言ってるんだ、この男は?



「タッグイベントも最終戦だ! もっとスペッシャルに! もっと華やかに幕を引かねばならないだろう!」



 いや、それはそうだが……。



「ならば三対一だ! 三人まとめてかかってこい! 私が一人で相手してくれるわ!」



 ほほう、それは確かにスペッシャルな企画だね。面白いじゃないか。



「よし、鬼将軍の華やかな死に様! この私が華麗に演出してやろう!」



 ボックスを出る。そしてフィー先生の控えるボックスへとお邪魔した。事態をイマイチ把握できていないフィー先生は、目を丸くしている。試合権のあるカエデさんも、茫然自失の様子だ。



「カエデさん、まずは私とタッチ交代だ。この試合がどんな試合か、まずはそれを把握してもらおう」



 呆気にとられたままのカエデさんと交代。私が鬼将軍と対面するだけで、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。


 怒涛のような鬼将軍コール、そして私の名をコールする声も同等の数。注目を集めている。そして鬼将軍という男、世界の注目を集めれば集めるほど、光り輝く男である。そのニヤリと浮かべた不敵な笑みも、ニクいくらいに似合っていた。


 ゴング!


 同時に私たちの名を呼ぶコールは、ただの大歓声となり渦巻いた。

 突進してくる鬼将軍。そこに私は地下足袋十六文キック!


 これが鬼将軍の胸板を貫いた。しかし私たちは本来同陣営、フレンドリーファイアは無効である。だからこそ! 私は存分に試合を盛り上げることができるのだ!


 ダウンした鬼将軍を引き起こし、ジャンプ一番脳天唐竹割りの空手チョップ。頭を掴んでヒザに押し当て、そのまま地面を踏みしめるココナッツ・クラッシュ。そして河津掛けから、大きく脚を振り上げて河津落としのジャイアント殺法のオンパレード!


 もちろん私の装備は武装とみとめられていないものばかりなので、ここでも鬼将軍にダメージは入らない。しかし鬼将軍も闘魂を燃やす。果敢にも私にボディブロー。


ヒザを着いたままのペチペチパンチでしかないのだが、それでも熱心に叩いてくる。ここで私は鬼将軍を立ち上がらせ、ロープに振る要領でボックスへと鬼将軍を走らせた。ボックスの仕切り板へ背中から激突する鬼将軍。まずは見事なやられっぷりで会場を熱くする。


 ここで私はフィー先生にタッチ。仕切り板最上段に立ち上がったフィー先生、しゃがんで立ち上がって、勢いをつけてからのドロップキック。ダウンした鬼将軍の手首を取って、グイグイと絞り上げる。鬼将軍は前転を一回二回、逆にフィー先生のヒジを折り曲げた。


 しかし場を読むことにかけては天才級のカエデさん。仕切り板最上段から、鬼将軍目掛けてここでもドロップキック!


 試合権が無い、つまりいくら痛めつけても鬼将軍の体力ゲージは減ることが無い。つまり奴が撤退することもできないのをいいことに、カエデさんの裏投げ一発。さらにはエルボードロップ。そして乙女の太ももを叩きつける断頭台、ギロチンドロップを連発した。


 こうなると私も無理をしよう。鬼将軍に背中を向けて最上段、月面宙返りのムーンサルトボディプレス! が、届かない! 自爆してしまった私に場内大爆笑。やはり男四十代、無理はできないものである。


しかしそれにしても、坂本龍馬のムーンサルトボディプレスというのは、ビジュアル的にどうなのだろうか?

 ここで試合権を得たカエデさん、地味なレッグロックで鬼将軍の脚を痛めつけている。しかし意外と寝技の上手い鬼将軍、この窮地を脱してカエデさんにアキレス腱固め。



 今度こそ私の出番だ。最上段からのダイビングヘッドバット、これは決まった。

 痛みを感じないVRMMOゲーム世界だが、鬼将軍は背中を弓なりにして苦しんでいる。ときにはブリッジしてまで。そうだ鬼将軍、そのオーバージェスチャーが観客を盛り上げるのだ。


 そしてこの男はそのツボ所をニクいまでに心得ている。


 観客の興奮は頂点に達した。いよいよフィニッシュの時である。カエデさんが鬼将軍を引きずり起こしてフルネルソンの羽交い締め。そこへフィー先生のミサイル式ドロップキック。私も援護射撃のドロップキック。


グラつく鬼将軍を羽交い締めのまま、カエデさんは人間橋を作りながらの美しいスープレックス。


 ガタッと鬼将軍の体力ゲージが減る。しかしまだ生き残っていた。鬼将軍を引き起こしたカエデさん、今度は胴体に腕を回しての人間橋、ジャーマンスープレックスホールドだ。ブリッジをささえるカエデさんのつま先が浮き上がるほどの勢いである。


 ミリ残りの体力ゲージが粉砕され、遂に鬼将軍は撤退した。



 同時に私も白旗をあげる。これで総ナメ、カエデさんとフィー先生のチームは、陸奥屋まほろば連合のすべてのチームに勝利したのである。

それだけではない。


 総合得点を計算した運営が、カエデさんチームの優勝を確定したのである。


 ミニイベント、タッグシリーズ。最終戦こそ王国の刃なのかプロレスなのか、グダグダになった感はあるがしかし、戦闘者の入れ代わりがこれほど重要なシリーズも過去に無かったであろう。


特に回復ポーションの使い所、あるいは手裏剣の有用性といったものは、一度使用するとしばらくの間再使用ができないので、勝負堪というものが必要になってくる。


そして出雲鏡花に知らされたのだが、カエデさんの戦略眼。今回のイベントでは、何よりもそれがモノを言った。

 ……イベントの終了時刻だ。表彰式が行われ、運営からカエデさんとフィー先生が呼び出される。

 試合場中央、観客たちに見守られながらベルトを受け取るふたり。

 私たちのそばでは、新人と呼んで差し支えない同盟プレイヤーたちが歓喜している。



「すっげぇなー、俺たちの同盟。イベントで優勝者が出ちまうんだぜ!」

「主力はあのカエデさんだったらしいけど、ホント頼りになるよな……」

「俺たちもあんな風になりてぇよなー」



 光り輝くチャンピオンベルト。その片方が、私たちの拠点に飾られることになった。

 おめでとう、カエデさん。ようやく光のあたる場所へ出て来られたんだ、君は。




 かつて仲間に裏切られ、つらい過去を背負った少女が、ようやく周囲から認められることになったのだ。


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