先を歩く者……陸奥屋……
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さあ、不正者討伐第二弾だ! 錦の御旗は我にあり!
いつものようにセキトリがセンター、レフトは私。ライトがトヨムである。そして敵は大柄な甲冑武者が三人、その三人ともが長柄のメイスにスパイクをつけて、まったく芸のないことであった。
いや、芸(笑)はあった。三人が同じタイミングで1、2の3。必殺技を繰り出したのだ。八方撃とかいう技である。弾幕のように短い時間ではあるが、八方向からの打撃を繰り返すのである。
私とトヨムは横に回る、セキトリなどはすでに懐に入っていた。
つまり、セキトリが相手にしたセンターの敵だけは必殺技不発。すでにマワシまで取られていた。
必殺技など、正面に立たないか懐に入って不発にするか、あるいは一歩さがって間を外せば怖くもなんともない。日々の稽古でそれは試していた。そう、私たちにも使える必殺技はあるのだ。ただ試合の中では使わないだけ。
ということで、抜刀からの四連撃。まずは下から小手を打ち、返す刀で上から打つ。その反動を利用して、頭上で木刀を旋回。そのときに叫んでやる。
「必殺剣、迅雷!」
もちろんウソだ。ゲーム上の必殺技は、人間技ではない。もっと速いものである。しかし打たれた者にとってはどうだろうか? 私の顎から旋風のコンビネーションは、目にも止まらなかったであろう。
そして旋風に入るときは両手で木刀をとっていたので、その威力は片手打ちに比べて倍増。
小手を失い兜を失った敵は、したたか後頭部にクリティカルの一撃を受けて撤退と相成った。
そしてセキトリは。
「力士チョップ! 力士チョップ! 力士チョップ!」
張り手の連打である。間を潰された長得物など、素人ではどうにもならない。ましてそれが不正者であれば、なおさらのことである。
そして私は読者諸兄にすでに述べていたであろうか?
木刀とタスキくらいしか身につけていない私が、敵を殴ってもダメージにはならない。しかしトヨムのようなスパイクグローブ、セキトリのような「装備品」である革手袋を着ければ、ダメージを与えることができるのだ。
セキトリとトヨムが着けているサポーター、そしてリングシューズ。これらはすべて武器屋で購入できる「装備品」なのだ。
つまり……。
「必殺、延髄斬り! ……からの、カニバサミ蹴り!」
トヨムは空飛ぶ延髄斬り、その右足をめり込ませて、左足で顔面蹴りを入れる。
「……器用な奴だ」
私としては呆れるしかない。が、しかし三人揃ってキルを獲得。この事実は変わらない。それも瞬殺だったのだ。
敵三人は防具を直して復活。怒りにまかせて突っ込んできた。
「まずここは私にまかせてもらおう」
一歩前に出る。そして端から端まで小手の防具を破壊して、生身の腕を打ち砕いた。つまりもう、撤退しないかぎり回復はできない。両手にクリティカルが入っては、回復ポーションも使えないからだ。
まずはトヨムが出た。
「ヤマアラシ二段投げ!」
柔道の反則技、ヤマアラシ。これで一度敵を叩きつける。背中のダメージではあるがひと繋がりになっている胸部鎧まで弾け飛んだ。そこから無理矢理引き上げて、ヒザが着くような低い姿勢から下半身のバネを活かして、もう一度ヤマアラシで跳ね飛ばす。
必殺技と呼ぶに相応しい、マンガのような技である。
「力士の技はすべて必殺技よ! 怒涛の上手投げじゃい!」
セキトリは右から上手投げを仕掛けるが、左手は敵の後頭部に添えて、顔面を地面に何度も叩きつける。いや、最初の一発で兜は飛んでるから。二発目ですでにキル獲得。撤退が決定した敵は断末魔とともに消えてゆくのだが、ポイントにもならないのにセキトリはさらに顔面を叩きつける。
土俵の鬼とはこの男。敵に回らなくて良かったと、心の底から思う。
そして私の番だ。
二人の必殺技を見ていると、オリジナルの必殺技を作ってみたくなる。
さりとて流派の技は使わない。ということで。
「必殺! 追い剥ぎの太刀!」
両スネ、両太もも、胴、胸部上腕部、そして兜まで、すべてひと呼吸で滅多打ち。
山賊か追い剥ぎに逢ったかのように防具を剥いて平服姿にしてやった。
「……さて、どうする?」
まだキルを取っていなかったが、敵は姿を消して行った。
「……逃げちゃったね」
「根性のない奴っちゃのう、せっかくビッグブーツの十六文キックをお見舞いしてやろうと思っちょったのに……」
「奴だけじゃないさ」
敵陣営で復活しているはずの他の二人も、姿を消していた。
アナウンスが入る。
「無敵騎士団のログアウトにより、トヨム組の勝利といたします!」
ウムウムとセキトリはうなずき、トヨムはアゴを伸ばして「ダーーッ!」と拳を突き上げる。
しかし私は、今夜も晒し掲示板に上げられるんだろうな……と考えていた。
しかしあそこはシャルローネさん曰く、ツワモノ掲示板だとか。
そんな場所で有名人になったらどうするべきか? 私の心はまだ決まっていなかった。
しかしそんな有名人にもなると、意外な出合いも発生するのである。シャルローネさんからトヨムにメールが入った。
『白百合剣士団の同盟相手、陸奥屋一党という集団がトヨム組に興味を示しているのですが、拠点の場所を教えても構わないでしょうか?』
暗にこれは、陸奥屋一党が私たちに会いたいと言っている。
「アタイは構わないけどさ、旦那とセキトリはどうだい?」
「ワシも構わんが、リュウ先生はどうじゃい?」
「まずは陸奥屋一党がどんな集団か調べてみる、と返信しておいてくれ」
ということで、私はウィンドウを開き『王国の刃公式ページ 動画集』をタップ。陸奥屋で検索をかけた。まずは『陸奥屋 鬼組』がピックアップされた。かなり風変わりな六人衆が映し出される。
まずは私と同じく和服に袴、木刀を腰に帯びた男。髪型顔立ちは現代風、というか爽やかなイケメン中年である。名は『士郎』とあった。さらにはジャニーズにも劣らない好青年。こちらは一般的な現代服。ベルトに金具で日本刀を提げていた。名は『キョウ』という。女の子もいる。
シャルローネさんたちと同じ年頃か? 一本おさげに真ん丸メガネが図書委員風。ちょっと大人しそうな『ユキ』という娘。これは先日のシャルローネさんたちのように、学生服……セーラー服に革防具である。ただし腰に角帯、二刀を落としている。ここまではみんな『使えねー』とされる中型アバターだ。
大柄な者もいる。古代ギリシャかローマの戦士か?
筋骨隆々な肉体にスパルタンな革防具。両手にトマホークを握った『ダイスケ』という若者。さらにはチビチビで甲冑をゴテゴテ着込んだ、兜から銀髪が流れ出している、『フィー』という……たぶん女の子。顔は兜のおかげで見えない。これが薙刀を抱えていた。そしてこの集団でもっとも珍妙な姿、異形の者。
痩身中背、どこからどう見ても、忍者がいた。束ねられた長い髪型が頭巾から出ている。その黒髪のつや、肩幅の狭さから、私は忍者を娘と見た。もちろんプレイヤーネームも『忍者』である。
陸奥屋鬼組、団体プロフィールとしてはレベル『熟練』。これは私たち『新兵』のひとつ上のレベル。一五〇戦全勝、すべてパーフェクトのレコード。『熟練』クラスでは堂々のパーフェクト第一位である。
そして陸奥屋軍傘下ともあった。
「なんだろう、この傘下というのは?」
「ん〜〜……何かあったら陸奥屋軍として動くってこと?」
「その何かとは?」
「イベントじゃろうかのう? このゲームじゃ夏と冬に大規模イベントの東西戦ちゅうのがあるらしいから」
そこまでは調べていなかった。セキトリの話では東西二陣営にランダムに分けられて、大規模な戦闘が行われるイベントがあるそうだ。陸奥屋軍に所属すれば、その一党すべてが東軍なら東軍、西軍なら西軍に振り分けられるのではないか?
ということだ。
「シャルローネさんたちは知り合いと言っていたが、陸奥屋軍に加盟しているのだろうか?」
そう、このいささかトンチキな集団と行動を共にしようと考えているのか?
問題はそこにある。というか、この際私のイカれた和服姿は棚に上げておく。男のこころには、棚が必要なものなのだ。
そして開幕の銅鑼。
こうした動画は個人視点ではない。全体、もしくは運営がキャラクターをピックアップして編集されたものを見せてもらえる。私たちや白百合剣士団の動画も同じようなものであった。
まずは忍者がピックアップ。これが先陣を切って走るのだが、速い速い。そして敵の大型甲冑武者から、すれ違いざまに鎧の胸当てを奪った。
トヨムとセキトリには見えていなかったようだが、接触の瞬間に頭を振ってフェイント。そして腰に差してあった小太刀は敵からは見えない。その上での抜刀の一撃である。
「こいつ、マニアか……」
「どしたの旦那?」
「いまのは忍者マンガの巨匠、白土三平先生原作『カムイ外伝』の必殺技変移抜刀霞斬りだ……」
しかしこの忍者、ただのマニアではない。スピードスターであるはずの小型アバターにスピードで勝り、捕まえたと思ったら関節を極めていて、そのまま頭から地面に叩きつけているのだ。
「なんじゃい、いまの投げ技は?」
「古流柔術……の中でも忍法武術で使われる投げ技だ。つまりこの忍者、本物ってことさ……」
しかも本物のクセに変移抜刀霞斬りを楽しむ心の余裕まである。
「お、旦那! コッチの士郎さんはゲージ減らさずに必殺技を使ってるぞ!」
そう、私と同じく抜刀からの四連撃を放っている。巨漢ダイスケなどは、武器など無視して敵の巨漢をプロレス技ブレーンバスターで高々と持ち上げていた。滞空時間が長い。こんな無防備なところを攻撃されたら、たまったものではないだろうに。
それでも垂直落下式、ダイスケは敵を真っ直ぐ地面に突き刺した。
あの小柄なフィーさんも、只者ではない。スネ、スネ、面と防具を剥ぎ取っていた。ただ、ユキとキョウの二人の若者の方が早いだけ。この二人の相手は、すでに防具をすべて剥がれて平服姿になっていた。
「遊んでいる……」
相手を馬鹿にしているという意味ではない。試合を楽しんでいる、という意味だ。
「トヨム、シャルローネさんに返信だ。……陸奥屋一党と会ってみたくなった」
「そうだね、アタイもだよ」
「ワシも興味津々じゃい」
ということで、すでに心は陸奥屋軍に加盟していた。