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56 ミリア、激論する。

 三人を遠くに退避させ、ミリアは激しくアイリスと激突する。

 両者の実力はほぼ互角。出力においても、戦術においても、だ。


 アイリスは高速での戦闘を得手とするのか、凄まじい速度でミリアを撹乱しながら、じわじわと攻撃をばらまいてくる。

 対してミリアが全力になった場合、これまで彼女は力押しで戦ってきた。そのためか、一撃一撃が重く、アイリスを捉えることができないでいる。


 代わりに、アイリスの攻撃をミリアはものともせずに弾いている。足を止めてチャージを入れればこれを貫通することも可能なのだが、ミリアの一撃が重い為、アイリスは手を止めないことを選んだようだ。

 ミリアの攻撃はたしかにアイリスにあたっていない。だがそれは、アイリスがすべての攻撃を回避しているということでもある。ミリアは決して攻撃をやたらめったらに放っているわけではなく、避けなければ当たる位置に置いている。

 だからミリアは防御を、アイリスは回避を重視しているということがわかるわけだ。


「ちょこまかと、そんなに横槍がお嫌いですか!?」


「そっちこそ、全然動かないね、お守りは大変だぁ!」


 これには当然事情がある。アイリスが高速で飛び回ることで、この戦闘に他の者達が介入することができなくなっている。そしてミリアが下手に動くと、アイリスは仲間たちを狙いかねない。

 お互いに、ランテ達第三者の動きを気にしての戦術。


 彼女たちを退避させることもできた。だが、そうしたところでお互いに戦術が変わるだけ、すぐに対峙してわかる、アイリスとケーリュケイオンなしのミリアは、完全に実力が拮抗している。

 ランテ達がいなければ、ミリアはもう少し積極的に攻勢に打って出るだろうが、多少攻め方が変わったところで両者の均衡は崩れない。


 それが肌で感じ取れてしまうのだ。


 そんな戦場で、ミリアとアイリスは言葉を交わす。


「ねぇ、ねぇねぇねぇ! ミリアちゃんの救いたい人たちの中に、私達はいないんだよね!」


「だから何なんだというんです! そもそも先に攻撃してきたのはそっちじゃないですか!」


「じゃあ、私達が人類の弾圧によって生まれたとしたら!?」


 ――宿痾の出自など、ミリアはこれっぽっちも理解していない。そもそも宿痾に関しても、多くを知っているわけではない。

 アイリスは教えないだろう。この会話は揚げ足取りだ。

 受け入れてはいけない、ミリアだってそれくらいわかっている。


「そうして生まれたのが宿痾だとして、貴方は自分が宿痾とは違うと断言しました! 第一、そんな歴史は聞いたこともない、つまりお祖母様が隠蔽したか、そもそも一部の人類によって行われて今は失伝しているということ!」


「知らない人に罪はないってこと? じゃあ、知らないなら殺してもいいんだ」


「自分とは違う存在を! 一方的に殺して嬲ってきた側が言うことですか!!」


 言葉に力を込めながら、ミリアは突っ込んできたアイリスを追い返す。アイリスはそのたびに距離を取りながら旋回し、再びミリアへと飛び込んでくる。

 その時間、実に一秒にも満たない刹那。捌いたと思った次の瞬間には、もうミリアはアイリスと激突している!


「ハハハ!! じゃあその立場を逆転させればいいってことだね! 今度はミリアちゃんが、私達を一方的に虐殺して、世界を救うんだ! 英雄ってすごい!」


「先程から随分と心にもないことをいいますね! そういう重箱の隅を突くような物言いは、せめてもっとそういうことを気にする相手に言うべきですよ!」


 仮にもミリアは悪役を自称している身だ。世界を救うのはワガママであるという自覚がある。アイリスの言葉は、それこそランテのような心の底から世界を救いたいと思っている相手にほど刺さる。

 事実、言葉通りミリアは一切動じていない。戦闘に支障がでることなく、両者は拮抗したまま戦闘が続く。


「わかってないなぁ! これは言わなきゃいけないことなんだよ! 貴方のためを思ってるの。まぁミリアちゃんにはいらなかったみたいだけど!」


「そういった言葉をぶつけられることが、前へ進むために必要と言うなら、そのほうがよっぽど健全じゃないですね!」


 そこで、ミリアの攻撃にアイリスは針を重ねた。攻撃を斜めに弾きつつ、自身の体を前に滑らせる。避けるのではなく弾く、攻撃方法を変えたのだ。

 逆にミリアも、それを見て先程までほとんど動きを見せていなかった状態から、一歩前へと踏み込んでいく。近接戦のために杖に光の刃を出現させ、アイリスと数太刀ぶつけ合う。


「別に私は、貴方が否定したわけじゃありません。アイリス、貴方が姉とやらを愛するのならば、それでも良いでしょう。どちらにせよ、私達はこうしてケリをつけなければ行けない立場にあるのです!」


「私達の事情はどうでもいいって? そりゃそうだ! 私はこうして貴方に、轢き潰されるだけの存在なんだから、路傍の石は、貴方の目には入らないんだろうね!」


「だったら――!」


 迫るアイリスをミリアが弾き飛ばす。追撃にマナの弾丸を飛ばし、ミリアは更に一歩踏み込む。剣を巨大化させ、弾丸と同時に飛ばすのだ。

 迫りくる二つの一撃。アイリスはそれを、二本の針で受け止める。


「――こう言ってほしいのですか!? 貴方達も救われなくてはいけないと! 人類を虐殺したのには訳があったのだと、辛かったでしょう、と」


「傲慢。思い上がりも甚だしい、それで私達を救ったところで、貴方は優越感に浸るだけ、それは救いじゃなくて施しだ、見苦しい!」


「知らないんですよ! 私は貴方のことを何も! 貴方はどういうわけか知っているようですが。だったら、こちらは想像するしか無い!」


 ミリアの攻め手が増えた。アイリスがランテ達を攻撃してしまうかもしれないなら、そうさせないように一方的に攻撃すればいいのだ。

 それが、両者の舌戦にも反映されたかのように、ミリアは一方的にまくしたてる。


「貴方を知らない私に、貴方は私の想像を否定する権利があるとでも!? 否定には真実以外の意味はないのです。それとも、本当に悲惨な経歴があるのなら、私は相談に乗りますよ!」


「あくまで私達は、上から目線でないと救えないんだ。そんな人に救われる人類は不幸だね。こんな傲慢な奴に救われなくちゃいけないなんて!」


「私が救いたいと思うのは、救いたいと思う相手にそれ相応の理由があるからです。上から目線結構、態度が、行動がどうあれ、私の気持ちを否定できるのは、それと同等の気持ちだけです!」


 言葉をどれだけ交わしても、帰ってくる言葉は互いを否定するものだけだ。

 だとしたら、この言葉にどれだけの意味がある? アイリスもミリアも、ことここに至ってその不毛さには飽きが来ている。


 ――どこまで言っても、口の減らない相手だと。


 そもそもだ。両者に相手を言い負かすつもりなんてこれっぽっちもない。やっていることは盛大な揚げ足取り。互いが互いに自分の思いが間違っているなんてかけらも思わないのなら、最初から両者は分かり合うことを前提に会話していない。

 だが、それでも一つだけ、分かりきったことがある。


「ああまったく――貴方って人は」


「ほんっと、ミリアちゃんってさ――」


 互いに、ミリアは少し、アイリスは大きく距離をとって。

 一瞬だけ間が空いて、突っ込んできたアイリスに相対するべくミリアは前進する。巨大化させた剣と、二本の針が同時に激突した。



「――バカですね!」


「アホだよね――!」



 ミリアがアホなのは、言うまでもない。

 だが、アイリスだって大概だ。ここまでミリアは対決して、それがよくわかった。彼女の言葉には、裏がないのだ。彼女はあらゆる言葉を、心の底から本気でぶつけている。

 姉への愛も、ミリアの否定も、何もかも彼女の本心だ。


 それは、きっとアイリスがそれだけ純粋であるということだろう。純粋な黒。姉のために人類のすべてを殲滅し、自分だけの愛を支えることも、その正反対にいるミリアを否定することも。


 アイリスにとってはそれがすべてなのだ。


 だから、


「――だから、ここは私がもらうよ、ミリアちゃん!」


 アイリスが動く。

 彼女が操るデバイスは、メルクリウスというらしい。ケーリュケイオンとは明らかに色々と対になる存在だ。そんなデバイスが、果たして単なる高速移動する女王蜂だけで収まるだろうか。


 そんなはずはない。ここまでは、お互いの意志をぶつけ合うための戦い。結果は膠着だった。言葉も戦闘も、完全に行き詰まっていた。

 ここから、戦術を変えただけでは絶対に相手を崩せないと、ミリアもアイリスもわかってしまった。


 だから戦略を変える。

 手品を変える。


 ミリアは切り札を封じられ、小細工を強いられる。

 逆にアイリスは、この状況で切り札を切らなければ、いつミリアにメルクリウスを解析され逆手に取られるかわかったものではない。


 お互いに、勝負を決めるに値する状況であると、そう判断したのだ。

 故に、


「メルクリウスには、ケーリュケイオンと同様に、限界突破が存在する。ミリアちゃんならもうそれが何かはおおよそ感づいてると思うけど――」


「……っ!」


「メルクリウスの代償は、命。そして効果は――“現在”の改変」


 アイリスはそう言って両手の針を一度消失させ、代わりにあるものを取り出す。

 蜂の姿をした宿痾だ。


「もちろん、ケーリュケイオンと同様に捧げた命によってできることは変わる。そして、改変できる現在も、自分に近い現在に限られる。下お兄ちゃんを使ってお姉ちゃんを殺さなかったのはそれが原因」


 ――わかっていたことだ。

 それはケーリュケイオンだって同様なのだから。

 ミリアは思い出せないが、ミリアの記憶の中には、世界を救うためにランテが自分をケーリュケイオンの代償にするというものが存在する。だが、それはランテが宿痾を作る黒幕の眼の前でケーリュケイオンを起動させなければ意味がないのだ。


 そもそもミリアは自分の全てを代償にするつもりはないが、それはそれとして今はそれをしても意味がないという事実もあった。


「ただ――命は、どんな命だって命だよ。だから、私達にはこういう手段が取れる」


 そしてアイリスは、手にした蜂型の宿痾を、



「命滅機メルクリウス。|限界突破《コード:オーバーフロー》」



 握りつぶした。


 例え宿痾とて、命は命。ミリアが自身の中の自分にとってはどうでもいい記憶を薪にするように、アイリスは自身の手脚である宿痾を犠牲にすることで、ほとんど代償を踏み倒し奇跡を起こす。


 ケーリュケイオンが未来に“結果”を残す奇跡とすれば、こちらは現実を改変する奇跡。故に、効果は単純。ミリアに不調を与えるのだ。

 まるで、蜂に刺された哀れな獲物のように。


 しかし、当然ながらミリアはこれに対応する。一対一ではミリアに自身の改変は有効ではないのだ。何故なら即座にその改変を改変し、ミリアは復調する。

 不調になっている部分を復調する魔導をその場で創造すればいいのだ。


 ミリアがミリアであるがゆえに、それが可能だった。

 しかし今は、ミリア以外のモノがここにいる。

 だから、下手に長引けばメルクリウスの限界突破で何れランテ達は死ぬ。一気に状況を変えることのできる一手だった。


 だから、ミリアは追い詰められている。

 驚くべきことに。


 そして、故にアイリスは知らない。――もしもミリアが窮地に陥れば、果たしてどのような選択を取るか。そう、こういう時ミリアは――


「ならば、これはどうですか!」



 叫びの直後。ミリアが凄まじい数に分裂した。



 全員が猫耳をつけて、


「な――」


「これだけいれば、改変しなきゃいけない対象が薄れて効果も薄くなるでしょうにゃー!」


「うにゃー!」「うにゃー!」「うにゃー!」「うにゃー!」「うにゃー!」「うにゃー!」「うにゃー!」「うにゃー!」「うにゃー!」「うにゃー!」「うにゃー!」「うにゃー!」「うにゃー!」「うにゃー!」「うにゃー!」


 凄まじくうるさかった。


 そう、こういう時ミリアは――



「ミリアちゃん、追い詰められると奇想天外過ぎてアホみたいな戦術を取るの!?」



 ――より、アホへと突き進んでいく。

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