不正者退治
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白百合剣士団という仲間ができた。その一人ひとりとフレンド登録したので、友というべき存在もできた。
私たちの『王国ライフ』は順風満帆といえる。しかしやはり、くつろぎながら稽古の準備をしていた私たちに、トヨムが新たな情報を届けてくれた。
「旦那、セキトリ! アタイたち有名人だったんだよ!」
ん? まあ白百合剣士団からパーフェクト勝利したのだから……ん? 有名人だった?
「そーそー! 運営がずっと前から、アタイたちの試合をピックアップしてたんだ!」
確かシャルローネさんは、私たちの存在を知って以来ずっと、私たちのファンだったようなことを言っていた。
それはつまり、運営がアップした動画をチェックしていたということになる。
なるほどそれならば、白百合剣士団との一戦が終わった直後、人だかりができていたのもうなずける。
「しかしな、トヨム。私たちはすでに単なる『無敗のパーフェクトチーム』じゃないんだ。あの白百合剣士団に土をつけた『トヨム組』なんだ。いまさら慌てることは無い」
もっとも、そうなってしまった以上、これから先のチェックは相当きびしいものになるだろうが。そうなると今度はどんな敵が現れるものやら……。
「シャルローネさんが教えてくれたんだけどさ、上のクラスに行くと不正者がいるらしいぞ?」
「不正者? なんだそれは?」
「例えばね、クリティカルな打撃じゃなくても、クリティカルを取られちゃうとか。クリティカルを入れても不死身だとか……」
「なかなかポイントはもらえないのかな?」
「かもね、それでクリティカルポイント持ってかれたら、やってらんないよ!」
「なんじゃい、トヨムらしくないのぉ!」
セキトリが拠点に入ってきた。
「それをあらかじめ知っておったら、それなりに動けばいいだけじゃろ!」
「そりゃまあ、そうなんだけどさ……。だけど面白くないじゃん! 不正まで働いて勝ちを得たいなんてさ!」
「どれ……」
私はウィンドウから動画サイトにつなげる。検索項目は王国の刃、不正だ。
一番最初にヒットしたのは、運営が上げた不正者動画である。そこではトヨムの言っていた不正が上げられていた。そして運営としてはまず注意喚起、それでも不正がおこなわれている場合はアカウント停止を宣言している。
そして不正はトヨムが言っていたものだけではなかった。クリティカルポイントが倍額、撤退ポイントが倍額、あるいはクリティカル判定が激甘になるという不正も展示されていた。
クリティカル判定が激甘とは?
たとえば私の得物、赤樫の木刀はヘボ武器である。その理由はクリティカル判定が厳しいとしよう。つまり敵に正しく、刃筋を立てて打ち込まないと防具破壊に繋がらない。そんな初心者武器がクリティカル判定甘々となれば、適当に打ってもクリティカルになるのだ。私としては面白くない。心血注いで得た技術が犯されているような気分だ。
それはトヨムもセキトリも同じようだ。不正、許すまじの空気が満ちる。
「トヨム、すでに判明している不正者をピックアップしろ」
「あいよ、そいつらを警戒枠に入れとくんだね?」
話が早い、そしてその不正者から、徹底的にキルを奪うのである。
そんな仕込みをしていたら、早々に不正者クランと一戦ということになってしまった。
実験的な三人制、復活ありのステージだ。
「チーム名獅子の群れ、こいつら全員クリティカル判定が厳しいんだってさ」
トヨムが言う。
「ふむ、なかなかクリティカルが入らないのか。そういう連中に限って攻撃一辺倒、ガードはザルかもしれんな」
「クリティカルが入らんでも焦らず腐らず、かのぉ?」
「我慢我慢で丁寧に丁寧にってかい?」
なかなか分かっている。それだけ分かっているならば、何も心配は無い。
ということで、銅鑼が鳴る。両軍接近、というか敵は全力疾走だ。
私はすれ違いざまに胴を奪う。クリティカルだ。そしてキッチリ防具も破壊した。
しかしセキトリが揉み合っている相手は無傷。その大腿部に上から下から二連発の打撃。これも初伝の技「顎」という技だ。
またもやクリティカルを取得、そして大腿部を負傷した敵はガックリとヒザをつく。
長得物を相手にするトヨムだが、こちらは小手の防具をひとつ奪っていた。そしてムキになって出てくる相手を豪快に一本背負い!
脳天から突き刺したはずだが、クリティカルが入らない。
しかし焦ることなく固め技からのパンチ攻撃。これで兜を割って頭を割って一丁上がり。
おっと、私の相手を忘れていた。
必死になってスパイクのついた長得物を振り回してくるが、いかんせん打ったあとが死に体だ。軽く小手をいただいた。
まあ、どれだけクリティカルが入らないものかと思っていたが、普通に攻撃していればちゃんと入るじゃないか。
もう一発同じ場所を打って、左の小手を負傷させる。
と言っている間にもセキトリが豪快な投げ、倒れた相手に追撃の拳を『昇り龍』を掴んだまま入れて、見事撤退にまで追い込む。
「先生、投げて動けんようにしてから殴れば、なんてことはありませんわい!」
「それが柔術の当て身だよ、二人とも!」
コツを掴んだか、トヨムとセキトリは同じような手法でキルの数を重ねる。
私も負けてはいられない。担当の敵を打ち据えて防具をすべて剥ぎ取り、屈辱のうちに撤退させた。
そこからはほぼ一方的。セキトリにかかってゆく敵の脚を奪い、トヨムにかかってゆく敵の腕を奪いしてサポートする。そして私の敵は丸裸。
終わってみればワンサイドゲーム。クリティカルひとつ失うことなく勝利した。
不正者退治、完了である。
拠点に戻ると、白百合剣士団からトヨムにメールが届いた。「不正者征伐、お疲れさまでした」とある。オマケにURLが添付されていた。接続してみると、晒し掲示板なるものに繋がった。
「なんじゃこりゃ?」
セキトリが不思議がる。
「なんだか悪口ばっか書いてるぞ?」
トヨムは不快を顔に現した。
「どれどれ、クラン〇〇は不正者集団。クリティカルの当たりでも判定されない」
「クラン〇〇〇〇の不正はポイントを取りすぎ、一発もらっただけでゴッソリ持ってかれる。これじゃ判定勝ちは無理すぎ」
「こっちはアレじゃのぉ、カス攻撃でクリティカル取られるのはおかしいとか言うちょるぞい」
「トヨム、この中で登録した不正者クランはあったか?」
「いや、アタイの知ってるのは無いねぇ」
と、いうことは?
「ただの愚痴掲示板じゃのぉ」
セキトリが腹を揺すって笑う。
しかし笑ってもいられないことが判明した。
「旦那、白百合剣士団の名前もあるよ?」
「お、本当だ。なになに……あのメス豚ども、絶対にツール入れてる。どの攻撃でもクリティカル持っていきやがった」
「おう、レスが入っちょるぞ、ちょwww お前打たれ杉www」
「あーー! アタイたちも名前あるじゃん! なになに? トヨム組の連中はツーラー。とくにリュウってのが酷いってさ」
「おう、レスも入ってるな。獅子の群れ乙! 試合見てたぞ、お前らツーラーのクセして弱すぎwwwだとさ」
「なんじゃい、愚痴をこぼしては叩かれる掲示板かい?」
「どうやらその程度のようだな」
するとまたもやトヨムにメールが。シャルローネさん個人からだ。曰く「晒し掲示板に登場しましたね。あそこは通称ツワモノ掲示板なんですよ? 世間からツワモノ認定されちゃいましたね、オメデトー♪」
「……要するに」
「この掲示板、自分が滅多打ちに逢った相手への憂さ晴らし?」
「しかも根拠無しの難癖みたいじゃのぉ?」
私としては苦笑せざるを得ない。
「こんなことでツワモノ認定されてもなぁ……」
「もうアタイたち、白百合剣士団に勝ってツワモノ認定されてるからね」
「まったくだ」
面白くないと言うならば、面白くも可笑しくもないオチである。
しかしこれが意外な方向に発展する。
またしてもシャルローネさん、いや、白百合剣士団からのメールだ。
『不正者を押さえつけてからのパンチ攻撃、お見事でした。もしよろしければ私たちにも、あのような投げ技を教えていただければ幸いなのですが……』
「トヨム、セキトリ。合同稽古のお誘いだぞ?」
「え!? アタイがあの娘たちに柔道教えるの!?」
「偉くなったのぉ、トヨム先生」
「そういうセキトリもだぞ。やはり相撲は投げ技の基本だからな」
「よ、セキトリ師匠!」
「わ、ワシもかい!? そんな柄じゃないぞい?」
セキトリも顔を赤くする。しかしこれはいい機会だ。人にものを教えることで自分の技を確認できる。二人にとってはいい経験だろう。