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リモート講習会

ブックマーク登録ならびにポイント投票まことにありがとうございました。ようやく十二時間労働から開放されたので、また身を入れて更新したいと思います。

出雲鏡花のカメラワークOK。カカシもスタンバイOK。士郎さんとの打ち合わせも完了。じゃあ撮影を始めようか。

便宜上、士郎さんの得物はメイス。



「それじゃあ士郎さん、まずは野球のスイングでクリティカルを取ってください。間違っても一撃キルには繋げないように」

「難しい注文だなぁ」



そう、私たちにとっては一撃キルよりも一撃クリティカルの方が難しくなっている。通常の剣術打ちならば問題は無いのだが、腰を回転させてのバットスイングだ。加減を間違えるとそのままキルへつながってしまうのだ。


バットマン士郎、グッと腰をためて大きくスイング!

だが私の目から見ても、表面だけの手打ちでしかない。ただ、それだけの打ちでもカカシの鎧は砕け散った。



「はい、ここまでがいま現在の君たちの立ち位置。体重を後足に乗せて、前足へと移し替える。その勢いで腰を回転させて、得物に伝える。だけど今回は横スイングじゃなく、縦スイング。剣道剣術の打ちだ。腰の回転は使えない」



ふたたびカカシをセットしてくれたのは、鬼将軍の美人秘書かなめさんだ。



「ではまず士郎さんに、縦スイングでクリティカルを取ってもらおう」



士郎さん、対したカカシの肩口に一発おみまい。いわゆる袈裟斬りではなく、上から下へと垂直に入れる一撃だった。見事に鎧は砕け散る。



「まずここで重要なのは、肩口を打つと言っても袈裟斬りじゃない。垂直に、真っ直ぐ上から下へと垂直に打つこと。いまの現時点では袈裟斬りは難しい。上手くいくことはない。そんな寄り道なんかしないで、まずは目標を垂直に打つことを心掛けよう。そしてもうひとつ、姿勢だ。思い切り打とうとすると背中が丸くなりやすい。だがそれでは力が抜けてしまう。だから背中を伸ばして、いい姿勢を保ったまま打つ。これが大切なポイントだ。野球のバットスイングならただ思い切り打つだけでよかったけど、剣は違う。要領で打つんだ」



では要領を説明する。



「剣術を知らない者は打つときに上半身を折り曲げて体重を乗せようとする」



士郎さん、実演。まるで農家の年寄りが畑に鍬を入れているかのようだ。農家さんならばこれでも良い。鍬を突き刺す地面が、眼球から近くなるからだ。


しかし剣術で狙うのは地面ではない。敵だ。敵は地面には寝そべってはいない。よって剣は身を立てて振る。

士郎さん、実演。豪快に振っている。



「このときのコツを語るならば、まず足をしっかり踏ん張ること。後足は身体を前へ押し出すように。前足は身体を後ろへ押し込むように、そうすればしっかりと踏ん張れる。腕に力を入れるよりも脚に力を入れるべきだ」



士郎さん、またまた実演。身体を押し出し、身体を押し込む。

次は振りかぶりだ。



「得物を重たい状態で振りかぶってはいけない。せっかくの剣術なのだから重さを半分にして振りかぶろう」

士郎さんの実演はさすがと唸る出来栄えだ。木刀を漠然と持ち上げて、背中を丸めて振り下ろしている。

「振りかぶりで大切なことは左手のこの部分」



私は自分の左手、掌底部分を指差した。



「この部分で柄を押し下げる」



すると士郎さんの木刀が立ち上がった。この一連は無双流で教える『手の内』にも通じる。なので「どこがどう手の内に通じるか?」までは語らない。読者諸兄には割愛させていただく。私が伝える「手の内」はあくまで無双流の手の内であって、他流派では別の考え方をしているかもしれないからだ。その辺りの配慮は、白百合剣士団に手の内を教えた頃から統一、一貫させていただく。



「では振りかぶったならば斬らなくてはならない。ここも剣を軽くするように、小指を締める」



士郎さんの木刀がピンと立った。

ピンと立った勢いのまま、サッと振り下ろす。そして切っ先はピタリと止まる。

もちろんここでも手の内は効いているのだが、あくまで細かい説明は内緒だ。



「そして小指を締めて振り下ろすときにギクシャクするだろう。……手の内に気を取られて、足の踏ん張りを忘れているからだ」



力で剣を振るのではない、要領で振るのだ。そのことは強調しておいた。


そして大所帯というか、全員で店内へカムバック。大急ぎで掲示板に動画をアップする。

「ほぼ生中継、士郎師範代とリュウ師範代のリモートクリティカル講座!」と記しておく。

さて、反応はどうだろうか? ちなみに掲示板の流れはアンチというか荒らしというか、その手の輩がにぎやかに騒いでいる。


で、あるからして動画をアップしても「師範代キターーーッ」とか「師範代(

´,_ゝ`)プッ」「師範代www」などの書き込みが増えるだけだった。まあ一人で連続書き込みしても問題の無い掲示板だ。アンチには騒がせておくべきなのだが、おかしな書き込みで動画を埋められても困る。

再度書き込みに動画を添えてアップ。埋め対策とも記載しておく。


アンチとの埋め再アップの抗争を経て、動画視聴者からのレスポンスがあった。



「わかりやすい!」

「野球のスイングという発想は無かった!」

「バットスイングでクリティカルが取れた!」

「俺も俺も!」



という書き込みが連発する。



リモート講座ではあるが、一定の効果はあったようだ。少なくてもバットスイングでクリティカルが取れる者が続出している。そう、クリティカルは任意で獲得できるものという風に認められたのだ。これは大きな収穫である。今まで夢の世界、おとぎ話の世界であった技術が現実になったのだ。


いまの時代、距離という概念が崩れている、と私は考えている。私が少年の頃には、東京という街はまだまだ夢の都であった。東京へ出向かねば食べられないものがある。東京へ出向かねば手に入れられない商品がある。しかし現代、インターネット通販の普及により、世界はものすごく狭くなったと思う。逆に東京の人からすれば、旅行をしなければ食べられない地方の名産品や銘酒が簡単に手に入るようになった。

夢の世界が夢ではなくなりつつある。



実際に東京へ、あるいは地方へ赴く喜びというものが薄れつつあるのではないかと危惧する次第であった。しかしネット世代諸君。ネットのある世界を堪能するみなさん。感動はまだ世界に満ちている。

自分ができなかった技術を自分の努力でできるようになる。

魔法のように大男を打倒する技術を身につける。


技術の世界にはまだまだ発見と喜びと感動が残っている。どうかこの感動を実際に体験していただきたい。学ぶこと、努力することは必ず感動や心の豊かさにつながるのだから。

スマホを捨てよう、汗をかこう。

きっと何者にも替えがたい宝物が手に入るはずだから。


そんな演説を心の中で展開していると、士郎さんがポチポチとキータッチ。



「今日公開した技術は、道場では何年もかけて手に入れる技術だから、今日できてなくても明日できるようになるかもしれない、という考え方で稽古を継続していただきたい」



と締めていた。



「なあ、リュウさんや?」

「なんだね、士郎さんや?」



士郎さんの顔は浮かない。



「果たして何人のプレイヤーが、縦打ちにまでたどりつくかな……」



バットスイングで満足してしまい、王国の刃そのものから引退してしまう。あるいは縦打ちクリティカルがなかなか成功せずに、引退してしまう。太陽のように楽観的と思っていたこの男にしては、随分と弱気な発言に聞こえた。

しかし息子や娘を道場の弟子にしなければならないことを考えると、士郎さんの道場も門人は少ないのだろう。



「そうも考えられるが士郎さん、少なくともこの一歩は大きな一歩だったと思うよ」

「そうかね?」


「そうさ、今日伝授した内容は今日この日のプレイヤーだけに宛てたものじゃない。明日のプレイヤー、一ヶ月後のプレイヤー、一年後のプレイヤーたちにも宛てたものだ。あるいはネットゲームでの体験をフィードバックさせて、現実世界でも剣術を始める者だっているかもしれない」

「壮大な夢を語るなぁ」


「I have a dream(私には夢がある)」

「知ってるか、リュウさん。サイコパスってのはデカイこと言うらしいぜ」

「同じ数だけ人斬ってる奴に言われたくないね」



私たちは笑い合った。


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