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出番の無い男

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 さて、このように語り続けていると私や士郎さん以外に古流の使い手はいないかのように思われるだろうが、昨今の古流武術の流行があったせいか、このゲーム世界にもそれなりに使う者がいたりする。



 その若者たちは路地裏の暗がりからいきなり斬りつけてきた。複数いる。私は足でかわす。しかしこの若者たちは二の太刀三の太刀となかなかにしつこい。というか、見れば私や士郎さんと同じ和装であった。で、彼らが手を出せば出すほど技が知れる。華剣流居合だ。動画サイトで拝見したことがある。


 その流派は師匠の教えが悪いのか、弟子の出来が悪いのかは知らないが、技を堂々と動画サイトで公開していたのだ。



 演武会というものがある。流派の技術を一部だけ公開するものだ。大抵は初伝一本目の技から数本だけ、一部分を公開するに過ぎない。しかしその華剣流の若者たちは、いま現在の自分たちを公開して、「こんなことができるんですよ」「こんなことまでできるんですよ」と喜んでいたのだ。



 中には映画風に演出を凝らして無駄な動きもたっぷりと交え、大層格好良く公開していた者もいた。

 ハッキリ言おう。私は弟子たちに無双流の技をインターネットで公開することを禁じている。


 流派の技を公開して、研究対応されたらどうするのだ? と私は問いたい。それは流派の存亡に関わることである。ちなみに私は稽古袴に柳心無双流と刺繍することも禁じている。


 敵対者に無双流と知れるだけでも立ち合いにおいては損だからだ。

 それだけ情報漏えいに厳しい私が、ゲーム世界で技を公開しているのは、メダルにも賞状にも縁の無い古流武術、というか無双流が本当に絶滅の危機に瀕しているからである。


 もう出し惜しみしている場合ではない。新たな道を拓かなければ、地球上から無双流が失伝してしまうから、というやむにやまれぬ事情があったからだ。本当ならば私だって、神棚の前に座ってえらそうに、昔ながらの教伝をしたいのだ。


 しかし今日明日ということなく、このままでは古流は滅びる。その思いから新たな道を拓かざるを得なかったのである。




 そして華剣流の若者たち。この者たちの技には技はあっても中身は無い。もっと端的に言うならば、刀を手にしていながら、刀が人を殺す道具だということを理解していない。


 ゆえに必死が無い、覚悟が無い、不退転の決意が無い。ただ子供のチャンバラ遊びで優勢に立ちたいがためというだけ、あるいは「僕はこんなすごいことができるんだよ」という、トニー少年のような見せびらかしたがりな気持ちしか汲み取れない。


 ああ、私はなんと幸運な男だろうか。



 必死を知り必殺を知り、覚悟をもち不退転の決意をもつ草薙士郎という男を友とすることができたのだ。これを幸運と呼ばずしてなんと呼ぼう。


 そして若い仲間たちを見る。ゲームの技術向上という「遊び」でしかないかもしれない。しかしメンバーはみな、必死に技術を吸い取ろうと取り組んでくれている。真剣になってくれている。修行の名を借りて有名人になりたいとかスター扱いされたいとか、そんな気持ちは微塵も無い。


 トヨムなどは片眼を突かれてでも闘争をやめなかったくらいだ。それどころか、逆に闘志をもやしていた。まあ、その辺りはトヨムの資質に起因するのだが。


 しかしいま私に突っかかってくる若者たちは、お楽しみサークルという雰囲気で気軽に剣を執り、お気楽に殺人技をふるい、それを公開しているのだ。そこに、私のような断腸の思いは無い。だから私は『虎徹』など披露はしない。ただのクリティカルで防具を破壊して、ただのクリティカルでキルを取った。


 おそらくこの若者たちも、クリティカルくらいは取れる連中だろう。そうでなければ、「いままで君たちは何を稽古してきたのかね?」と問い詰めてやる。まあ、師弟の間柄ではないので、そんなことはしないし、師弟の間柄であれば動画サイトで技を公開もさせないのだが。



 とにかく、私は若者たちをごく単純な技で葬った。それも、面白味もへったくれも無いごくごく普通の打ちで。古流などというものは一切交えず。それをモタモタと手間取ったとでも思ったのだろうか? シャルローネさんが「調子でも悪いんですか?」と訊いてきた。



「いや、そうじゃない」

「では、なかなかの使い手だったとか? 今の人たちも古流のようでしたが……」

「うん、彼らもまた古流の人間だったね。だから『虎徹』を見せないようにしたのさ」

「ほほう〜技の秘匿ですねー?」



 そらみろ、小隊の中ではボケボケキャラに位置するマミさんとて、技を隠すということは意識しているのだ。私もまた、ゲーム序盤でこそ奥伝技を使ってみたりしたが、最近では士郎さんとの稽古くらいでしか使わぬよう心がけている。まあ、こんなモノを面白がって人に見せびらかすものではない。


 さて、次なる相手は誰であろうか?

 そのように辺りを見回してみると、さきほどトニー少年一団に襲われていた新兵格の生き残りが、まだうろついていた。よく見ると、揃いのジャージに防具をつけた女の子たちであった。



「まだこんなところにいたのかい? 早く撤退した仲間と合流しないと、また襲われてしまうぞ?」

「はい、ですが拠点のある居住区域がどっちかわからなくなっちゃって……」


「そんなのマップ見れば分かるじゃん」



 トヨムである。彼女たちのウィンドウを開いて、マップを提示する。



「マップは上が北を指してる。で、太陽があっちに出てるから、こっちが北。でもって、アタイたちがいるのがココ! さらに、居住区はこっち」



 だからあっちを目指して歩くといい、と言って居住区域の方角を指差した。しかし女の子たちは不安そうな顔。



「わかったよ! 送ってってやるよ! どうせアタイたちもそっちに用があんだから!」

「ありがとうございます! 助かります!」

「それでー、みなさんお揃いのジャージ姿のようですがー、同じクランなんですかー?」



 上手い、相手から情報を抜き出すには、おっとりマミさんが一番適任だ。



「はい、私たちは南山学園女子新体操部一年隊です。センパイたちがこのゲームで遊んでいると聞いて、私たちも! と思ったんですが……」

「それはまた災難でしたねぇ。まあここは私たちにまかせて、大船に乗った気分でいるといいですよ♪」


「あの……みなさんは……?」

「アタイたちは陸奥屋一党傘下、『嗚呼!!花のトヨム小隊』さ! メンバーは全員ゲーム内で知り合った者同士なんだ!」




 シャルローネさんたち白百合剣士団の三人はそうでもないが、いちいちそんなことは説明しなくともよろしい。トヨムの言うとおりにしておく。



「陸奥屋一党傘下……かなり大きな団体なんですか?」

「それなりかな? どっちかってーと精鋭部隊ってカンジだからね!」


「うーん……私たちもそういった集団に入った方がいいんでしょうか?」

「良し悪しですね。さっきのトニーくんみたいな集団もいますし。ゲームライフを左右しますよ?」



 カエデさんの返答も的確だ。軍団選びは注意した方がいい。

 そうこうしていると、バトルに励んでいるセキトリの姿が見えた。三人の女の子を連れている。


 ヒューヒュー、やるじゃねぇかお兄ちゃん、などとはおもわない。セキトリという男はそれだけの甲斐性がある男ではない。むしろ硬派一本槍、男道おとこみち極め道、という奴だ。おそらくは奴の任侠道なりなんなりが発動してのことと思う。


 セキトリのぶちかましが決まる。敵のひとりが無念の撤退。そして三人の女の子たちも、必死に反撃を試みていた。今回はトニー少年のような初心者狩りではないようだ。六人いた敵は新兵格と熟練格。その面子でセキトリと相対していたのだ。


 しかし、女の子たちはいずれも新兵格、明らかに分が悪い。シャルローネさんが応援に駆けつける。



「あれ? 他のみんなは行かないのか?」

「だって旦那、セキトリがひとり追い払って、シャルローネが加勢して五対五だろ? アタイたちまで加わったら、ただのイジメだよ」


「それよりもリュウ先生、セキトリたちが戦っているのを割り込みプレイヤーたちに邪魔されたくありませんよね?」

「そうだな。みんな、あの十人を囲んで割り込みのおじゃま虫が涌かないようにするぞ!」



 私、トヨム、マミさんにカエデさん。それと南山学園の女の子たちで、邪魔が入らないように合戦の場を取り囲んだ。もちろん女の子たち三人は戦力として当てにならない。


 私とトヨムの間にひとり、トヨムとマミさんの間にひとり。そしてマミさんとカエデさんの間にひとりというポジションに配置した。

 それだというのに、やはり出た。おじゃま虫である。十人少々、おそらくは2クランであろう。



「いくぞ! カエデ、マミ! 旦那は女の子たち守っててくれ!」



 やはり先鋒一番で突撃するのはトヨム。カエデさんとマミさんが左右を守る。突撃一番のトヨムを襲うのは、槍、槍、槍。三人の槍である。しかし槍は突くもの、トヨムを狙って繰り出した槍というのは、トヨムがよければすべて外れる。


 泳いだ二人をカエデさんの雲龍剣、マミさんもどいんと突いて一撃必殺。

 トヨムは残る槍師をジグザグに追い詰め、腹部へ浸透勁の突きを入れる。十数人の敵のうち、四分の一が撤退。軍隊ならば作戦行動を中心する損害だ。


 トヨムの二の手は素早い。あっという間に敵を捕まえて、必殺の山嵐で敵を脳天真っ逆さま。投げ終わったトヨムは、どうしても無防備になる。それを守るのがマミさんとカエデさんである。


 受け、流してカウンター。また二人撤退した。トヨムの山嵐で死んだ者も合わせて、また三人が撤退。つまり合計六名が、ものの数秒で消滅したのだ。二の足を踏むおじゃま虫残党。しかし足を止めればトヨムにとっては目の前の餌。左フック、右フック! 腹部へのブローふたつ、どちらも浸透勁。またしても二人撤退。さらに踏み込んでトヨムのストレートが顔面へ。


 トヨム一人で三人を葬った。残るは三人。これが逃げ出そうとするのだが、カエデさんが回り込んでいる。残党三人はカエデさんの相手をしてしまった。つまり、逃げ足が鈍った。そこへトヨムとマミさんの追撃。おじゃま虫は全滅した。





ん〜〜私の出番がまったく無い。


百話の達成! という訳ではありませんが、お話のクオリティとクオンティティを維持するため、次回更新から一日置きとさせていただきます。今後とも『王国の刃』をどうぞご贔屓ください。

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