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95 追い詰められて

 ――戦姫たちは順調に戦闘を進めていた。

 宿痾の攻撃ははげしく、掠めでもすればそれだけで死が見えるような代物だ。しかし、なんとかそれをランテとカンナ達といった強力な戦姫が攻撃を一瞬受け止めてから逸らすことで、なんとか被害を出さずに戦えていた。


 その間にも、戦姫達は円環理論によって獲得したリソースを宿痾へとぶつけていく。効いているか効いていないかで言えば、効いている。

 しかし、キズついた部分は即座に修復され、現在の巨大宿痾は見た限りでは無傷、といった状況だ。


 ただし、これも無限に続くわけではないだろう、ということは想像がつく。修復は取り込んだ宿痾のエネルギーを使うことで行われているのだ。

 だから必ずどこかで限界が来る。実際、巨大宿痾から少しずつ、マナは失われていた。本当に微量だが、間違いなく確実に。


 ――勝てる。


 倒せる相手だ、という認識が戦姫達の中に広がりつつある。

 カンナはそれを諌めはするものの否定はしない。士気というのは非常に重要な戦闘のピース。故にそれを削ぐようなことはできなかった。


 何より、それを否定したところで、結果自分たちは負けるという選択肢を突きつけられるだけ。たとえ勝てなかったとしても、今の空気を否定はできない。

 否定して、止まってしまったらこちらが負ける。


 だからカンナも、多くの戦姫たちも、可能性だけは考えつつ“それ”から目を反らし続けてきた。しかし、相手は巨大宿痾。全ての宿痾の集合体。

 そうだ、これがその程度で終わるはずはない。


 解ってはいても、誰も考えることができなかった。だって今こそ優勢ではあるけれど、もしも万が一“なにか”があれば、一気に崩れるのはこちらなのだから。



 しかし、その希望は儚くも散る。



 最初に気がついたのは――


「……なにかおかしい。ランテちゃん!」


「ちょっとカンナ、マナの流れがおかしいわ!」


 シェードとローゼだった。

 それぞれ、違いの相棒であるランテとカンナに呼びかける。二人は優秀だ、その呼びかけに応えて意識を巡らせて、それに気がつく。


 マナが、巨大宿痾の中で膨れ上がりつつある。

 明確な変化、それもどう考えてもいい想像のできない変化だった。であれば、何が起きるのか? 可能性はいくつかあったが、魔導の天才たちは即座に割り出した。


「――口!」


「カンナ、あいつの口を上に弾いて!」


「――うん!」


「解ってる!」


 この時、戦闘を続ける戦姫たちのなかで、二組だけが同時に飛び出した。カンナが指示を出さなかったのもそうだが、気づけたのはこの二組だけであり、なおかつ指摘したローゼとシェードの要求に答えられるのも、この二人だけだったのだ。


 高速で飛び上がり、宿痾の顔まで飛び上がるランテとカンナ。

 二人は互いに横に並んだ。


 視線を合わせることはしない。お互いが何をしようとしているかわかりきっているから。

 ――そして、



 その直後。口からエネルギーがこぼれ始めた。



 熱線。

 巨大な宿痾の口元から放たれるビームが、地上どころか世界を灼こうというのだ。溢れ出るエネルギーが、その洒落にならなさを端的に表している。


「総員退避――――!」


 叫ぶカンナ。

 同時にランテは顔面へと突撃を行う。

 金色の光を纏っての体当たりだった。そして、そのまま最大出力で自身を前に押し出す。


 ぐらりと、巨大宿痾の顔が揺らいだ。

 そして、


「――捕まってなさいローゼぇ!」



 直後、巨大宿痾の顎にカンナは下から突撃した。



 凄まじい衝撃とともに、勢いにのった宿痾の顔が上向く。

 そのまま、ランテは完全に顔が上を向いたことを確認すると、即座にその場を離れ、カンナ達を金の玉で守った。


 そして、



 ――その時、天を貫く柱が生まれた。



 巨大な、巨大な熱線だった。

 宇宙空間にも届くのではないかというそれ、余波であるにも関わらず金の玉は崩壊寸前まで防御を削ぎ落とされ、退避した戦姫達ですらあちこちに吹き飛ばされた。


 今のが地面に直撃していたら――


 この星は割れていたのではないか? そう考えずにはいられないほどの一撃。


 言うまでもない、前回ミリア達が激突した、砲塔型の宿痾と同じ一撃だ。威力も範囲も、決して変わらない。シルクを動力にしているのだから、当然といえば当然だった。


 しかし、違うことが一つだけある。


 ――戦姫たちを見下ろし、地面に顔を向けた宿痾。



 そこから、二発目の兆候がもれた。



「なっ――」


 驚愕に周囲が染まる。

 そう、この熱線。威力などはこの間のものと同じだが、一点だけ、特筆すべき点があった。


 それは、連射ができるということ。



 ――かくして、地上を破壊し尽くす砲撃は、二発目が即座に放たれた。



 <>



「ミリアウェーブ!」


 ミリアは追い詰められていた。

 無数のミリアを出現させ、津波となってヘルメスへと飛びかからせる。


 とはいえそれは、ヘルメスが無造作に放った杖の奇跡でかき消される。


「ミリアダイナミック!」


 直後現れたのは、巨大極まりないミリア。

 ミリアが巨大化したのか、巨大化したミリアを作ったのか、ともあれそれもヘルメスには通用しない。奇跡での消失を杖に願う。

 本物ならばそれで判別がつくし、偽物ならばそのまま消えるだけだ。


 とはいえ、ミリアだって何も考えずにこんなものを作ったわけではない。

 このミリアダイナミックは偽物だ。しかし、ヘルメスの奇跡を耐えるように作ってある。故にミリアはこれを囮にしようと考えた。


 ヘルメスが奇跡をそちらにぶつけて耐えられたことで警戒が緩んでいる。

 故に行動を起こすのだが――



 ――そもそも、何をすればいいのだ?



 背後から出現したミリアは、メルクリウスの奇跡を終焉機へと向ける。まず考えられるのは魔導機の破壊。しかし、完全に不意をついたにも関わらず、ヘルメスはその攻撃をその場からかき消えることでさけてしまった。


 ヘルメスは精神体だ。現実の法則は適用されない。最初の攻防でも瞬間移動をしてみせていたが、どうやらこうやって突如として別の場所に現れることもできるらしい。


<ふぅん、懲りずに杖を狙ってきたのね。なら――>


 ぽつりとつぶやくと、ヘルメスは杖を消失させる。ヘルメスに見えていた蛇と杖と羽の変化は、どこかへと消えてしまった。


「……遠隔操作!」


<そうよ、まさか魔導機の製作者がこの技術を使えないわけがないでしょう?>


 杖を遠くへ飛ばしてしまったのだ。

 遠くからでもヘルメスは魔導を使うことができるなら、破壊されてしまう可能性のある杖はこの場に必要ない。多少スペックに制限はでるが、もしもスペックが必要に慣れば、瞬時に手元へ戻すこともできる。


「どちらにせよ、貴方でも杖が破壊されれば、大きく弱体化することが解っただけでも僥倖です!」


 ミリアが、そういいながら再び飛び出す。


<それを――無駄足というのよ、ミリア・ローナフ!>


「ミリアストレート!」


 ミリアは横ばいになると、一気に射出された。

 直後、無数のミリアが同じように射出される。ミリア達が一気に襲い掛かることで、撹乱と接近を同時に行おうというのだ。


 ――それを吹き飛ばしながら、ヘルメスは勝ち誇ったように笑う。

 しかし、内心では決して穏やかとは言えなかった。


 ミリアの戦闘が洗練されてきている。こちらの手札を分析し、少しずつ最適な選択肢を選びつつある。それがいずれ、自分に届くのではないかと思わされてしまう。


 ヘルメスは無敵だ、しかしそれは、ヘルメスが自分の考えうる限り、全ての弱点に対して対策を取っているということでしかない。

 確かにヘルメスは万能で、最強に違いないが、その想像力は無限ではない。


 万が一はないだろう、とヘルメスは自負しているが、しかしミリアならその万が一はありうるのだ。

 何よりヘルメスは戦闘を有利にすすめているし、ミリアに負ける理由もないが、ミリアは決してボロを出していない。一度でも攻撃を貰えばその隙から詰みに持っていけるとヘルメスは考えていたが、その隙すらミリアは生み出さないのだ。


 どちらにせよ、このまま行けば戦闘は膠着するだろう。

 であればどうする? 一瞬の隙をついて、ミリアを止める他にない。

 方法は考えられる。ヘルメスにはアテがあったのだ。


 ミリアが本当に一瞬、一瞬だけ意識を向けてしまう何かが起きるというアテを。ヘルメスだけは持っていた。


 故に、それを待つことにした。

 チャンスは一度キリ、そこで捕まえられなければ間違いなくこの戦いは泥沼化する。それだけはヘルメスとしてもさけたかった。


 ミリアが鬱陶しいのだ、心の底からどこまでも。


 故に、



 そのときは来た。



 突如として、自分たちのいる宇宙にも届くほどの位置にまで伸びた熱の柱が出現した。



<――来た!>


 巨大宿痾の熱線。下手をすれば自分たちに直撃する可能性すらあったそれが、ミリア達の眼の前を通り過ぎていった。

 絶好のタイミング、ミリアはそちらにほんの少しでも意識を向けなくてはならない。


 そう、そのタイミングで、



 ――望み通り、ミリアは隙を生んだ。



<つか、まえ、たあああああああ!>


 その瞬間を待ちわびていたヘルメスの動きは、ミリアの想像を一瞬だけ越えた。

 一瞬にして、ミリアの周囲で重力が発生し、身動きが止まり、そこへヘルメスが出現する。精神体でも、やろうと思えば相手を掴むことはできる。


 ヘルメスは――ミリアの首を掴んだ。


「ぐっ、う――!」


 殺すべきか、否か。

 一瞬考え、ヘルメスは慎重策を取った。ここでケリをつければ、間違いなくミリアは反撃してくる。しかし自分が悠長な雑談に舵を取れば?

 ミリアは、そこに隙を見出そうとするだろう。


<バカねぇ、愚かなのよ、ミリア・ローナフ。仲間の死にでも意識を向けられたかしら?>


「あれ、は――」


<私が用意した宿痾ねぇ。ああ、安心して、今のは――もう一発飛んでくるから>


 直後。


 熱線は今度は空へと放たれず――炸裂した。


<あはははは! 決まったわねぇ、今度は上にそらせなかった。ああなれば、戦姫たちはおしまいよ! なにせ当たれば地球を粉々にできる威力なんだから!>


「……!」


<それに、例えあれで死んでいないやつがいたとしても――>


 勝ち誇るように言う。



<当然、三発目が飛んでくるわ?>



 ――いいながら、ミリアの顔を自分へと近づけた。


 直後、再び地球が震える。

 三度目の攻撃、ああこれは――間違いなく地上は決着がついただろう。ミリアの隙を生むことができる機会だったが、同時にあれは決着の証でもある。

 あれを受けて耐えられるものなどいない。

 それが三発。これで決まらなければなんだというのか――


<――ずっと見ていて思ったの。ミリア・ローナフ。貴方仲間に頼りすぎじゃないかしら>


 ミリアに吐き捨てるように、


<貴方ほどの天才が、仲間なんてもの頼るのがそもそもの間違いなのよ。そんなものを頼りになると思ってしまうから、貴方はこの程度にしかならないの>


「ぐ……」


<第一、周りのためにもならないわ。貴方が頼るから、周りは貴方の力になれると勘違いする。天才にそんなものは必要ないのに!>


 ――いいながらも、ヘルメスはミリアに反撃させず決着をつける魔導を用意していた。

 天才ゆえに、ヘルメスは油断なくミリアにチェックメイトを突きつける。


<やはり人間は、管理して飼育するのが、一番正しい扱い方なのよ!!>


 そう、決着をつける。

 そのつもりだった。だが――



<――――アハ>



 声が、した。


<アハハハハ!>


 ミリア、ではない。


<アハハハハハハハハハハ!!>


 当然、ヘルメスでもない。


 それは――



<――そっか、そっかそっか! お母様ってこんなにバカだったんだぁ!!>



 宿痾操手アイリス。


 ミリアに敗れ、消滅したはずの――自分を母と呼ぶ小娘の声が、メルクリウスから響き渡った。

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