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61 ランテは逃げ出した。

「それで――――」


 ライブが終わり、ミリアたちは個室のレストランに来ていた。ついでに昼を食べようということになったのと、話をするために。流石に往来で操手がどうのという話をするわけにはいかない。

 その上で、


「反省してるか」


「じでまず……」


 椅子の上で正座するミリアを、アツミは見下ろしていた。

 ミリアの目の前には大量の美味しそうな料理が並べられている。このレストランは旧時代の文化を保存すると言う目的で作られており、そこには古今東西さまざまな料理が並べられている。

 どれも魔導機が自動調理したものだが、味は一級品だ。


「だうーーーーー」


 よだれをだうだうさせながらミリアはお預けを食らっていた。勝手にいなくなったことの反省として、これほどの料理を前にしながらそれを食べることを許可されていないのだ。

 最初のうちは強気だったミリアも、ついには屈服し反省の言葉を口にした。体は正直なのである。


「……ヨシ、食っていいぞ」


「わんっ!」


 アツミの許可得て、その場で飛び上がったミリアは、即座に料理へ手を伸ばし始める。すでにミリアへの拷問も兼ねて先に舌鼓を打っていたものたちも加わって、食卓は一気に賑やかになった。

 アツミもため息ひとつ、席について。


「んじゃ、いただきま……」



「ちょっと待ちなさいよ!?」



 食卓に待ったの声かかる。

 一同の視線が、一斉にそちらへ向いた。声をかけてから彼女は手にしていたスープでチャーハンを一口。もぐもぐさせて飲み込んでから、


「なんで私よりちびっこの反省の方が先なのよ!」


「だーれがちびっこですか! だいいひ、もふふ、もふもふ、もふふふ」


「食べながら喋るな!!」


 ビシャーン、と怒りながらツッコミを入れるが、実際そのとおりなので誰も彼女を責めることはなかった。


「ごくん。思いっきり食事を楽しんでるじゃないですか! それに、自意識過剰なんじゃないですか? アイリスのお姉さん!」


「アイリスの姉言うな!」


「じゃあなんなんですかっ!? なんて呼べばいいんでふ!?」


 また食べるな! と叫びながら、彼女――宿痾操手“姉”は少し考えながらスプーンでチャーハンをよそい、食べた。

 もぐもぐ、幸せな顔、ハッとなってキリっとして、それからまた少し考える。以下ループ。


 結果少しの間会話がなくなり、五人は黙々と食事を進めていたところに――


「……シルク、でいいわ」


「おや、名前あるんですね。誰かにつけてもらったんですか?」


「男どもは気にしないけど、私はそういうところ気にするの。それに……」


「それに?」


 体ごとクビをかしげるミリア、大体四十五度くらい。


「……なんでもないわ。そんなとこ」


「そうですか」


 あぐ、とそれから再び食事に戻る。

 追求がなかったことで、姉――シルクは一つ息を付きながら、手元の食事を見下ろしていた。


「それで、だよ。ミリアちゃん、シルクちゃんとはどこで知り合ったの?」


「あ、ちょ――」


「道端で倒れてたんです。ひもじーひもじーさんでした。このご時世、行き倒れなんてそうそういませんのに」


 現状、人類は戦時下の管理社会で生活しており、衣食住は魔導によって保証されている。故に行き倒れるなんてことはそうそうないが、まぁシルクは社会の外から来た人間だ、それも仕方ないだろう。


「今の時代、お金が使えないってどういうことよっ。使えるお金さえあれば、後はそれをどっかから調達するだけでいいのにっ」


「生体認証で管理されてますからねー」


「マナを持つ子供を隠されても困る、っていうのはあるしな。まぁ、そういう時代だ。てかよ」


 アツミはシルクへ箸を突きつけて、険しい顔で言った。


「元はと言えばてめぇらのせいだろうが。てめぇら宿痾が人を殺して、追い詰めて。それで文句を言うのは筋が通らねぇ」


「なっ――わ、私は殺してない! 人類を襲撃したことだって、一度しかないし……それだって、大失敗……だったんだから」


「はぁ? ま、別にそれで被害者ぶろうとしても構わねぇがな」


 シェードは苦笑しているし、ミリアは気にせず食事をパクついているが、どちらもアツミを止めるということはなかった。

 致し方ないだろう、現状、人類と宿痾は対等な戦争をしているわけではない。宿痾側が人類を弄んでいるだけなのだから。それで生き延びている側としては、宿痾は単なる災害でしかない。

 好意的な反応をしろという方が無理な話。


 ミリアは、それだけではない気もするが。


 ただ、



「ちょっとまってよアツミおねえちゃん!」



 ランテは違った。

 勢いよく立ち上がって、反論を唱える。


「確かに宿痾は悪い奴だよ、いつかは私達が生きていくために、嫌だって言わなきゃいけない相手だけど。でも、シルクおねえちゃんは誰もころしてないんでしょ!? だったらこの人の罪は、宿痾と同じにしちゃいけないよ!」


「お前ソレ本気で……いや、確かにこいつはほんとに誰も殺してねぇみてぇだけどよ。お前こいつに殺されかけたろ」


 ――アツミの読心を前に、シルクは嘘をつけない。

 彼女には“弟”のような防御手段は存在しなかった、だから姉が、本当に人を殺していないことは理解できる。ランテが本気でシルクをかばっていることも。


「それは……でも、おねえちゃんが守ってくれた!」


「……」


 そんなの、ミリアがいなければ、と――アツミは口にできなかった。この場にいる誰もが、ミリアに命か、大切な人を救われた立場だ。ともすれば、シルクだって人を殺さずに済んだから、こうしてこの場で弁明ができているとも言える。

 というより、心を覗いたアツミには、シルクが人を殺してその罪悪感に耐えられるタイプとは決して思えなかった。だからこそ、彼女が本当に殺していないという実証にもなる。


「別にいいんじゃないですか?」


 割って入る声。当然、それはミリアだ。というよりも、アツミが黙った時点でこの場を収められるのは彼女しかいない。


「まずそもそも、人類は宿痾操手のことをよく知りません。今まで私達の敵は宿痾であって、アイリス達ではなかった。だから、いきなり自分と同じ人間が、貴方の敵は私達だと言って、誰が信じるんです?」


「……そんなもんか?」


「あとミリアちゃんもうちょっとIQ落として」


「きゃうー!」


「落としすぎだバカ!」


 シェードの言葉に、突如としてアホになったミリア。アツミに叩かれると即座に元に戻ったが、シルクは引いていた。


「それに、シルクはこっちに来たんです、そこにはなにか理由があって、そしてシルクは人として行動しているなら、私達はそれを受け入れるべきでは?」


「つまり?」


「とりあえず、何でこっちに来たのか、聞かせてもらっても?」


 ――まぁ、現実的な話。目の前に操手のシルクがいて、彼女が対話の姿勢を見せているなら、彼女を責めるのではなく話を聞くべきというのはまっとうな話。

 アツミは、どうやら少し熱くなりすぎていたようだ。

 流石に、ランテのように正面からシルクを擁護できないが、責めるのは悪手だと自覚した。


「んで?」


 ――と、アツミはシルクに話を戻す。読心を集中させて、彼女の嘘を許さない構えだ。これまでのミリアたちとの戦闘から、アツミの読心をシルクは知っているので、嘘はつけない。


「それ、は……」


 だから、シルクは少しだけ考える。もちろん、考えた時点で筒抜けだったが。



「……アイリスから、逃げ出したくって」



 そして、筒抜けの考えを、シルクは端的に吐き出した。


「だろうなぁ」


「だよねぇ」


「ですか」


 そして、ランテを除く三人はそりゃそうだと同意した。


「え、い、いやでも、あんまり家族を悪く言うのは……」


「……心にもない擁護はしないほうがいいぞ、ランテ」


 ランテだけは人を嫌いになれないのか、なんとか擁護をしようとしたが、それを否定できるのがアツミの読心だった。あうう、とランテは一部以外が縮こまる。

 むしろ一部は強調された。


「んじゃ、そういうことなら……だ」


 アツミは圧をかけつつ、シルクに詰め寄る。ここでのアツミの役割はアタッカー。飴と鞭なら、鞭の担当だ、それがよくわかっているから、アツミは躊躇いなくシルクを睨む。


「ひん」


 なんかシルクの口から悲鳴がもれた。


「……とりあえず、てめぇの知ってることを話せ」


 尋問、流石にしないわけにはいかないだろう。人を殺したことがシルクの罪ではないというなら、何もしなかったことがシルクの罪だ。

 そこにシルクが責任を感じているなら、情報は吐いてもらわなければ困る。


 だが――


「……ああ?」


「…………やよ」


 心が読めるアツミは、シルクが答えを口にするよりも、早くにその意図を理解できた。だから、シルクの反応よりも先にクビを傾げる。


「いやよ! アイリスとは一緒にいたくないけど、私はアイリスのお姉ちゃんだもの!」


「何いってんだてめぇ」


 思ってもみない回答が出てきた。それはつまり、アイリスの姉であることがシルクのアイデンティティであるということか? そう考えて、しかし読心から違うとアツミは理解する。


(――こいつ)


 驚くべきことに、シルクは本気でアイリスは自分の妹だから、秘密を話せないと言っている。そして、話さないように意識するということは、とにかく必死に考えないようにするということ。

 この場合、アツミはシルクに直接フレなければ、その考えを引きずり出すことはできないが――


 そうした場合、シルクは意固地になるだろうな、とアツミは判断した。

 何より、


(おもしれぇな、こいつ。こんな訳のわからねぇ思考してる奴は初めてだ)


 そこでアツミはシルクに、初めて個人としての興味を持った。

 であれば、彼女の機嫌を損ねるようなことを、正面からするべきではない。別にしてもいいが、最終手段だ。

 故に、


「じゃ、しょうがねぇな。シェード、やるぞ」


「あ、はーい。アツミちゃんがそれでいいなら、私もいいよ」


「……なっ、何をする気よ!」


 どこか嗜虐的な笑みをアツミが浮かべたからだろう、シルクは少しだけ後ずさった。

 そこへ、アツミは間髪入れず返答する。



「何って、拷問に決まってんだろ」



 拷問。

 ――拷問。


「ひん」


 また、シルクから悲鳴が漏れた。


「まずは」


 言って、アツミはそのまま、シルクの手元にあるチャーハンを取り上げる。


「あっ、チャーハン!」


「こいつは没収だ。でもって――ミリア」


 パチン、と指を鳴らす。


「はいはーい」


 直後、ミリアがアツミの取り上げたチャーハンへ、“なにか”をかけた。


「あ、そ、そ、それは――っ!」


 シルクが目を見開く。

 限界まで見開かれた瞳に、それは確かに移った。


「卵っ!」


「これを書けると、チャーハンは一つ上のランクにパワーアップするのです。ほっくほくぅ!」


「こ、この卑怯者!!」


「ふふ……っ」


 ――勝った、とアツミは思った。

 なお、隣で見ているシェードは、アツミも大概ミリアに毒されているな、と考えていたが、アツミはシルクに集中していたので気付かない。


 その時である。


「し、シルクおねえちゃん!」


 ランテが、シルクの手を掴んだ。


「ここは悪夢のそーくつだよっ! ここにいたら限界まで美味しいモノの匂いに浸されて、お預けされちゃうよっ!」


「……はっ、そ、そうね!」


「あ、おいてめぇランテ!!」


 アツミがそれを止めるより早く、シルクを掴んでランテは走りだす。


「アツミおねえちゃんのバカー! イケメン! わるいおんなー!」


「それはどういう悪口だ!?」


 いいながら、逃げ出すランテとシルク。アツミは追いかけようとしたが、ランテ達が一枚上手だった。


「……っくそ、逃げられた」


「楽しそうだねぇ、アツミちゃん」


「ああ?」


 シェードがほんわかした感じでそういうのを、アツミは不思議そうに眉をひそめる。読心少女は、自分の心を読めるわけではないのだ。


 そして、それをちょっとだけ遠巻きに眺めるミリアは、ふと思っていた。


 ――この光景が、見られてよかった。


 ……なんで? 答えはない。

 ただ、どうしてか――ああして手を取り合って笑い合うランテとシルクに、ミリアは笑みを浮かべざるをえないのだった。

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