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60 姉は見つかった。

 ミ、ミ、ミ、ミリアですかー!?

 そう、ミリアです! ミリア・ローナフです。

 皆さんこんにちわ! あれから色々ありました。


 まず、アイリスを撃退し、全員無事に生還したこと。一人だけ服を着替えていたランテちゃんを三人で囲んで儀式をしたこと。他にも長期休暇は色々楽しいことをして過ごしました。

 で、休みが終われば私達はお別れ……という予定だったのだけど、アイリスが襲撃してきたことで事情が変わった。特に、アイリスの手札をしれたことは非常に大きかった。


 現状、アイリスは私が相手できないような理不尽な強者ではない。むしろ実力的にはケーリュケイオン込なら私のほうが上、ケーくんが使えなくなることへの対策と、今だアイリスが隠している切り札が何かとか、色々気になることはあるけれども。

 すくなくとも、アイリスが一人で世界の人類すべてを殲滅できるような不条理でないことがわかったのは収穫だ。


 では、長期休暇が終わった後に何をするか、という話し。

 アイリスのベールが剥がれたから、やたらに警戒する理由はなくなった。ミリア大森林に隔離されるミリアはもういない! このままアイリスがこなかったら、私は森林と一体になり、樹木のようになっていたでしょう。誰がまな板か。


 加えて、アイリスと対峙した私には、それを本部へ報告する義務がある。長期休暇中は遠慮してくれたけれど、長期休暇が終わったなら報告を急ぐ必要がある。

 まぁ、本来なら長期休暇を待ってることなんてできないくらい人類は逼迫しているのだけど、最近は少し余裕が出てきたので、休暇を終わるまで待つという形になった。


 そう、人類の戦況は現在膠着を保ちつつ少しだけ静かになっている。というのも、人類が戦略を専守防衛に切り替えて、“待ち”の構えに入ったからだ。

 今までは少しでも人類の土地を取り返すべく、時折大規模な作戦を立てては敗北したりしていたのだけど、私が出現したことで、慎重な方向に舵を切ったらしい。

 正確に言うと私がケーくんを握った頃から、お祖母様はそういう動きが取れるよう色々と調整を進めていたそうだけど、それが昨日の操手襲撃で一気にそういう形に固まったらしい。

 お祖母様、操手の襲撃まで読んでいたんじゃなかろうか、なーんて。


 さて、本部への報告は流石になんてことはありません。

 もうすでに一回やったことだし、本部の人たちももう色々諦めているのか、特に私の言うことに突っ込んでは来ませんでした。

 まぁ一番のツッコミどころは隠し通しましたからね! 水着での戦闘はもうコリゴリです!


 そういうわけで、報告を終えて、暇になった私達。



「中央都市だあーーっ!」



 ランテちゃんの嬉しそうな叫びが、町中にこだましました。周囲の人達がこっちを見ていますが、おのぼりランテちゃんは気にもとめずに目を輝かせている。

 そう、暇になったからには、休暇続行です! 正確には今日一日を中央都市観光に当ててもいい、という日程になっています。


 私とシェードちゃんはこの間本部に来た時以来、アツミちゃんとランテちゃんは初めての中央都市になる。とはいえ、流石にアツミちゃんはランテちゃんが大騒ぎしているから、落ち着いたものだけど。


「おちついて、おちついてランテちゃん!」


「あわわ……」


 シェードちゃんがランテちゃんを落ち着かせて、結果恥ずかしくなったランテちゃんが顔を赤くしながらぽけぽけしている中、ちょっとだけ距離を取っていたアツミちゃんが、私に話しかけてくる。


「んで? まずはどこから見てくんだ?」


「丸一日休暇ですし、ゆっくり色々と回りましょうよ。新しい服もみたいですし、色々と本も買い込みたいですね」


「観劇とかはしないのか? 確か今はハムレットがやってんだろ?」


 中央都市は、人類で唯一と言っていい娯楽の存在する都市だ。観劇、つまり舞台劇はそんな都市でも人気の娯楽の一つ。過去の人類の古典的名作を演じて、その文化を後世に残すことが目的だ。


「観劇は時間を取りますからね、一日でいろいろなところを回るとなると、半日を潰してしまうのは効率的とは言えません」


「なら、スタジアムはどうだ? ちょうど午後から、お前が助けたアスミル隊が試合をするんだが」


 スタジアム、前にスポーツはこの世界でも少ない娯楽の一つだという話をしたことはあるけれど、それを一番に体感できるのが、このスポーツスタジアムだ。

 ここでは、戦姫たちがいろんなルールで競技を行っている。アツミちゃんのいうアスミル隊の試合というのは、部隊単位での模擬試合を行う「スクランブル」という競技のことだろう。

 色々とスポーツはあるけれど、一番の人気はやっぱり戦姫同士の模擬戦だ。


「それはいいですね、じゃあせっかくですしアスミル隊の人たちに挨拶できないか、確認を取っておきましょう」


「そこまでできるのか!? いや、むしろそれを躊躇わないお前の行動力はどうなんだ」


「楽しむなら、全力で楽しまないと、です」


 言って、ケーくんを取り出して杖で色々と通信を行う。杖はスマホ的な使い方もできる便利ガジェットです。ぴこぴこ。


「スタジアム!? スタジアム行くの!?」


「そういうことになりそうだ。ま、行くならやっぱスタジアムはスクランブルかドッグファイトじゃねぇとな」


「だねー」


 アツミちゃんとランテちゃんがきゃいきゃいしている。

 ドッグファイトというのは、一対一での戦姫同士の模擬戦のこと。スタジアムでは他にも色々と競技があるけど、特に人気なのはこの二つだ。

 何故なら一番見ごたえがあるから。

 見た目が派手、というのもあるけど、ぶっちゃけスタジアムでの模擬戦は興行というより人々の慰安という目的が強く、簡単に言うとそこで戦う専門のアスリート戦姫がいるわけではない。

 あくまで普段の業務のついでにスポーツを戦姫たちが楽しむ場所、である。


 ぶっちゃけ、他の競技は練習が必要で、戦姫たちもそこまで習熟しているわけではない。素人のお遊戯より、プロのガチンコバトルの方が見ごたえがあるというわけだ。

 ドッグファイトとスクランブル以外の競技は、ぶっちゃけ見る側の慰安というより、プレイする側の慰安という意味が強い。息抜きは大事。


「それにしても――」


 ランテちゃんが落ち着いたことで、シェードちゃんが戻ってくる。その顔は、なんか優しかった。



「――すっごい楽しそうだね? アツミちゃん」



 主に、アツミちゃんに対して向けられていた。

 そういえばそうだ。さっきからアツミちゃんは随分と中央都市の娯楽に詳しい。というかアスミル隊のスクランブルとか私知らなかったし。

 よく調べているんだろう。


「なっ――」


 ――それを指摘されると、アツミちゃんが真っ赤になった。クールキャラだから、そういう図星を突かれると弱いんだ。


「う、うるせっ! うるせー! いいから行くぞ!」


 ぶんぶんと手を降って、ちょっと子供っぽく否定してから、怒りながら先に進む。


「あーもう、一人で行くと迷いますよ!」


 私もそう言って、慌ててアツミちゃんの後を追うのだった。



<>



 そして、


「――ミリアちゃーん、ミリアちゃんどこいったのー!?」


「言ってるてめぇが迷ってんじゃねぇよ!」


 ミリアは迷子になっていた。

 アホのミリアはなにかに興味を惹かれたのか、ふらふらとどこかへ消えていってしまった。気付いた頃には時すでにお寿司。ミリアは酢飯になって回転寿司のレーンに乗ってしまった。

 もとい、どこにいるのかわからなくなってしまった。


「通信がつながらないよー」


「あいつ、怒られるのがわかってて逃げてやがんな?」


 杖をポチポチしているランテに、アツミは頭をガリガリと掻きながら吐き捨てる。

 困ったものだと思いつつ、街を歩くのは意外と楽しい。この街は、人類の娯楽を集めた街、少し辺りを見渡すと、屋台があったり、大道芸をしている人がいたりする。

 中央、というちょっと真面目そうな言葉とは裏腹に、この街は明るい街だ。


「ま、これはこれでいいかなーって」


 シェードがそんなことをいいながらも、あちこちを見渡している。

 きっと、気になる店をピックアップしているのだろう。今日周る店は、シェードに任せれば問題なさそうだ。


「……とりあえず、このまま探してても切りがねぇな。シェード、ミリアの私物を貸してくれ」


「ん? どうするの?」


「ちと試したいことがある」


 言われてシェードは、かばんの中からしわくちゃのハンカチを手渡してきた。これは何日前のモノなんだろう、と思いつつアツミは努めてスルーする。下着が出てこなかっただけ、シェードも理性があるということにしておきたかった。


「……ん」


 集中。

 心の中へと沈んでいく。


 読心。

 他者の心を読み取り、その中へと入り込んでいくアツミの特異。それはすなわち意識の海へのダイビング、こうして静かに集中すれば、その精度はより上がる。

 加えて、アツミの特異はここ最近、ある変化を見せていた。


「――見えた。あいつ、なんか変なやつと大道芸してやがる」


 読心には、記憶を読み取る力もあるが、アツミはそれをその人物に関係のあるもので、間接的に読み取れるようになってきていたのだ。


「変なやつ……?」


「あっちだ、行ってみれば解る」


 そう言って、シェードにハンカチを返したアツミは、急ぎ足でそちらへ向かう。付いてくシェードがハンカチの匂いをかいでからかばんにしまったのを、アツミは見なかったことにした。

 ついでに、慌てて付いてくるランテの一部がすごいことになっているのも。はーうらやま。


「こっちだ」


 アツミ先導で進むことしばし、たどり着いたのは、開けた広場だった。ここではよく、民間人がいろんなパフォーマンスをしているのだが――



「盛り上がってますかー!!」



 その日、広場は一人の少女によって完全に支配されていた。

 杖をマイクにして、観衆に呼びかけるのは、言うまでもなくミリア・ローナフだ。小さい身体が、どういうわけかステージの上で大きく見える。


 観客は広場に所狭しと並んでいて、一体どうしてここまでの熱狂をもたらせるのか、ミリアはそもそも何をしたのか、アツミはあまり考えたくはない。

 なお、ランテは即熱狂にのまれてフィーバーしていた。


「次でラストの曲になってしまいました! ですが、私はまだまだ盛り上がっていけると信じています! いっきますよー!」


「ミ、リ、アー!!」


 空気にのまれて、ランテは叫んでいた。

 言っていることはアイドルか何かか、といった感じだが、この盛り上がりはいっそ狂信的過ぎてロックである。


「……まぁ、ミリアちゃんだしなぁ」


 と、ソレを見てシェードは納得していたのだが――


「んだ、ありゃあ」


 アツミは目を見開いて、それを見ていた。


「どうしたの?」


「いや、ミリアの後ろ」


 ミリアの後ろには、宙に浮いたベースやギターが何やら音を奏でている。ミリアの魔導によるものだろうが、アツミが気にしているのはそこではない。


「……あいつだ、あいつ」


「……ミリアちゃんに巻き込まれてる子がいるね」


 ――一人、どういうわけかミリアに巻き込まれている少女がいた。ドラムを叩いている。

 紫髪の、どこか陰気な美少女だ。ツリ目の、意志が強そうに見えるけれど、目が死んでいる。なぜ彼女があそこにいて、ドラムをしているのかはわからない。


 だが、アツミには――彼女の心を読み取れるが故に、ある事実が理解できてしまっていた。


「あいつ――」


 少しだけ、自分でも信じられないと思いながら、ソレを口にする。



「――宿痾操手だ」



 心のなかで、少女は泣き叫んでいた。

 なんで操手の自分がこんなこと――――と。


「…………え?」


 ミリアの奇行によって、あまり物事に動じなくなっていたシェードが、久しぶりに理解できないものを見るような目で、聞き返してくる。


 ああ、なんというか。


 ――何してるんだよ、あいつ。

 二つの意味で、アツミは零すしかないのだった。


 かくしてここに、宿痾操手最後の一人、“姉”はミリアたちにみつかった。

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