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草薙士郎の場合

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 さて、どうしてこうなった?



 俺は士郎。陸奥屋鬼組リーダーの士郎だ。

 どうしてこうなった? と疑問符を打つからには、まずは状況を確認しなければならない。


 いま、俺は最強タッグシリーズに出場して試合をしている最中だ。タッグシリーズというからにはパートナーが存在する。俺に背中を向けている黒髪も艷やかな巫女服の小娘、チーム『まほろば』リーダー天宮緋影がそうである。


 そして試合中というからには、対戦相手が二人いる。ひとりはボックスに控えた……いや、控えていないな。ボックスから試合権を持つ相棒へ、必死の檄を飛ばす巨漢ダイスケくん。つまり俺のチームメイト。


そして試合権を持つ、黒コゲのダウンを喫している『潰されたゴキブリ』よりも情けない姿を公衆の面前に晒しているのが、あろうことか我が愚息キョウであったりする。



 改めて問おう、どうしてこうなった?



 そう、事の起こりはあの阿呆。俺のダチとも言える男、チーム『嗚呼!!花のトヨム小隊』所属の剣士、リュウである。


あの阿呆が自分とこの小僧小娘を相手にタッグを組んでいれば良いものを、選りにも選って我らがバカ大将陸奥屋総裁鬼将軍と組んだことから始まった。



 何を考えてやがる、バカじゃねーのお前!



 俺も散々に罵ったさ。しかし奴がもらした言い訳は「……いつの間にかさ、いつの間にかそんなことになってるものなんだよ、同志」だけだった。


 しかし何がどうしたか、それなりに理由があろうとも、それが他人に累を及ぼすのはいただけない。

 そう、その他人というのが俺ならばなおさらだ。



 さて俺はメンバーの誰とタッグを組もうかな? と『王国の刃』にインした途端、メールが届いたのである。

そう、俺の行動を監視していたかのように、狙い撃ちで。



 それは天宮緋影からのメールだった。内容は簡単、すぐさま『まほろば』まで来られたし、というものだった。


 ということで何が何やらという感覚で『まほろば』へ。すぐさま案内をされ、畳敷きの広間へ。

 御簾の向こうの天宮緋影が、どことなく苛立ちを隠せない口調で切り出してきた。



「草薙、あの鬼将軍がリュウ先生とたっぐを組むそうですね?」

「は、そのように伺っておりますが……」

「ですから草薙! あの鬼将軍がリュウ先生とたっぐを組むのですよ!?」



 だからどうしたというのだ?

 疑問に感じていると、となりで面を伏せていたポニーテールの御門芙蓉にヒジで突っつかれた。



「ほら、士郎センセ。ひ〜ちゃんはまだタッグパートナーを決めてないんだから!」



 小さな声で催促される。



 なるほど、そういうことか。確か天宮緋影、えらく身分が高いとか聞いてたが、あちらからタッグの申請はできないということか。



「左様、こともあろうに総裁鬼将軍、剣豪リュウを従えての出陣に御座る。かくなる上は拙者もそれ相応なる人物とタッグを組みたいところですが……さて?」

「そうですね、鬼将軍に並ぶ者など、この王国の刃広しといえどそうそういるものではありませんよね?」



 急に機嫌がよくなった。こういうところはまだまだ子供なのだろう。



「つきましては緋影さま」



 上機嫌のあまりお花がぽよぽよと舞って来そうな御簾に頭をさげる。



「なんでしょうか、草薙?」

「これなる御門芙蓉をお貸し頂けないでしょうか?」



 ズッコケた。御簾の向こうで盛大にズッコケた気配がする。ザマアミロだ、どれだけ身分が高かろうと大の大人を呼び出しておいて、要件ひとつ切り出さないのが悪いのだ。


 とはいえそこは俺も大人。すぐに「冗談です」と付け加えた。



「それでは草薙?」



 まだ冠とかズッコケのダメージから回復していないのだろう。いろいろと乱れを正している気配がした。



「は、御都合よろしければこの草薙めとタッグを組んでいただけるよう、お願い申し上げます」

「受けましょう、草薙。あの栄光のちゃんぴおんべると、真に相応しいのは誰なのか? 鬼将軍めに知らしめてやりましょう」



 といった経緯で大変に面倒くさいタッグパートナーを得るに至ったのだが、実を言えば天宮緋影、こいつ鬼将軍に遊んでもらいたいだけなんじゃないのか? とも思う。


 そしてタッグシリーズに参戦、初戦から我が愚息とダイスケくんのチームに当たる。

 プロレスにおいては先鋒は格下が務めるものと相場が決まっているが、なんと天宮緋影が出ると決めてあった。



 その天宮緋影、入場のときも選手紹介やボディーチェックのときも、ずっと印を結んだりブツブツ言っていたりした。

 そして初陣のゴング! 天宮緋影が目を見開くと同時、先鋒を務める愚息に雷が落ちたのだ!


 そして、現在に至る。



「見ましたか、草薙。これが我が家に伝わる雷神召喚の術ですよ!」



 胸を張ってふんぞり返る天宮緋影。とりあえずその脳天にツッコミの空手チョップ。



「バカ野郎! 王国の刃は魔法無しの肉弾戦ゲームだろうが! 世界観を土台からひっくり返してどうするつもりだ!」



 案の定、ブッブーとブザーが鳴った。運営からコールが入る。



「天宮緋影選手によるただいまの攻撃は、王国の刃では認められません。というか基本機能にそういうシステムは組み込まれていないのですが……。よって天宮緋影選手の重大な反則行為とみなし、反則負けと裁定します!」



 いきなりの黒星発進。プロレスならば大変に面白い展開ではあるのだが、天宮緋影はふくれている。



「非力な乙女の乾坤一擲を否定するだなんて、運営も心が狭いですね」



 うるせぇよ、女ブッチャー。お前反則を全然反省してねーだろ? つーかゲームの概念根本から覆すの、本当にやめろや。



「こんな私の術式を封じたりして、運営は私にどう戦えというのでしょう?」



 考え無しかよ。っつーかんな反則技、禁止されるに決まってんだろ。そんな常識もねーのかよ、お前ぇの頭ン中にゃーよ。



「それにしても雷神さまもゲーム世界まで降臨してくださるなんて、お優しい神さまです」



 どうしてそう神秘の力を無駄使いするかなぁ……ありがた味もへったくれも無いだろ。

 っつーか俺もリュウさんのこと笑えねーな。何気に初黒星だぜ。もっとも俺の撤退で負けた訳じゃないがな。



「あぁっ! そういえば大事なことを宣言するのを忘れてました!」



 何を思ったか天宮緋影、ボックスの仕切り板にヨジヨジとよじ登り、俺の肩を掴んでバランスを取りながら胸を張った。



「聞きなさい、敵陣営選手よ! これなる剣士士郎は王国の刃広しといえど並び立つ者無き剛の者! 貴方たちが束になっても敵わない剣豪です! しかしそれではシリーズが盛り上がりません! よって私天宮緋影を倒せば剣士士郎は自動的に試合放棄、貴方たちの勝ちとしましょう!」



 今になってナニ言ってんのさ、アンタ!

 もちろん会場はツッコミの嵐、しかし天宮緋影はやりとげた顔で大きく息をいた。



「ふう、これで条件は鬼将軍と同じ。正々堂々と競い合うことができます」



 やっぱりお前、鬼将軍に遊んでもらいたいだけじゃねーか。



「さあ、帰りますよ草薙……おっとっと……あら? あら……あ〜〜っ!」



 天宮緋影、仕切り板から転落。ドテポキぐしゃ〜〜っ! というしてはならない音が聞こえてきた。

 天宮緋影、担架で退場。しかしその満足気な顔はキラキラと輝いてみえた。



 帰還した控室ドレッシングルーム。お付きの御門芙蓉、比良坂瑠璃により包帯でグルグル巻きにされる天宮緋影に告げる。



「いいかい、お嬢さん。俺としてはこういったおフザケの試合は嫌いじゃない。しかしゲームの基本設定や概念を覆す真似はいかがかと思う。わかるね?」

「わかっています、草薙。術式を使ったふぁいとは他のプレイヤーにとっても興冷めというのですね?」



 包帯まみれなのでほんとうはもっとモガモガという口調なのだが、そこはそれ。



「オーケイ、君が物分りのいいお嬢さんで助かるよ」

「なにを隠そうこの私、天宮緋影は修行の一環で体術の心得もあるんですよ」

「なるほど、それならば次の試合で期待しているよ」



 とはいえ普段の彼女の動きからすると、その体術とやらも当てにはならなさそうだ。

 これはリュウさんと黒星競争をすることになりそうだな。




 無敗記録の更新から逃れることのできた安堵感、それと彼女に対する不安感が俺の胸で複雑に入り混じっていた。


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