会談
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コロシアムを出て街中へ。私はご存知の和服、トヨムは戦闘の服装からスパイクグローブを外しただけ。セキトリが一番様変わりをしているか、甲冑を解いて平服である。
まあ、茶色の太いズボンにシャツというなんでもない服装なのだが、拠点でも鎧を着込んでいることが多いので、割と新鮮である。
白百合剣士団は先程申し上げた通り、シャルローネさんはファンタジーな格好。しかしカエデさんは半袖ブラウスにネクタイと、ほとんど学校の制服のようだ。
そしてマミさんはジーンズにタンクトップという軽装なのだが……申し訳ないことを言わせていただく、バストは重武装だった。
座談会を提案してくれたシャルローネさんが先頭を歩く。この街を歩きなれているようだ。ゲーム世界なので、みんな手ぶらだ。
そして改めて、私たちがこのゲーム世界でいかに拠点とコロシアムしか往復していないか……それも道中をすべてスキップしまくっていたかがよくわかった。
武器屋だなんだしか存在しないと思っていたゲーム世界の町並みだが、意外にも服飾店やカフェなども存在している。そして武器や鎧を飾る装身具なども取り扱っているのだ。
つまり武器や鎧をあなた好みにカスタマイズ、ということなのだろう。白百合剣士団の鎧も、そのようにあつらえているのだ。ということで、酒場に入る。よくある板張りの床で、ゲームに出てくる冒険者風な連中がたむろしていた。
「こんにちは、お邪魔しますね♪」
なれた感じでシャルローネさんがカウンターに声をかける。
「おう、今日は大人数だな」
カウンターの大男が店主か。
「だったら二階に上がりな!」
気さくに勧めてくれる。
ということで二階の個室。大きな円卓を囲んで六人が座る。
「改めまして、白百合剣士団リーダーのシャルローネです」
「アタイがトヨム組のリーダー、トヨムだよ。年齢や成績でいけば、リーダーは旦那……リュウ先生がやるとこなんだろうけど、クランの言い出しっぺがアタイだからさ、アタイがリーダーなんだ」
「先生……?」
「そ、旦那は古武道の先生やってんのさ」
「道理で……」
カエデさんがもらす。
「木刀なんかで防具を一撃破壊できるんですね」
「そういうカエデさんは西洋剣術を」
私が訊いた。
「はい、近所でレッスンを受けてるんですよ! それなのに防具をほとんど持ってかれちゃうし……」
「あ、済まない。やり過ぎた」
「いえ、いいんです。私たちも古武道の体験ができましたし……」
「これまでに古武道との対戦の経験は?」
「自称する方とは一度……」
と答えたのはシャルローネさん。あまり満足そうな顔ではない。
「ただ、リュウ先生に比べると……」
「あ、やっぱりリュウさんなんだ」
カエデさんが唐突に言う。
「姿かたちがあんまり坂本龍馬だったから、リョウさんって呼んじゃいましたよね、スミマセン」
「リュウ先生、坂本龍馬というのは女子高生にも人気なんかいのぉ?」
「いや、私の顔かたちを見て坂本龍馬と言える女子高生は、そういないと思うぞ」
穏やかな微笑みでピンク髪のマミさんはフフ……ともらした。
「カエデさんは幕末モノが大好きですものねぇ」
「それならば古流でも習えばよろしいのでは?」
私が訊くとカエデさんは「近所に剣術習えるのが、西洋剣術しかなかったもので」と小さくなる。
「と、ついついリュウ先生に話が傾いちゃうけど、トヨムさんはボクシングを?」
全員に話題が行くようにバランスを取るためか、シャルローネさんはトヨムに話題を振る。
「アタイの本業は柔道だよ? 組み手争いがパンチに似てるって思ってね。んで、旦那に悪いとこ直してもらってんだ」
「素人教授でお恥ずかしいばかりですが」
「柔道でしたか……セキトリさんが柔道かと思ってましたが、そうするとセキトリさんはやっぱり……」
「おう、大学相撲部よ! わかりやすいじゃろ?」
「まんまですねぇ〜〜……」
マミさん、なかなか言う。
「しかし私の見たところ、カエデさんは剣術として他のお二人は手習いはされていないようで」
「はい! 下手の横好きです!」
はっきりキッパリ元気一杯、シャルローネさんが答える。
「下手の横好きなんて言っちゃダメだぞ、白百合剣士団に負けた連中が泣き出すじゃないか」
トヨムが笑う。
「ホントは私も古武道をチョッピリ……でもリュウ先生の前でそんなこと言えないじゃないですか!」
「私もぉ、中学生のときに柔道を……」
「なるほどマミさん、それでワシの当たりをかわせたんかい」
「必死でしたよ? セキトリさん容赦ないんですから……」
「そうですねぇ、相撲ってそれほど強い怖いのイメージが無かったけど、使う人が使うと恐ろしい武術になりますよね」
カエデさんはあくまでも真面目に言う。
と、お互いの正体を明かしあったところで、ゲーム談義に入る。
「これまでに出会った強豪は?」
シャルローネさんの提供してくれた話題だ。
しかし残念なことに、私たちの返答はたったひとつ。
「白百合剣士団だよ。シャルローネさんたちが一番手強かった」
「アタイもポイント取れなかったもんな」
「同じく。なかなか攻めを効かせてくれんというか、のぉ?」
いえ、私たちなどまだまだ……シャルローネさんは謙遜。そして「だけど」と続ける。
「意外というか、当然というか、剣道の有段者が手強かったです」
そりゃそうだ、と私は笑った。
「得物を持って打ち合いをして、そんなのが全国に唸るほどいるんだ。このゲームの中では相当に手強いはずだぞ」
「どーやって勝ったんだ?」
「鎧になれていなかったんでしょうね、面打ちに難がありました」
「それと投げ技対策ですねぇ……」
「あとは決死のスネ斬り。ですがこれは意外にも対応してきました」
なるほど、やはりゲームなれは必要なようだ。
「ところで先生もトヨムさんもぉ、防具をつけてないようですがぁ……」
「あんな重いもの着てたんじゃ、アタイのスピードが活かせないからね」
「私も登録前に動画を拝見したのだが、みんな鎧のせいで動きに制限がかかっているな、と思ってね……」
「白百合剣士団のみなさんも、軽装にしてみちゃどうだい? どうせいままで鎧を剥がれたことすら無いんじゃろ?」
セキトリの提案は大胆ではあったが、ある意味正しい。これまで鎧を剥がていないというなら、打たれる心配は無いということだ。思い切って鎧を外し、スピードを活かしてはどうか?
「そういうセキトリさんもぉ、鎧を剥がれたことはありませんよねぇ? どうして甲冑装備なんですかぁ?」
「ワシの場合は当たりを強くするための増量よ。力士は目方がある方がええからのぉ」
う〜〜んと悩むシャルローネさん。セキトリ案を真剣に検討しているようだ。
「ね、シャルローネ。鎧のことはひとまず置いておいて、アレ……たのんでみたら?」
カエデさんが小声で囁く。あ、そだね、とシャルローネさん。
「えっと、実はトヨムさん。私たち白百合剣士団はトヨム組の活躍を知ってから、好きになっちゃってまして、その……同盟やフレンド登録をお願いしたいんですけど……」
「アタイは構わないよ?」
やはり私どもの意向を気にする。
「全然かまわないが、同盟というのは同じチームで闘ったりするのかな?」
「あり得るね」
「そりゃ敵チームが気の毒じゃのう」
違いない。
特に今はまだ新兵の集まりだ。当たる相手も新兵が多い。新参狩りと呼ばれるかもしれない。
「それでも試合数が五〇戦を越えると、かなり容赦ないブッキングがあるそうですよ?」
ふむ、それも難儀だな。
「だけど旦那、同盟を結ぶとお互い稽古もできるし実力アップのチャンスだぞ?」
「そこは願ってもない」
私は即座に賛成へ一票。
「ワシもまだまだ技に磨きはかけたいのぉ」
セキトリも一票。
かくして私たちは、同盟、フレンド登録を果たすことになった。