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6 その名は宿痾

 ――虐殺。

 かつて、人類が“彼等”に抵抗していた頃、戦場で彼等が行っていた行為を、人類はそう定義した。

 一方的かつ、徹底的なまでの殺害。

 人という種に対し、あまりにも苛烈な攻勢は、あっという間に人類の半分を駆逐して、なんとか団結した残り半分をじわじわと食い破った。

 結局、人類は抵抗の手段を失うその時まで、ろくな勝利を重ねることができず、やがて彼等に敗北し――


 それと入れ替わるように、戦姫が登場した。


 戦姫のスペックは人のそれを遥かに超える。どころか、人類が“彼等”に対して使用していた抵抗手段。例えば戦車だとか、たとえば戦闘機だとかを、一人でまとめて相手にして、なお無傷で勝利できるほどに戦姫は圧倒的だ。

 つまり、人々にとっては戦姫も彼等も、そう変わるものではなかった。


 そして、そんな戦姫が登場し――戦場で行われていた彼等の行為は虐殺から――



「ぐ、ああああ!!」



 六名の戦姫が、縦横無尽に戦場をかけていた。

 空中を“蹴る”ことで推進力を強引に得て、音を置き去りにしながら、異形の怪物に突撃を仕掛ける戦姫がいた。

 地上から数百、数千にも及ぶ光弾を生み出し、異形に叩きつける戦姫がいた。

 自分の背丈の数倍、目の前の数十メートルサイズの異形を上回る光の剣を生み出し、斬りかかる戦姫がいた。

 二枚の巨大な盾を掲げ、敵が放ってくる攻撃を受け流そうとする戦姫がいた。

 そんな戦姫達を統率し、的確に指示を送る戦姫がいた。


 しかし今、それらは戦場から退けられた。


 一斉に、まるで戯れに飽きたかのように、異形たちが一息に吹き飛ばしたのだ。


 異形の姿は千差万別、獣型のものもいれば、昆虫を巨大化させたようなもの、鳥のようなもの、さまざまだ。共通点は、黒。すべてが、黒に染まっている。

 不気味さを覚えると同時に、その不気味さこそが、彼等を敵であると認識させる最も大きい要因であることを戦姫達はよく知っていた。


 だが、


「――まに、あいました!」


 六名の戦姫のうち、一人。

 大きな砲筒のようなものを抱え、木陰に隠れ続けていた戦姫が、顔をだす。

 戦場は森、深い森だ。身を隠すには絶好の場所である。故にこの戦姫は隠れていたのだ。絶対に見つかってはいけないから、見つかったら、この場に希望が全てなくなってしまうから。


「よし!」


「いけ!! ぶっつぶせ!!」


 気性の荒い戦姫達が叫ぶ。乾坤一擲、伸るか反るかの大博打、これを外せば勝機はない。そんな状況で、満を持して仲間たちの苦境を耐えながら待ち続けた少女は――それを、放った。


 そして、



 数秒後、巨大な黒の怪物に握りつぶされた。



 巨大。

 ――そのサイズ、実に数百メートル。先程まで、この場にはかけらも存在していなかったはずの巨体が、突如として空から降ってきたのだ。


「あ――」


「そん、な――!」


 絶望。

 これは、ダメだ。

 このサイズはダメだ。知っている、戦姫達はよく知っている。これがどんな存在であるかを、


「……本部に通達!!」


「だ、ダメです! 通信機壊れてます! 現在地も……不明!!」


「さっきの攻撃で、あいつら意図的に壊しやがったんだ!!!」


「――――!!」


 即座に指示を出した司令塔の少女に、しかし帰ってきた返答は虚無だった。

 そして故に、彼女たちは悟った。



 自分たちはこれから――人類にとっては最悪と言ってもいい裏切り者になる。



「は、ははは……はははははは! ふざけんな、ふざけんなよ!!」


 戦姫の一人が、やけくそに立ち上がり、突撃していく。

 ことここに至って、それを止める司令塔はいない。もう、彼女たちにできることはなにもないのだ。


 中央、巨大極まりない虫型の異形が、飛びかかる戦姫に手をかざし――やがて戦姫は光に包まれる。残った戦姫達も、次々と光りに包まれ、そして意識を呑まれた。

 最後に残る、司令塔の戦姫は思う。


 ――ああ、しかし。


「そろそろ、初陣実習か。……彼女たちは知らないんだろうな、この幸せを」


 戦姫は、思う。


「しかし、戦場に出れば嫌でも実感することになるだろう。これは、幸せなことだ、と」


 戦姫は、語る。

 いずれ自分と同じ場所に来る、地獄を進む少女たちへ――



「ああ、これで――やっと眠れる」



 ――諦めという感情ほど、戦姫たちにとって幸せな感情はない、と。

 そう語りながら、意識を失った。


 ――戦姫と呼ばれる人ならざる力の担い手が現れ、戦場は変わった。

 虐殺という地獄から――



 なぶり殺しという地獄へと。



 これぞ、災厄。

 これぞ、天敵。

 人という種族に巣食い、そしてくらい尽くす病の根源。


 抗いようのない脅威。漆黒に包まれた、あざ笑う怪物。

 人はそこに、絶望という真実を見た。故に、その名を――

 


 <>



「みなさああああん、こんにちわああああ、初陣実習にようこそおおおおおお!!」


「いやああああああ変質者あああああああ!!」


 大げさな叫び声とともに、白衣姿の女性が歓迎の意を示すと、ミリアは凄まじい勢いで泣き出しながら逃げ出した。まぁ、その変質者に先回りされたのだが。


「読めてたよぉ、ミリアちゃん!」


「うわああああああ顔が近いですうううううう!!」


 飛びついてくる白衣をなんとか躱し、ミリアはシェードの背にしがみついた。ガクガクと震える少女に、シェードがなんとも言えない感覚を抱いていると、どうやら女性の方が落ち着いたのか、口元を拭いながら距離を取る。

 それから、敵意はないと示すようにポーズを取りつつ、ゆっくりと元の位置に戻った。


 ――学園一の天才教師、ローゼ・グランテ。

 天才にして、変人。そこはミリアと共通しているが、彼女の場合は更にそこに変態という冠が付く、そしてこの3つの中では間違いなく変態という称号がローゼを表すのにふさわしいだろう。

 今も息を荒らげながら、警戒しているミリアを落ち着くようにジェスチャーしている。


「コホンコホン、改めてようこそ、ミリア隊の皆さん」


「ミリア隊?」


「君たちクラスの部隊名だけど? え? まさかミリアちゃん以外の誰かが隊長なのかい?」


「すいません先生、ミリアちゃんに説明してなかっただけです」


「なんでですか!?」


 シェードは簡単に説明する。

 魔導学園アルテミスのクラス分けは、卒業後の部隊分けにもなっている。よっぽどのことがなければ、一生の殆どをこの部隊で過ごすことになるわけで、

 そんな部隊の隊長がミリア、というのは些か不安が残る、というのが残りのクラスメイトの総意であり、同時にミリア以外に名乗りをあげるかといえば、それはありえないのも、またクラスメイトの総意であった。


 なので、実地などでの行動によって、万が一ミリア以外にまとめ役として相応しいものがいれば、その人物に任命しようという出たとこ勝負に出たわけだ。


 結果、それをやる前に教師にバラされてしまったわけだが。


「むー、別に私は隊長にこだわりません! 必要とあれば、お譲りしますよシェードちゃん!」


「うぇ!? い、いや私は向いてないよ!?」


 とはいえ、自分でやるとはこれっぽっちも思っていなかったシェードは、突然の前フリに、思わずのけぞるのだが。


「こほん! ではとりあえずミリアちゃんを隊長として扱う。今回の監督役は私、私が決めて問題ないね?」


「は、はひ!」


 とりあえずそういうことになって、全員が整列してローゼと向き合う。

 そうしてシン、と静まり返ると緊張感が場を包み始めた。こういうときは、ミリアは黙ってすまし顔で教師の話を聞くので、変人ではあってもローゼのような危険人物という扱いはされない。


「さて、初陣実習というのは、戦場の空気を感じて、戦場ではどのように動くべきかを学ぶ実習ね。すなわち、サバイバル!」


 これからミリア達が向かうのは、アルテミス学園のある敷地から少し離れた、人類非生存地区――異形の怪物が発生する可能性のある場所だ。

 とはいえ、基本的に人類の敵は突然なにもないところから湧き出したりはしないため、周囲に敵はいない、危険は少ない場所での実習を行う。


「当然、この間の食事やらなにやらは自分たちで準備する。遠征に出たら、それが普通だからねぇ。まぁ、一日目のお昼は出るけど、そこは夜以降の食事でありがたく思ってもらうための、罠……なんだけど」


「ワクワク」


「……この隊はそこにすごい大荷物の隊長さんがいるから、そういうことはなさそうねぇ」


 そういうローゼの視線の先には自分の身長よりも大きい荷物を背に抱えているミリアがいた。一体そこに何が入っているのか気になって仕方がないが、ミリアはこの実習を遠足と言っている。

 本来は現実を初陣の少女たちに教えるための厳しい実習なのだが、ミリアを前にすれば、折れるのはミリアではなく現実だ。


「まぁ、あなた達に限っては、万が一なんて可能性は皆無! 夜もぐっすり眠っていいと思うの!! そんなこと、普通ありえないんだから!」


 大げさにローゼは言うが、それが誇張でもなんでもないことは、この場にいる誰もが知っている。数日前、遠征から帰ってきた上級生の部隊、五人の戦姫で構成されるその憔悴しきった様子から、遠征というのがどれほど危険で過酷であるかはよく分かる。


 そして、これは余談だが、一般的に本来遠征が終わった後に戦姫を待ち受けるのは、溜まった書類仕事と次なる遠征へ向けての訓練だが、このとき初めて上級生部隊は休暇を与えられた。

 前例のないその休暇に、困惑していた上級生部隊は、ミリアの洗礼をモロに受けて次の日は起き上がれずに一日を経過させたという。


 なおミリアを遠巻きに可愛がり餌付けをする人員がさらに増えたことをここに書き記す。


「とはいえ、あなた達が今日から過ごす場所は戦場に近い場所、場合によっては遠くに“アイツラ”と戦姫の戦闘が見えるなんてこともある。そのことはゆめゆめ忘れないように」


「はい!」


 元気よく返事をするミリアに、ローゼは軽く笑みを浮かべながらも、ゆっくりとミリアに近づいていく。


「元気があるのはいいことだけど、相手は元気だけでは勝てない怪物――世界の敵よ、ミリアちゃん」


「……わかってます!」


「解ってない、解ってないわ、ミリアちゃん。……貴方、アイツラと戦ったことはある?」


 もったいぶって、ゆっくりと、脅かすように。

 対するミリアも、そういう態度に応えるように、真剣に。


「――一度だけ」


「あるの!?」


 答えたらローゼが素に返ってしまった。


「え!? 経験あっちゃだめでした!?」


「まってミリアちゃん、その言い方はなんかいかがわしいよ!?」


 シェードが咎めるが、問題はそこではなかった。

 というか、シェードたちも驚愕していた。――初陣実習を前に、戦姫が“アイツラ”との戦闘経験がある、というのは公に知られると実はまずいのだ。

 なので、ローゼすら素になってしまったわけだが、そもそもミリアはミリアである、そんな常識にとらわれる存在かと言えば、否だった。


 気を取り直して、ローゼは問う。


「コホン! 貴方に経験があっても、ここには初体験の女の子がほとんど、ということを覚えておいてミリアちゃん」


「……ごくり」


「先生ーーーー!!」


 気を取り直せていなかったが、そのままローゼは締めくくる。


 ねっとりと、ミリアに絡みつくように、


「君たちがこれから相手にする、世界の敵――私達の天敵」


 その名を――



「――宿痾(カリプス)



 それこそ、ミリアたちが戦う、異形の名前。

 黙示(アポカリプス)を表す、根源の名にして、終末の名前。


 どうしようもない絶望を口にしながら――



 ローゼはミリアの衣服を脱がし始めた。



「へ――?」


「……へ、変質者だああああああああああ!!」


 ――シリアスモードに入っていたクラスメイトとミリアがそれに気がついたのは、制服のボタンを全て外されたときだった。

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[良い点] マブラヴのBETAみたいですっげーワクワクする
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