RBAとRBC
ブックマーク登録ならびにポイント投票まことにありがとうございました。作者ますますの励みとさせていただきます。
なるほど、出雲鏡花の言う『切り札』か。
これは嫌な予感しかしないな。
そんな私の気がかりもよそに、出雲鏡花は話を進める。
「わたくしどもには究極兵器の緑柳先生、士郎先生。それにリュウ先生といった達人のお三方がいらっしゃいますわ。この三先生方を敵陣深く、敵の復活ポイント付近に配置しておけば……」
「復活してきた皇帝軍を、即座に葬れるという訳か!」
あ〜あ、鬼将軍までヒザを打っちゃったよ……。これで私たち三人の、年末人斬り大会は確定だな。しかも緑柳のじいさまが側にいるから、手を抜くことすらできねーでやんの……。
「ご心配には及びませんわ、先生方。わたくしどもに余裕ができましたら、すぐに援軍を差し向けますので。それまでの辛抱ですわ」
「というか、そのポジションまで私たち三人は誰の護衛も無しにトボトボと歩いてゆくのかね?」
「あら、道中の護衛などお三方には必要ありませんでしょ? わたくし、おっしゃいましたわよね? 捨て石のような使い方をすると」
「となると、援軍の話も怪しいな」
「あの、リュウ先生……」
口を開いたのはユキさんだ。
「私が三先生方の援軍に指名されても、足手まといになる自信しかありません……」
「情けないことを言うな、ユキ! それでも草薙一党流の剣士か!」
グッと前に出たのはチーム『まほろば』の剣士、白銀輝夜。天神一流である。
「私などは三先生の剣を間近で見取り、あれこれの技を盗む気満々だぞ!」
それって手出ししないってことじゃん。ダメだろ、白銀輝夜。
「あはは……輝夜はホラ、ちょっとアレじゃけぇ、の?」
白銀輝夜の銀髪と対になる金髪の娘、近衛咲夜がグイグイと白銀輝夜を奥へと押す。
「な、なにをする咲夜。私はまた何か不都合なことでも……」
「えー加減アンタも剣術以外の勉強せんと、本物のおバカになるんよ!」
「剣術バカ一代か……誉れ高い称号……って咲夜、そんなに押すものではないぞ?」
「いいから! 納屋道場で素振りでもしときんさい! ……おほほ、輝夜も本当はこんな娘ではありませんことよ」
「咲夜さん、わたくしの口調は真似しないでくださいます? これはわたくしのアイデンティティですので……」
にわかに出雲鏡花の機嫌が斜めに傾いたところで、本日はお開きとなった。
私たちにではなく、新参の同盟者に対して出雲鏡花は、ショット&ランの稽古を勧めていた。
「今回の仮想敵は必殺技ブッパがデフォルトですので、出させて避けて打つ。を心掛けるとイベントも楽しめますわよ」
とのことだ。それに付け加えて私も言う。
「手裏剣の稽古もしておこうな。初心者のうちはありとあらゆる稽古をして強くなっておくものだ」
稽古というのであれば、鬼組もトヨム小隊も、あるいは『まほろば』も揃って豪傑格になった。続く槍組、抜刀組なども続々とそれに続く。これぞ稽古の成果というものだ。
みな力をつけている。いわゆる浸透勁に関してはトップチームのメンバーは誰でも確実にキルを取れるレベルに至っている。
そんな中、またもや運営からミニイベントのお知らせだ。
二人制試合開幕! 夢のタッグ選手権試合開幕!
なんじゃそりゃ? とみんなでメールを開いてみれば、プロレスの最強タッグリーグ戦のようなお誘い文句が並んでいた。
つまり試合ルールはふたつあって、敵チームの片方をキルに追い込むRBAルール。かあるいは二人ともキルに追い込むRBCルールという試合形式。試合権はリングに立つ者に与えられていて、割り込みや妨害もありだが敵のゲージには影響しないそうだ。もちろん選手交代はタッチによっておこなわれる。
プロレスのタッグマッチか……。ひそかに血が湧き踊るのを隠せない。しかも選手権試合となれば、チャンピオンを名乗ることが許される。さらに最高ポイントを獲得したときの景品が、チャンピオンベルトというのだから恐れ入った。
チャンピオンベルト……それはおよそ男子と生まれ落ちたからには、誰もが憧れるアイテムである。それこそは『覇者』の証明。なんだったら真夜中に一人パンツ一丁でベルトを腰に巻き、姿見の前でニヤニヤとすることが許されるアイテムだ、とでも言っておこう。
そんな『一般的な人生を歩んでいたら絶対に縁のないアイテム』が、今こそ私の腰に巻かれようとしているのだ。……欲しい。正直に打ち明けて、チャンピオンベルトが欲しい。渇望にも似た欲が、私の胸の中に芽生えてしまった。
「……出るよね、みんな?」
小隊長であるトヨムの確認だ。
「もちろんじゃとも! のう、リュウ先生?」
「う、うむ……」
「どうしましたか、リュウ先生? なんだか歯切れが悪いですねぇ?」
「いや、シャルローネさん。私も出たいんだ。あの栄光のチャンピオンベルトを腰に巻いてみたいと思っている。……だがしかし、私が出るとこう言ってはなんだが……ほぼ勝ち確過ぎてイベントクラッシャーになってしまいそうで」
「それでしたらこのカエデに妙案があります♪」
悪いね、カエデさん。気を使わせちゃって。
「リュウ先生には鬼将軍総裁とタッグを組んでもらいましょう♪」
「だにっ!?(なにっ!? の意)」
「ルールブックを読んでみたところ、違うクランとタッグを組んじゃいけないとはどこにも書いてませんので、ここは思い切って総裁と組んでみてはいかがでしょう?」
「イベントクラッシャーと大将軍のタッグか……胸が踊るな!」
トヨムはカラカラと笑っている。まったくのん気な奴だ。そんな能天気に爆弾をひとつお見舞いしてやろう。
「いいのか、トヨム? 私が抜けるということは残る五人でタッグチームを作るんだ。一人ハブになるぞ?」
「あっ!! しまった!!」
いま気づいたか、この極楽とんぼめ。トヨムは急に慌て始める。
「それでしたらご心配なく。私もちょっと違うメンバーと組んでみたいなって思ってましたから」
そう微笑むのはカエデさんだ。
「さすがカエデさんですねー、顔が広いだけありますー」
トヨムが極楽とんぼなら、マミさんは温泉頭だろうか? そう、いつもぬくぬくポッカポカ。
いや、失礼なことを考えてはいかん。
「ででで? カエデちゃんが見初めたお相手って誰? ねえ誰かな?」
まるでアイドルのスキャンダルを嗅ぎつけた芸能記者のように、シャルローネさんが食いついてくる。
「んーー、まだオファーは取りつけてないんだけど、鬼組のフィー先生なんていいかなって」
「「「フィー先生!?」」」
言っちゃ悪いがフィー先生。怪物揃いの鬼組においては、あまりキラースキルの高い方ではない。そこと組むのか、カエデさん!? それでいいのか、カエデさん!? というところだ。
「んじゃああとは自家発電で、チームの中でタッグ編成かな?」
トヨム、自家発電という言葉はよせ。男子中学生にしか見えないお前の姿ではいろいろ想像してしまう。
「儂はシャルローネさんとタッグを組んでみたいかのう? いつもはマミさんとツーマンセルが多いから、たまには新鮮なチームもよかろう」
「それじゃあマミさんは小隊長とタッグですね? よろしくお願いします〜♪」
ということで、小規模イベント。最強タッグシリーズの開幕である。ランダムに抽選された敵チームと対戦、とにかく勝ち星をを数多く上げた者がチャンピオンだ。
「で? Aに出るかい? Cに出るかい?」
そこもひとつ、選択である。しかし本店から鬼将軍の名義で通達が入った。陸奥屋、まほろば、すべてのタッグチームはCに出場すべし! と。
つまり皆殺しルール、そして私たちは仲間内でポイントを奪い合う可能性も出てきたのだ。
ルール補足。試合時間は九分間。敵チーム二人を倒せば五ポイント。どちらか一人を倒せば三ポイント。引き分けは一ポイントで、ロストゲームはゼロポイントである。
誤字脱字報告ありがとうございました。