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79 アイリス攻略戦

「というわけで、まずは目の前のことです」


「何がというわけだ」


 夜。私達は四人あつまって、話をしていた。

 簡単に言うと、目の前に迫る“彼女”との対決についてだ。


「まず、数日後には我々はセントラルアテナに到着します」


 ついに、というべきか。

 大所帯故にゆっくりゆっくり、ゆーっくりとした移動だったけど、遂に私達はセントラルアテナ近くまでたどり着いた。

 これまで宿痾の大きな襲撃はなく、あっても私達がいなくても殲滅できる程度だった。いわゆる哨戒というやつだったのだろう。

 逆に言うと殲滅できないと大隊に情報が伝わり、おおきな戦闘になるのだろうけれどそれはそれ。


「難民の皆は、すっごく落ち着いてるよ。食べる物があって、もうすぐ安全な場所にたどり着くって解ってると、一応は安心してもらえるみたい」


「安心してられる理由の九割は、お前がいるからだろ教祖様」


「そ、その呼び方やめてよ、恥ずかしい!」


 で、このキャンプについてのことはおおよそランテちゃんが纏めてくれたのでなんとかなっている。


「ところで、ランテちゃんはもうすぐここからいなくなるわけですが、大丈夫なんですか?」


「んまぁ大丈夫だろ。ここにいる人間は、大抵が覚悟を決めてる人間だ。戦姫に対する嫌悪だとか、恐怖があるうえで、それでも生きるために行動をともにする連中だ。大抵のことは、勝手に乗り越えれるくらい強いんだよ」


「それはまた」


 ――そういう存在しか生き残れない世界である、とも言えるが。

 まぁ、ようするにいなくなっても彼らは強く生きていくということはわかった。まぁ、いなくなって未来に戻った結果が今の私達の時代なわけなのだから。そこは問題ないのだろう。


「こっちも、作りたいモノはだいたい作れたよ。あと一つ、用意しておきたい魔導があるんだけど、これに関してはローゼ先生を頼りたいんだよね」


「シェードちゃんはすごいですね」


「アルミアさんのおかげだよぉ」


 ――つい最近、ついにアルミアさんはシェードちゃんのことをママと呼び始めた。いや、なんというか自分のお祖母様が、いくら心が壊れていて未来のお祖母様とイコールにつながらないとは言え、親友をママと呼び出すのは心に来るものがあります。

 なんなんですかね、この感情。


「で、そうやってここでの課題が解決したということはですよ」


「したか……?」


「したってことは――次は、私達の課題が問題になるわけで」


 こほんこほん。



「――対アイリスです」



 宿痾操手アイリス。

 セントラルアテナへの突入に際して、間違いなく立ちはだかることになる敵。私達にとっては、言ってしまえば宿敵とすら言える相手だ。


「流石に、四人で囲めば勝てるんじゃねぇのか?」


「向こうはこちらを初見ですし、不意を撃てば不可能ではないと思いますが、――失敗します」


 実際問題として、過去を変えることができない以上、私達はアイリスを倒せないのだ。いや、それで諦めるのはどうかと思うが、きっとできないことはできないのだろう。


「諦めるなんて、おねえちゃんにしては珍しいね」


「諦めてるわけではありませんよ。アイリスはそういう前提で戦ったほうが戦いやすい相手ということです」


 私とアイリスが戦った場合、こちらのほうが若干有利で、戦闘自体は五分で展開するだろう。相手も私もできることが多すぎるので、どちらかが小手先の技術で手を打っても、確実に対応されてしまうからだ。


「アイリスにはメルクリウスがあり、私はそれに対応できるくらい色々と魔法が使えます。すると、膠着するんですよね」


「決着をつけるために、大きな一手が必要になるんだよね」


 ――私の故郷での対決は、アツミちゃんとシェードちゃんの参戦が大きな一手になった。そしてあの対決はそもそも、アイリスが私を煽って、対等な立場での対決を強制したために、互角としか言いようのない対決になったんだ。

 本気で決着をつけようと思った場合、ああいう力のぶつけ合いは、本来私達には必要ない。


「だから、アイリスを倒そうと思う場合、必要なのはどれだけ手札を用意できるかです」


 それも、その全てがどれも必殺級であるほうが望ましい。

 決着をつけるくらい、盤面を変化させる手であることが条件だ。


「というわけで――」


 私がニコっと笑顔を皆に向けた。人懐っこい、可愛らしい笑みだと思うんだけどどうだろう。


 全員引いた。アツミちゃんに至っては露骨に嫌そうな顔をしている。なんでぇ?



「――皆で、一つずつ対アイリスに有効そうなすごい手を考えましょう」



 途端。

 私は全員からやっぱりか、という気配を感じ取るのだった。


 だからなんでですかぁ!



 <>



 そして――


「――まもなく、我々はセントラルアテナに到着する」


 私達は集められていた。私達ではない、この難民キャンプにおいて戦う力を持つ戦姫や、軍人さん達が全員集合している。


 中央に立っているのは、言うまでもなくアルミアさん。


「しかし、それを阻むかのように、我々の前に宿痾の大群が確認された」


 どよめく空気に、アルミアさんはそれが収まるのを待って、


「――決戦だ。私達はこれを突破し、セントラルアテナにたどり着かなくてはならない」


 言葉を紡ぎ始めれば、そこからはアルミアさんは一気に人々の心を掴んだ。

 ランテちゃんが宗教と化している昨今ではあるものの、始まりの戦姫としてのアルミアさんのネームバリューは健在で、どころかランテちゃんとアルミアさんは、ともに立つことでその牽引力は更にましているようだった。


 というか、案外この二人、横に立つと似合う。


 すごくしっくりくるのだ。私とランテちゃんだと、仲良し姉妹とは言われても、真面目な空間だと似合う気がしないのに。

 ……いや、なんか違うな。


 この二人は、この二人だから似合うんだ。

 私達の場合は、きっと横にアツミちゃんとシェードちゃんが並ぶことになる。


 だから私達の場合は、二人で横に立つということはない。アルミアさんの場合は、なんというか――二人しかいない。


 それは、どうにも。

 寂しい気がしてならなかった。



 <>



 アイリスにとって、その戦いはなんてことのない殲滅の一つだった。

 宿痾操手。宿痾の操縦者として作られた彼女の役割は、人類の選別。人類は宿痾によって壊滅に追い込まれ、宿痾にとって都合のいい数まで減らす必要がある。

 そのための殲滅がこれで、そもそもアイリスにとってそれは戦いとすら言えないものだった。


 あくびを噛み殺しながら、やってくる人々を空中から眺める。

 ――この場におけるアイリスの役目は、あくまで現場監督。戦姫と呼ばれる人類の希望が出現し、宿痾にたいして対抗手段として力を奮っているが、数万の宿痾を前には無力でしかなく、アイリスはその数万を軽々と薙ぎ払えるのだから、アイリスにとってはそもそも存在していないのと同じだ。


 だから、あまりにも楽で退屈なその指揮を、アイリスはもはや遊びとすら思えなくなっていた。唯一、自分の姿を見られては行けないという制約だけがあったが、それもこうして宿痾の壁に埋もれてしまえばなんてことはない。


 結局、人類の殲滅など宿痾にとって作業でしか無いのだ。

 今日もまたそうであり、これからもそれは変わらない。人が宿痾に勝てるはずはない、ましてや自分に――最強の操手たるアイリスに勝てる存在などいるわけもない。


 そう、この日までは考えていた。


 この日、この瞬間までは。



 ――突如として自分を覆う無数の宿痾が、一撃で殲滅されるその時までは。



<は――?>


 マナを探知できなかった。

 いや、今探知できた。探知するより先に魔導を使われたのだ。


 誰が?

 ――始まりの戦姫とかいう奴が強い、というのは聞いたことがある。戦姫の中では図抜けて、マナの扱いに優れている。

 マナの概念を知って数年も立っていないはずなのに、マナを魔導機なしで扱える異端者。

 それが、もしかしたらあのよくわからない塔を目指しているのかもしれない。


 ――いや、だがこれはあまりにも。


<なにこれ、なんで一瞬で宿痾が半分になってるの!?>


 異常だ。

 いやそれは、異常だなんて言葉では済まされない。


 マナは一瞬で自分の元へせまってくる。

 何が来る? 戦姫か? はたまた自分とはまた違うマナの使い手か? ありえない、ありえないありえない。ありえてはならないことだ。


 アイリスは最強だ。

 誰にも負けることはなく、そして劣ることのない生命の頂点だ。


 自分が世界を支配して、そして姉とともにその頂点として生きる。

 それを今――


 阻止する存在が現れた。


<……あはっ>


 ――これが兄弟ならば、きっと激怒するだろう。

 激高して、当たり散らすだろう。


 だが、アイリスはそれを許容する。


 最強であるためには、全てを薙ぎ払わなくてはならない。たとえソレが、どんな存在であっても――



「かああああっくごしなさい! アイリスうううううううう!!!」



 ――そうして現れた、どうしてか自分の名前を知ってる敵は。

 四体。


<……>



 ――――きぐるみを着ていた。



 動物のキグルミだった。


<……なんで>

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― 新着の感想 ―
[一言] 残酷な世界なのに所々オチを付ける展開が好き。
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