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コンプレックス

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 トヨム小隊と鬼組の若手たち、そして迷走戦隊マヨウンジャーの面々は、緑柳翁が稽古をつけてくれていた。チラと盗み見ると、一対多数のコツを授かっているようだった。とはいえ、それほど難しい話をしている訳ではない。この王国の刃ではクリティカル制度があるので、これをいかに利用するか?

という話をしているのだ。



 敵の防具を破壊したところで、敵が退くか向かってくるか?

を見極めよ、というのが趣旨である。そのためには日頃の稽古が重要と説く。日々の正しい稽古が実戦での落ち着きを生む。落ち着きが周囲を見渡す余裕を生み出す。そのように稽古の必要性を説いていた。



 正解だ。



 稽古は何者にも勝る勝利への特効薬である。これ無くして何も語ることはできない。いざ実戦、いざ合戦という折に頼みとなるのは、それまで積み重ねてきた稽古しかないのである。


 そして先生と呼ばれるような身である私。どうにか指導の相手を見つけ出さなくてはならない。小隊も鬼組もマヨウンジャーも翁に取られてしまった。ジャスティスチームは先ほど指導したし、チーム情熱の嵐もだ。そこで私は『まほろば』のお嬢さん方に目をつけた。丁度よく、かなめさんも士郎さんも指導についていない。



 見ればカカシを相手に、一撃キルの稽古をしているようだった。

 まずは白銀輝夜、これが日本刀を正眼に構える。中段と正眼の違いは、中段は相手の顔を切っ先で狙い、正眼は刀身を地面と水平に構えることにある。そのままの姿勢で白銀輝夜は前進。カカシの鎧を押し込んで、それから手の内をキメる。カカシ、消失。鎧がその場に崩れ落ちた。

 見事なワンショットワンキルである。




「お見事!」




 私は声をかけて手を打った。刀お納めて白銀輝夜は私に一礼。




「お恥ずかしい限りです、リュウ先生。せっかく技を授かったのですが、いまひとつ技にキレがないもので……」

「いや、十分十分。でももし今の技に不満足っていうなら……」




 私は腰の木刀を抜く。




「得物を木刀に変えてみてはいかがだろう? ウチでは流派で『虎徹』と呼ぶこの技は、少し鈍い当たりの方が有効なんだ」

「木刀……ですか?」


「そう、木刀。もしも生身の人間にこの技を使ったとしよう。真剣では突き刺さってしまって『虎徹』にはならない。だから木刀、だろ?」

「なるほど、じょうきょうに応じて得物を変えるのですか……」




 真面目な顔で、白銀輝夜は考え込む。

 その点、ポニーテールの御門芙蓉、ボブカットの比良坂瑠璃といった薙刀コンビは得物に恵まれている。薙刀は真剣であっても、石突の部分に刃は無い。ト……と鎧を押し込んでから、一気にキメを入れる。その突き込みを見ると、「これぞ発勁」「これぞ浸透勁」と言いたくなってしまう。


 ただ、チーム『まほろば』と言えども、不得手というかワンショットワンキルに熱心でない者もいた。

 金髪にパッチリお目々。近衛咲夜である。この娘は白銀輝夜と同じ流派なのであろうが、腕前には大きな差があった。




「輝夜は免許、私は目録じゃけぇ……」




 フ……と視線をおとす。白銀輝夜になにかコンプレックスでもあるのだろうか?




「そりゃまぁね、あれだけの美人でスタイルええモンのとなりに並べられて、いつも比べられとればねぇ……」

「いや、咲夜さんは咲夜さんで可愛らしいだろ? なにもまったく同じ土俵で競うことは無いじゃないか」

 ホへ? という顔で私を見上げる。


「リュウ先生……私のこと、口説いてる?」




「何を言ってんの? 普通に咲夜さんが可愛らしいって、男ならだれでも思うよ?




剣だって同じ。腕前は輝夜さんが上だろうけど、咲夜さんだって『王国の刃』の中じゃ十分に強いさ」

「……本当じゃろか? イマイチ信じられんねぇ」

「むしろ私の目から見れば、白銀輝夜の方が、咲夜にコンプレックスを持っている。だからあれだけ剣に打ち込んでるのさ」


「リュウ先生のこと疑う訳じゃないけど、イマイチ信じられんねぇ〜」

 と言いつつ、まんざらでもなさそうだ。

「まあ、信じてもらえなくてもいいさ、事実は動かないからね。それよりも稽古だ、稽古。きみもこのゲームで強くなりたいんだろ?」

「ほうじゃね」




 誤字ではない。そうだね、という意味の方言だ。




「ということで、輝夜さんにもアドバイスしたんだけど得物を木刀に変えてごらん? ワンショットワンキルの技術は真剣よりも木刀の方が決まりやすいんだ」

「ほう?」




 木刀への変更は、白銀輝夜よりも近衛咲夜の方が素直であった。それだけ剣への固執が少ないのであろう。

「初めはゆっくりと行こうか。まずは手の内をゆるめて、柔らかく鎧を押し込む」

「こ、こうかね……」




 これぞ女の子、というような素直さの突き込みである。




「鎧の内側がカカシの本体に密着したら、手の内を決めて一気に身体ごとおしこむ!」




 エイッ! というかけ声ひとつ。カカシは簡単に消滅した。弟子に取りたくなるような素直さだ。




「おお、私にもできた……」




 碧い瞳をまん丸くして驚いている。いや、驚きたいのはこっちの方だ。たったこれだけのアドバイスで、こんなにも早く結果を出してしまったのだから。いや、当然といえば当然かもしれない。近衛咲夜の剣は大変に素直だ。つまり基礎基本がしっかりとしている。殺気や競争心の少ない、混じりっ気のない生粋の技術。だから新たな技術も素直に吸い込んでしまうのだ。


 こと闘争という面に限って言えば、ウチのメンバー、あるいはキョウちゃん♡。

それに白銀輝夜などが一枚も二枚も上手だろう。しかし素直な剣、柔軟な剣というのであれば、ユキさんや近衛咲夜の限ってがはるかに上回っている。




「もしかしたらね、咲夜さん」

「ほ、なんじゃろ?」

「君の方が白銀輝夜よりも伸びるかもしれない」

「それは褒めすぎじゃて、リュウ先生♪」




 そうは言うが、近衛咲夜は嬉しそうに笑っていた。




「お手合わせ願えますか、咲夜さん?」




 そう申し出てきたのは、こちらもシャルローネさんへのコンプレックスがあるカエデさんだ。翁の講習会はほぼ口頭で済んだようだ。そしてシャルローネさんも、白銀輝夜に稽古を申し込んでいる。これはなかなかに面白そうなカードである。鬼組のメンバーはどうしているだろうか?

と目を向けてみると、こちらはジャスティスチームと手合わせをしていた。




「お、面白そうな組み合わせだな?」




 士郎さんもこの取組には興味を持っていた。柔対柔、女の子対女の子、凡才対凡才。いろいろな見方はあるが、どちらが先にひと皮剥けるか?

そういった興味も私にはある。


 近衛咲夜が木刀を中段に構えた。カエデさんも今回は木剣、楯を置いて諸手に構える。もちろん鏡写しの中段だ。両者接近、握り拳ひとつ分だけ切っ先を交えて一足一刀の間合い。互いに正中線を制しようと、切っ先の攻防を繰り返す。正中の攻防は近衛咲夜が勝った。いや、カエデさんが誘ったか!?

とにかく近衛咲夜の剣がまっすぐにカエデさんの胸を襲う。しかしカエデさん、一歩後退しながら難なくこの切っ先をあしらった。


 近衛咲夜、死に体。突き技で体が伸び切ってしまったのだ。その小手をカエデさんは狙うが、近衛咲夜は基本ができている。小手先の剣さばきだけであっさりとカエデさんの攻めを弾く。

 両者、ふたたび中段で姿勢を正している。今度の正中線争いはカエデさんの勝利、巻くようにして近衛咲夜の剣を落としてから突き込む。しかし近衛咲夜、足さばきだけでこれをかわし、カエデさんの木剣に巻き付いた。


 ここから近衛咲夜の攻めがある。カエデさんはそう踏んだのだろう。それ以上の深追いはしない。二人の性格がよく現れた攻防であった。決してキルは取らせない、与えない。そこに二人の性格がよく現れている。決してホームランバッターではない。しかし地味な防御でキルは与えない。それがチームへの貢献であると心得た攻防である。敵を殺すな、我を活かせ。二人とも自分の成績よりもチームの勝利に貢献する。そういうタイプなのだろう。




「決め手こそ少ないが、いい攻防だな。これはお手本になる」




 士郎さんからお墨付きをいただいた。いつのまにやら翁も二人を見ていた。

「これだけ基本基礎が出来とって、キルは取りにいかんか……。いや、この二人はそれがえぇんかの……」

 翁からもお墨付きだ。それだけ二人の攻防は純度の高い技と技、兵法対兵法ということができた。カエデさんがヤッと攻めれば、近衛咲夜はドッシリと受ける。近衛咲夜がトッと攻めれば、カエデさんは地に足つけてこれに応じた。防御に重きをなした剣が、かくも面白いものとは。




「士郎さん、二人に二つ名をつけるとしたら……」

「俺ならアンタッチャブルとつけるな」

「私も同じことを考えていた」




 本来ならば「手のつけられない奴」という意味なのだろうが、名チャンピオン川島郭志以降「触ることすら出来ない」という意味でも使われている。


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