カエデ地獄……シャルローネ編
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いやいやいや、まさかまさかの士郎先生に対する勝利! まさしく大金星だよ、カエデちゃん!
あ、どもどもシャルローネです。その後もカエデちゃんとフィー先生のタッグは巧妙なタッチワークで連戦連勝♪
そしてなにを隠そう、私とセキトリさんのチームも全戦全勝♪ 次々と勝ち星を重ねているのですよ♪
だけど同じ全戦全勝でも、カエデちゃんとフィー先生、士郎先生に土をつけての全戦全勝だから格でいうなら向こうがグッと格上。これは負けてはいられませんよ〜セキトリさん!
「おう! 技のシャルローネ、力のセキトリじゃい!」
「で、中途半端なV3ですか?」
「なんじゃそりゃ?」
おぉう!? 古来から伝わる伝統のネタが通じませんか、そうですか……。
「それにしてもカエデさん、やるもんじゃのう……」
「そうだよね、まさか士郎先生に土をつけての全戦全勝だもんね」
「いやいやシャルローネさん、そこでのぅての。あの足の甲への棒手裏剣、あれが上手く刺さったってのがよ」
「あ〜〜……カエデちゃん言ってたねぇ……『達人の足はいつも同じ場所にある』って……」
「よもや士郎先生の足の位置まで知り尽くしての棒手裏剣とはよ……まったく恐ろしいモンじゃい」
「みんなわかってるのかな? カエデちゃんの怖さが……」
「わからんわからん」
そう言って、セキトリさんは観客席を眺めてる。
「じゃがのう、シャルローネさんや。カエデさんの本当の怖さ、恐ろしさが一番わかっとらんのは、案外ワシらかもしれんぞ?」
「あ〜〜『カエデちゃんのことわかっとらん合戦』なら、このシャルローネさんはブッチギリで優勝の自信がありますわー……」
「いやいや、リュウ先生もなかなかわかっとらんぞい? リュウ先生にとっちゃカエデさんは、まだまだ愛弟子でまだまだ可愛らしい女の子にしか見えとらんじゃろ?」
「へっへっへ〜〜。甘々の慰め言葉にハグでしたからなぁ〜〜。リュウ先生もああいうところがオトコの人ですよね〜〜♪」
「ともあれ今のカエデさん、よもやでリュウ先生のことも負かしてしまいかねんぞい?」
「千回に一回の勝ちを得る、か……。だけど『勝った者が強い』っていう世界だからねぇ……」
素直に認めるしかない。今のカエデちゃんは士郎先生よりも強いんだって……。
そう、私とセキトリさんのチームは、まだカエデちゃんたちと戦っていないんだから……。
そのカエデちゃんたちが、目の前で勝利を重ねた。
迷走戦隊マヨウンジャーの大柄女性ベルキラさんと、小柄な女性ホロホロさんのコンビにだ。ベルキラさんとホロホロさんのタッチワークは良好だった。息の合ったコンビプレーでカエデちゃんもあわや、という場面がいくつか見受けられた。
「なのに負けてしまいましたわね、ホロホロさん方」
いきなり現れたのはチーム『まほろば』の軍師、出雲鏡花さん。そして前触れも無しに謎かけですか?
「なぜ負けてしまったかおわかりでして、シャルローネさん?」
「えとえと……カエデちゃんの逆転技が決まったから?」
「それは結果ですわね? では何故逆転一発を入れることができたのか?」
鏡花さん、こんどはセキトリさんに質問。
「ん〜〜……ワシの目には相手チームが調子に乗り過ぎたように見えたかのう?」
「それも結果だとしたら? 何故相手チームが調子に乗ってしまったか? いよいよ問題点の核心ですわ♪」
ん〜〜……もしかして……いや、まさか……。だけど出雲鏡花さんのちょっぴり意地悪い眼差し。それを満足させる答えって、これしかないよね?
「もしかして、カエデちゃんが相手を調子に……乗せたとか?」
「もっと正確に言うのでしたら、あの一戦はカエデさんが試合をコントロールしておりましたわ。自分が打たれ役、だけど致命傷は避けて。ホロホロさんチームはコンビネーションプレーには絶対の自信を持っておりましたから、そこに乗せてあげたら絶対に隙ができる、と」
「打たれ役? ……まさか……」
「あらシャルローネさん、お忘れでして? カエデさんの光り輝く大活躍を。そうですわね、味方に置いていてはカエデさんの輝きは分からないものでしてよ。ですがあの夏イベント、敵軍にいたわたくしには、財宝のようにカエデさんが輝いて見えましたわ」
夏イベント……カエデちゃんの大活躍……あっ! と声をあげてしまう。カエデちゃんの囮作戦!
そうだ、カエデちゃんは打たれ役なんてお手の物。というかまさに十八番の芸じゃない!
「おう、シャルローネさん……なんぞワシぁ背筋が寒くなったぞい」
「ごめん、セキトリさん。私もです……」
そんな私たちを尻目に、鏡花さんはコロコロと鈴のように笑っている。
「あら、素敵な方ではございませんこと? 人類の叡智を以て高貴なる野蛮人たちを討ち果たす。そうでなくては世の中面白くありませんわ♪」
「そりゃ鏡花さんは討ち取る側だから面白かろうて。ワシぁ討ち取られる側じゃから、罠にかかってもがいているイノシシを思い出すぞい」
「あら、セキトリさん。イノシシでしたらすでに一頭狩られておりますわよ?」
鏡花さんが指差すのは、観客席のトヨム小隊長。そっか、そういえば小隊長。すでにカエデちゃんにヤラレてたっけ。
そして鏡花さん、今度はカエデちゃんに熱い眼差しを向けてため息。
「あぁ、いいですわね……カエデさん……。一般試合で若手を鍛えて下さいませんかしら……」
ん? これって暗に私の口からカエデちゃんに伝えてくれっていう話なのかな? それとも私が伝えることでカエデちゃんが断れないように外堀を埋めるつもり?
それよりなにより……。
「鏡花さん、カエデちゃんに若手を鍛えてもらうって、どゆこと?」
「そうですわね、若手のみなさんに試合上での駆け引き。具体的に申すのでしたら出どころ退きどころの勘を伝授。あるいは『負けても勝ち』という価値観の伝授とか、それはもう伝えていただきたいことが目白押しですわ」
「それなら鏡花さん、アンタが直接言えばよかろうが」
回りくどいことが嫌いそうな、悪く言えば直球ストレート人生のセキトリさんが憮然としている。
「もちろんお願いいたしますわ。なにしろカエデさんはわたくし出雲鏡花の『秘策』そのものなのですから♪」
「ホンマかいのう?」
胡散臭いものでも見る眼差しのセキトリさん。あ、私こういうの知ってる。劉備玄徳が入れ込む諸葛亮孔明を見る、蜀軍豪傑たちの目だ。でもって孔明さんが結果を出すや「さすが軍師どの!」なんてあっさり評価を覆す、アレだよね?
「じゃあ鏡花さん、私からカエデちゃんに伝えても、いいですか?」
「あら? あらあら? シャルローネさま、まだ高校生でしたわよね?」
「はい、そうですが……」
「まだお若いのに、聡明ですわね。ホホホ……」
なにを言ってんだか、そう仕向けてるクセに……。なんだかセキトリさんの気持ちがわかる気がするなぁ……。回りくどすぎですよ、鏡花さん?
ん? そういえば鏡花さん、カエデちゃんのこと秘策そのものって言ったよね?
それってもしかしてカエデちゃんに丸投げするってことなんじゃ……。
「あの、鏡花さん?」
声をかけようにも、鏡花さんはホホホと笑いながら去っていくところでした……。
で、試合場から帰って来たカエデちゃん。セキトリさんと一緒に事の顛末を告げる。
「あー、鏡花さんがそんなこと言ってたんだー?」
「乗り気じゃないならやる必要なんぞ無いぞい、カエデさん?」
「へへっ、セキトリさんは私のこと心配してくれてるんですよね? ちょっぴろ嬉しいかな……。で、シャルローネはシャルローネで鏡花さんのこと胡散臭いとか思ってんでしょ?」
おぉう、カエデちゃん。いつの間にチミはそんなに鋭くなったのかね?
「でも御心配なく。鏡花さんと私、たぶん同じところを見てる。実は私も新人くんたちと一緒に試合しておきたいって思ってたんだ♪」
うえ!? そうなの、カエデちゃん!?
「冬イベントの肝、カエデ囮部隊。やっぱりトニー皇帝閣下をよそへ逃さないためにも、美味しそうな餌はたっぷりと用意しておきたいからね」
……とかなんとか話をしていたんだけど、やっぱりタッグシリーズでカエデちゃんチームと対戦。セキトリさんはフィー先生に翻弄されるわ、このシャルローネさんもカエデちゃんにベコベコにやっつけられるわでもう散々。二人揃ってペロリと平らげられてしまいましたとさ。




