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31 親愛

「だからね、アツミちゃん!」


「ミリアちゃんともっと仲良くなるにはー」


「どうしたらいいかしら!」


「うるせー!!」


 三人まとめてよってきた姦しい少女たちをまとめて振り払いながら、アツミは立ち上がる。ちょっと本を読んでいたらこれだ。アツミは一人でなにかしていると、周りに絡まれがちである。

 と、本人は思っているが、実際のところミリア隊は誰かが一人でいると別の誰かがよく絡んでいるので、これはアツミに限った話ではない。

 よっぽど嫌がるオーラを出していない限りは誰かが誰かに話しかけるし、アツミだってこれを嫌だと思っているわけではない。


 相手は知らない他人ではなく、気のおけない仲間たちなのだから。


「別にあいつと仲良くなろうが知ったこっちゃねぇよ! そもそもあいつには避けるやつはいても仲の悪いやつはそういねぇ!」


「そうじゃなくって!」


「もっとー」


「親密になりたいのよ!」


「一人ずつ話すなー!」


 こいつらはこいつらで最近、やたらと一緒にいることが多くなった。もとより院出身の戦姫と、それ以外の戦姫は少し距離をとった関係になりやすく、八人のクラスでは二つくらいのグループができやすい。

 お互いに関係は良好だが、全員が集合している場合は、自然と三人と三人。ミリアとシェードという三つの組み合わせになることが多いのだ。


「ったく、なんでアタシなんだよ。アタシの読心があいつに意味ねーことはわかってんだろ。カナやナツキに聞けよ」


「聞くよ! さきにアツミちゃんを見つけたから声かけたの」


 ハツキの言葉に、アツミは頭を抱えながらも本を置いた。嘘はないし三人とも引くつもりはなさそうなので、ここは付き合うしかないだろう。

 ついでにいうと、絶対に口には出さないがアツミはこういう付き合いが嫌いではない。絶対に口には出さないが。


「それで、てめぇらどうしたいんだよ」


「え、えっとね……もっと皆で、わーってしたいの」


「……イベントみてぇなことがしてぇのか?」


 ぶんぶんと首を縦にふるユキ、なんでこいつが説明したんだろう、アツミは首を傾げた。


「んで、案はあるのかよ」


「えーと、そうね。とりあえずお菓子があるって言ってミリアちゃんを誘って……」


「ローゼセンセを増やすなよ」


 如何わしい人間がこれ以上増えると、主にシェードあたりが持たない。ただでさえ普段からミリアを守るためにミリアにべったりなのに。

 なお周囲にはあいつが一番やばいのではないか、と思われている。アツミは本当に下心がないということを知っているが、面白いので黙っていた。


「じゃ、じゃあきれいなお洋服があるって言ってミリアちゃんを誘って……」


「同じじゃねぇか!」


「た、楽しい本……」


「全員同じ発想してんじゃねぇぞ!?」


 とりあえず全員ミリアをどこかへ連れていきたいらしいということに落ち着いた。アツミは少しばかり頭が痛い。何が頭がいたいかといえば、どの方法でもミリアは釣り上げることができるだろうということだった。

 なんというか、最終的にミリアがアホというところに落ち着くのだ。


「まずてめぇらの中で、ミリアを呼んで何がしたいのかまとめてからにしろ」


 呼び出す方法すらバラバラとなると、そもそも具体的に何かという点が定まっていないだろう、アツミは最初から出直しだと告げて、この話を切り上げることにした。

 しかし、


「あ、あの……それは決まってるの!」


 ユキがおそるおそる、といった様子で声を上げた。

 お――? とアツミも思考をそちらに向ける。読心によって、アツミは説明されずともそれが何なのか解る。その思考は、アツミが興味を持つには十分だった。


「ミリアちゃんに私達の手料理を食べてもらいたいのよ!」


 手料理。この世界では端的に言って、趣味と言われる部類の行為だ。

 料理というのは魔導機が自動で作るもので十分。何なら料理を食べるのと同じエネルギー、満腹感を与えてくれる魔導タンクなんてものもある。

 今だと後者のほうが主流だろうか。


 院でも、基本的に食事とは魔導タンクでの栄養補給だ。それで十分だとほとんどの人間は思っているし、そもそも料理という概念を知らないことのほうが多い。

 アツミは愛情をもって育てようという両親の方針から、料理はそこそこ振る舞ってもらったことがあるのだが。


 ミリア隊では食事は手料理が基本だ。ミリアとシェードのどちらかが手が空いている場合に限るが、どちらかが手があいていれば、必ず二人は料理を作る。


「シェードちゃんも、ミリアちゃんにあってから初めて料理を初めたのに、あっという間に上達しちゃってずるい! 私達だって料理がしたいよ!」


 ハツキの言うことは、アツミにとっても否定はできないことだった。

 この場合はシェードの家事スキルが高すぎるというのがあるのだが、それはそれとして料理がしてみたいという気持ちはアツミにもなくはない。


「んで?」


 なので、具体的に何がしたいか決まっていて、自分もそれに興味があるのなら、アツミは態度には出さないが積極的に話を聞く。


「そ、それでね……作ってみたんだけど」


「ああ……?」


 ――そこで、アツミは嫌な予感を覚えた。

 作った? 話が飛びすぎではないか? 普通こういう時、まずは作るのではなく――


「こ、これなんだけど……」


 そうしてルミが取り出したのは――黒い塊だった。

 料理ではない、塊だ。


「宿痾か」


「そこまで!?」


 魔導機を呼び出して、即座に焼き払おうかとオドを回転させる。なお、自分たちの手料理が人類の天敵扱いされるというのは、気心の知れた間でなければ、喧嘩を売っているのと変わらない。

 アツミは正直喧嘩を売っていた。


「普通に考えて料理のりの字も知らない連中が適当に作ったもんが、旨くできててたまるもんかよ! 結果出されたのが炭か何かじゃねぇか!」


「ひ、否定できない……」


 売られた喧嘩は、そのまま三人の少女に突き刺さった。

 虚しい勝利である……


「そこは普通に考えてシェードに相談するところだろうが」


「アツミちゃんが普通を語るの!?」


「てめぇらにとってアタシが、シェードやミリアの同類に見えんのか!?」


 今度は喧嘩を定価で買って、アツミは三人に吠えた。

 三人は正座してアツミの前に並ぶ、残念ながら三人もアツミの言うことは尤もだと思ったらしい。


「で、できればシェードちゃんにもサプライズがしたいな……って」


「これ作ってキッチンダメにしてりゃ、普通にバレるだろ」


「き、キッチンは自作したよ! ミリアちゃんたちの手を一つでも借りたら、お礼にならない気がして……」


「そりゃこーもなるわ!」


 この世界は基本的に手料理を作らないから家にキッチンはなく、自作する他無い。ミリアは当たり前のように作ってはそこで料理をしているが、そもそもこのキッチンを作る魔導すら、結構な難易度が必要のはずだ。


「で、でも……でも……わ、私達も頑張れるところ、見せたくって」


「……」


 ユキは、必死にアツミへと呼びかける。

 それは、アツミにも覚えのある言葉だった。


「……アタシたちじゃ、そもそもミリアちゃんには、付いてくのだって精一杯よ。戦闘とか、そういう場面じゃあね」


「……まぁ、そうだな」


 否定はできない。ここで肯定しないのは、そのほうがルミにとっても失礼だとアツミは判断した。それを、ルミはどこか申し訳なさそうにしている。


「それなのに、料理とか家事とかも、ミリアちゃんやシェードちゃん任せって、そんなのだめだし!」


「家事は……シェードのやつがやりたいだけじゃねぇかなぁ」


 母性を滲ませながら、皆が脱げた服をかき集めて洗浄して外に干しているシェードは、どちらかというと家事をするという行為に楽しみを見出しているように思えた。

 とはいえ、母性ゆえの行動なら、子供たちが独り立ちするのは寂しくもあり、嬉しくもあるだろう。


 シェード本人は隊でもミリアの次に背が低いので、子供……? とも思うのだが。


「……この時期は、どの隊も優秀なやつとそうじゃねぇヤツの差ってのが浮き彫りになるんだとさ」


 アツミは、ぽつりと語りだす。


「他の隊の子に相談されたの?」


「あ? いや、教師に相談されたんだが」


「その人はアツミちゃんのことを何だと思ってるの……?」


「やめろよ、アタシは突っ込まないようにしてんだぞ」


 コホン、と咳払いをして、アツミは続ける。


「大抵の場合はそこから自分の適性を考えて、それを特化して伸ばし始める。隊として他にも戦姫がいるんだ、わざわざ全員を器用貧乏にする必要はねぇだろ」


「……そうだね、私も、今は通信魔導を勉強してる」


「わ、私も……」


「アタシもよ……あれ?」


「てめぇらの適正はどうなってんだよ!」


 通信魔導、つまり連絡係だ。他にも索敵だのに使える何かと便利な魔導だ。三人とも、そういった連絡役、ないしはスカウトの適正が高いらしい。

 それを聞いてそう言えば、と思い出すがカナとナツキは肉体強化に適正があるらしい。運用方法に悩んでいたが、まさか運搬とかに適正を見出すのではなかろうか。

 適正なんてのは、実際に学んでみないと解るものではないが……


「……この隊、案外ミリア一人が自由に暴れるための隊として最適なのかもしれねぇな」


 後方支援系の戦姫が五人、ミリアについていけなくはない才能の持ち主が二人。ミリアを中心に据えつつ、彼女が最大限の効果を発揮できるような戦場を作るのがミリア隊の最善なのかもしれない。

 アツミはそう思うと、不思議な縁に苦笑するほかなかった。


「か、かもしれないけど……と、とりあえずは適正を伸ばしつつ、ミリアちゃんに追いつけるよう頑張る……よ?」


「自信を持て」


 ハツキは豊満な胸を自信なさげに張った。

 とりあえずその話は置いておいて――料理の件だ。

 シェードにも、ミリアにも教えずにサプライズ……となると、難易度が上がる。

 まず大前提として、アツミ達は料理がどういうことかすらも理解していなかったのだから。


 ――とはいえ、そこまで考えてアツミはハっとなる。

 自分は今、ミリアたちに教えずに料理をする手順を考えていなかったか?


「……アツミちゃん?」


 内心だけで百面相をしているアツミに、ユキが問いかける。

 アツミは、大きくため息をはいて……



「しょうがねぇなぁ!」



 三人の考えに全面的に乗ることにした。


「当然、これにはカナとナツキも混ぜろよ、仲間はずれはなしだ」


「もちろんよ!」


「んで、まずは図書館で本を漁れ、何かしら情報がねぇか洗い出すのが先決だ」


「う、うん……」


 的確に必要なことを指示していく。ミリアがいなければ、アツミがこの隊の隊長だろう、ということは想像に難くない光景である。

 シェードは、どちらかというとナンバーツーで輝く人材である。


「じゃあ、アツミはどうするの?」


「――シェードに聞く」


「えっ!?」


 三人が驚いた。


「バレねぇように、こっそりだ。こういうのはアタシの役割だろ」


「……なるほど」


 読心を持つアツミなら、相手の考えを誘導することだってできなくはない。なにより、アツミはコミュニケーションモンスター、読心だけで他人と上手く付き合えるわけではないのだから、アツミのコミュ力というのは気質というのもあるのだ。

 何はともあれ、方針は決まった。


 四人は、案外乗り気なアツミを加えて、手料理を作るために動き出すのだった。

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